クオリディア・コード:code/00『苦衷のパーソナルエリア』   作:逢庭一八

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第三話:いつか帰宅を願うために

なんとなくそれぞれ都市組二人ずつで前後に並んで席につく。東京の鷹匠……なんだっけ、チビッ子魔女の後ろにお兄ぃのお気に入りの東京の人。並んで神奈川の白いチビッ子首席にその後ろに凛堂サン。で、あたしの後ろにお兄ぃ。あたしがなるべく前から離れられるように後ろに座ろうとしたら首席は前にと言われた。

ダル。

 

なんとなく机にたて肘ついて髪の毛をくるくると指先に巻き付けていると、管理官の人が室内をぐるりと見回してからその体格通りに大きな声を張った。

 

「結構結構、やっぱり三都市は揃ってなんぼだ。これまではこうして三都市の首席次席が集まる事なんてほぼなかったからな」

 

管理官の人は「俺が南関東一円を預かる管理官の朝凪求得だ!」なんて名乗ってからそんな事を言った。

や、参加自由ならあたしも別に来たくなかったんですけど……。

 

「そだねっ。やっぱりみんなでチカラを合わせないとだよね!」

 

隣で嬉しそうに白いチビッ子がいう。

あたしがちらりと見ると、 げ。めちゃくちゃ目があった。

 

「えへへ」

 

なんて笑って手を振ってくる。

あたしはとっさになんて返したらいいかわかんなくて視線を外した。指に巻き付けていた髪がとける。あ、枝毛みっけた。サイアク。

 

「ヒメ坊の言う通りだな。俺はそれぞれの自主性を尊重こそしてるが、やはりこうして揃ってる姿は壮観だ」

 

「まあ、主に欠席していたのは東京なんだけれどね……舞姫はどんなに忙しくても来てくれるけど、それはそれで心配だわ」

 

女の方の管理官は「夕浪愛離」と名乗ってそういった。

 

「だいじょーぶだよ、愛離さん。私は強いからね」

 

「――東京の落ち度については謝罪したい。私から言う事でもないとは思うけれど」

 

白いチビッ子についで紅いチビッ子魔女が口を開く。

 

「おう、まぁそりゃお前のせいじゃねえわなウタ吉。前任――は嘴広になるか。もっとまえの前々任のアイツが三都市主席を名乗ってから、交流は不要とはっきり宣言しやがったからな。そっから考えりゃウタ吉。お前になってからだいぶ東京は変わったなあ。ま、ついでだ、自己紹介もしちまえ」

 

あたしはふ―ん、なんて思った。てか東京ってそんなちょくちょくトップが変わってんの?

やっぱり都市毎で文化が違うのかも。

 

「改めて。東京校の現首席。鷹匠詩です。喋るのは正直苦手、だけれど。よろしくお願いしたい」

ぺこりと頭を下げると魔女の帽子がふんわりと落ちた。それを直しながら、魔女っ子――鷹匠サンは背後をみて、半身になりながら続けた。

 

「こっちが現次席。朱雀壱弥。もうじき首席になると思う。きっと私よりも、歴代の誰よりも優れた東京校首席になるはず」

 

お兄ぃともめてた東京の人は鷹匠サンの言葉にゆっくりと立ち上がった。

 

「……紹介にあずかった朱雀壱弥だ」

 

朱雀と名乗った東京の人は神奈川、そしてこっちを睨むように順に見た。後ろからなんかお兄ぃのあくびがなんか聞こえてくる。

 

「俺は今日この日を楽しみにしていた。ここは――この南関東三都市防衛機構の要となる集いだと聞いていたからだ」

 

東京の人が声のトーンを落とす。

 

「だが正直、落胆している。はしゃぐチビにやる気の感じられない怠惰な男。こんな子供じみた集まりが世界を救う最前線だなどと誰に説明できよう」

 

「朱雀」

 

鷹匠サンが声をかけるのを東京の人は掌で制した。

 

「この際だ、問う。貴様らは、世界を救う気があるのか」

 

はえ?

なんかめっちゃこっち見てますけど東京の人。もしかしてあたしに言ってる?

そのあたしを東京の人の視線から遮るように隣の白いチビッ子が立ち上がった。

 

「はいっ、は――い! もちろんだよっ。今日も世界を救う為に私たちは戦ってるんだから! 今日も明日も――明日も昨日も。いつか世界を救う為に! ね、ほたるちゃん」

 

「ああ。ヒメの言う通りだ」

 

「ふん……」

 

あたしは目合わさないようにしてるけど東京の人がこっちを見てるのはなんとなくわかった。あたしっていうか、多分お兄ぃ。

 

「なに、自己紹介終わり? ご立派ご立派、早く座ったら?」

 

そのお兄ぃがぱちぱちとやる気のない拍手してる。

 

「貴様……千葉の千種」

 

「え、まだそう呼ぶの……東京の……お名前なんでしたっけ。え―と、勘違いさん」

 

お兄ぃめっちゃつっかかっててウケる。

ってかあたしも千葉の千種なんですけど。

 

「――じゃ、次は私だね。神奈川都市、首席! 天河舞姫ですっ」

 

「同次席、凛堂ほたるだ」

 

ホントにこの白いチビッ子が首席なんだ……。

あたしは肘をついた姿勢で口元を覆うようにしてチビッ子――天河舞姫を見た。

 

見た感じ化粧っ気がほとんどないのにやたらに目を引くのは多分その白さとかの容姿だけじゃないと思う。コロコロよく変わる表情とか小動物みたいだし。

 

たとえばだけどさ、シャツにデニムだけとかテキトーな服着ても絶対かわいい感じ。わかる?

 

素材が良すぎるっつか。

そんなんぶっちゃけズルくない?

別にあたしがダメとかじゃないけど。むしろいい方だと思ってるけど……。

 

……あれ?

小さくて美少女……って。

 

あれ。

あれ?

夏目さんが言ってたのって。

神奈川に行った時に、お兄ぃが美少女と仲良く?してたとか?

なんだっけ、美少女以外だと、確かあと、小さい……。

 

いやいや、まさか。

え、でもそういえばさっきなんか『かすみん』とか呼んでなかった?

なんとなく聞き流してたけど。

 

は?

なにそれもうあだ名?

馴れ馴れしくない?

つか、お兄ぃもなんなん。

 

こういう小さい子が好きなわけ?

ロリコンじゃん、キモ。

 

「……すは、明日葉。明日葉ちゃ―ん」

 

「はえ?」

 

あたしが後ろからのお兄ぃの声で顔をあげると静まり返った室内で全員の視線があたしに向いていた。

 

「自己紹介だって。明日葉の番」

 

「え、あ――……」

 

とりま、立ってはみたけどあたしの頭の中は天河舞姫とお兄ぃの事でいっぱいいっぱいで何も思いつかない。

なんかイラつくし。

つか自己紹介とかいるこれ?

 

「千種明日葉。千葉の首席。詳しいことはお兄ぃ……次席に聞いて」

 

以上。

あたしはすぐさま着座して肘をつくと、後ろからのお兄ぃの「えぇ……」という声が聞こえた。

いや知らないし。

 

「あ――……ゴメンなさいねなんだか。ウチの妹とっても人見知りなので。根はとてもいい子だから仲良くしてあげてくれると嬉しいです」

 

次いで立ち上がったお兄ぃがそんな事を言う。

ちょ、いやいやそういうのいいからホント。

あたしが後ろを睨むとお兄ぃはこっちを見ようともしない。ムカつく。

 

「はい、それでね。僕はなんでか千葉都市次席になっちゃった元生産科の千種霞です。仕事量がとにかくやべー科で生産科っつ―か精神がやられる科だったんですが今は戦闘科になりました。俺はともかく素晴らしい妹をどうぞよろしく」

 

「お兄ぃ……!」

 

もう――なんなん、どんだけあたし推し? つか、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。

 

身内のこういうとこホントやだ。お兄ぃ悪気ないつもりなんだろうけど完全にあたしコミュ障なってんじゃん。

 

あたしが恨めしく睨みつけるとお兄ぃは手をヒラヒラとさせて前向けって合図してくる。

 

ふ―ん、あっそ。

そういう態度。

いいよ、あとで覚えてろ。

 

「よし。まぁいいだろ。これからはお前たちが南関東三都市防衛機構の主力だ。仲良くしろよ!」

 

その後は管理官の人たちがアレコレとなんか都市状況?とか侵攻具合?とか説明してたけど、あたしは正直それどころじゃなくて、全然頭に入ってこなかった。

 

隣に座る天河舞姫。

 

あたしはどうやら、こいつが気に入らないらしい。

理由は全然わかんないけど。

 

なんか生理的に無理?

なんかイラつく?

ま、そんな感じ。

多分。

 

 

 

 

「ねえお兄ぃ」

 

「……なに、明日葉ちゃん」

 

「帰りたいんだけど」

 

「それな。マジ」

 

会議が終了して、体感めっちゃ長い拘束時間から解放されてあたしがさぁ帰ろうと思いっきり伸びをした瞬間、管理官の人があたしたちを見回した。そして言った。

 

「んんんん、ど――にもお前ら打ち解けてる気がせんな。せっかく東京が協力的になろうって時だ、これからは三都市での防衛線そのやり方自体を変えていこうとも俺は思っている。だが――これじゃダメだな」

 

ちくちく飛び出た無精髭を撫でる管理官の人は手拍子をした。

 

「よし、決めた。お前ら全員ちょっと居残りだ。愛離、管理局に連絡してアレの準備さしとけ」

 

そして埼玉管理局に連れてこられたあたしたちは眼前にそびえ立つ設備を見て一斉に「げっ……」という顔をした。

あたしも思わず「うーわ」って口をついちゃったくらい。

 

「はっはっは、懐かしいだろう坊主ども。なにしろお前らが最初に訓練した場所だからな」

 

そう。

管理官の人が言う通り。

 

そもそも今からおよそ三〇年くらい前のこと。

突然現れた未知の侵略者、〈アンノウン〉によって人類は一度壊滅的な打撃をうけている。

当時のオトナたちはあたしたち子供を守る為に、冷凍睡眠装置を使ったんだって。

 

そっから、戦況が落ち着いたからかな、チャイルドコールドスリープ――冷凍睡眠から起こされたあたしたちは、不思議なチカラをもって目覚める事になった。

それが〈世界〉と〈命気〉。

 

冷凍睡眠装置による影響なのか、そのあたりの関係はよくわかんないけど。

 

ある人は手のひらから火を出したり、ある人はなんでも真っ二つにできる指をもってたりしたもんだから、オトナたちからしたら儲けものだよね。

ちょっとした超能力――あとに〈世界〉と名付けられたそれと、身体能力を高める〈命気〉とを、〈アンノウン〉と戦うためのチカラとして用いることになったんだって。

 

勝手な話だと思わない?

 

人類の危機だから、なんて理由で眠らされてさ。

何十年も経ってから起こされてみれば戦いは終わってない。終わらせるには君たちのチカラを貸してほしいって。

 

まだ五歳とか六歳の子供がだよ? そんな事を言われたって意味わかんない。

 

ホント勝手な話。

で、そのチカラってのを正しく使う為、確認する為って名目で連れてこられたのが確かここ。

 

「なになに。埼玉管理司令局第三開発訓練所……」

 

物珍しそうにしげしげと入口に備え付けられた館内図を見る天河舞姫。

 

「あ――。そういやヒメ坊は来た事なかったっけか。お前さんは最初から超強力な〈命気〉が発現していた稀有な例だったからな。直で防衛都市行かしちまったんだったな」

 

「えっ。みんな来た事あるの。ほたるちゃんも?」

 

「そうだね。まだ小さい頃だったし、私は解凍後の記憶障害も患っていたからあまり覚えていないのだけど」

 

凛堂サンの物言いにあたしは少し親近感を覚えた。あたしも起きた時に記憶障害があったって話。おかげで両親の記憶がほとんどない。どういう人たちだったかさえ。

 

お兄ぃははっきり覚えてるみたいなのにその辺の事は語りたくないのか、いつも誤魔化される。そのうちあたしもなんか聞いちゃダメな事みたいな気がしてきて、今は暗黙のルールみたいになってる。

 

……ま、別に知ってもどうってこともないしね。

 

「よ――し。じゃあヒメ坊の為に少し説明してやるか。今からお前らにはここで実戦訓練をしてもらうぞ」

 

「………………実戦訓練?」

 

 

 

 

入口からすぐ、エレベーターで下の階層へ。あたしとお兄ぃ、東京の二人と神奈川の二人、管理官の人二人で計八人を乗せた大きめの箱は音も無く下降していく。

 

エレベーターってなんとなくみんな静かにするよね。なんでなんだろ。

機械の音もほとんどしないからこのまま扉が開いて、実は元の階層でした、なんて言われても違和感ないかも。

 

「ここだ」

 

促されるまま降りた場所は少し広めの運動場のような空間だった。

 

「はえ――……」

 

あたしがなんとなく覚えてるような覚えてないようなこの場所に首を傾げていると、お兄ぃは「うわ、懐かし」なんて呟いてる。東京の人たちもそうっぽい。ただ一人、天河舞姫だけはぴょこぴょこと飛び跳ねてる。ちょうど運動場を中央で分断しているフェンスの向こうが気になるみたい。

 

あの向こうなんだっけな……。

てか、あったっけ。

 

「ねえねえほたるちゃん。あっちの向こうは何があるの?」

 

「……妙だな、私の記憶ではあんなフェンスは存在しなかったはずだが」

 

凛堂サンがそういうと管理官の人は意地悪そうな顔で笑った。

 

「だろお? お前らが来た頃よりここも日々進化していってるんだぞ」

 

「おおげさな事言わないの。舞姫、ここがそもそも何をする場所かわかる?」

 

女の管理官――夕浪さん。

 

「えっとえっと。はいっ! 運動会!」

 

「あらあら。そうね。ある意味近いのかもしれないけれど」

 

「愛離、甘やかすな。全然違うぞヒメ坊」

 

「ガ――ン!」

 

「ここは〈命気〉量を測定する場所だよヒメ。建物全体が大きく三つの区画に分かれていて、階層事に身体能力、〈命気〉、〈世界〉と発現、訓練ができるんだ」

 

凛堂サンが丁寧に説明して、それにふんふんと頷く天河舞姫。

 

「……で? なぜ今更俺たちがこんなところへ連れてこられる事になる。俺の〈世界〉や〈命気〉の量など貴様らが常に観測しているだろう」

 

「そうだな。総合能力で言えば壱弥、お前さんが今や東京で並ぶ者がない事も、俺や愛離は、知っているとも」

 

へ―。東京の人、やっぱ強いんだ。ま、そうだよね。態度があんなで弱かったらお話になんないしね。お兄ぃみたいになるし。

って。あれ、お兄ぃなんか顔色悪い。

 

「お兄ぃ――」

 

「かすみん、だいじょぶ?? なんか具合悪い?」

 

あたしが声をかけようとした瞬間、天河舞姫がお兄ぃの顔を覗き込むように屈んだ。

ちょ、なに、近くない?

 

「あ――……まぁな。や、平気大丈夫。これからなにすんのか察しがついちゃっただけ」

 

「ホント? 何か力になれる事あったらなんでもゆってね?」

 

「今なんでもって言った?」

 

「うんっ! なんでもするよ!」

 

「屈託なく返されると辛いんだよなあ……」

 

「ほえ? どして??」

 

「ヒメ、こっちへおいで。千種霞、貴様はヒメに近寄るな」

 

しっしっと手を振る凛堂サン。

あたしはお兄ぃへと伸ばしかけた指をくねくねと動かしてポケットに戻した。

 

別に?

お兄ぃの事なんか気にしてないし。

でもなに嬉しそうにしてんのお兄ぃ。

バカじゃん。

夏目さんや朝顔ちゃんと話す時とかすぐ目を逸らすくせに。

 

でも凛堂サンはナイス。

しっしっ。

 

東京の人が鬱陶しそうに舌打ちをした。

 

「ふん。ならばこんな場所に用はないはずだ」

 

「なあ、壱弥、人間が仲良くする為の秘訣ってなんだか知ってるか?」

 

「必要のない知識など無駄なだけだ」

 

「お互いの手の内を知る事だ。こいつはこれだけできる。あいつはこの程度しかできない。お前は興味無いか? 実際に今、各都市の頂点にいる連中がどれだけ強いのか、知りたくはないか?」

 

「……不要だ。三都市ランキングがあるだろう」

 

「まあアレも目安にはなるだろうがな。大体お前が言ったんだぞ、ランキングなどで全てが測れる訳ではないと。なに、十年ほど前にやった事の焼き直しだ。今のお前らの実力を示してくれりゃいい。今回のは測定じゃない、実戦形式のスコア勝負だぞ」

 

「くだらん。時間の無駄だ。帰るぞ鷹匠」

 

「あ――、あとあれな。別件だが東京から申請きてた例の『個々の撃墜スコアだけでなくサポーターにも恩恵があるべき』っつ―案な。少し骨は折ったがなんとか通りそうだぞウタ吉」

 

「朱雀待って。朗報」

 

「鷹匠……そんな申請を」

 

「申請した。通ればみんなきっと過ごしやすくなるはず。全ては変わらないにしても。宇多良カナリアの〈世界〉にとってもきっと良い結果に繋がるはず」

 

「少し骨は折ったが、な?」

 

「…………」

 

「朱雀。お願いがある」

 

「…………ふん。みなまで言うな。管理官様のご機嫌をとるなどゴメンこうむるのだが。いいだろう、俺も興味がないと言えばウソになる。果たしてコイツらが共に肩を並べるに値する連中なのかどうかがな」

 

そんなやり取りがされている横で、あたしはあくびしていた。涙目でマスカラが取れないかがふと気になった。

早く帰りたい。

お兄ぃを見ると、お兄ぃもあくびしてる。

ウケる、こんなところだけ似た者兄妹だったりして。

 

 

《つづく》

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