ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~   作:水名(仮)

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最近暑いですね…

それではどうぞ


18話:捜査は足で その7

その一連の流れにある種の恐怖を抱き、それを避けようと視線を上げると丁度この窓と同じぐらいの高さの屋根の上にひっそりと立つ人影が見えた

 

それを見たであろうキリトさんが私を押しのけて窓枠を乗り出すようにしてその人影を睨みつける

 

「野郎…!」

 

そして窓枠に足を掛けると振り向かずに私達に向けて叫ぶ

 

「3人共! 後頼む!」

 

それだけを伝えると窓から向かいの建物の屋根へと跳んだ

 

屋根へと着地すると同時にアスナが切迫した声を出す

 

「駄目よ! キリト君!」

 

しかしキリトさんはそれを無視して剣を背中の鞘から抜くとそのまま人影を追いかけ始めた

 

そこから先は建物が邪魔になって窓からは様子が見えなかった…

 

 

~~~~~~

 

 

数分後、ドアをノックして戻ってきたキリトさんに対してレイピアを抜刀していたアスナは怒りと安堵が混ざったような表情を向けると押し殺したような声で叫ぶ

 

「ばかっ! 無茶しないでよ!」

 

確かにあれはちょっと危険だったと思う

 

そしてアスナは気持ちを切り替えるように長く息を吐くと声量を落として続ける

 

「それで… どうだったの?」

 

キリトさんは首を横に振った

 

「テレポートで逃げられた 顔も声も、性別も判らなかった …まぁあれがグリムロックなら男だろうけど」

 

そうキリトさんは言ったもののSAOにいるプレイヤーの内8割ぐらいは男性の為、これだけでは絞り込めない

 

「違う…」

 

その特に理由のない言葉に反応したのは怯えたように体を丸くして鎧を小刻みに鳴らしながら震えているシュミットさんだった

 

「違うって何がだ?」

 

ておさんはそう訊ねたもののシュミットさんはそちらを見ることなくより一層顔を俯けながら呻く

 

「あれは…あの屋根の上にいた黒ローブはグリムロックじゃない 彼はもっと背が高かった それに…それに」

 

続いてシュミットさんが発した言葉に私達は思わず息を呑む

 

「あのフード付きのローブはGAのリーダーのものだ 彼女が街に出るときはいつもあんな地味な恰好をしていた そうだ…あの日指輪を売りに行った時だってあの恰好をしてた! あれは…さっきのあれは間違いなく彼女だ 俺たち全員に復讐しに来たんだ あれはリーダーの幽霊だ」

 

そう言い終わると不意にタガが外れたように笑い始めた

 

「幽霊だったら圏内でPKするぐらい楽勝だよな いっそのことSAOのラスボスもリーダーに倒してもらえばいいんだ 最初っからHPが無ければもう死なないんだから」

 

ヒステリックに笑っているシュミットさんの目の前のテーブルに向かってキリトさんは持っていたダガーを放り投げた

 

〔ごとん〕と鈍い音を立ててテーブルにダガーが置かれると同時にシュミットさんは笑いを止め、それを凝視すると…

 

「ひっ…」

 

小さく悲鳴を上げ、上体を仰け反らせるシュミットさんにキリトさんは抑えた声で話し始めた

 

「幽霊じゃない そのダガーは実際にそこに存在するオブジェクトだ SAOのサーバーに書き込まれた何行かのプログラムコードだよ あんたのストレージに入ったままのショートスピアと同じだ それでも信じられないというのなら持って行って調べるといい」

い…いらない! 槍も返す!

 

シュミットさんは絶叫するとウィンドウを開いて何回か操作ミスをしながらも〖ギルティソーン〗を取り出すと近くにいたておさんに半ば強引に渡した

 

そして再び俯いて頭を抱えたシュミットさんにアスナは穏やかな声をかける

 

「…シュミットさん 私も幽霊じゃないと思うわ だってもしアインクラッドに幽霊が出るんだったら[黄金林檎]のリーダーさんだけじゃないわ 今までに死んでしまった約3400人全員が同じぐらい無念だったはずだわ そうでしょう?」

 

まぁ確かに… アスナの言う通り ここで死んでしまったら死んでも死にきれないだろう…かくいう私もあの場で死んでいたら化けて出てくる自信がある…まぁ達観している人だったらそんな運命でも受け入れるだろうけど

 

しかしシュミットさんは項垂れたまま首を横に振る

 

「あんたらは彼女を…グリセルダを知らないからそんなことが言えるんだ あの人はいつも毅然としててすごく強かった…それでいて不正や横領にはとんでもなく厳しかったんだ あんた以上だよ アスナさん だからもし自分を罠に嵌めて殺した奴がいればたとえ幽霊になってでも裁きに来るだろうさ…」

 

重苦しい空気が部屋を満たし、街の喧騒も今はここを避けているようだった

 

そんな中でキリトさんは静寂を破るように口を開く

 

「あんたがそう思いたいんだったら、好きにすればいいさ だが俺は信じない この2件の『圏内事件』には絶対的なロジックが存在するはずだ 俺はそれを絶対に突き止める …あんたにも約束通り協力してもらうぞ」

「…協力…?」

「あんた言ってたよな グリムロックの行きつけの店を教えるって 今となってはそれが唯一の手掛かりだ 何日張り込むことになっても絶対に見つける」

 

キリトさんの言う通り今はそれぐらいしか手掛かりがない… 藁にも縋るという奴だがシュミットさんに断られてしまったら完全にとはいかずともほぼ積みと言ってもいい

 

しかしそんな私の心配は杞憂だったのかシュミットさんは重々しくはあるが立ち上がると壁際に備え付けられているライティングディスクに歩み寄ると備え付けの羊皮紙にこちらも備え付けの羽ペンを使ってみせの場所と名前を書き始めた

 

その様子を見ていたキリトさんは思いついたような声を出すとシュミットさんに声をかけた

 

「ついでに元[黄金林檎]のメンバー全員の名前を書いておいてくれるか? 後でもう一度生命の碑に確認しに行くから」

 

シュミットさんは頷くと置きかけたペンを握り直してメンバーの名前を書き始めた

 

そして書き終わった羊皮紙を片手に持ちながら戻ってくると羊皮紙をキリトさんに渡しながら口を開く

 

「…攻略組として本当に情けないが 俺はしばらくフィールドに出る気にはなれない ボス攻略レイドは俺抜きで編成してくれ それと…」

 

シュミットさんは虚ろな表情で呟いた

 

「…俺をDDAの本部まで送ってくれ」

 

~~~~~

 

シュミットさんを護衛するように第57層の転移門から第56層にあるDDAの本部まで送る間、私達は周囲の暗闇に細心の注意を払い例の人が現れたらいつでも攻撃できるように臨戦態勢でいた

 

DDAの本部まで送ってもシュミットさんは安堵の表情を見せずに建物へと小走りで入っていった

 

それを見た私は一息を着くとしばらく顔を見合わせる

 

「…悔しいね…ヨルコさんの事…」

 

そう呟いたアスナに私とておさんはしっかりと頷き、キリトさんも「そうだな」とかすれた声で応じた

 

正直に言ってあのシーンはカインズさんの時よりも衝撃が凄かった

 

あの場面を思い出しているとキリトさんが口を開く

 

「今まではテオのように乗り掛かった船っていう気持ちもあったんだが…もうそんなこと思ってちゃだめだよな 彼女の為にも絶対にこの事件を解決しないと ―――俺はこれから直ぐにシュミットに教えてもらったレストランに張り込もうと思ってる 3人はどうする?」

 

そして私達に訊ねてきたので私達は答える

 

「勿論私も行くわ 一緒に最後まで突き止める」

「私も行きます 『指輪事件』と『圏内事件』の真相を知りたいですから」

「あぁ 俺も同感だ カインズさんの時はキリトの言った通り乗り掛かった船っていう感じだったが今はただ真相が知りたい」

 

私達の言葉を聞いたキリトさんは一瞬黙ったが直ぐに言った

 

「…そっか じゃぁよろしく頼む」

 

キリトさんの返答を聞くや否やアスナは踵を返すと転移門へと向かって行ったので私達もその後を追いかける

 

 

~~~~~~

 

 

シュミットさんが教えてくれたお店は第20層の下町にある酒場で曲がりくねった小道にひっそりと佇んでいる雰囲気からはシュミットさんが言ってたように毎日食べたくなるようなお店とは到底思えない

 

…好みは人それぞれなので私達がとやかく言うべき問題ではないけど…

 

一旦近くの物陰に身を潜め、周囲を確認すると例の酒場を見渡せる位置に宿屋があることに気が付いて人通りが途切れた時を狙ってその宿屋に入り、通りに面した2階の部屋を借りると通りが見える窓際に椅子を持ってきて監視する態勢を整える

 

準備を整え、さぁ始めようとなった時にアスナが「ねぇ」と眉を寄せる

 

「…張り込むのは良いけどよくよく考えたら私達グリムロックさんの顔知らないわよね…?」

 

言われてみればそうだ 私達グリムロックさんの顔知らなかった…

 

「あぁ だから最初はここにシュミットを連れてこようと思ったんだけどあの様子じゃ無理そうだったからな… 一応俺はフード越しだけどグリムロックらしきプレイヤーを至近距離で見てる だからそれっぽいプレイヤーが現れたらちょっと無茶かもしれないけどデュエル申請をする」

「それが一番手っ取り早いか…」

「え~…」

 

ておさんの言う通りキリトさんの案が一番手っ取り早いかもしれない

 

名前が表示されないSAOではプレイヤーにフォーカスしたときの情報はカラー・カーソルとHPバーとギルドマークの情報しか表示されない

 

名前さえわかってしまったらそれこそインスタント・メッセージで嫌がらせ行為を行うことが出来てしまうので当然と言えるが今回の場合は手間がかかってしまう

 

その為初対面の人の名前を知ろうと思ったらデュエルを申請するのが手っ取り早い

 

デュエルの申請方法はメニューからデュエルボタンを押して選択モードにしてから指先で対象のカラー・カーソルを選択すると『○○に1v1のデュエルを申請しました』(○○には相手の名前)がメッセージとして表示されるためそれで名前がわかるという寸法である

 

しかしそれと同時に相手にも自分の名前が表示されるので自分の名前を明かさずに相手の名前だけを知るということはできないしそもそもこの行為はマナー違反である

 

それに加え、相手がデュエル申請を受理する可能性もあるのでアスナは乗り気ではないのだろうがアスナもこれ以外に方法がないことを知ってるので唇を結んで厳しい表情で頷くと言葉を発した

 

「…でもグリムロックさんと話すときは私達も行くからね」

 

なんか巻き込まれてる感が否めないがあえて口にはしないでおく

 

 

ふと時刻を確認すると6時40分という丁度夕食時で例の酒場もスイングドアが頻繁に揺れている

 

酒場に出入りしている人たちの中から怪しい人がいないか見ているとアスナが何かの包みをキリトさんに「ほら」と言いながら差し出しているのが見えた

 

「…くれるのか?」

「それ以外に何があるの? 見せびらかしてるとでも?」

「い、いえ… それじゃぁ…遠慮なく…」

 

それをキリトさんに渡すと同じような包みを3つオブジェクト化し、そのうちの2つを私に渡してきた

 

「お~ ありがと~」

「耐久値がもうすぐ切れるから急いで食べるのよ」

「あっはい」

 

アスナから受け取った包みのうちの1つをておさんに渡すと早速包みを開ける

 

包み紙の中から出てきたのは野菜やロースト肉が挟まれたバゲットサンドだった

 

しかしそれを一旦置いてウィンドウを開き、操作して水入り瓶をオブジェクト化すると早速バゲットサンドを食べ始める

 

それはシンプルだけど適度にピリッとした辛さがあってかなり美味しかった(少なくとも今日食べた中では一番美味しい)

 

まだ食べてる私をよそに食べ終わったキリトさんがこちらもまだ食べているアスナに対してお礼のついでに訊ねていた

 

「ご馳走様 美味しかったよ それにしてもいつの間に弁当なんて仕入れたんだ?」

「耐久値がもうすぐ切れるって言ったでしょ こんなこともあろうと朝から用意してたのよ」

「へぇ…流石攻略担当責任者様だなぁ… そこまで頭が回らなかったよ 因みにこれどこの店の?」

 

キリトさんの質問にアスナは小さく肩をすくめた

 

…売ってない

「へ?」

「お店のじゃない」

 

これ手作りなんだ 後でレシピ教えてもらおっと

 

そう思いながら私が食べ進めている間、キリトさんは放心状態だったが軽くパニック状態になりながら言った

 

「えぇっと…その… 何といいますか…ガツガツ食べちゃってもったいなかったな~ いっそのことオークションにかければ大儲けだったのになぁ~ あはははは…」

 

ホントこの人… KY過ぎない…?

 

予想通りアスナはキリトさんの座る椅子を蹴飛ばしキリトさんは怯えたような表情になった

 

 

 

そんなこんなで私も食べ終わり、すでに食べ終わっていたておさんを横目に水を飲むと丁度瓶が空になったようで机の上に置くと瓶はポリゴン状になって消滅した

 

こういうのはつくづく便利だなぁと思っているとキリトさんがこちらを見ていることに気が付いた

 

「? どうしたん「しっ!」」

 

数秒間その状態が続いたと思ったら次に羊皮紙と空き瓶が消滅した場所を交互に見比べ、唐突にキリトさんが声を大にして叫んだ

 

ああっ!?

 

それと同時に椅子を蹴立てながら立ち上がったので思わずそちらを見る

 

「そうか… そうだったのか!」

 

急に何か分かったような声を出したのでたのでておさんは戸惑ったようにキリトさんに訊ねた

 

「ど…どうしたんだよ急に」

「そうよ 1人で納得してないで私達にもわかるように言いなさいよ」

 

アスナも同じような雰囲気でそう言ったのでキリトさんはぎゅっと両目を瞑ると話し始めた

 

「俺は…俺達は何も見えていなかった 見ているつもりで違うものを見ていたんだ 『圏内殺人』…そんなものを実現する武器も、ロジックも、最初っから存在していなかったんだ!」




この小説ではちょっとだけ死者数が抑えられています

それと今回は水入り瓶が消滅するのが謎を解くカギになりました

それではまた次回に
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