クオリディア・コード:code/00『苦衷のパーソナルエリア』   作:逢庭一八

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第一話:どうでもいい、会議なんて

友達ってなんだろ。

話相手?

仲間?

グループとかマジ面倒くさいし、あたしみたいに集団行動苦手だと本当にダルい以外のなんでもないわけで。

 

たとえば?

一緒にトイレいったり?

誰々が調子コいてるとか、さっきまで仲良さそうにしてた子の悪口で盛りあがったり?

授業中にアイツシカトしよ、なんて誘いが端末にまわってきたりする。

 

ウケるっしょ。

テキトーに「あーね」つってアプリゲーでもしながら受け流すのが、あたしのデフォ。

結局のところ上辺だけどう上手くやり過ごすかって話になるワケ。

 

これでも表面上はうまくやってるつもり。一応、戦闘科の先輩に一目置かれてたってのもあってあたし相手で変に弄ってくるヤツもいなかったしね。

千葉の上下関係縦割りはこういう時、便利。

 

そもそもさ、別に友達って欲しいとも思わないし。

でもあたしのお兄ぃはそれを心配してくるんだよね。

友達作れって。

 

「は? なに急に。ウケる、自分だって友達いないじゃん」

 

あたしがこう言うとお兄ぃめちゃくちゃ早口でなんか言い訳すんだよね、最近は言わなくなったけど多分あたしにこう言い返されるのがイヤになっただけだと思ってる。

 

こういうのなんかブーメラン? とかいうんだっけ?

お兄ぃ本当ウケる、意味わかんない。

 

友達なんてどうでもいい。

〈アンノウン〉とかいう変な奴らが攻めてくるような世の中だし。

 

あたしが欲しい絆なら、ぶっちゃけもうあるからね。

 

 

 

 

その日のあたしはとにかく不機嫌だった。

 

めちゃくちゃ暑くて寝苦しかったし、朝から寝癖もひどいから、ちょっとシャワー浴びたらバスタオルが一枚もないワケ。

 

「いやいや、ないわけないし」

 

ちゃんと前の日使ったの乾燥機入れといたはずだし。

でも、開けたらない。

となると答えは一つ。

 

「お兄ぃ、あたしのバスタオルまた勝手に洗ったっしょ! しんじらんない、なんでいつも勝手にやんの?」

 

ぽたぽたと髪から滴る水玉を床に散らしながらあたしは居間に怒鳴り込んだ。

仕方なく小さいタオル二枚で拭いたけどなんか吸収し切れてないし超気持ち悪い。

タオルが二枚もったいないし。最悪。

 

「あのね、明日葉ちゃん。使ったバスタオルはそのまま乾燥機いれちゃダメ。ちゃんと洗濯してからって前にも言ったよね?」

 

エプロン姿で台所に立つお兄ぃは相変わらずお兄ぃだ。

は?

前にも言ったっていうならあたしだって言ったんだけど?

だいたいなに、自分だって制服の上着ソファに放ってエプロンなんかしちゃってる癖にさ。あたしがやると皺になるとかすぐいうクセに。

 

「いったじゃん、あたしはそのまま使う派なの。お風呂で綺麗な体拭いてんだからさ、毎回洗濯とかマジ無駄だし意味ないから」

 

「意味はあるんだよなぁ……」

 

フライパンの上で卵を混ぜながらこっちを向くお兄ぃ。

ボサボサの黒髪は寝癖がついてるし、あたしより早く起きてるはずの瞳は眠そう。あ、早起きしてるからか。や、いつも通りかな。

なんて事思ってるとお兄ぃはなんかぶつぶつ言ってくる。

 

「お風呂ってね? シャワ―するだけで汗もかいてるから。言ってみれば汗も一緒に吸ってるのよ。だからお兄ちゃんはね、バスタオルは毎日洗わないと雑菌がね……」

 

「あ――――もううっさいうっさい、それ聞き飽きた! だから乾燥機かけてんじゃん。だいたい雑菌とかみえないしいないし。あたしからしたらそういうことばっかするお兄ぃの方がよっぽど雑菌なんだけど!」

 

「ちょ、明日葉ちゃん、お兄ちゃん料理中!」

 

頭に巻いてた小さいタオルをお兄ぃへぶん投げて、あたしは足音荒く部屋に戻る。

 

信じらんない、本当ムカつく。

洗うなっていうんじゃなくて勝手に洗うなって話してんじゃん。実際あたし使いたい時に使えてないじゃん。雑菌よりよっぽど困ってるじゃん。

お兄ぃ、本当わかってない。ムカつく。

 

これが朝の出来事。

勿論朝ごはんの間なんか口きいてあげないし、醤油もとってあげない。

 

おいしかったけどさ。

 

 

 

 

「は? 三都市首席顔合わせ――……ですか」

 

「そうだ。東京、神奈川の首席とな」

 

昼休みに呼び出されたあたしを、待っていたのは夏目めぐ先輩。

千葉だとまだ次席とか姉御って呼んだほうがみんなしっくりくるかもね。

 

「あんな形とはいえ選挙が終わった以上、今後はアンタが千葉のトップだ。上が変われば体制も変わる。形式的に三都市で防衛ライン築いているワケだから、一応連携をとる為に必要なんだ。ま―他にも引き継ぎは山ほどあるけど、これはその一つだな。全部終わったらアタシの仕切りは終わりだ。あとは好きにやんな」

 

そういってカラッと笑う夏目さんはあたしからみても綺麗、だと思う。

貫禄だって段違い。

今だってソファにどしりと腰掛けて脚を組む様は異様に似合ってるし、堂々としている。

あたしも脚には少しくらい自信あるけど、さすがに敵わないかな。

 

夏目さんが言うあんな形っていうのは、少し前にあった千葉での事件がきっかけで、あたしがなりゆきで首席宣言をした事。

本来なら千葉は他の都市と違って毎回選挙で首席を決めるっていう謎の制度があるんだけどね。

お兄ぃは千葉が他の都市と違って民主主義を掲げてるから立派だよねとか言ってたけど。

よくわかんない。

 

とにかく先代の首席だった夏目さんのお姉さんが抜けて、本来であれば次席だった夏目さんがほとんど出来レースみたいな選挙でなるはずだった首席。色々あってなりゆきとはいってもあたしはそれを奪い取った形。

 

でも、夏目さんはむしろすっきりしたようにあっけらかんと笑っていた。

 

『前から言ってたろ。あたしを次ぐのはアンタしかいないって。順番が変わっただけだ』

 

普通さ、席とられたら嫌だよね。あたしは別にトップになんて全然興味ないけど、それでもよその誰かに蹴落とされたら夏目さんのように笑っていられるだろうか。

ちょっと自信がない。

 

「……明日葉。お前な、三都市首席の顔合わせってもちょっと向こう行って話してくりゃいいんだからそんなイヤな顔すんなよ……」

 

え。

そんな顔してるかな、あたし。

 

「や、してないですけど……」

 

あ。

ウソ。

気づいちゃったかも。

多分ちょっとしてる。

 

中等部の頃から目をかけて貰ってたあたしにとって夏目さんは一応頭が上がらない存在といってもいいかもしれない。

もちろん夏目さんには夏目さんの打算があってあたしを傍に置いてたのはわかってるけど。

 

ま、少なくとも顔は立てないとね。

 

それにしても三都市首席顔合わせだって。

東京、神奈川のトップと会う事になるわけだ。

あたしが。

千葉の代表として?

うわ、なんかウケる。面倒くさ。

なに首席とか。

やんなきゃ良かったかも。

 

「ま、ぶっちゃけイヤなんですけど」

 

「だよな、アタシもそういうとは予想してた。アンタが上手くやれるとも思ってないしな。だから霞と一緒に行ってこい」

 

「え。やだ。あ、……じゃない、やです」

 

「なんで。好きだろお兄ちゃん」

 

「は? ぜんっぜん、好きじゃないですけど? あんな雑菌タオル」

 

「雑菌タオル……?」

 

っていうか兄妹で好きとか何もないし。キモいし。

お兄ぃの腹立つ所はあんな事あってもしれっとお弁当忘れてるとかいって教室に持ってくるところ。

フツーまず謝るとこからじゃない?

信じらんない。

玉子焼きはおいしかったけどさ。

 

「夏目さん、は、一緒きてくんないんです?」

 

「行ってやりたいのはやまやまなんだけどな。アタシも内地入り決まったからこれから内地の管理官と打ち合わせがあるんだよ」

 

あたしが首席宣言をした時の千葉は少しザワついていた。

夏目さんは次席でさえなくなったけれど、運営執行部に残って色々と落ち着くまで手を尽くしてくれた。

で、もうアタシの出る幕はないだろ、なんて言い出したのがついこの前の事。

 

ちなみに夏目さんが言うには夏目さんと一緒に内地入り希望している先輩が沢山いるとか。

 

ま、そりゃポッと出の一年がいきなり首席です――なんつってはい分かりましたってついてくるような先輩はいないよね。

むしろ『コいてんじゃね―ぞ』とか言われるのがオチ。つか言われたし。

 

あの――、名前何だっけ。黒、黒……? ま、いいや。

あの黒ギャル先輩も一緒に消えてくれると嬉しいかも。

 

「どいつもこいつもしょうがない奴らだけどな。仮にも今までアタシの下についてたんだ、最後まで面倒くらいみてやるさ」

 

夏目さんは面倒とか言ってるけどどこか嬉しそう。ホントそういうとこだよね。姉御肌。

 

「あと聞いてっかもしれないけど朝顔も内地入りすっから。多分生産科もバタバタしてんだろ」

 

朝顔って誰だっけ? っていうあたしの顔を読んだのか、夏目さんは「ほら、おでこの」の自分の額をトントン叩いて付け足してきた。ああ。思い出した。

おでこ釣瓶先輩。生産科でのお兄の上司の人だ。

夏目さんがすっきりした風なのはこのデコ先輩とお互いの立場を気にせず接せられるようになったからだとか。

よく知らないけど。

 

「そいやお兄ぃも最近帰り遅いかも」

 

「お前ら一緒に住んでるんだっけか。珍しいぞ、今日び兄妹でそんだけ仲いいのも」

 

「や、住んでるっていうか、住むことになったっていうか……」

 

そう。

あたしが首席になったから、管理官の人から引越しを薦められて。首席は無条件で好きな部屋選び放題っていうからテキトーに高そうなとこ決めようとしたらお兄ぃがやってきて。やれここは防犯が甘いだの、一階は危ないからやめなさいとか、ビルに隠れて日陰だ、ここは出勤に遠いだとか色々ケチつけてきて。結局お兄ぃが今のところに決めた感じ。

 

別にあたし一緒に住むとか言ってないのにな。

ホントお兄ぃは妹離れできてないと思う。

しょうがないお兄ぃ。

 

「あたしも内地に行った姉がいるが、どちらかと言えばドライな関係だったからな。……なんだ明日葉、ニヤニヤして」

 

「え。し、してない。全然してないですし!」

 

「ふうん? ま、いいや。お前の予定、午後は空けてるから行ってこい。場所は東京だ」

 

そういって夏目さんは端末からデータをあたしに寄越した。

 

午後はって今日これから?

マジ?

あたし何の準備もしてないんですけど。

ホント首席とかやるんじゃなかったかも。

 

 

《つづく》

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