一党追放   作:藤咲晃

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魔物にとって冒険者は悪

 程なくして二人は洞窟に到着した。

 中は不気味なほど静かで薄暗い。

 入り口付近に散乱する家畜の骨、訪れたであろう冒険者の亡骸が無造作に放逐され、より一層不気味さを際立っていた。

 しかし中は、剣を振るうには十分過ぎるほど広い。

 そんな不気味な洞窟にユキナが真っ先に踏み込んだ。

 

「怖くねえのか?」

 

「……ん」

 

 男前とも思える行動にレノは心強さを感じるが、彼女のアホ毛がわずかに震えているのを見逃さなかった。

 ユキナも怖いのを我慢している、その姿がまた可愛らしい。そう思ったレノは、ユキナの隣に付いて歩く。

 

 奥に進むに連れ、岩肌に覆われた通路に変化が訪れる。

 岩肌から建材によって整備された通路へと差し変わった頃。

 薄暗い通路の横手から、腰に布の腰巻をした緑色の小人が現れた。

 ゴブリンだ。

 列を作り鉄槍を携えたゴブリンの群れと二人は目が合う。

 そしてゴブリンは鉄槍を突き出した。

 ユキナはその場から弾けるように鉄槍を避け、剣で鉄槍ごとゴブリンを斬り裂く。

 鉄槍を避けたレノが別の標的に魔法を唱える。

 

「炎よ燃え盛れ」

 

 レノの掌から放たれる火炎が数匹のゴブリンを纏めて呑み込む。

 火炎によってゴブリンの身体は焼かれていく。

 そのままの勢いでレノは魔法に魔力を注ぎ込む。

 このまま一気にゴブリンを焼き尽くす勢いで。

 だが、レノが想定していた結果は訪れなかった。

 ゴブリンを襲う筈だった火炎が、ゴブリンが作り出した魔力の壁の様なものに防がれたからだ。

 ゴブリンの目前に展開されたソレにレノが驚く。

 

「ゴブリンが魔障壁って聴いたことが無いぞ!?」

 

 新米が知り得る知識の中にゴブリンが扱えるとされる魔法、その一覧に魔障壁の存在は記されていなかったとレノは記憶を探る。

 そもそも魔障壁は人類が魔物の脅威から生活圏を護るにために編み出した叡智の結晶。

 魔障壁の維持と範囲の影響で人口が少ない村には施されないが、主要都市や町には必ず魔障壁が展開されている。

 そんな魔法をなぜゴブリンが使えるのか強い疑念が過ぎる。

 戦闘の最中、思考が逸れたレノを他所にユキナが魔障壁に迫る。

 身を護るために前方に展開された魔障壁は、丁度人が飛び越えるには十分なものだった。

 魔障壁の直前でユキナは、地を蹴り壁を足場に跳ぶ。

 ゴブリンが展開した魔障壁の頭上を飛び越えるが、そこには待っていたと言わんばかりに槍を突き立てるゴブリンの姿が有った。

 

「ユキナ!!」

 

 串刺しになる彼女の姿を幻視したレノが叫ぶ。

 だが、レノの心配は徒労に終わった。

 ユキナは突き出された槍に対し、宙で身を翻すことで避けたからだ。

 群れの中心に着地したユキナは身体を捻るように、力の限り剣を水平に放つ。

 円を描く斬撃が数匹のゴブリンの首を落とす。

 通路を飛び上がるゴブリンの首、それが落ちるよりも早くユキナは次の一手に出る。

 移動を加えながらゴブリンの群れを内側から斬り崩すように、刃が閃く。

 次々と殺される同胞達に怒りを宿したゴブリン達が、同時に鉄槍に風を纏わせ槍術を繰り出す。

 突きの連続と払い、同時に巻き起こる風の刃をユキナは一つ一つ見極め避ける。

 避けるついでにゴブリンを斬る。

 展開された魔障壁の先で行われる斬殺撃にレノは息を吐く。

 魔障壁の発動時間が終わると同時に、通路に現れたゴブリンの群れは無惨な肉片に変わり果てていた。

 

「まだ居る」

 

 通路の奥から聞こえる足音にユキナが歩み出す。そんな彼女にレノは後を追う。

 

 通路に出現するゴブリンをユキナが視界に捉えるや否や、即殺して行く光景にレノはゴブリンに心底同情した。

 そして分かるのは、ユキナは間違いなく強い分類の冒険者ということだった。

 そんな事を考えていると、通路の左右、ユキナの両側に現れた二匹のボブゴブリンが襲いかかる。

 炎を纏った剛腕を振り抜く。

 両側から繰り出された炎の拳をユキナが避けるが、飛来した火の粉が白い髪先をわずかに焦がす。

 左側のボブゴブリンを斬り裂くユキナに対し、レノは地を弾け、右側のボブゴブリンの頭部に拳から衝破を放つ。

 頭蓋骨が砕ける音と共にボブゴブリンが崩れた。

 

「……ありがとう」

 

 涼やかな瞳で真っ直ぐと告げられた礼にレノは笑う。

 

「おう。どんどん頼りにしてくれ」

 

 屈託のないレノの笑みにユキナは剣を向け、

 

「まっ、なんか気に触ったかぁっ!?」

 

 刺突がレノの頬を素通りした。

 恐る恐る視線を剣先に向けると、頭部を刃によって貫かれたゴブリンだった。

 

「油断はダメ」

 

「わ、悪い」

 

 淡々と告げられた言葉にレノは萎縮するが、失敗は成功で取り戻す。そう気を取り直して歩き出す。

 

 しばらく通路を進みながら出迎えるゴブリンを討伐しながら移動した二人は、いよいよ巣穴の最奥に辿り着いた。

 

 そこにはゴブリンの雌を護るように鉄槍と魔法を構えるゴブリンの姿が有った。

 彼らの背後には、隠されるように護られるゴブリンの子供達、産声をあげる赤子のゴブリンの姿まで。

 脅威に怯えるゴブリンの子供と雌を護るように二人を威嚇するゴブリンに、

 

「……コイツはぁ。まるで俺たちが悪役みたいじゃないか」

 

 レノは小さく零した。

 討伐対象に指定された以上、クエストを請けた冒険者は達成する責任が有る。

 だからこそレノは迷わず、悪役上等と怪しげな笑みを浮かべた。

 

「ユキナも流石に疲れたろ? ここは俺に任せてくれないか」

 

「……疲れてないよ」

 

「そこは、空気を読んで場を譲ってくれよ」

 

「うん? 分かった」

 

 分かってるようで分かって無い様子のユキナに、レノはため息を一つ。

 

「要するに俺はまだ何にも見せてないだろ? アンタとこれから一党としてやって行くには必要なことなんだよ」

 

 レノのその言葉にユキナは漸く剣を鞘に納めた。

 じっと涼やかな瞳で見守られる中、レノはゴブリンの群れに駆け出す。

 ゴブリンには魔障壁が有る。それを踏まえた上でレノは魔法を唱える。

 

「雷よ落ちろ!」

 

 ゴブリンは案の定前方に魔障壁を展開した。

 だがレノが放った魔法はゴブリンの頭上に落ちる様に放った落雷だ。

 落雷がゴブリンを穿つ。

 雷が放電する音、皮膚が焼ける音と異臭が漂う。

 すかさずレノは脚に魔力を込め、呼吸と共に地面を踏み抜く。

 レノは脚に込めた魔力を地面に流すことで魔力を衝撃波に換え、衝撃波がゴブリンを足元から襲う。

 衝撃に投げ飛ばされるゴブリンの群れに、レノは掌を頭上にかざす。

 

「火球よ焼き尽くせ」

 

 炎を圧縮して作り出した火球がレノの掌に浮かぶ。

 レノはそれを宙に浮かんだゴブリンに大きく振りかぶって投げた。

 火球が一匹のゴブリンに衝突。その瞬間、球状に封じ込められていた熱が一気に解放され爆発を生み出す。

 爆炎に飲み込まれたゴブリンの死体が地面に降り注ぐ。

 雌を護ったゴブリンも、子供を護る雌ももう居ない。

 残されたゴブリンの子供達は、壁際で身体を震え上がらせた。

 責めて産まれたばかりの兄弟は護りたい。そんな強い意志からゴブリンの子供達は赤子達に覆い被さる。

 握った拳を振るのも躊躇われる光景にレノは一瞬眉を顰める。

 ここでゴブリンを見逃せば、成長したゴブリンは次の驚異になり得る。

 故にレノは拳を叩き込み、一匹残らず討伐する。

 ゴブリンの返り血で赤く染まる拳にレノは一息吐く。

 

「ふぅ、これで全部か?」

 

 レノは辺りを見渡す。

 そこには既に生きているゴブリンは居なかった。

 洞窟の入り口から最奥まで幾つか分かれ道が有ったことをレノは思い出す。

 

「そんじゃあ、戻りながら他に居ないか確認だな」

 

 レノの提案にユキナは頷く。

 

「……ん、帰りは任せて」

 

 通路に引き返すユキナにレノは気付いた。いや気付いてしまった。

 黒狼の討伐とゴブリンの討伐。俊足の如く動きまわり、見惚れてしまう剣技を繰り出したユキナの魔力が一切減っていないことに。

 レノは疑問から彼女の背中を注意深く観察した。それは巣穴からシュルク村に戻るまでの間ずっと。

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