一党追放   作:藤咲晃

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四章 海底に潜む謎の生物
歩み寄ろうと決意した日


 石壁に覆われ、光を差さないが代わりに燭台のか細い火が道を照らす。

 アスガル警備署の地下に用意された地下牢に二つの足音が響く。

 地下牢をレノは守衛の案内に従って進んでいた。

 

「本当に話しを聞くのか? 口を破るとも思えないが、それに見るに耐えないぞ」

 

「ああ。どうしても聞いて置きたいことが有るんだ。ってか、拷問ってそんなに酷いのか?」

 

 騎士団の拷問に付いては質問すると守衛は言葉を濁した。

 口にすることも躊躇われる。守衛の態度からそう感じ取ったレノは話題を変えることにした。

 

「あー、そう言えば幽霊騒動も収まって領主はさぞお喜びになられたんじゃないか?」

 

「難しい顔して書面と睨めっこ中さ。ただ後日冒険者に対して褒美を取らせるとは言っていたな」

 

 守衛の言葉にレノは思わず喜んだ。

 冒険者には何かと金が入り用だ。それにユキナの治療費も嵩んだため金はいくら有っても困らない。

 薬品の用意にだって金はかかる。

 そこまで考えたレノは自身の不甲斐無さに腹が立つ。

 一ヶ月だ。一ヶ月もユキナと一党を結成しておきながらレノは一度も薬品を買え揃えなかった。

 自分自信が魔力による自己治療ができる。それも有るが、ユキナは一ヶ月のクエストで一度も被弾しなかった。

 だから薬品は不要なんだと甘えていた事実に腹が立って仕方なかった。

 レノは腹の中で煮え立つ不甲斐無さを抑え、敢えて軽口を叩く。

 

「へぇ。さぞかし豪勢な褒美なんだろうなぁ」

 

「噂じゃあ今回事件を解決に導いた一党を屋敷に招待するとか」

 

 呑気に語る守衛にレノは思わず足を止めた。

 そして振り返る守衛に彼は告げる。

 

「……礼儀作法が分からないんだが?」

 

「噂だからな? あんまり期待しない方がいいぞ」

 

 そう言って歩き出す守衛にレノも歩みを再開させた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 目的の牢に到着したレノは、牢の奥に居る人物に思わず目を背けた。

 同時に守衛が言っていた言葉の意味を理解する。

 これは見ていて気分がどうこうの話しじゃない。

 騎士に捕縛されたアデュクは四肢を失い、魔封じの鎖で十字架に磔にされていた。

 騎士によって四肢を奪われた罪人。人伝の噂に聞く話よりも目の前に映る光景は、あまりにも残酷だった。

 

「何もここまでやる必要は……」

 

 罪人に対する行われた拷問と処置にレノは同情と憐みを口にした。

 するとアデュクは薄らと口を動かして嗤うのだ。

 

「小僧、貴様に哀れまれる謂れはない」

 

「……けどよ、もう腕も無いんだぞ? 誰にも触れる腕もよ。例えば好きな奴とか、さ」

 

「愛などとうの昔に棄てたが……」

 

 何かを惜しむように口をまごつかせるアデュクに、

 

「何だ? 話してみろよ」

 

 話しは聞くと耳を傾ける。

 

「……ふむ。失って気付いたが、ユキナに触れられないというのは中々の苦痛だな」

 

「ユキナ、ね。……アンタは一体何者なんだ?」

 

 ユキナの過去に付いて触れないと決めたが、アデュクに付いて知るという事は彼女の過去にも触れるということ。

 だからレノは敢えてアデュクに正体を問うた。

 逃げの一手と理解したのか彼は嗤う。

 

「小僧、知るのが恐いか? だがそれは誤り。側に居て寄り添わない理解者とはまた孤独なのだ」

 

 業腹だがこの男の言葉は正しい。

 レノはユキナに対して詮索しない方向で彼女を受け入れた。

 単に知らない方が知る楽しみも理解していく事で距離を縮められるかと考えたからだ。

 ただ言われてやっと気付く、自分は彼女に付いて彼女の口から聞こうとはしなかった。

 理解しようとしているようで自分勝手な歩み方。はたから見れば独りよがりの独善に過ぎない。

 なら此処を出たら見舞いがてらユキナに歩み寄ってみよう。

 一つ腹を括ったレノは冗談混じりに軽口を叩く。

 

「……聖職者みてえな事を言うんだな」

 

「ふん。私は邪教徒、あの子は被害者。後をどうするかは小僧次第だ」

 

 神聖国イーリスが邪教徒と評する輩などそうはいない。

 レノはアデュクの言葉と彼との戦闘の折にユキナが小さく呟いた単語に一つ結論を導き出した。

 

「邪教徒と被害者──エデンか」

 

 十年前に邪教徒の集団が身寄りのない子供を攫い、悍ましい事件を起こした事はレノも知識としては知っていた。

 目的は不明だが、エデンと名乗る組織は子供に実験を施したと。

 アデュクの言葉が一つの真実だとするならユキナは、エデンの被害者。あるいはしばらくエデンの実験によって彼らと共に有ったのかもしれない。

 それもレノにとっては単なる過去でしかないが、ユキナにとっては悪夢かもしれないできごと。

 

「ユキナにとってアンタらは今も明けない悪夢か?」

 

「……あぁ、我々残党が居る限りはな」

 

 まだアデュクの他にエデンの残党が居る。

 アデュクはユキナを目的に事件を引き起こしたが、起こした事件はどちらかと言えば悪態程度のものだった。

 

「スライムと幽霊を使ってアンタはどうするつもりだったんだよ? ぶっちゃけ意味不明なんだが、それにアダム教団と何か関係があんのか?」

 

「ふむ、もう終わった計画だ。……スライムは支援者に頼まれたに過ぎんが、幽霊はユキナの嫌いなもの。あの子は欠陥品ゆえに他者から疎まれ易い。故に独りになった所を連れ攫う算段だったのだ。後者の問い掛けに関する答えは単純……アダム教団と我らは敵対関係に有り、ついでに連中を陥れるには都合が良かった」

 

「他にも同胞がゴブリンにいらん知恵を授けた事もあったが……」

 

 アデュクの返答になるほどと頷く。

 そしてレノは欠陥品という単語に眉を歪めた。それはユキナを観察して最初に識った事情だ。

 恋は盲目と言うが、レノにとって一目惚れしてしまった少女が例え欠陥品だろうと関係が無かった。

 彼女は彼女に過ぎない。欠陥を抱えようともユキナに代わりはないからだ。

 

「アンタの敗因はユキナを気にかける奴が二人居たってところだな」

 

「左様。あの女然り小僧然り、いつだってあの子は誰かに気に掛けられている。……孤独とは程遠い少女だ」

 

 何かを懐かしむように語るアデュクにレノは敢えて話しを聴く事を辞めた。

 

「色々と話しは分かった。俺はこれからユキナの見舞いに行くが、アンタは彼女に何か伝えたいことが有るのか?」

 

「何も」

 

 何も無いとアデュクは眼を閉じ、これ以上は語ることもないと態度で示す。

 レノは小さくため息を吐き、踵を返した。

 

「そうかよ。……守衛のおっちゃん、面倒かけたな」

 

「かまわないさ。騎士殿からは事件の当事者には知る権利が有ると言われていたしな」

 

 こうしてレノはユキナの見舞いに彼女の病院へ向かうのだが、そこで眼にした裸体のユキナにレノは意識を失うことに。

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