ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~   作:水名(仮)

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この小説ではDDAが積極的に情報の開示を行っています

それではどうぞ


17話:捜査は足で その6

まさに少数精鋭と言った感じの[血盟騎士団]と比較するとこちらは攻略組最大人数の[聖竜連合]がここ第56層にギルド本部(ホーム)を構えたのはつい先日のことでその時には[フリッツ・フリット]の全員が披露パーティに呼んでもらったのはまだ記憶に新しい

 

その時はキリトさん達も来ていたがメンバーの人達には目もくれずテーブルに並べられている料理を片っ端から口に運んでいたけど…

 

プレッシュさんから聞いた話だがキリトさん達はその後3日ぐらいは何も食べることが出来なかったらしい(まぁ言ってしまえば自業自得)

 

 

現に[聖竜連合]のギルド本部に向かっている途中にもキリトさんは噯気をもらしていた

 

すたすたと赤レンガの道を歩いて行くと第55層にある[血盟騎士団]のギルド本部よりもさらに大きい城のような[聖竜連合]の本部が見えてきた

 

最初に来た時と変わらず頂点に銀の地に青いドラゴンを描いたギルドフラッグがなびく白亜の尖塔群を見上げているとキリトさんがぼやいた

 

「しっかし いくら天下のDDA様と言ってもよくこんな物件を買うだけの余裕があるよなぁ…」

「人数が多いからその分収入も多いんじゃないのか? それでそれをこつこつと貯めてっつう感じじゃ?」

「それが自然か あのディアベルがリーダーやってるんだし あいつはファーミングスポットの秘匿なんてしないしな」

 

キリトさんの言う通り[聖竜連合]の現リーダーのディアベルさんはフィールド等の情報の開示を積極的に行っており、それが中層プレイヤーと手助けになっているとアルゴさんが言っていたような気がする

 

シュミットさんを呼びに行くのは全員で行ってもいいんだけど逆に警戒されそうなので顔が利く私とアスナが行くことにした

 

「じゃぁちょっとアスナと一緒にシュミットさん呼んできますね」

「頼むから変な真似だけはしないでくれよ…?」

「解ってますって じゃぁそこらへんで待っててくださいな」

 

そう言い残して私達は城門へと歩み寄っていくと門番のように立っている2人の重装備の槍使いのプレイヤーのうちの右にいる方にまずはアスナが声をかけた

 

「こんにちは 私[血盟騎士団]のアスナですけれど」

 

声をかけられた門番さんは一瞬上体を仰け反らさせて軽い声を出す

 

「あっ ども! こんちゃッス! お疲れ様っす それにタコミカさんまで どうしたんすか? こんなとこまで」

 

その声に駆け寄ってきたもう一人の方に私は笑顔で訊ねた

 

「少しだけシュミットさんに用事がありまして 連絡してもらえますか?」

 

すると男性たちはお互いに顔を見合わせる

 

「あの人は今は前線の迷宮区じゃないですかね?」

「あ でも 朝飯の時に今日は頭痛がするから休むって言ってたような… 今は自分の部屋かもしれないから呼んでみるっすね」

「お願いします」

 

私がそう言うと門番のうちの1人が手早くメッセージを打つと送信した

 

その30秒後ぐらいに返信が来たようでウィンドウを確認したが文面を見た途端困ったように眉をひそめた

 

「やっぱ今日は休みみたいっすけど… でも先に用件だけ聞けとか言ってるんっすよ」

 

それにアスナは短く考えると言った

 

「じゃぁ 『指輪事件』のことでお話が と伝えてください」

 

効果は抜群でシュミットさんがものすごい勢いで城門まで来ると同時に「場所を変えてくれ」とだけ言って足早に丘を降り始めたので私達もそれに続く

 

その後しれっとキリトさん達も合流してシュミットさんは重そうなフルプレートアーマーをものともせず前傾姿勢で高速移動していたが坂道を下りきって市街地に入ったところでようやく足を止めると鎧を鳴らしながら振り向くとキリトさんに詰問してきた

 

「誰から聞いたんだ」

「へ?」

 

キリトさんは一瞬意味が解らなかったのか聞き返したが直ぐに意味を理解したように答えた

 

「ギルド[黄金林檎]の元メンバーから」

「名前は」

「ヨルコさん」

 

キリトさんが答えるとシュミットさんは一瞬放心したように視線を上に向けると長く息を吐いた

 

私は今の反応は安堵であると考えるならばヨルコさんのことを売却反対派であると知っているのであろう

 

つまりシュミットさんも私達の推測と同様に『圏内事件』の犯人を売却派による売却反対派への復讐であるという仮説に辿り着いたのだろう

 

その為仮病まで使って安全なギルド本部に籠っていたと

 

しかしシュミットさんが昨日の事件の犯人であるという可能性もゼロではなく、『指輪事件』がカインズさんとの共犯で口封じのために殺害したということもあり得る

 

そう考えているとキリトさんは別のことについて質問していた

 

「シュミットさん 昨日、あんたがかっぱらっていった槍を作ったグリムロック氏は今どこにいるか知っているか?」

「し…知らん!」

 

シュミットさんは叫びながら首を激しく横に振る

 

「ギルドが解散してからは一度も連絡を取ってなかった だから生きているかどうかもわからなかったんだ!」

 

早口で言いながらまるでどこかから攻撃が跳んでこないかと警戒するように視界を辺りに巡らせる

 

そんな様子のシュミットさんにアスナは優しい声で訊ねた

 

「あのね シュミットさん 私達は『指輪事件』の犯人を捜してる訳じゃないの ただ昨日の事件の犯人を…言ってしまえばその手口を突き止めたいだけなのよ 今までのように圏内の安全を保つために」

 

僅かな間を置いて一層真剣味を加えて続ける

 

「…残念だけど現状で一番怪しいのはあの槍を鍛えた…そしてギルドリーダーの結婚相手でもあったグリムロックさんなの 勿論誰かがそう見せかけようとしている可能性も捨てきれないけど…それを判断するためにも直接彼に話を聞いてみたいんです 今の居場所か連絡方法に心当たりがあったら教えてくれませんか?」

 

アスナはシュミットさんの目を見つめながら話したがシュミットさんはそのまま横を向き、口を結んだので駄目かと思ったその時

 

「…居場所は本当に分からないが」

 

細々とではあるが話し始めた

 

「当時グリムロックが豪く気に入っていたNPCレストランがある ほとんど毎日のように行っていたからもしかしたら今でも行ってるかもしれない」

「本当か!?」

 

キリトさんはシュミットさんの発言に反射的に反応すると訊ねた

 

「ならそのお店の名前を…」

「教えてもいいが1つ条件がある」

 

キリトさんの言葉をシュミットさんが途中で遮った

 

「…彼女に…ヨルコに会わせてくれ」

 

~~~~~~

 

一先ずシュミットさんの条件は一旦保留にし、シュミットさんを近くの道具屋で待たせて私達は手短に話し合う

 

「危険はないわよね…?」

「う…うーん…」

 

一昨日までだったら確実に即答できていたけど今は何とも言えない節がある

 

もし仮に昨日みたいに謎の圏内PKが発生してしまったら次の犠牲が出てしまう…

 

でもそれを発動させるにしても何ステップか踏む必要かあるかもしれないので怪しい素振りを見せた時点で取り押さえれば事足りるはずだ

 

 

キリトさんも私と似たような考えに至ったのか口を開く

 

「俺たちが眼を離さなければPKのチャンスは無いはずだ …でもそれが目的じゃないとするとシュミットは何で今更ヨルコさんに会わせろなんて言いだすんだろ?」

 

キリトさんが軽く両手を広げるとアスナは大きく首を傾げる

 

「さぁ… でも実はシュミットさんはヨルコさんに片思いしてた…とかじゃないわよね うん違うわね」

「え? マジで?」

 

キリトさんは面白半分でシュミットさんに聞きに行こうとしていたがアスナがコートの襟を引っ張って静止した

 

「違うって言ってるでしょ! …とにかく危険性がないんだったらあとはヨルコさん次第ね メッセージ飛ばして確認してみるわ」

「は…はい お願いします」

 

アスナはウィンドウを開くと素早くホロキーボードを打ち、ヨルコさんにフレンド・メッセージを送った

 

ヨルコさんからは直ぐに反応が返ってきたようで開いたままのウィンドウを一瞥すると頷く

 

「OKだって …少し不安は残るけど案内しましょう 場所はヨルコさんの泊っている宿屋でいいわよね」

「あぁ 彼女を外に出すのはまだ危険だからな」

 

キリトさんはそれに同意すると道具屋で待っているシュミットさんに向けてOKマークを作るとシュミットさんは安堵した表情になった

 

 

~~~~~~

 

第57層の主街区へと移動したときにはすっかり辺りは夕焼けに包まれており、広場にも昨日のような活気が溢れていたが昨日事件のあった教会の前だけは閑散としていた

 

そこを通り過ぎて歩くこと数分、ヨルコさんの泊っている宿屋へと到着してその部屋の前までやってくるとキリトさんがノックすると直ぐにか細い声が返ってきたのでキリトさんがドアノブを引くとカチッと音を立てて開く

 

部屋の中央に向かい合わせに置かれたソファの片側に腰かけていたヨルコさんは私達の姿を確認するなりすっと立ち上がって軽く一礼をする

 

そこから張り詰めたような空気になったがキリトさんが口を開く

 

「えっと… まず確認だけど2人共武器は装備しないこと そしてウィンドウを開かないこと これを守ってほしい 不快かもしれないけどよろしく頼む」

「…はい」

「解ってる」

 

ヨルコさんは消え入りそうな声でシュミットさんは苛立ちの滲む声で応じたのを確認するとキリトさんは部屋に入り、私達はそれに続いた

 

ヨルコさんとシュミットさんはしばらく無言で視線を見交わしていたが最初に口を開いたのはヨルコさんだった

 

「…久々ね シュミット」

 

薄く微笑んだヨルコさんに対してシュミットさんは一度唇を噛んでから掠れ声で答える

 

「…あぁ もう二度と会わないと思っていたけどな …座っていいか」

 

ヨルコさんが頷くとシュミットさんは鎧を鳴らしながらヨルコさんの向かいのソファに歩み寄るとそこに腰かけた

 

それを確認したキリトさんは扉を閉め、向かい合って座る2人のシュミットさん側の東に立ち、アスナはその反対側にておさんはヨルコさん側の東側に、そして私はその反対側に立った

 

部屋の南側の窓は開け放たれており、そこからは街の喧騒が聞こえてくる

 

その喧噪を聞き流しているとヨルコさんがぽつりと呟いた

 

「シュミットって今は[聖竜連合]にいるんだってね 凄いよね 攻略組の中でもトップギルドだよね」

 

それに対してシュミットさんはそれに低い声で答えた

 

「どういう意味だ 不自然だとでも言いたいのか」

 

シュミットさんの明らかに棘のある答えにヨルコさんは動じなかった

 

「まさか ギルドが解散した後物凄く頑張ったんだろうなって思っただけよ 私やカインズはレベル上げを挫折して諦めたのに凄いよね」

 

肩にかかる髪をそっと払うと再び微笑んだ

 

ヨルコさんは一見すると冷静に見えるがかなり着込んでいるのが外見からでもわかるため内心では不安があるのであろう

 

こちらは不安を隠そうともしないシュミットさんは鎧を鳴らしながら身を乗り出す

 

「俺のことはどうでもいい! それより訊きたいのはカインズの事だ」

 

シュミットさんは声をトーンを押し殺したものに変えて続ける

 

「何で今更カインズが殺されるんだ!? あいつが指輪を奪ったのか? リーダーを殺したのはあいつだったのか!?」

 

今のシュミットさんの言葉はシュミットさん自体が『指輪事件』にも『圏内事件』にもかかわっていないことを示唆されるがこの様子自体が嘘という可能性も捨てきれない

 

低い叫びを聞いたヨルコさんの表情がここに来て初めて変わり、シュミットさんを睨みつけた

 

「そんな訳ない 私もカインズもリーダーの事は心から尊敬していたわ 指輪の売却に反対したのはお金(コル)に換えて無駄遣いしちゃうよりギルドの戦力として有効活用するべきだと考えたからよ リーダーも本当はそうしたかったはずだわ」

「それは… 俺だって同じだったさ 忘れるなよ 俺だって売却に反対したんだ 大体指輪を奪う動機があるのは反対派だけじゃない 売却派…つまり(コル)が欲しかった奴らの中にこそ売り上げを独占したい奴がいたかもしれないじゃないか!」

 

シュミットさんはガントレットを嵌めた右手で膝を叩くと頭を抱え込む

 

「なのに… 今更グリムロックはどうしてカインズを… 売却に反対した3人を全員殺す気でいるのか? 俺やお前も狙われているのか!?」

 

怯えている様子のシュミットさんに対して再び冷静さを取り戻したヨルコさんがぽつりと言葉を投げかけた

 

「まだグリムロックがカインズを殺したって決まったわけじゃないわ 彼に槍を作ってもらった他のメンバーかもしれないしもしかしたら…」

 

ヨルコさんは虚ろな表情でソファの前にある低いテーブルを見やると呟く

 

「殺されたリーダー自身の復讐なんじゃない? 圏内で人を殺すなんて普通のプレイヤーにはできないんだもの」

「なっ‥‥‥」

 

シュミットさんは目を見開いてパクパクと口を動かす

 

 

そしてこの場の雰囲気に似合わず微笑んでいるヨルコさんを呆然と見やって言った

 

「だってお前さっきカインズが指輪を奪うわけがないって…」

 

それにヨルコさんは直ぐには答えずおもむろに音もなく立ち上がると一歩右に動き、両手を体の後ろで握ると私達に顔を向けたまま窓へと向かって後ろ歩きをしていく

 

スリッパの足音に合わせ、ヨルコさんは何かに憑りつかれた様に話す

 

「私昨夜寝ないで考えたの 結局のところリーダーを殺したのはメンバー全員でもあるのよ あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでリーダーに任せればよかったんだわ ううんいっその事リーダーが装備してもらえばよかったのよ 剣士として一番実力があったのはリーダーだったし、指輪の効果を生かせたのは彼女だわ なのに私達は全員自分の欲を捨てきれずに誰もそれを言い出せなかった いつかGAを攻略組に、なんて言いながらホントはギルドじゃなくて自分を強化したかったのよ」

 

言い終わると同時にヨルコさんは窓枠に腰かけるともう一言だけ付け加えた

 

「ただ一人…グリムロックさんだけはリーダーに任せると言ったわ あの人だけは私欲を捨ててギルド全体のことを考えていた だからあの人には欲を捨てられなかった私たち全員に復讐する権利があるんだわ」

 

しんと沈黙が満ちる中風が吹く音だけが聞こえる

 

やがてシュミットさんが鎧をカチャカチャと小さく鳴らしながら細かく震え、まるでうわごとのように呟く

 

「…冗談じゃない…冗談じゃないぞ! …何を今更半年も経ってから…!」

 

上体を勢い良く上げるとヨルコさんに向けて叫ぶ

 

「お前はそれでいいのかよ ヨルコ! 今まで死に物狂いに生きてきたのにこんな訳が分からない方法で殺されていいのか!?」

 

全員の視線がヨルコさんに集まる中、どこか儚げな雰囲気を纏うその人はしばらく言葉を探すように視線を彷徨わせていた

 

やがて唇を動かして何かを言いかけた時―――

 

〔トン〕と乾いた音が部屋に響いたと思ったらヨルコさんは眼と口を見開き、続いてその体が大きく揺れよろめくように振り返って窓枠に手をつく

 

その時に風が吹いて彼女の髪が風になびいた時、私達は信じられないものを見た

 

背中に黒々とした短剣の刀身が刺さっていた

 

私達がそれを見たのも束の間、ヨルコさんの身体が大きく揺れて窓の奥へと傾いた

 

それと同時に私は駆け出し、窓から身を乗り出して手を伸ばしヨルコさんを掴もうとしたがわずかにショールが指先を掠っただけでそのまま地面へと落下していった

 

ヨルコさん!

 

そして石畳に墜落すると青いエフェクトに包まれてささやかな破壊音と共にポリゴンの欠片が拡散し…その場にはヨルコさんに刺さっていた漆黒のダガーのみが残った




ちょっと長くなってしまった…

それではまた次回に
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