ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
それではどうぞ
中途半端な時間なだけあってレストランには他のプレイヤーはいなかったが内容が内容なので一番奥の席に座ることにした
ヨルコさんはもう朝食は食べたらしいので私達はお茶を注文して早速届いたところで本題に入る
「本題に入る前に報告なんだけど…昨晩{黒鉄宮}にある生命の碑を確認してきた カインズさんは確かにあの時間に亡くなってた」
キリトさんの報告を聞いたヨルコさんは短く息を吸い込んで瞑目してから頷く
「そうですか… わざわざ遠いところまで行っていただいてありがとうございます」
「ううん いいの それに私達も確認したい名前があったから」
アスナはさっと首を横に振ってからまず一つ目の質問を投げかけた
「ねぇ ヨルコさん この名前に聞き覚えはある? 1人目は多分鍛冶屋のグリムロック そして2人目は槍使いの…シュミット」
俯いていたヨルコさんがピクリと反応し、ゆっくりとだが肯定を示す
「…はい 知ってます 2人共私とカインズが所属していたギルドの元メンバーです」
ヨルコさんのか細い声に私達はちらっと視線を見交わす
ここまでは私たちの想像通り… となるとやはりそのギルドで過去に何かの事件があったのだろう それがもしかすると今回の事件のきっかけかもしれない
私の考えに呼応するように今度はキリトさんが質問した
「ヨルコさん 答えにくいとは思うんだけど…事件解決のために本当のことを聞かせてほしいんだ 俺達は今回の事件の動機を復讐もしくは制裁だと考えてる カインズさんはそのギルドで起こったことによって犯人の恨みを買い、報復されたんじゃないかと… 昨日も同じことを訊いたけどもう一回よく考えてほしい 何か心当たりとか…思い当たることってない…?」
今度はヨルコさんからすぐに答えは返ってこなかった
ヨルコさんは俯いたまま沈黙を長い間貫いたが震える手でカップを持ち、それを飲むとようやく頷いた
「…はい…あります 昨日お話しできなくてすみません… あまり思い出したくなくて早く忘れたい話でしたし無関係だと思いたかったこともあって…すぐには言葉にできませんでした でもお話します あの出来事のせいで私達のギルドは消滅したんです」
ギルドの名前は[黄金林檎]で別に攻略組は目指しておらず、構成人数は8人という小規模なギルドらしい
その事件が起こったのは半年ぐらい前の事らしく、いつものように中層のダンジョンに潜った時のことでそこで今まで見たことのないモンスターと遭遇したという
それを偶然倒すと指輪がドロップしたがその指輪の効果がなんと敏捷を20も上げるという今まで聞いたことのないものだったらしく、その指輪を売ってしまうか使うかで意見が分かれて当然揉めたが結局多数決になったらしい
結果は5対3で指輪を売却することになりギルドリーダーがオークショニアに委託するために大きな町に1泊する予定で出かけたが翌日の待ち合わせ時刻になってもギルドリーダーが帰ってこず、嫌な予感がしたので生命の碑を調べに行ったところ…亡くなっていたことがわかったらしい
指輪を持ったまま圏外に出るとは考えにくく、ヨルコさん達もギルドリーダーがPKされたのだという考えに至ったがその時間のアリバイを証明できる人が誰もおらず[黄金林檎]の残りのメンバーの7人は互いが互いを疑うという疑心暗鬼状態になりギルドの崩壊までは時間がかからなかったという
…嫌な話ではあるものの崩壊の兆しすらなかったギルドがレアアイテム1つで崩壊するいうのはそこまで珍しい話でもないがそのような噂を聞かないのは当人たちが口にしていないからであろう
余談だが私達のギルドではそれを避けるために基本的にアイテムはドロップした人のものでそれが欲しい場合は各自で交渉というルールを設けている
沈鬱な表情で俯くヨルコさんにキリトさんは乾いた口調で訊ねる
「一つ教えてほしい 売却に反対した3人の名前は…?」
ヨルコさんは数秒間黙っていたが意を決したように顔を上げるとはっきりと答えた
「カインズ シュミット…それと私です」
その回答はキリトさんにとっては意外だったのか無言で両眼を瞬かせており、ヨルコさんはそんなキリトさんに向かってやや自嘲な声で続けた
「ただ…反対の理由はその2人と私とで少し違くて、カインズとシュミットは[黄金林檎]でフォアードをやってたので自分で使いたいから そして私は…当時カインズと付き合い始めたばかりだったからです ギルド全体よりも彼への気兼ねを優先しちゃったんです …ホント馬鹿ですよね」
口をつぐんでテーブルに視線を落としたヨルコさんにアスナは柔らかい語調で訊ねる
「ヨルコさん もしかしてあなたはカインズさんとギルドの解散後もずっとお付き合いを…?」
ヨルコさんは俯いたまま首を小さく横に振る
「いえ…ギルドが解散するのと同時に自然消滅しちゃいました たまに会って少し近況報告するぐらいで…やっぱり一緒に長くいると『指輪事件』のことを思い出しちゃいますから 昨日もそんな感じでご飯だけの予定だったんですけれど…その前にあんなことに…」
「そう… でもショックなのには変わりないわよね ごめんなさい 辛いこと色々と訊いちゃって…」
ヨルコさんは再び短くかぶりを振る
「…いいんです それでグリムロックなんですけれども…彼は[黄金林檎]のサブリーダーで 同時にギルドリーダーの旦那さんでもあったんです…勿論
「っていうことはリーダーさんは女性の方?」
「はい とっても強い…と言っても中層でですけれども 強い片手剣士で美人で頭もよくて…私は凄くあこがれていました それだけに今でも信じることが出来ないんです あのリーダーが睡眠PKという粗雑な方法で殺されてしまうなんて…」
「それはグリムロックさんも相当ショックでしたよね… 結婚までするほど好きだったのに…」
私の呟きにヨルコさんは身を震わせ、続ける
「はい それまではいつもニコニコしている優しい鍛冶屋さんだったんですけど…事件直後からは人が変わったように荒んでしまって…ギルドが解散した後はだれとも連絡を取らなくなって今はどこにいるかもわからないんです」
「そうか…辛い質問ばかりで悪いけど最後にこれだけ教えてほしい 昨日の事件…カインズさんを殺したのはグリムロックさんという可能性はあると思うか? 実はカインズさんの胸に刺さっていた黒い槍を鑑定したら作成者がグリムロックさん当人だったんだ」
キリトさんの質問は半年前の『指輪事件』の犯人がカインズさんである可能性はあるかと訊ねているに等しく、勿論ヨルコさんは長く躊躇っていたが意を決したように小さな動きで首を縦に振った
「可能性は…なくはないと思います でも カインズも私もリーダーをPKして指輪を奪ったりなんてしていません…身の潔白を証明するものは何もないですけど… もし昨日の事件の犯人がグリムロックさんならあの人は指輪売却に反対した3人…カインズとシュミット、それから私のことを殺すつもりなのかもしれません」
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私達はヨルコさんをもとの宿屋まで送り届けた後、数日分の食料を渡して部屋から出ないように忠告をしておいた
せめてもの配慮として宿屋で最も広いスイートルームに移動してもらって1週間分の料金も先払いし、更に暇つぶし用として第6層に売っていたパズルを数種類プレゼントした
しかし事件は早く解決するに越したことはないため私達はなるべく早く解決すると伝えると宿屋を後にした
「…本当は第55層にある[血盟騎士団]の本部に移ってもらった方が安心なんだけどね…」
確かにあの城みたいな場所なら命を狙われるということはないだろう
キリトさんとておさんもそう思ったのか頷く
「まぁな… でも本人がどうしても嫌だって言うんだったら無理強いはできないよ」
でも保護してもらうには『指輪事件』のことを全部話してもらう必要がある その為ヨルコさんはアスナの提案を断った
転移門広場に戻ると同時に街に午前11時の鐘の音が響く
雨はようやく上がってはいたものの今度は濃い霧が出始めてきていた
「さて…これから…」
キリトさんは何かを言いかけたが突然黙り込んだためアスナはキリトさんの方を向くと首を傾げた
それを見計らったかのようにキリトさんはわざとらしく咳ばらいをすると口を開いた
「おほん いやぁ えーっと その…よ…よく似合ってると思いますよ それ」
今じゃなくない…? そういうのって会った時に言うもんじゃないの…?
アスナはあからさまに怒ったような顔をすると右手の人差し指をキリトさんに突きつけながら唸り声を出す
「う~!! そういうのは タコミカ達みたいに最初に会った時に言いなさいよ!」
アスナはそう怒ると「着替えてくる!」と言って近くの無人家屋へと向かって行った
でも私の前を通った時に耳まで赤くなっていたのを見たので満更でもなかったのだなと思う
いつもの赤と白の服装に着替えたアスナは長い髪を背中に払いながら戻ってきた
「それで… これからどうするの?」
「え あっ…は はい 選択肢としては… その1 中層でグリムロックの名前を手当たり次第に聞き込んで居場所を探す その2 [黄金林檎]の他のメンバーを訪ねてヨルコさんの話の裏を取る その3 カインズ殺害の詳しい手口を考察する…ってところかな」
「うむむ…」
私達はどれが良いかと考える
「その1の案は4人じゃ効率が悪すぎるわね 現在の推測通りグリムロックが犯人だとしたら積極的に身を隠すでしょうし」
「そうだね 聞き込みだけで今の居場所を判断するのは難しいと思う」
アスナは第1の案を仮説を立てて否定したので私は頷く
「その2は他のメンバーも当事者なんだから裏の取りようがないというか…」
「どういうことだ?」
「仮にヨルコさんの話と矛盾する話が聞けたとするじゃない でもハッキリ言って部外者の私達にどっちの話が真実かどうかを判断するのは無理ってことよ かえって混乱するだけだわ」
「言われてみれば…」
続いて第2の案も否定するとキリトさんが首を傾げたためアスナが理由を説明すると納得したように頷いた
「だとしたら消去法でその3か…」
ておさんが呟いたことに私達は目を見交わして頷く
ヨルコさんには悪いけどあくまででも私達は半年前の『指輪事件』を解決したいのではなく昨日起こった『圏内事件』の手口を紐解きたいだけなのである
現時点で分かっているのは圏外の貫通属性ダメージは圏内に持ち込めないという点だけで、他に何が出来て何ができないのかを考察する必要がある
「でもな… もうちょっとSAOのシステムについて詳しい奴の協力が欲しいな…」
キリトさんが呟くとアスナは眉をひそめた
「そういっても無闇やたらに情報をばらまいたらヨルコさんに悪いわ 絶対に信頼できて尚且つ私たち以上にSAOのシステムに詳しい人物なんて…あっ」
アスナは何かを思いついたように手のひらを拳で軽く叩いた
「リオンさんはどうかな?」
確かにリオンさんはSAOについて私達よりは詳しそうな感じだし悪くはないかな?
「リオンか… 確かに悪くはないな」
キリトさんもアスナの意見に同意するように言うと私の方を向いたので私は察したようにウィンドウを開く
「ちょっとメッセージ送ってみますね」
「頼む」
私がメッセージを送ると直ぐに返信が来たがそこに書いてあったのは × だけだったがなんとなく意味を察してかぶりを振る
「駄目だったみたいね… となると他の人を探さないと…」
「それだけどさ あいつを呼べばいいんじゃないか?」
「あいつって誰だよ?」
「ヒースクリフだよ」
キリトさんの言った名前に私達はしばらくの間フリーズした
圏内事件編思ったよりも長くなりそう…
それではまた次回に