解体命令なのです! ~電と提督と沖ノ鳥島鎮守府の物語~   作:鎌虚(Kamauro)

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第二話 戦闘記録......なのです!

 

 「鎮守府を守るのです!」

 

 

 8月12日 午後6時55分 会敵

 

 私の左ストレート。これで戦陣が切って落とされた。

 

 

 敵が近くに居ないと高をくくっていたのか、後衛隊の駆逐艦3隻が私たちの接近に気がつかなかった。

 

 電はこの駆逐艦の間をすり抜け、敵艦隊の中央へと切り込んだ。

 狙いは本陣の空母2隻。航空機を離陸させるわけにはいかない。

 

 後方の駆逐艦が砲撃を始める前に、前方左舷を航行するヲ級の右頬を左拳で射抜く。

 

 一瞬、反応が遅れる右舷のヲ級には主砲を3発。砲弾は航空機の発艦口を貫き爆炎をあげた。

 

 丁度同じタイミングで、回り込んだ不知火さん達が前衛隊を潰しにかかったようだ。

 

 五十鈴さんと夕張さんのペア一班

 

 不知火さん単騎の二班

 

 そして私、電単騎の三班

 

 五十鈴さんは、これが初めての戦闘となるが、夕張さんがいるから大丈夫だろう。夕張さんは数多くの実戦経験を持つ艦娘の一人。彼女なら信頼できる。

 

 不知火さんも、この鎮守府では戦闘経験が多い艦の一人だ。心配はない。

 

 前衛隊の軽巡洋艦三隻は中破、又は大破と大きな損害を受け、左右に散らばった。

 

 こう大きな艦隊では、前衛が崩れるだけでも十分な足止めとなる筈だ。

 

 だが......。

 

 

 電は身を屈めて敵艦隊の中央を離脱し、距離をとった。

 

 身を屈めた丁度その時、頭上を砲弾が擦り抜け、電の進行方向に落下し、大きな水飛沫を上げた。

 

 振り向かなくても砲弾の主が、艦隊中央付近を陣取っている戦艦二隻、ル級とタ級であることは容易に想像できた。

 

 戦艦が二隻。この状況は電も初めてだ。

 大抵の大型艦隊の場合はこの戦艦が旗艦である場合が多い。

 そういった状況ならこの戦艦のみに戦力を集中、これを撃破すればイイだけだ。

 だが、今回は勝手が違う。

 

 いったいどちらが旗艦なのかが分からない。前衛が散っても数が多い為か、空母、戦艦を中心とする輪形陣を崩すことは無く。このままだと明らかにこちらが不利な状況で同行戦に持ち込まれるのも時間の問題だ。

 

 更に、問題なのは明らかな戦力の差だ。

 これは機動力で何とかするしかない。

 

 「夕張さん!不知火さん!」

 

 とにかく、どうにかして陣形を切り崩さないと。

 

 夕張さん達が前衛との戦闘を切り上げ、陣営から抜け出した。

 

 電はそれを見届けながら、反転して魚雷を五本投下。

 

 後ろから追撃を加えてきた先程の後衛隊の駆逐艦三隻をなぎ払った。

 

 考えろ電。この状況で敵陣営のどこを突けばいいのか。

 直ぐに行動に移さないと、私も含め艦隊が危険に晒されることになる。

 

 

 その時、「一時撤退」の四文字が頭に浮かんだ。

 いや、ダメだ。前衛に被害を与えたとはいえ、艦隊として航行するには十分な艦船が健在している。

 このままこの海域を直進すれば、暁や響の輸送船団と鉢合わせになる。後衛隊の油断の仕方から察するに「相手はまだ鎮守府の存在に気づいていない」

 鎮守府を襲撃することを想定していないのなら、この敵艦隊の目的は輸送艦隊の襲撃に絞られる。

 

 ここで敵艦隊を逃がしてしまえば……結果は火を見るよりも明らかだ。暁や響が危険に晒されることになる。輸送艦隊の護衛任務はリスクが高い。護衛対象となる船舶のほとんどが機動性に欠ける大型船舶である可能性が高いからだ。

 それにまだ敵戦艦2隻が健在だ。このままでは輸送艦隊が全滅してしまう。

 

 ……まてよ? 輸送船団……二艦隊編成の連合艦隊……となると!

 

「単縦陣!これより敵艦隊に反抗戦を仕掛けます!主に"中心付近の軽巡洋艦"を狙って下さい!」

 

 私は、右舷を航行する夕張さん達に叫んだ。

 

 輸送船団の襲撃が目的であるならば、必ず何処かに"荷物持ち"がいる筈だ。

 艦娘は通常の艦船とは違い、大量の物資を一度に運ぶことは出来ない。それは深海棲艦も同じだ。

 

 だから艦娘が存在する現在でも、大量輸送で使用する船舶は機動性に欠ける大型船舶を使用している。

 それを海軍や、付近の鎮守府から派遣される艦娘が警護する形となっている。

 

 

 たとえ、船団を襲ったとしても物資を持ち帰らなければ意味がない。だからと言って、輸送の為に弾薬や武装を捨てると、追撃に対処することが出来ない。

 だから、輸送船団を襲う場合は2、3人ほど、弾薬や武装をあまり積まない"荷物持ち"が必要となる。

 

 荷物持ちが沈めば、物資を獲得することが出来ない。

 よって、荷物持ちは多くの艦船に警護されるのだ。

 まるで、丸腰のタンカーのように。

 

 そう考えれば、この条件に当てはまるのは、中央付近を航行している軽巡洋艦二隻の他にいない。

 これを潰すしかない。

 

 だが、まだ確信出来ない部分もある。

 本来、深海棲艦の輸送には輸送艦のワ級が使用されるはずだ。

 だが、その姿は敵艦隊の何処にも見当たらない。

 輸送船団を襲撃するのに輸送艦がいない。この事実は電を大いに混乱させた。

 

 だが、今はこれしか可能性がない。

 

 「夕張さん!今の被害状況は?」

 

 「五十鈴さんが小破です!それ以外に損害はありません!」

 

 いけるのか......?

 

 「五十鈴さんは戦線を撤退して鎮守府に帰投してください!」

 

 そう私は言ったが、五十鈴さんは納得していないようだった。

 

 「私はまだ大丈夫です!航行に支障はありません!それに三隻で突撃なんて自殺行為です!」

 

 通常ならそうだ。だが、少人数の方が敵の攻撃をくぐり抜き易い。

 この場合、五十鈴さんを撤退させるのが妥当だが、先程から辺りが暗くなりつつある。

 

 日没が近い。真の強い五十鈴さんを説得するのにはそれなりの時間がかかる筈だ。だが、今はその時間がない。夜戦になる前にどうにか切り抜けないと......。

 

 電は踵を返して、敵艦隊に向かった。当然、他の三人も同じように続いていった。

 

 

 敵艦隊は正面。敵の実質的な戦力は戦艦二隻と手負いの軽巡洋艦二隻、武装の少ない荷物持ちの軽巡洋艦二隻の計六隻。他は大破か、沈むかだ。

 

 それに対してこちらは軽巡洋艦二隻と駆逐艦二隻の計四隻。

 

 海戦では数が多い方が有利と聞いたことがある。この場でその言葉は信じたくない。

 

 

 敵艦隊の有効射程距離内に入ったのか、戦艦や軽巡洋艦から砲弾が何発も飛来した。砲弾は艦隊を掠め、あちらこちらに水飛沫を立てている。

 

 

 

 「魚雷で切り込みます!撃ち込むのです!」

 

 

 

 腰に装備されている魚雷の発射装置が無機質な機械音を挙げた。

 

 三発、六発、九発......。いったい何発発射されたのかは電にも、当の本人達にも検討がつかない。

 

 魚雷の狙いは不正確で、敵艦に正確に当たる道を辿る魚雷は数少ない。

 

 

 だが、それでも構わない。

 

 

 第三艦隊から発射された魚雷は敵艦隊を目前にして大きな爆音を立てた。魚雷の爆発で次々と水飛沫があがり、お互いの位置を正確に特定出来なくなるほど多くの水柱が立った。

 

 それと同時に、それまで雨のように飛来していた砲弾がピタリと止んだ。

 

 その隙に電達の艦隊は一気に敵艦隊に接近した。

 舞い上がる水飛沫を振り払い、目と鼻の先にまで近づいた敵艦に主砲を向ける

 

 

 「ってぇ!」

 

 合図と共に、火薬の破裂音が辺り一帯にこだました。

 

 艦娘の戦闘独特の海上乱戦の火蓋が切って落とされたのだ。

 海上は陸上戦と違い、遮蔽物や地の利などが一切ない。

 その為、敵の砲弾は艤装に付属している盾を使うか、速力と反射神経で回避しなければならない。

 

 それぞれが右腕に鋼の盾を携え、肩、又は左腕に装備されている主砲で攻撃する形となっている。

 

 陣形も海戦では重要な要素の一つだ。

 第三艦隊の単縦陣。それの対して敵艦隊の輪形陣。距離をとる戦闘では輪形陣の方が有利だが、近接戦になると話は別だ。

 

 相手艦隊が輪の中に入れば、相手を袋叩きに出来ると考える人もいるだろう。勿論、陸戦においては有利な戦法かもしれない。ただし、現状においては、味方に流れ弾が飛ばないよう配慮する必要がある為、戦力を活用した数の戦術は一切通用しなくなる。

 

 その為、現在の状況は戦術的には第三艦隊側が有利となり、戦力的にはやっと同じ土俵で戦えるレベルになった。

 

 だが、この状況はある条件で大きく覆ることがある。

 電達にとって、この戦法はまさに背水の陣と言っても良い。

 電以外は把握していないだろうが......。

 

 

 確実に、先程よりは敵の弾幕は薄い。

 これは思惑通りだ。

 

 あとは早く蹴りをつけないと。

 

 電は目の前を遮るように割り込んできた手負いの軽巡洋艦を主砲で撃破した。沈まなかったものの、砲弾は艦の主砲を正確に射抜き、攻撃の術を絶った。

 

 ヤケクソになったのか、攻撃能力を失った軽巡洋艦は拳を振り上げて襲いかかってきた。

 艦娘は砲雷撃戦以外での戦闘力は皆無だ。それは深海棲艦でも同じだ。勿論、それは例外を除いての話だ。

 

 電はその軽巡洋艦が放った拳を左手の甲で外側へ受け流し、右足を踏み込んで体制を低くした後、軽巡洋艦のみぞおちを抉るように殴り挙げた。

 

 沈みはしないものの、相手の戦意を喪失させるのには十分だった。

 腹パンを決められた軽巡洋艦はうめき声を挙げ、その場にへたり込んだ。

 

 これで一つ。少しずつ戦力を潰して行くしかない。

 

 向こうで五十鈴と夕張のペアが軽荷物係の巡洋艦をもう一隻倒したようだ。

 

 電は戦艦の砲撃を避けながら、次の軽巡洋艦へ向かおうと滑り出した。

 

 この調子ならいける。

 

 そう確信した時、日の光を反射して紅く染まっていた海面が消えた。

 

 しまったっ!と思った時には太陽が水平線に沈み切っていた。

 

 電の恐れていた事態が起きてしまったのだ。

 

 「みなさん!撤退なのです!」

 

 夜戦時に戦艦を相手取って戦うのは駆逐艦からしてみれば自殺行為だ。私のレベルなら1隻までなら何とかなるかもしれない。問題は現時点で戦艦が二隻健在だというところだ。

 

 不知火さんが囮になって戦ってくれたから......!?

 

 「不知火さん!?」

 

 しまった。不知火は今、単騎航行中だ。

 

 駄目だ、前が全く見えない。

 レーダーなんて物は装備して居ないし......。

 いや、五十鈴さんは電探を抱えていると聞いたことがあるが、五十鈴さんだけでなんとかなる問題ではなさそうだ。

 

 その時、暗闇を一筋の光が貫いた。

 

 「不知火さん!こっちです!」

 

 光はまっすぐ五十鈴さんから伸びていた。サーチライトだ

 

 「い、五十鈴さん!?」

 

 馬鹿野郎、死にたいのか彼奴。

 これでは戦艦に位置を教えてるような物だ。

 しかも、五十鈴さんは現在小破。戦艦の砲撃がヒットすれば、轟沈も避けられない。

 

 「今すぐ灯りを消すのです!」

 

 そう私が叫んだ時、サーチライトの灯りとは別の光が一瞬、瞬いた。

 

 戦艦の主砲の発火炎だ。

 

 発火炎が見えたと同時に、火薬の破裂音と金属の軋むような音が聞こえきた。

 

 電は発火炎のした方角に残しておいた魚雷を6発、等間隔に放ってその場から全速力で五十鈴のいる方角へと進んだ。

 

 後方で巨大な爆音と金属の軋む音が聞こえたが振り向かなかった。

 今は攻撃よりも離脱だ。沈まなくても、魚雷の飛来した方角に敵の気がいってくれればいいのだが。

 

 「五十鈴さん!無事ですか!?」

 

 無事なはずが無い。あの音は確実に艤装に当たった音だ。

 艤装の大破は私達にとって死を意味する事となる。

 海上航行能力を失えば、あとは海の藻屑となるだけだ。

 

 だが、帰ってきた言葉は意外な物だった

 

 「ぶ、無事です!」

 

 五十鈴の声が聞こえた。周りが見えにくいのでどのような状況になっているのかはわからないが、ひとまずホッとした。

 

 「ただ、夕張さんが!」

 

 暗闇に目が慣れてくると、狭い範囲ではあるが、周囲の状況がわかるようになってきた。

 夕張さんが艤装から煙を上げて、その場に座っていた。

 

 「夕張さん!?大丈夫ですか!?」

 

 夕張のそばには、ひしゃげている鋼の盾が泡を立てながら沈みかけていた。夕張の艤装は大破とまではいかないが、損傷が酷く、主砲は発射おろか、魚雷の発射も難しい状況だ。

 状態的には"大破"と呼んでいいレベルだ。

 

 しかし、夕張さんは少し苦しそうだが、笑顔を浮かべ

 「だ、大丈夫です」

 と親指を立てて見せた。

 

 私が「立てますか?」と手を差し出すと、夕張さんは「問題ないです」と言って自分の足で立ち上がって見せた。

 

 状況から察するに、夕張さんが五十鈴さんを庇ったのは一目瞭然だ。不謹慎であるかもしれないが、夕張さんに任せてよかったとこの時、心から思った。

 

 盾の傷つき具合から考えると、正面から飛来してきた砲弾を盾で弾こうとしたのだろうか。

 装甲の向きと、砲弾の入射角を上手い具合に調節したおかげか砲弾が盾を貫通することはなく、跳弾、又は破裂した砲弾が夕張の艤装に当たってしまったのだろう。

これも、実戦経験の豊富な艦娘でないと到底不可能な芸当だ

 

 「もしもの事が考えられるので、弾薬と魚雷は破棄してください。爆発したら今度はひとたまりもありません」

 

 電はそう言って背後を警戒した。

 水を掻き分けるような音が聞こえたからだ。主砲を構え、迎撃の構えをとった。

 

 だが、砲塔は直ぐに下ろすこととなった。

 不知火さんが艤装から煙を上げて滑り込んで来た。

 

 「不知火さん!大丈夫ですか?」

 

 そう言って私は不知火さんに近づきました。

 

 不知火さんは右手の親指を立てて「大丈夫」と一言。

 だが、損傷は意外と大きい。

 中破ぐらいだろうか?航行や戦闘に支障はなさそうだが、あまり無理を出来そうもない。だいぶ微妙な状態だ。

 

 不知火さんは無理をするような人ではないから大丈夫だと思うが、戦闘にはあまり参加させない方がいいだろう。

 

 「私の心配よりも生き残りの戦艦の事を気にしてください。多分、もうそろそろ散策範囲を広げてくるでしょう」

 

 電は静かに頷いた。

 

 幸い、相手の残り戦力は戦艦二隻と軽巡洋艦二隻。

 数が多いわけでは無い。機動力で振り切る事も可能だ。

 周囲が目視出来ないのは相手も同じ条件だ。

 

 それに、この時間なら輸送船団はこの海域を通過しているし、これだけの戦力で鎮守府を襲うのも難しい。

 

 もう戦う理由は無い。なんとか振り切らないと。

 

 

 離脱には単縦陣を採用し、航行を開始した。見つからないように、なるべく広がりたくない。

 

 五十鈴さんには私の直ぐ側についてもらう事にし、その他の艦は後に続かせた。

 

 勿論、まだ経験の浅い五十鈴さんの護衛の意味もある。現在、ほぼ無傷なのは私だけなのだ。護衛艦として役割を果たせるのは私しかいない......。

 

 航行を開始して間も無く、白い光の線が海上に現れた。

 

 ん?まだ鎮守府からは距離がある。灯台が見えるはずがない。

 

 そう思ったその時、五十鈴が全速力で私を追い抜いて光の方へ向かった。

 

 それと同時に電は頭の中に雷が落ちた様な感覚に襲われたと同時に、背中に嫌な汗が滲み出る。

 

 あれはサーチライトの光だ。まだ戦艦と十分距離をとっていない状況であの光は実に不味い。

 まさか、能代か、睦月かが救援に来たのだろうか?

 

 あのライトを持ってるのが睦月だったら......。

 

 そう考えるやいないや、私は全速力で五十鈴を追いかけた。

 数十メートル先で航行する五十鈴を追いかける最中、

 

 後方から奇妙な音が聞こえてきた。

 

 それに反応した私は、振り向きざまに、盾を構えた。

 

 ガンッ!

 

 と鈍い金属音と共に、体が宙に浮かぶ。

 

 腕から腹にかけてハンマーで殴られたような鈍痛に襲われ、堪らず盾を離してしまった。

 

 いや、持っていたところでもう役には立たないだろう。

 ペシャンコになった盾は宙を舞って暗い太平洋の海に沈んでいった。

 

 「散ってください!」

 

 不知火さんと夕張さんは私の言葉を聞いて直ぐに、それぞれ別の方角へと進路を変え、蛇行しながら速力を上げて行った。

 

 私は、機銃を乱射して弾幕をはりつつ、五十鈴の様子を確認。

 

 

 まず目に入ったのは、そこにあるはずの無い赤い光だった。

 

 「五十鈴さん!?」

 

 五十鈴は私の後方で艤装から炎上げて沈みかけていた。

 

 すると、遠くの方でまた発火炎。

 二隻目か!?

 

 近くで大きな水しぶきが上がるが、電はそんなことお構いなしに五十鈴の元へと駆け寄った。

 

 腕を引っつかんで海上に引き上げるが、五十鈴は完全に気を失い、私の腕に全体重をかけていた。

 見ると、艤装の一部は深海棲艦の熱弾によって大きく削り取られ、損傷した背中から血液が流れている。これでは自力で航行出来ない。

 

 足元には、壊れて光のつかないサーチライト。

 そして、その隣には震えて立ちすくむ睦月の姿があった。

 

 「早く逃げるのです!」

 

 それを言い終わるか終わらないかのタイミングで電は背中に激しい衝撃を感じた。

 

 肩に走る激しい痛みと、耳鳴りと共に、周りから一切の音が消える。

 艤装の主砲が吹き飛ばされた事に気づくのに、そこまで時間はかからなかった。

 

 電は前のめり吹き飛ばされそうになったが、五十鈴を抱えている状態で倒れる訳にはいかない。

 

 電は右足を大きく前に出して、ギリギリのところでバランスをとった。

 

 顔を上げると、睦月がまだ呆然と立ちすくんでいた。

 

 「逃げて!早く!」

 

 電はもう一度、睦月に呼びかけた。だが、睦月は一切反応を示さなかった。このままでは不味い。

 そう思った電は軽く跳躍するやいなや、向きを反転させて、まだ機能する魚雷の発射装置を回転させた。

 

 さっきの攻撃で数発か当ててる筈だ。これでなんとか.......。

 

 

 

 だが、電の発射装置から魚雷が発射されることは無かった。

 

 弾切れだ。

 

 何度、発射しようとしても、結果が変わることは無かった。

 

 

 あぁ、遠くから火薬の破裂音が聞こえる。

 この時だけ、1秒が何十倍も長く感じられた。

 

 そういえば、轟沈した艦娘は深海棲艦になるって話をどっかで聞いたことがあったっけ?

 これが本当なら、艦娘を沈めるには形は違えど艦娘......なのか。

 

 同胞に沈められると考えれば......錆びて朽ち果てるよりも良いのかもしれない。

 

 

 

 

 だが、目の前に広がる光景は意外な物だった。

 

 遠くの方で、大きな火柱が上がったのだ。

 電も何が起こったのかさっぱり理解が出来なかったが、ハッキリと耳が聞こえる様になってからようやく状況を理解することが出来た。

 

 「遅くなってごめんなさい。向こうの戦艦に手を焼いていました」

 

 後方、声の方角には主砲を構えた能代さんが立っていた。

 体は傷だらけで、おまけに装甲は穴だらけ。

 

 「遅いですよ........本当に......遅かったのです」

 

 

 戦艦一隻の轟沈、戦艦一隻の中破。もう、この状況では任務の遂行も不可能だと判断したのか、付近まで詰め寄っていた敵の軽巡洋艦は向きを変え、手負いの戦艦と共に水平線の彼方へと消えて行った。

 

 私達はお互いの体を支え合いながら、沖ノ鳥島鎮守府への帰路に立ったのであった。

 

 

 《報告書》

 

 8月13日 午前3時40分

 【第3遠征艦隊】 全艦帰還

 

 [損害状況]

 

 旗艦:電-中破 詳細:主砲大破、骨折

 

 五十鈴:大破 詳細:航行不能、器官損傷、軽度の精神疾患

 

 夕張:大破 詳細:戦闘能力消失

 

 能代:中破 詳細:甲板被弾、

 

 不知火:中破 詳細:船尾損傷

 

 睦月:小破 詳細:甲板被弾、軽度の精神疾患

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖ノ鳥島鎮守府 営舎2階 執務室

 

 8月15日 正午12時6分

 

 

 電の居なくなった後の執務室は再び静けさを取り戻していた

 

 「なぁ、金剛。一つ、調べて貰いたいことがあるんだが?」

 

 そう言って提督は一枚の資料を金剛に渡した。

 

 「は、はい!な、なんでしょうか!?」

 

 「金剛......。この状況を見て。まずお前がしなければいけないことは......なんだ?」

 

 提督は金剛の目をジッと見つめた。

 

 金剛はしばらく身を硬直させていたが、直ぐに深呼吸をして落ち着きを戻して言った。

 

 「輸送物の確認......デスね。電の話が本当なら、こちらに輸送船団の航行の連絡が着ている筈。ですが、輸送船団の話は初耳です」

 

 「あぁ、そうだな。それに、提出されたスケジュールも偽装されてた」

 

 提督は金剛に渡した書類を指差した。8月12日の欄は確かに空白になっている。

 

 「大方、提督の言いたいことに察しはつきました。了解です。直ぐに調べて来ます」

 

 そう言って金剛は一礼してその場から離れようとした時、

 

 「まてまて、まだ他にある。ついでにこれもお願いだ」

 

 そういって提督は大きめの茶封筒を金剛に渡した。

 

 

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