解体命令なのです! ~電と提督と沖ノ鳥島鎮守府の物語~   作:鎌虚(Kamauro)

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第一話 解体......なのです

 

 

 火薬の刺激臭、艤装の重み、全てが電にのしかかって来ている

 

 「五十鈴さんっ!あともう少しなのです!」

 

 電の背中に全ての体重をかけ、ぐったりとしている五十鈴の艤装からは火炎と煙が立ち込め、無数の弾痕がまるで蜂の巣のように描かれている。

 

 電もまた、痛む左足を庇いながら鎮守府への帰路を急ぐのだった。

 

 

 

 

 《報告書》

 

 8月13日 午前3時40分

 【第3遠征艦隊】 全艦帰還

 

 [損害状況]

 

 旗艦:電-中破 詳細:主砲大破

 

 五十鈴:大破 詳細:航行不能

 

 夕張:大破 詳細:戦闘能力消失

 

 能代:中破 詳細:甲板被弾

 

 不知火:中破 詳細:船尾損傷

 

 睦月:小破 詳細:甲板被弾

 

 

 

 

 

 

 二日後

 

 8月15日 午前11時58分 鎮守府 営舎2階 執務室

 

 「失礼します」

 

 電は執務室のドアを2度叩いて戸を開けた。

 執務室は相変わらず重々しい雰囲気で、年季を感じさせる薄暗い木製の壁がより一層場の空気を重くしている。

 

 何度もここに入るが、この空気に慣れることはできない。

 

 中央の執務机では、真っ白な軍服を着た提督が海図と幾つかの資料に目を通しているが、こちらを見ようとはしない。

 「沖ノ鳥島鎮守府第四代提督 桂小五郎」と黒字が刻まれた木製のプレートが、電を睨むように正面に置かれている。

 いつまでも静寂が続く中、提督の後ろに立つ秘書艦の金剛さんが心配そうにこちらを見ている。

 

 「提督。電さんが......」

 

 金剛が提督の執務机を覗き込むようにして声をかけると、提督は手元の資料を置いてゆっくりと電を睨みつける。

 

 しばらく、金剛のため息が聞こえるほどの静寂が続いた。

 

 電が、緊張に背筋を伸ばし、司令官を睨み返すように目を逸らさず見つめる。

 

 しばしばそれが続いたのち、真っ白い上着を脱ぎながら、提督は口を開いた

 

 「さっき、五十鈴が目を覚ましたぞ。命に別状はないようだ」

 

 その言葉に電はホッと胸をなでおろした。

 

 だが、提督の言葉はその一言で終わらなかった。

 

 「だが、問題はココだ」

 

 そう言って提督は自らの胸を右腕の拳で触れた。

 

 「かなり精神的に参ってるみたいだ。まぁ、彼女の最初の戦闘があの惨状では仕方が無いかもな。まさかこちらも、あの遠征海域を敵の艦隊が航行しているとは予想外だった。それに関しての調査はこちらでしておく。……でだ」

 

 提督は立ち上がり、執務机の丁度右側に設置されている棚に並んでいる幾つかのファイルの背広を指で追いながら続けざまに言った

 

 「お前、これで何度目だ?」

 

 今度は先程とは打って変わって厳しい口調だ。

 

 「……6回目……なのです」

 

 「そうだ。これで6度目だ。中破以上の艦が出たら撤退しろと私は何度も言ってる筈だ。幸運にも轟沈する艦が出なくて済んだが、大破が2名。それに、遠征中に会敵した場合には速やかに撤退して鎮守府に支援を求める事は規定されている。それを知らないとは言わないよな?」

 

 「はい……なのです」

 

 「そして、お前自身も危険に晒される程の戦闘が行われるのを予想した上で長距離遠征用に配備された艦隊で戦闘を強行した。しかも、鎮守府海域で会敵したと言うのに支援の要請ナシ。これは事実だな?」

 

 「………………」

 

 黙ってしまった電を横目に提督は棚から一冊、ファイルを取り出してまた執務机の肘掛け椅子に深々と座り込む。

 

 「だが、私もお前がそこまで馬鹿じゃない事は分かっている。確かに、あのままこちらに向かう敵艦を放置していればこの鎮守府が危険に晒されていたことは間違いない。だが、こちらもそこまで柔じゃない。敵艦隊の一つや二つぐらいなら処理できる戦力ぐらいならある。では何故、危険を犯してまでその状況で戦った?私もまだ詳しいことは聞いてないからな、説明してもらえるか?」

 

 提督はファイルを開いて幾つか資料を見ながら言った。

 

 いつも提督の机は資料でいっぱいだ。

 今、ここから見て何の資料かは分からないが、私に不利な物でない事を祈るしかない。

 

 電は口を開いた。

 

 「数が......多かったのです」

 

 「数?」

 

 提督は一瞬、動きを止めて電を見た

 

 「私が会敵した時、まずおかしいと気付いたのは敵艦隊の数だったのです。駆逐艦が3隻、軽巡洋艦が5隻、正規空母2隻、そして戦艦が2隻だったのです。つまり......」

 

 「敵は2艦隊の連合艦隊編、そして典型的な拠点強襲編成、大規模輸送編成......だったということだな?」

 

 電は何も言わずに頷いた。

 数の差、これが今回の戦闘の圧倒的な敗因だった。

 もちろん、不利であることは分かっていた。だが、敵が基地一つを丸々潰せる程の戦力を有していることを知ったうえで放っておくことはできなかった。

 理由は他にもあるのだが......。

 

 「それにしても、戦艦が2隻......か」

 

 提督がそう呟くのも聞こえた。

 

 「12隻相手によく駆逐艦隊6隻で戦えたな、そこは流石と言ったところだな」

 

 「恐縮なのです」

 

 電は軽く一礼して言った。

 これでこの重々しい部屋から脱出できる......と思ったその時だった。

 

 「だが、電。何か一つ隠していることはないか?」

 

 唐突過ぎる一言で、電は一瞬反応が遅れた。

 隠している事。

 たった一つだけ心当たりがある。でもアレはたしか......。

 

 提督はファイルから1枚。A4サイズの紙を取り出した。

 

 「この海域近辺を航行する予定の輸送船団の一覧だ」

 

 ぞくりと背筋が凍る感覚が電を襲い、思考が一瞬停止する。

 

 提督は構わず続けた。

 

 「この書類によれば、この辺りを別の国の大規模輸送艦隊が通過するみたいだな。しかも、かなりの規模の船団みたいだ。丁度、会敵した地点にも近いし、時間帯も一致している。こっちが目的だったんじゃないのか?」

 

 「.....................」

 

 「ついでに、調べたんだが。この輸送船団の警備に見慣れた名前もあるな。この前ウチから引き抜かれた響や暁も船団の警備に回ってるみたいだな。へぇ......海軍に勤務か。向こうでも上手くやってるみたいだな......」

 

 「今の話に......響や暁は......関係ないのです」

 

 「関係ない!?お前が今回の遠征を計画したのも、たまたまあの海域をあの時間に通りかかったのも偶然だと言いたいのか!え?

 私情に走って仲間を2人殺しかけたんだぞ!そんなに身内が大事なのか!?どうなんだ!言ってみろ!」

 

 電の言葉に反応した提督が力強く立ち上がり、より一層力を込めた怒声を発した。

 

 

 それに対し電は何も言わなかった。何も言い出せなかったわけでは無く、何も言わなかった。

 鈍い音を立てて艤装から離れた錨が執務室のフローリングを突き抜け、床に大穴を開けながら下層に落下した。

 

 肩をわなわなと震わせ、ただただ湧き上がる怒りに身体が突き動かされないようその場に根を張る事が精一杯だった。

 

 「電......。今すぐ砲塔を下せ」

 

 肩の艤装の先端についている砲塔が意図せず提督をしっかりと捉えていた。

 電は砲塔を下げ、落ち着くよう自分を制した。

 

 提督に砲を向けるのは後にも先にも私ぐらいしかいないだろう。

 この後の提督が下す判断はおよそ想像できた。

 

 「異動だ。遠征艦隊第六班。荷物もまとめて置くように......」

 

 一枚の書類に判子を押して提督はそれを電に渡した。

 

 「......解体ですか」

 

 電がそう呟くと「そうだ」と提督が一言返した

 

 遠征艦隊第六班。解体直前の艦娘が必ず通る道だ。名前に艦隊とあるが艦娘の配備はされておらず、そこに配備された那珂さんや川内さん、神通さんなども今では鎮守府から姿を消している。

 

 電は書類を手に取った。確かに第六班異動と書かれてあった。

 

 電は自分が開けた大穴に足を取られないように気をつけながら執務室のドアの前に立った。

 

 「失礼しました......のです」

 

 8月15日 正午12時5分頃 電 解体通達

 

 

 

 

 

 電がいなくなると、執務室はまた静けさを取り戻した。

 

 部屋の隅で小さくなっていた金剛は相変わらずの提督に少しながら慄いていた。

 

 「金剛」

 

 「は、はぃい!」

 

 唐突に名前を呼ばれて少し声が上ずった。

 

 「......だ、大丈夫か?」

 

 金剛の突拍子な返事を不審に思って提督は振り向いて金剛を見た。

 

 「え、あ、いぃえ?大丈夫デスよ?問題ないデース!」

 

 金剛は苦笑いをしてなんとか誤魔化そうとしたが、どうにも誤魔化せそうにない。

 

 金剛が、次に物を言う前に提督はため息をついて椅子から立ち上がった。

 

 「なぁ、金剛。一つ、調べて貰いたいことがあるんだが?」

 

 そう言って提督は一枚の資料を金剛に渡した。

 

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