クオリディア・コード:code/00『苦衷のパーソナルエリア』   作:逢庭一八

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第二話:そんな誤解は放ってしまえ

行き交う人、人、人。

あたしがお兄ぃと一緒に東京についたのが昼下がり。

約束何時だったっけ。

多分、普通に遅刻だし。

 

「つか、お兄ぃなにしてたん。めっちゃ遅くなったんですけど」

 

「ゴメンね? お兄ちゃん本来ならやらなくていい首席代行業務に追われてたのよ。今日だって午後空けるのに引き継ぎが多くてもう大変」

 

「ダメじゃん。やるならちゃんとやるべきだし」

 

「ダメなのは自分の仕事やってくれない首席さんなんだよなぁ……。なんか勝手に俺、肩書き次席になってるし。あれ? 夏目政権の時も姉妹で首席次席じゃなかった? やだ、千葉ってばアットホームな職場」

 

「やったじゃん」

 

「うん、やったね。いや、たまには仕事やってね?」

 

「あ―ね。やれたらやる」

 

「行けたら行くって便利な言葉だと思わない? 基本行かないで済むし……」

 

お兄ぃがなんかブツブツいってキモい。

でも手元ではしっかり端末で場所調べてるみたいだから、あたしはそれを手持ち無沙汰で待つ。

壁面に新宿って書かれた駅構内は変に小綺麗で落ち着かない。

ゴミなんかも散らかってないし、そもそも歩いてる人達からして千葉となんか違う。

この暑苦しい中でボタンの一つも緩めず、歩く姿は規則正しい。ウケる。これが全員同年代だよ?

 

「なんか変な匂いする」

 

「あー、こっちは機械化が進んでるからな。そこへ行くと千葉なんかそこかしこから美味しい匂いしかしないからね、やっぱり千葉最高。千葉ラブ」

 

お兄ぃがようやく場所の当たりをつけたのか、歩き出した背中を追って構内進んでいく。

東京って変な感じ。千葉にあるような芸術とかいってスプレー缶で描かれたアートなんかもない。

たまに東京行きたい、なんて話もクラスで聞くけど、あたし東京住めないかも。

 

きょろきょろと彷徨わせていた視線をお兄ぃに向けると、時折足を止めるその背中はだらけた空気全開、服装もだらりなお兄ぃ。

あたしはなんだかほっとして息を吐いた。

 

「なに明日葉。知らないとこきて心細くなっちゃった?」

「はえ? あ、あ――、全然違うけど。お兄ぃ東京全然馴染んでないなって」

 

ぶっちゃけ似合ってない。

安心するけどね。

 

「そうね。俺、生粋の千葉っ子だし。帰っていい?」

 

「ん。そうしよっか。あたしも帰る」

 

あたしが降りてきたばかりの列車のホームに振り返ろうとすると、お兄ぃは慌ててあたしの手を引っ張った。

 

「いやいやダメだから。明日葉ちゃんは帰っちゃまずいからね? 首席首席」

 

「ウケる。お兄ぃが言い出したくせに。そうやって土壇場でひよるとことか超お兄ぃ」

 

「なにそれ穏やかな疲れを持ちながら激しい仕事によって目覚めた伝説の戦士? 戦士ってか戦死しそうなんだけど。せめて責任感が強いっていってほしいんだよなぁ……」

 

建物。建物。建物。

南口と表示された出口から外へでると、あたしは高く高くそびえ立つ建物の列にはえー、と変な声をだしてしまった。

 

だってわかる?

めっちゃ規則正しく並んだ街路樹とかさ、鏡面仕立ての巨大ビルがあって。おまけにすり鉢みたいにへっこんだドームまである。

なんか違う世界にきたみたい。

 

「明日葉ちゃん、おのぼりさんみたいだからきょろきょろしないようにね……」

 

「あ―、なんかサカナのヤツだっけ。昔どっかでみたかも。あたし今そんな感じ?」

 

「こいのぼりじゃないんだよなぁ……明日葉ちゃんそういえば絵本とか好きだったね。今じゃ本どころか書類一つみてくれないけど」

 

お兄ぃの背中の先。

どうやらあたしたちが行くのはあのでっかいすり鉢みたいなドームみたい。

お兄ぃが「中央会議場」って言ってた。あんな大きいと千葉の全員集めても入りそう。

 

いくつかのセンサーゲートをくぐって、その度に首裏のクオリディア・コードを読み取らせる。お兄ぃは何もしなくていいけどあたしはその度にいちいちちょっと髪を持ち上げなきゃうまく読み取れないらしくてちょっとダルい。

そんなに検査する事ある?

 

ようやく入れた中央会議場の中はしんと静かだった。

なに、めっちゃ静かなんですけど。

外の雑音もここまでは届かないのか、物音一つしていないし。

こつんこつんとカカトを打つローファーの音だけが響く。

 

「…………」

 

あたしはなんとなくお兄ぃの上着の端をつまんでみる。

や、別になんか怖いとかじゃないけど。

なんとなく。

そ、お兄ぃがあたしからはぐれたら多分困る……ってか嫌だろうから。

お兄ぃの為。

いい妹っしょ。

 

「明日葉――明日葉ちゃん? ちょっと歩きにくんだけど……」

 

「ん。てかさ。めっちゃ遅刻じゃん? お兄ぃ怒られたらかわいそうなんだけど」

 

「お、おう。歩きにくい件はスルーなのね。いいけど。ちゃんと事前に連絡入れてるからだいじょうぶ。明日葉ちゃんは怒られないからだいじょうぶ」

 

なんか頭撫でてくるお兄ぃの手をペいっと弾く。

 

「お兄ぃ、キモい」

 

「えぇ……」

 

あ、なんか思ったよりショックうけてる。

や、別に嫌じゃないけどさ……なにも外でやる事なくない?

髪ぐしゃぐしゃになるじゃん。今から知らない人に会うわけじゃん。

お兄ぃそういうとこホントダメ。

 

ん、てか。あれ?

 

「お兄ぃ」

 

「なに。手でも繋ぐ?」

 

「ううんキモい」

 

「キモいは動詞じゃないんだよなぁ……」

 

「ちがくて。連絡したってだれにしたの」

 

「誰って今日あう人だよ」

 

「だからだれ」

 

「いやいや名前言ってもわかんないよね?」

 

「いいから」

 

「よくないでしょ、わかんないんだから」

 

は?

なんでさっさと名前言わないの。

なんか隠してる?

 

あたしはここに来る前に夏目さんから聞いてた話にまさかと思った。

 

『――しょうがないヤツだな。じゃあお前が行きたくなる話でもしてやろうか? この前な、ちょっと用事あってアタシが霞を連れて神奈川に顔出したんだけどよ。そん時にアイツ、えらい美少女となんか話し込んでたぞ。こう、背の小さい……や、ありゃ猫背なのか? 千葉にあんまいないタイプだな。眼鏡かけたおとなしそうな――っておい、明日葉? 聞いてんのか? お――い?』

 

――……。

 

聞いた瞬間カッとなったからなんか最後らへんはあんまし覚えてないけど神奈川の美少女?

 

背の小さい……。

 

それだけじゃ全然わかんないし。

 

正直お兄ぃがどこで何してようとあたしには関係ないんだよね。

 

そう、関係ない。

 

関係ない……。

 

や、関係なくなくない?

あたし妹だし。

 

つかお兄ぃがなんなん?

あたし以外の女子と話すのとか苦手なはずじゃん。

むしろあたしと喋るのさえ苦手じゃん。たまに何言ってんのかわかんないし。

 

なんかムカつく。

その美少女? とかと連絡してんじゃないよねまさか。

 

や、ないか。

お兄ぃだし。

 

でもおでこ先輩とか蓮華さんとか、妙に女の人と仲が良かったような気もする。

 

お兄ぃのくせに。

 

「――あ―す―は。お―い。聞いてるか?」

 

「はえ? あ、うん。おけまる」

 

ヤバ。

全然聞いてなかった。とりあえずおっけしちゃったけどなんだろ。

 

無駄に長いエスカレーターと天井がいちいち高いフロアをいくつか抜けた先、お兄ぃが立ち止まったのは控え室のような小さな扉の前。

 

「ここ。ついたよ、準備は万端?」

 

「おういえ。ってかフツーにやだけど。ここなん? さっきのでっかい扉じゃなくて?」

 

お兄ぃ間違えてない?

 

「今日は首席同士の顔合わせだけだからね。大講堂にわざわざ数人で使う事もないって事でしょ。知らんけど」

 

お兄ぃはさして興味もなさそう。

つかそれってあたしたち程度に大講堂はもったいないって事?

知らんけど。

 

あたしがなんとなく髪の毛いじっているとお兄ぃはノックして扉を開いた。

 

「ちわ―っす」

 

お兄ぃ、なんだかだるそう。

ノックした時は失礼します、とか言ってたのに。中にエラい人がいなかったのかな。

あたしも「ちす」とだけ呟いて中にはいった。

 

中の部屋の間取りは予想通りあまり大きくはなかった。むしろ狭そう。多分一〇人もいたら手狭に感じるだろうなってくらい。長机が一つに、椅子が六つ並んでる。

 

中にいたのは知らない制服に身を包んだ一人だけ。窓際に直立する姿は背筋がぴんとしていてどこかえらそうな感じがする。

 

目の前のお兄ぃの丸まった背中とは真逆すぎてウケる。

そのヒトが振り返ると、目が合った。

 

「…………」

 

「…………」

 

あれ?

あたしとじゃないか。お兄ぃだ。お兄ぃとなんか目が合ってる。知ってる人かな。

 

「お兄ぃ、知り合い?」

 

「や、何言ってんの……。全然知らないんだけど……なにあの人めっちゃ見てくるんだけど。こわ」

 

お兄ぃが向こうの人に聞こえないように顔を寄せてヒソヒソと話す。

ってかお兄ぃ、近いし。

こんな時なのに髪の毛もボッサボサ。

あ、もしかしてあたしの髪まとまり悪いのって遺伝なのかな……。

 

「おい」

 

いつの間に近くまできていたのか、窓際の人はお兄ぃのすぐ側まできていた。

あたしはなんとなくお兄ぃの影に隠れた。

 

男の人。室内に差し込む光を反射させている茶褐色の髪はお兄ぃよりやや長め。手入れがいいのかめっちゃ艶やかで一部で虹彩を作ってる。あれって髪にめっちゃキューティクルないとできないんだよね。うらやましいかも。

 

鋭く細めた目で窓際の人はこっちを睨みつけてくる。

 

「その制服、千葉都市だな」

 

「え? あ、はあ……」

 

お兄ぃがアレな返事をするのを聞くまでもなく、窓際だった人は言葉を続けた。

 

「話にはきいている。新しい千葉の首席は相当にデキると。千葉の千種、だったか」

 

え、マジ?

なに、この人どういう話きいてんの?

あたしそういうのマジ勘弁なんだけど……。

と、あたしが思っていると、窓際だった人はさらに詰め寄ってきた。

 

――あたしではなく、お兄ぃに。

 

お兄ぃ、完全に腰引けてるじゃん。ってか相手の人、顔めっちゃきれい。しかも、

 

「……睫毛、なが」

 

あ。

ヤバ、思わず声でちゃった。

でもなんかぐいぐい押してた腰の引けてるお兄ぃの背中がぴくっとした気がする。

 

「なんとかいったらどうだ。千葉の千種」

 

「はいはい。なんとか」

 

そのまま言い返すお兄ぃ。

 

「……ふざけているのか? 千葉の千種」

 

「や、千葉の千種、千葉の千種ってそんなアホの坂田みたいに連呼されてもね……まず俺、オタクのこと知りませんし? ふざけてるのは一体どっちなんですかねって感じです」

 

あれ。

お兄ぃなんかイラついてる?

珍し。いつもならなんだかんだ軽く受け流すのに。どうしちゃったんだろ。

 

「東京校、朱雀壱弥だ」

 

「あ――なるほど、納得納得。居丈高なその物言い。さすが都市を統べる『主席』なんて名乗っちゃう東京校さん。なに、最近ゴタゴタ続きで頭取っかえ引っ変えなんですって? 大丈夫? すぐまたアンコが詰まったパンみたいに新しい頭よ――ってどっかから飛んできたりしない?」

 

「…….ほう、ペラペラとよく回る舌だ。随分と軽い口なのだな、新しい千葉の首席は」

 

ん? あれ?

 

「あらご存知なかった? へえ、ご存知ない事もあるんですねえ東京校さんともあろう方が。もしや頭の中身が既につぶあんなのかな?」

 

お兄ぃが面白い。

こんなムキになってるお兄ぃ見た事ないかも。

 

ってか窓際の……東京の人、なんかお兄ぃが首席と勘違いしてない? 別にいいけど。

お兄ぃもそれに気づいてないとも思えないんだけど……。

 

あたしがやり取りを見ていると、後ろからさらに誰かが入ってくる。ちょうど入口のすぐ傍だったあたしは少しだけ身体を縮めた。

 

入ってきたのは大人の人。随分大きい。撫で付けるように整えた黒髪に少しだらしない感じの顎髭を蓄えてる。でも服だけは崩しなく着こなしてる。あたしはその服装でこの前話した管理官の人だと気づいた。

管理官の人は入ってすぐあたしとお兄ぃ、それから東京の人をみるとニヤリと笑った。

 

「お――お――さっそく喧々やってンな。結構結構、オトコの子だもんなあ」

 

呵呵と笑ってあたしの前を通り過ぎて部屋の奥へ。お兄ぃと東京の人を止める気はないみたい。

 

「――――!?」

 

瞬間、あたしは総毛だった。

全身に鳥肌が走る感じ。

管理官の人に付いて、すぐ後ろ。

 

そこに、もう一人いた。

気配をほとんど感じさせないで、足音も立てない歩き方は訓練したものだろうか。

 

あたしはソイツを改めて見てしまった。

スラリとした細身に切れ長の瞳、後頭にくくった漆塗されたかのような黒髪。

東京の人とは違う白の制服――神奈川校だ。

 

そういえば。

 

神奈川には過去一〇年君臨し続ける絶対の首席がいるとかって……。

 

なんだっけ。

たしか。

 

南関東最強の使い手?

 

人類の守護者?

 

とかなんとか。

そしてそれが女子だって事も、さすがに世間にそこまで興味無いあたしでも知っていた。

 

きいたときは何を大げさなって思ってたけど……。

 

なるほどね、コイツだ。

 

あたしは確信した。

纏う空気がこれまで会った他の誰とも違う。あたしが千葉でこれまで出会った誰よりも強い、と思う。

 

あたしがそんな事を考えていると、視線に気づいたのか相手も唐突にこっちを振り返った。

じい、とこちらを見る視線はなんとも怜悧で鋭くて。あたしは何でかうっすらと笑ってしまった。

何? ガンくれてんの? ウケるんだけど。ってちょっと思ったり。

あたしがちょっと険のある視線に変わったからか、神奈川の人がこっちに寄ってきた。

 

「神奈川都市、次席の凛堂ほたるだ。千種明日葉首席だな」

 

「ん……あ、えと。ドーモ。あたしの事知ってんの?」

 

「物事は全て観察から始まる。あらかじめ聞いていた特徴と一致しただけだ」

 

は?

なにそれ。観察?

だからじろじろ見てたって事?

だいたい聞いてたって誰から。

別にいいけど……。

 

それにしても。

神奈川の次席、やっぱりね。

只者じゃないとは思ってたし。

やっぱり……あれ?

 

ん、次席?

 

あたしが問い直そうと思ったら、続いて賑やかな声がそれを遮った。

 

「――ふんふふ――ん、ふんふんふんふ――ん」

 

「今日はずいぶんご機嫌なのね舞姫」

 

「うんっ! えへへ。愛離さんが元気そうで嬉しいなって。あとねあとね、今日はね、なんだかとってもいい事がありそうな気がするんだ」

 

あたしが目線を入口の方へ向けると、管理官の服装の女の人が、背後の誰かを気にしながら入ってきた。

管理官の人があたしに軽く会釈をして奥へ進む。

その、後ろに。

 

あたしは思わず視線が釘付けになった。

とはいってもさっきのような総毛立つような感覚じゃなくて。

ただ吸い込まれるように見てしまった。

 

白。

白だ。

透き通る程の白髪をハーフアップにして両端でくくった小さな女の子。宝石のような赤の瞳はくりくりと動いていて、なんかこう、かわいらしい感じ?

 

ただ一つ。不釣り合いな程に大きな上着……外套? っていうのかな。それを肩から掛けている様は、不格好なのに変に堂に入っている感じ。

 

なんだろ。こういうのを視線が奪われる、とかいうのかな。

 

あたしはむかし読んだ絵本の中のお姫様か、妖精かがそのまま抜け出してきたような錯覚にとらわれた。

 

女の子はご機嫌そうにとてとてと歩いていたのに、お兄ぃと東京の人がああだこうだと言い合っているのを見るとするりと中に入った。

 

「わあ。もう仲良くやってるんだ。私も入ってもいいかなあ?」

 

なんて言いながら。

ちなみにあたしからみても仲良さそうにはぜんぜん見えなかったんですけど。

せいぜいお兄ぃが普段と違って面白かったくらいで。

 

「……なんだこの小さいのは。千葉の千種、貴様の知り合いか」

 

東京の人。

 

「えっ。あらやだ東京校さんまさかご存知ない? この方ご存知ないの? ねえねえ?」

 

う――わ、お兄ぃめっちゃ嬉しそう。

 

「やぁやぁ、かすみんはこないだぶりだねっ! こっちの子はええと……東京校の新しい次席さんかな。今日くるって聞いてたけど」

 

女の子のその言葉にえっ、て思ったあたしよりもお兄ぃがまず反応した。

 

「はあ――? なに、オタク首席じゃないの? あんなに偉そうな態度とっといて首席じゃないの? ねえ? 東京の朱雀さん?」

 

あ、コレお兄ぃわかってていってる。

 

「……俺が首席だなどと名乗った覚えはない。貴様の勝手な勘違いに俺を巻き込むな」

 

「ほうほう。すざくんっていうんだね、私は天河舞姫って言うんだよ。よろしくね!」

 

天河舞姫と、と名乗った小さい子から差し出される小さな手。

 

「よろしくされる覚えはないな。神奈川の、天河……天河? 天河舞姫? 首席の、か?」

 

東京の人がそっぽ向こうとして信じられないように首をゆっくりと戻す。

 

って、え?

えっ、首席!?

あたしも思わず隣にいた神奈川の人を見る。

 

「え、と。凛堂、サン? アンタが首席じゃないの?」

 

「いや。私は次席だ。ヒメ」

 

凛堂サンがヒメと呼ぶと、白い女の子はとてとてとやってきた。

 

「ほたるちゃん。なぁに?」

 

そして凛堂サンの隣にいたあたしと目が合うとニコパと笑った。

 

「あっ。もしかして千葉の新しい首席の、え――とえっと。待ってね、知ってるの。確か――そう、明日葉ちゃんだ?」

 

唐突にちゃん付けしてくるし。え、なにコレ。ホントにこのチビッ子が首席?

冗談っしょ?

 

「や、ちょっと――」

 

というあたしの声をもっと大きな声が遮った。

 

「ちょっとまて!!」

 

東京の人だ。

 

「なんだと? 千葉の、首席? そっちが? 貴様が、貴様が首席じゃないのか、千葉の千種!」

 

ああほらもう、あっちもこっちも。あたしまでワケわかんなくなってきた。

 

「やだ、俺そんな事ひと言も言ってませんが? 勝手な勘違いに巻き込まないでくれます、東京の朱雀さん」

 

「貴様……いや、しかしそんなはずはないっ! 確かに俺は聞いたんだ。千葉の新しい首席は『チグサアシタバ』という男なのだと――」

 

チグサアシタバ。

どっかで聞いたような名前。

 

「――それはウソ。ホントは『チグサアスハ』という女の子」

 

あたしの背後からポツリと、なのに妙にはっきりと聞こえる声が室内に通った。

いつの間にそこにいたのか、紅色の……マント?と魔法使いのような帽子を被った女の子がそこに立っていた。

 

「あっ。詩ちゃんだっ。こんにちはっ!」

 

「天河首席。こんにちは」

 

白いチビッ子が忙しなくとてとて駆けてゆく。

それはまるで絵本の中の魔女とお姫様。

ただしどっちもだいぶチビッ子。昔そいえばお遊戯会とかあったな―なんて思い出しちゃうくらいの。

 

「東京校の鷹匠詩首席だ」

 

隣にいた凛堂サンがぽつりとそう言う。もしかしてあたしに教えてくれたんだろうか。

 

「ふ――ん……」

 

さすがにもうあたしも驚かなかった。

白いチビッ子姫に紅いチビッ子魔女が首席。なんかの冗談みたい。

や、あたしが首席ってのもそもそも冗談っしょって感じだから文句はないけどさ。

 

「まて鷹匠! 何を和やかにしている。なぜそんなウソをついた!」

 

詰め寄る東京の人。

 

「冗談のつもりだった。まさか信じるとは思わなかった。朱雀は自分で考えてるよりずっと素直でいい子だと思う」

 

「その冗談になんの意味がある……」

 

「今後は朱雀ももっと本を読むべき。明日の葉と書いてアシタバ、アスハとも読む。漢字をしっかり学んでおけば防げた危機」

 

東京の人はなおも食ってかかるが紅いチビッ子は慣れた様子で受け流してる。

どうでもいいけどあたしの名前で遊ばないで欲しいんですけど。

 

「ちっ……話にならん。そもそもならば貴様は誰だ、何者だ」

 

東京の人が標的をお兄ぃに変える。

 

「千葉の千種だ」

 

お兄ぃ、めっちゃニヤニヤしながらそう言う。

 

「ほう……貴様はどうやらとことん俺に喧嘩を売りたいらしいな」

 

「いやいや。ホントなんだな――これが。千葉の千種だよ、間違いなく。ま、アシタバではないけど?」

 

「朱雀。千葉の新しい首席は兄妹。ウソはついていない」

 

からかうように言うお兄ぃに紅い魔女ッ子が付け足す。

 

「くっ……ならば。千種、なんという」

 

「いや、聞いてどうするの。まさか下の名前で呼びたいとか? 初対面でそういうのはちょっと気持ち悪いです……」

 

「気持ち悪いのはそんな事を考える貴様だ!」

 

「よ――しお前ら。仲良しなのは結構だがそろそろ始めるぞ、席に座れ。……愛離」

 

男の方の管理官の人が女の管理官の人に促して、「はいはい」という具合で。会議が始まった。

 

「やだねああいうの。カッコつけてるけど全然しまんないの。明日葉ちゃんもああいう男にだけは引っかかっちゃダメよ?」

 

ニヤニヤしながらこっちにくるお兄ぃ。や、引っかかんないし。

何言ってんのバカじゃん。

ま、なんかお兄ぃがご機嫌だからいいか。

 

あれ、てか。

なんの集まりなんだっけこれ?

 

 

《つづく》

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