一党追放   作:藤咲晃

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五章 貴族の屋敷に招かれて
黒竜と竜の顎


 北方の大地に黒竜の咆哮が轟く。

 マザーウィルが生息する山脈から近い位置に有った村は焼かれ、人々の死骸が黒竜の脚元に転がる。

 焼かれた肉の芳ばしい匂い、燃え盛る木々の匂いが漂う中、三人の人の匂いが混じる。

 黒竜は呻り、視線を向けた。

 

「……村人は全滅。この竜は一体どこから来たと思う?」

 

「山脈の向こう側じゃねえか? それとももうちょい西か海を越えた先か」

 

「……お二人共、考察は後程にして今は竜退治が先決でしょ」

 

 リティアの咎めの言葉に、アスベルとリドが同時に弾けるように駆ける。

 左右から同時に剣を構え立ち向かう二人に、リティアが支援魔法を唱える。

 向上する身体能力と筋力、そして防御陣が二人に展開された。

 支援を受けたアスベルが黒竜の右側面から一振り、左側面からリドが魔法を付与した大剣を力強く一振り。

 同時に向けられた刃を黒竜は前脚の爪で掴む。

 刃に鋭利な爪が食い込み、鋼鉄が悲鳴をあげる。

 更に黒竜は翼を広げ顎を開く。

 口内に魔力が集う。それは正に竜種が得意とするブレスの合図だ。

 一度竜がブレスを放てば、射線上に有るものは全て不条理な破壊に飲まれる。

 だが、黒竜に対してアスベルは鋭い笑みを浮かべる。

 両前脚を防御行動に使い、魔力を溜めている黒竜は無防備だ。

 

「降り注ぐ氷槍はいかが? おまけに爆雷もどうぞ!」

 

 リティアの言葉を合図に二つの魔法が黒竜の背中と翼に降り注ぐ。

 翼を貫く氷槍、背中に迸る爆雷に黒竜は溜めた魔力を拡散させてしまう。

 そこにリドが追撃を入れる。

 

「魔法剣士は剣以外も得意なんだぜ?」

 

 大剣を握った右手をそのままに、リドは魔力を込めた左拳で黒竜の顎を穿つ。

 顎に走る重い一撃にいよいよ黒竜は体制を崩す。 

 そこにアスベルが止めの一撃を放たんと魔力を操作する。黒竜が掴んだ刃から魔力が滲み、徐々に魔力が竜の顎を形造る。

 

「竜の顎に喰われろ!」

 

 アスベルの詠唱に竜の顎が黒竜の首に喰らい付く。

 鋼よりも遥かに強固な鱗を竜の顎が噛み砕き、そのまま黒竜の首を喰い千切る。

 空に舞う血飛沫が大地に降り注ぐ中、アスベルは深くため息を吐く。

 ユキナが居ればあと二手は速められた、と。

 そしてアスベルは不毛な大地となった村に視線を一周させる。

 

「もっと速く気付いていれば」

 

 黒竜は討伐したが、村人を誰一人助けることは叶わなかった。

 

「……冒険者一党が出払ったタイミングで村の襲撃だからなぁ」

 

「……そういえば、此処はユキナと訪れた最後の村でしたね」

 

 一党として最後に彼女と訪れた思い出の土地。

 いつまでも残っていると信じて疑わなかった村は、あっさりと滅んだ。

 それは魔物が蔓延る以上、当たり前のことだった。

 責めて村に魔障壁をと思うが、弱肉強食に於いて頂点に君臨する竜が相手では魔障壁も数刻と保たないだろう。

 アスベルは思い出と不条理にやらせない想いに眉を寄せながら、空を見上げた。

 ユキナがよく眺めていた砕けた天体──【楽園】に息が漏れる。

 エデンの残党がアスガルで捕縛されたという話題は記憶に新しい。

 組織は十年前に壊滅し、ユキナが解放されたのはその二年後。

 だからこそアスベルは遠い地の彼女に想う。

 忌わしい過去と罪の意識がユキナを蝕む。

 

 エデンはまたユキナの前に姿を現すだろう。

 しかしあの町には許嫁の彼女が……エデンさえも恐れる彼女が居る。一先ずユキナのことは彼女に任せていれば安心だろうとアスベルはため息を吐く。

 責めて兄として自ら駆け付けたい所だが、追放した身として今更ユキナの前に姿を現すのも躊躇われる。

 それに時期が悪い。梅雨から夏にかけて北部の魔物は活動を活発化させる。

 今はアルドラに滞在する冒険者一党が魔物に対して備える時期だ。

 

「そろそろギルドに帰還するか。……ルイに手紙も送らなきゃなあ」

 

「ユキナに付いてだろ? そろそろ愛想尽かされるんじゃねえか」

 

「許嫁の殿方が手紙を送ってきたと思えば、話題は妹の事ばかり。……まあお二人に限って仲が拗れることは無いでしょうけど、アスベルはもっと女心に理解をですね」

 

 アスベルにとってリティアの小言は耳が痛む。

 彼女との共通の話題がユキナだけでは、流石に拙いことも本人は重々理解してるからこそ彼女の言葉は酷く胸に刺さる。

 

「……善処はするよ。けど、食事に誘いたくても彼女はアスガルから動けないからね。いつか僕の方から行ければ良いんだけど、今はね」

 

「黒竜襲来、次は村の復興と住む住人の呼び込み。魔物の抑制と調査、俺達が現在手がけている村の開発っとやる事は多いよな」

 

 アスベル達は今後のやるべき事に頭を悩ませながらギルドに帰るのだった。

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