一党追放   作:藤咲晃

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不吉な予感

 鉱物資源や森と湖に群生する薬草の確保のため森を切り拓き、建設それたファルス村に不穏な気配が漂う。

 そんな村に日が暮れ始めた頃、ユキナ達が到着する。

 二人はさっそくクライアン達と別れ、宿屋です荷物を置いてからオーク討伐の依頼主の下に向かった。

 その道中、一月程前に訪れた頃とは違う光景にユキナは小首を傾げた。

 そう広くは無い村だが、出歩いている村人の数が以前よりも遥かに少ない。

 そう感じたユキナは北の山岳から流れる川に目を向ける。

 毎年この時期は村の子供たちが川遊びに興じている頃だ。

 

「……人が少ない」

 

「夕方だからじゃないのか? それか白馬の一角獣やオークを警戒して立て篭ってるとか」

 

 馬車が村の門を通り過ぎる際に、門番らしき人物が見当たらなかったことにユキナのアホ毛がはてなを形作る。

 

「……門番も一緒に?」

 

「……そういえば見なかったな」

 

 物静かな村に森の木々が風で騒めく。

 何か嫌な予感がするとユキナとレノは急ぐように依頼主の自宅を尋ねた。

 木製のドアを四度ノックし、声をかけて漸く女性が玄関から姿を見せる。

 短く切り揃えた茶髪の年若い女性。しかし彼女の顔色は青白く、寒気を感じるのか夏場には不釣り合いなカーディガンを羽織っていた。

 

「あぁ、冒険者の方ですか」

 

「ビュートって村長の自宅は此処で間違いないか?」

 

「えぇ。ですが主人は生憎と寝ていまして」

 

「……病気? 貴女も具合が悪そう」

 

「ちょっと村で風邪が流行してしましてね。……えっと、オーク討伐の件でしたら全滅をお願い致します。それと詳細は薬売りのコレットを尋ねてください」

 

 彼女はそう伝えると玄関を閉じてしまった。

 そして玄関越しから、

 

「ゲホ! ゲホっ! っ……」

 

 咳込む音が聴こえる。

 

「村が静かなのは風邪が原因か」

 

「酷そうだった」

 

 ぽつりと呟くとレノの手が頭に浮かれ、

 

「俺達がしてやれる事はクエストを達成して安心させてやることぐらいだな。ついでに森の薬草を集めたって罰ば当たらないだろ」

 

 そんな提案にユキナのアホ毛が真っ直ぐと立つ。

 そうと決まれば薬売りのコレットから話しを聴き、ついでにどんな薬草が好ましいのか尋ねよう。

 こうして二人は薬売りのコレットを尋ねるのだが……。

 

 この時は未だレノもユキナ自身もただのオーク討伐が、最後になる事をこの時二人は想像もしていなかった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

金髪に琥珀色の瞳の少女──コレットを尋ねた二人は、自宅に招かれ客間に通されていた。

 

「すみません、何も無い家で」

 

 申し訳なさそうに紅茶を差し出す彼女にレノは笑って返す。

 

「いいって。俺達はオークに付いて詳細を聴きに来ただけだからさ」

 

 気取らないレノの口調にコレットは小さく微笑む。

 そんな中ユキナは一言、いただきますと声をかけてから淹れたての紅茶にひと口付ける。

 渋味を感じさせないほんのり甘く、ローズマリーの香りに心が落ち着く。

 

「おいしい」

 

「あ、ありがとう」

 

「もう日暮れだからな、討伐自体は明日の早朝になるかもだが……オークの目的はどの辺りで有ったんだ?」

 

 さっそく本題に入るレノにコレットは小脇に抱えていた地図を拡げて見せた。

 するとファルス村と湖の中間に円で囲まれた箇所にコレットが指を立てる。

 

「この地点に大量のオークが砦を建造してた……けどオーク詳しい規模までは、その気が動転していたもので」

 

 オークが村からそう遠くない地点で砦を建造していた。

 平和な村の暮らしが脅かされる明確な脅威。確かに脅威だが、ユキナは一つ疑問を尋ねる。

 

「どうしてオークに気付かなかったの?」

 

 棘を感じさせない純粋な疑問から発せられた質問だと理解したコレットは眼を伏せ語る。

 

「普段森に入るのは村の狩猟者と薬売りの私と母だけ。それでもほぼ毎週は薬草を摘みに森全域を歩くことも珍しくないの。けどあの日以前にオークと遭遇したことは無かったわ」

 

 ほぼ毎週森に入り、今までオークと遭遇したことが無かった。

 生息しているが遭遇しなかったのは、単に幸運だったからと言われればそれで説明も付く。

 ただ、ユキナにはどうしても遺物が頭にチラついて離れない。

 しかしあの遺物は砕いた。それともエデンの残党が他に保持している。

 そう考えたユキナは、一度エデンの残党から思考を外しいま集中べき事に眼を向けた。

 

「オークの砦。村人は風邪が流行中……貴女のお母さんも?」

 

「いえ、お母さんは白馬の一角獣に襲われまして今は療養中でベッドで安静に……」

 

「……なあ、それって白馬の一角獣を目撃したのも?」

 

「あぁ、それも私とお母さん。さっき二組の冒険者一党が尋ねて来たけど、彼らは野営しながら調査するって」

 

 それを聴いたレノは慌てた様子で椅子から立ち上がった。

 

「なら急いだ方が良いかもな」

 

 別に彼らなら心配は無いと思う。

 そもそもクライアン達は一党としての熟練度も規模も自分達よりも遥かに上だ。

 そんな彼らがゴブリンと同程度のオークに遅れを取ることは考えられず、

 

「……マシュ達なら心配無いと思うけど」

 

「クライアン達の心配はしてねえよ。俺が心配してるのはあいつらにオークがついでに全滅させられないかどうかだ」

 

 レノの言うことに漸くユキナのアホ毛が真っ直ぐ立つ。

 

「そっちの心配……なら夜襲する?」

 

「そうだな。なあコレット……最後に確認なんだが、オークの砦は完成してるのか?」

 

「……発見したのがつい三日前、それから村長がクエストを発注してから二日。そして今日二人が到着する今朝頃には砦は既に」

 

 想像以上にオークの建造速度が早かった。

 こればかりは仕方ないとレノがため息を吐く。

 

「……森じゃあ資源は豊富だからな。というかこの村も大変だな、風邪が流行した時期に白馬の一角獣とオークなんて」

 

「実は風邪が流行り出したのも白馬の一角獣とオークの発見と同時期でして」

 

 不運に見舞われたと言えば説明が付く。

 ただ、やっぱりユキナはそれが偶然だとはとても思えなかった。

 これにエデンが関わっていればきっと良くないことが起こる。

 同時にあの時交わした密約が早くも果たす時が来る。

 そんな予感を前にユキナはさっそく動き出す。

 

「……レノいそご。あっ、紅茶ご馳走様でした」

 

 レノを急がせ、コレットにしっかりと礼を告げてからユキナはひと足早く彼女の自宅から外へ向かった。

 そして森の方向を眺め、空が闇に覆われる頃に二人は森に入るのだった。

 

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