解体命令なのです! ~電と提督と沖ノ鳥島鎮守府の物語~ 作:鎌虚(Kamauro)
【異動命令】
沖ノ鳥島艦隊 第3艦隊所属
吹雪型駆逐艦 電
所属:第三艦隊 遠征部隊
異動先:第六班
備考:8/16 11:00 第六班待機室で待つ
桂 小五郎
もう外はすっかり暗くなり、街灯があるにも関わらず、電の目と鼻の先は闇に閉ざされていた。
看板を見るために使った懐中電灯をもう一度取り出し、スイッチを入れてみた。......どうやら電池が切れてしまったようだ。懐中電灯は光のないただの棒切れと化してしまっている。
電はその場でため息をつき、足を取られないよう、一本道を進み始めた。
その先に唯一、淡い光を放つ宿舎が電を優しく照らしていた
8/15 19:43 沖ノ鳥島鎮守 第三待機棟 4階
「ただいまなのです!」
電はがドアを開けると
「おっかえり〜!ご飯できてるよ〜!」
迎えるのはオレンジエプロン姿の雷。
優しく温かい笑みが迎え入れてくれる。
今日の晩御飯はカレーライスと茄子の味噌汁......と、特に飾り気のないものだった。
「どお?美味しい?」
カレーライスを頬張る電に雷が訊いた
「美味しいのです!」
と電が返すと雷は満足そうに笑っていました。
雷の所属は第五艦隊。ようするに予備隊だ。時々、鎮守府沿岸で砲撃訓練を行っているのをよく見かける......が、出撃する事はほとんど無い。ほとんどというよりむしろ皆無と言ってもよい。
それにしても不思議だ。雷はハッキリ言って私よりも技量は上だ。それなのに予備隊配属というのがどうもしっくりいかない。
「ん?どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「えっ?別になんでも無いのですよ?......あっ、ご飯粒ついてるのです」
電がそう言うと、雷は自分の頬についている米粒に気がついて、照れ臭そうに笑ってそれを食べるのだ。
そのあとは互いにたわいもない話をして笑い合うのだ。
電自身は、これが雷と食べる最後の夕食だろうと思い、このひと時を大切にするのだった。
同時刻 沖ノ鳥島鎮守府 本館 執務室
「提督ぅ!You got a mail ! Love mail は許さないからネ〜!」
ドアの金具が粉砕されると同時に開け放たれる執務室の扉。
これで何度目であろうか。
「頼むからドアノブを使ってくれ」と額に手を当て、提督は項垂れる。
「あとな、その定型文は流行らないぞ」と提督は言葉を付け加える
それに対し「いやぁ、つい癖と言いますか、何といえば......」と苦笑いする金剛。
ようするにあれだ。条件反射って奴だな。
「まぁいい。どんな言葉を使おうと、いくら金具を粉砕しようとしっかり報告してくれればそれでいい。......で、どうだった?」
そう提督が言うと、今まで穏和だった金剛の目つきが急に鋭い物へと変わった。
そして静かに、執務机にA4サイズの茶封筒置く。
「大筋、提督の言っていた通りでした。ただ、少し実態は違っていたみたいでしたが......」
提督は茶封筒を受け取ると、その封を開け、中の紙を取り出した。
「ふむ......。明後日。予定を空けておいてくれ」
「了解です!提督!」
その声は執務室に響き渡るのだった。
翌日 8/16 10:37 沖ノ鳥島鎮守府 本館1階
電は本館見取り図の前で立ち尽くしていた。
貰った異動命令を何度も見返しながら見取り図を見返す。
だが、何度目を凝らしても本館に「第六班」の控え室がどこにも無かった。
本来なら、「待機棟エリア」に控え棟兼居住地として場所が設けられている筈なのだ。
だが、棟は5つしかない。それは第一から第五までの控え棟であって、六班というものは無い。勿論、第六艦隊という物も無い。
「いったいどうなっているの.....ですか?」
電は棟の見取り図から一旦離れ、本館全体の見取り図を見上げる。
一階、二階、三階の何処にも六班の表記は無かった。
「ふむぅ......」
あの提督が重要な資料を誤植する事など無いはずだ。
だが、そうなると私は存在しない艦隊への異動命令を受けたことになる。が、第六班の噂は皆知っている。誰かが広めたにしても、こうやって文書に出てくるのなら、存在しない筈は無い。
いったいどうなっているのだろう......。
電は見取り図の食堂の文字に手を触れた。
「............あっ!」
電はその場を離れ駆け出した。向かった先は.........。
8/16 10:55
海風が開け放たれた窓から頬をくすぶる様に撫でつける。
この時期の風は湿度を帯びて蒸し暑く、ベタついて苦しい風の筈だが、海に面しているこの建物に流れ込む風は清々しい海風だ。
涼しい風が部屋中に行き渡り、冷房器具の必要はない。
その部屋で桂提督は、安っぽい木製の椅子に座って本に目を落としいた。
資料ではなく純正な物語のある本だ。
ふと、腕時計を見る。
あと5分......。
また迎えに行くことになるのか?
まぁ、この場所もわかりズラいし......。
いや、わかりずらく作ってあるのだが......。
少しは期待してたんだけどな......。
提督が電を迎えに行こうとすると、部屋の扉が勢い良く開いた。
「ち、遅刻ですか!?」
提督が振り向くと、そこには扉の縁に手を当て、肩で息をする電の姿があった。
「いや、5分前だ」
提督は腕時計をもう一度みて言った。
よかった......。と肩を落とす電。
その様子をみながら「どうしてここが分かった?案内板にも無かっただろう」と訊いた。
電はその場で深呼吸をし、息を整えて言った。
「最初にこの鎮守府に来た時、どうもおかしいと思ったのです。なんか、建物の配置が乱雑だな......と思ったのです」
風景の同じ噴水の広場や、乱雑な建物の配置、妙に多い空き地。
「それで?」
「その事を思い出して、地図を見たんです。そしたらあったんです。文字を使わずに場所を示す手法。まさかそれが、点字だとは思わなかったのです」
その言葉に提督が反応する。
「ちょうど、この建物の近辺の倉庫、食堂、1から5艦隊の待機棟、備品倉庫。これらの建物の配置が点字でロクハンになっているのです。そして、ロクハンの点の中で用途がハッキリしていない場所はココだけなのです」
ここは「多目的ホール」と名のつく、まるで学校の「教室」を思わせる部屋だ。
黒板があり、机が並び、コルクボードと向かい合わせの窓からは優しいお昼の日差しが中に差し込んでいる。
「そうか。お前のその説だが、建物の配置が根拠といっても偶然、たまたまロクハンに見えるだけ......ということはあったのではないか?ただでさえ乱雑な建物の配置になってると考えれば、そういう捉え方も......」
「それは無いのです」
電はきっぱり否定した。
「だってここら辺の建物......。提督が赴任して来た時に一気に建設されている建物です。しかもここのエリアだけ......。そうなら、何かこの場所に意図が無いと考えること自体不自然なのです」
電は図書館で得た情報をその場で並べた。時間がなかったので、ここまでしか調べられなかったが......。
すると、提督が小さく拍手をし始めた。
「流石だ電。私の見込んだ通りだ。合格だ」
合格と言う言葉が何のことに対してなのか電にはわからなかったが、何か自分に有利なことだと確信した。
「まぁ訂正するなら、噴水の広場も、あの辺りも俺が赴任して来た時に建てたものだ」と提督は言った。
そして提督は手元にあるファイルから書類を取り出し、こう言った。
「おめでとう電。解体だ」
そして、時間が止まった。