解体命令なのです! ~電と提督と沖ノ鳥島鎮守府の物語~   作:鎌虚(Kamauro)

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第五話 解体完了

 何を今更私は驚いているのだ。

 

 提督が発した解体の二文字に電は呆気にとられていた。

 

 異動命令を受けた時点でもうわかりきっていた事の筈なのだが......

 

 「納得いかない......のです」

 

 電はそう呟いていた。

 

 何故降格でなく解体なのか、それが電の最大の疑問だった。

 

 確かに過去に起こしたミスは帳消しにできるわけが無い。

 しかし、腑に落ちない点として、過去6回のミスのうち降格処分はたったの1回。降格処分を受けて以来、今までずっと第三艦隊 遠征部隊の旗艦を務めてきたのだ。

 

 降格だけならあと2回ほど出来る。それに、第四艦隊の人員が不足している中、人員にある程度余裕のある第三艦隊から何故私を引き抜かないのか。

 

 ハッキリ言ってしまえばこの鎮守府の戦力は数少ない。資材も少ない。

 そんな中で艦娘を解体している余裕などこの鎮守府にあるのだろうか。

 

 「何か不満でもあるのか?」

 

 ずっと黙りこくっている電に提督が声をかける。

 

 「不満しか......無いのです」

 

 「言っておくが、今のお前に拒否権は無い」

 

 提督はどこか面倒臭そうに手元にある本を机におき、キッパリと言い放った

 

 「もうお昼だし、時間が惜しい。直ぐにお前の解体に取り掛かる。ま、そこまで時間は掛からないだろうがな」

 

 電は解体が一体どういう物なのか知らなかった。

 

 一般人にしてみれば対したことのなさそうにみえるこの二文字でも私たち艦娘にとってしてみれば「死」の一文字に等しい物々しさを放つ。

 

 想像力の高い艦娘ならグロテスクな作業を想像し、身震いするだろう。

 

 だがしかし、電な妙な事を感じる。

 

 なんの変哲もない多目的ホール(教室)、移動の必要も無いようで、提督の「そこまで時間は掛からない」の言葉に疑問を覚えたのだ。

 

 解体ってそんなに気軽な物なのか?

 

 

 ハテナが頭の上に3つも4つも浮遊している電の前で提督はジャケットのポケットからスパナを一本。取り出す。

 

 電は無意識に後ずさりしていた。何が行われるのかわからない。そういった未知への恐怖でもある。

 

 このまま回れ右して逃げ出すのも選択肢の一つ。提督の鳩尾に一発食らわせてトンズラすることも電にとっては容易だ。

 

 だが、そうしたところで身を寄せる場所はあるのか?

 艦娘は単身で陸上生活をして行くにはしっかりとした保護が必要になる。艤装だっていずれ錆びるし、食料の調達だって無人島を転々としてかき集める訳にもいかない。

 

 何がどうであれ、ここではただ命令に従うしか無いのだ。

 いずれにせよ結果は同じになるのだから。

 

 目をつむってプルプル震えている電は果たして提督の目にどう映ったのだろう。提督は静かに電の背後に回る。

 

 この時の状況を言葉で表現するに言葉があまりにも高尚で、どうしても度が過ぎる表現になってしまう。

 その為、ここはあえて擬音表現を使用することにする。

 端的に表すとするならこうだ

 

 

 ギコギコギコギコギコギコギコギコギコ......ガチャン

 

 「終わったぞ」

 

 

 

 その所要時間はわずが30秒。

 

 「ふぇっ!?」っと間抜けな声を上げる電の変わったところといえば「艤装が外された」だけ。いや、艤装を固定するためのジョイントの部分から丸ごと取っ払われているのを除けば、いつも通り背中が軽くなっただけだ。

 

 提督は腕を棒のように伸ばして重そうな艤装をフローリングの床に下ろした。この建物が古いわけでは無いが、少し床が軋む音がした。

 

 「さて、次はこれだ」

 

 提督が渡してきたのは船の到着予定時刻の一覧、そして見覚えの無い地域の地図だった。

 

 「お前はこの鎮守府から出て行ってもらう。......だが、肉食動物がはびこるサバンナに1人で置いてきぼりにするほど俺は非情ではない。サバンナでは武器が必要だ。先ずは自分の位置を知らせる地図。そして知識だ。面倒ではあると思うが、少しの間その知識を学んでもらう」

 

 なるほど、だから教室なのか。

 第六班の待機室がこんな風変わりな事に電は合点がいった。

 

 「ここである程度武器を装備したらお前は晴れて「自由の身」だ。好きな時に寝て、起きて、食べて、規律に縛られる必要はない。こちらもある期間まで生活支援はする。期限としては1年だ」

 

 悪くない。悪くない条件だ。だが、一つ疑問があった。

 

 「自由......と言うことは鎮守府に戻ると言う選択肢も........?」

 

 「それはお前が決めろ。ただ、最低でも1年は外に出てもらう」

 

 それならただの外界研修じゃないか

 

 「それだったら、解体する必要なんて無いのではないですか?」

 

 それを言うと提督の視線が不思議な物を帯びた。

 

 冷たい目線に近いが、何か可哀想な物を見る目、何か残念な物を見る目。そして一言

 

 「お前、やっぱり何も分かってないんだな。まぁ、それもしょうがないか......」

 

 提督が何を言っているのか電にはさっぱり理解できなかった。

 

 「まぁ、それに関しては実際に身を持って体感した方が早い」

 

 そう言って提督はゆっくりと教壇に立った。

 

 「とは言っても今直ぐに始めるわけでは無い。今日はもう棟に戻ってもいいぞ。明日はこっちも用事があるから、明後日。また同じ時間にここに集合って事を忘れないでくれ」

 

 電は先程の冷たい目線の理由を聞こうとしたが、提督は何故か早口で喋り、電の呼びかけを振り切るようにして部屋を出て行くのであった。

 

 その後、電はありのままの出来事を雷に打ち明けるのであった。

 

 

 

 8月16日 午前11:00 吹雪型駆逐艦 電 解体完了

 

 

 

 

 

 8/17 13:45 ロシア帝国 ウラジオストク鎮守府 本館会議室

 

 

 「と、言うわけだ。まぁ、この書類の通りだが」

 

 桂提督は向き合うその相手に書類を差し出した。

 

 ちょうどその相手の脇で佇んでいた響はその書類を受け取り、自分の主にそれを差し出す。

 

 書類の主な内容はこうだ。

 

 

 1.指定する人員の譲与

 

 2.燃料、弾薬各20t の譲与

 

 

 ウラジオストク鎮守府の提督が表情を濁らせたのは、桂提督の背後から遠目でこの一方的な話し合いの成り行きを出番が来るまで棒立ちしている金剛の目にもハッキリと映った。

 

 そりゃあ、あんな要求。どんな鎮守府も飲み込む筈がない。

 貴重な艦娘の無償提供と、生産費用がかさむ弾薬、艦娘仕様の特殊な燃料をそれぞれ20t。算出すれば相当な額になる。

 

 

 「流石にこれだけの量の資材をそちらに無償で提供するわけにはいかない。人員も不足気味で、要求を飲む余裕も理由も無い」

 

 相手の提督は耳に装着している翻訳機に手を触れ、ロシア語で桂提督に語りかけた。

 

 そのような趣旨の内容を聞き取った桂提督は同じようにして日本語でそれを返す。

 

 「まぁ、これだけの量を本日耳を揃えて渡せ......とは要求していない。まぁ、こちらにも運ぶ手立てってのが無いからな。ん〜......まぁ、要求を飲む理由が欲しい......って解釈でいいのか? なぁ、響?」

 

 桂提督はこの場で唯一日本語を翻訳機無しで理解することが出来る響に大きめの声でいった。

 

 響は......曖昧な返事をした。

 

 「金剛。あれを」

 

 提督が呼ぶと、金剛はA4サイズの茶封筒を響に差し出す

 

 「お久しぶりデ〜ス」

 

 金剛は軽く響に言った。響は軽くはにかんで会釈。

 

 書類を受け取った響は先程と同じように主の元へ運ぶ。

 

 「今月の13日。うちの船団が遠征海域で敵艦隊と一線交えたんだ。それがその時の戦闘記録。そして、その海域付近を通過していた船団の記録、あと一つは津軽鎮守府の船団記録とその周辺海域の運行表だ。それらを照らし合わせると、妙なことが起こる」

 

 そこまで桂提督が言うと、ロシアの提督は書類から目を離してこちらを直視している。

 

 「8月11日。ここで津軽海峡と通過した筈の船団が太平洋で忽然と姿を消している。最後に確認されたのは宮城県仙台港 塩釜鎮守府の記録で、8月12日。艦隊のメンバーを見れば、「そちらの鎮守府の艦隊」であることは一目瞭然。

 その後は港伝いに神奈川へ進んで資材の取引を行うと鎮守府に航行予定が提示されてる......が、そんな取引は存在していない」

 

 主に日本近海の艦娘を統合し、各地に分散させた横須賀鎮守府。

 燃料や弾薬などはそこから支給されるのが日本の主流。

 

 これにより、潰れかけてた地方の鎮守府はその危機をまぬがれている。よって、資材の取引は基本的に横須賀鎮守府で行われる。

 

 だが、その横須賀鎮守府でその日に取引が行われるといった事は無い。

 

 「色々と権利が独立している鎮守府では結構よくあるよな。何処が誰と契約結ぼうが、誰も気にしない」

 

 「結局何が言いたいんだお前は?」

 

 一貫性をなさない桂提督の話に痺れを切らしたロシアの提督は机を指で叩きながら鋭い口調で言った。

 

 それに反応した桂提督は写真を一枚。取り出して差し出した

 

 「コッチの管轄下で撮影された写真。付近には最近確認された深海棲艦の基地がある。俺の目が節穴でなければ、何故かそんな所にタンカーがいるんだ。

 あれ〜? おかしいな〜? しかも、このタンカーを護衛している艦娘も偶然なことに消えた船団のメンバーと合致している。何をしにあそこの海域まで? まさか遠征とは言わないですよねぇ?」

 

 桂提督が言い終わると会議室が静まり返る

 窓もないこの密閉空間では、少しの空気の流れでも感じることができる

 

 「黙ってねぇでさっさと言えよ。深海棲艦の輩とどんな取引をした?」

 

 ロシアの提督は表情を強張らせた

 

 

 敵艦隊の目的は船団の襲撃ではなく、深い意味のない「出迎え」

 そう考えれば軽巡洋艦の違和感の説明がつく

 

 あの軽巡洋艦は輸送目的ではなく「給油艦」だ。

 長い距離を旅した艦娘やタンカーに給油する為に軽巡洋艦を2隻用意したのだろう。

 

 攻撃ができなかったのは身重であることと、ただでさえ可燃性の強い燃料をたらふく積んでいるのに攻撃の標的となってしまっては不味い

 

 

 「概ねあれだろ? ドーセ資材絡みだろ? まさかとは思わないが、奴らに情報の横流しとかしてる筈無いよなぁ? 鎮守府の場所をリークしてそこを潰させる。艦娘は轟沈しない程度に痛めつけさせ、生き残りは『通りすがり』の自分達で保護(拉致)。鎮守府の艦娘を丸ごとゲットできる......といった算段か? 標的は日本の鎮守府。こっちの国の艦娘を横取りですかぁ? それは無いですよねぇ?」

 

 ここまで来ると、ロシアの提督は言葉を一言も発さなくなる。

 

 「ただな、話がその方向に進むと今度は戦艦2隻という数字に疑問がでて来る」

 

 出迎えと給油目的なら軽巡と駆逐艦だけでも一切問題が無い

 何故、戦艦がいたのか?

 

 「だが、こうならどうだ? 深海棲艦の輩からして見れば喉から手が出る程の物資。そして輸送中に横取りされかねないような希少価値の高い物。勿論、資材程度でそんな護衛は着かない」

 

 考えられる物としては2つ。

 希少価値の高い鉱物。金や銀、その他。

 もう一つは兵器

 技術開発の材料となる物、直接地上を襲撃する手段となり得る物、中でも破壊力が高い物。

 「とまぁ、今のはあくまでも仮説だよ。俺もこの世界に入ったばかりだからな。こんな重要な事、俺だけで解決できないのは確かだ、これは誰かに相談とかした方が............」

 

 「この指定する人員......というのは誰の事だ?」

 

 ロシアの提督は書類を指差して桂提督に質問した

 

 「物分りが良くて助かる」

 

 

◼︎︎︎◼︎◼︎

 

 「貴方の大胆な行動にはいつも驚かされます......」

 

 響は主の居なくなった会議室の外の廊下で桂提督に呟いた。

 

 「ま、これでわかっただろ?全ては俺の思惑通り。お前をあれっぽっちのカネで売るわけないだろ。懐も温まるし戦力もがっぽり稼げて一石二鳥ってわけだ」

 

 「憲兵府に睨まれますよ?」

 

 「大丈夫。大本営直々のご依頼だったからな」

 

 ヘラヘラと笑う提督に響は呆れとも不信感とも取れる感情を抱いた

 

 「貴方、本当に今年で5年目の新人なの?初期艦に電を選び出したのを見て、ただのロリコンだと思ってたけど」

 

 「ハハハ、相変わらずキャラに合わない毒舌を吐いてくれるな」

 

 笑ってお茶を濁す提督に響も少し笑って、ため息をついた。

 

 こんなやりとりが響には暖かく、懐かしく感じることができた。

 

 

 

 その後、あのロシアの提督は大量の資材と戦力を差し出した後に行方知れずになったそうだ。

 ウラジオストク鎮守府には新しい提督が加わり、日本近海の鎮守府と連携を取りつつ海の秩序を守っている。

 

 

 そして本日、沖ノ鳥島から一隻、港を離れ日本本土に舵を切って進む船があった

 

 手摺から身を乗り出して遠くの海を眺める茶髪の少女

 

 水に足をつけず、冷たい兵器を持たずに初めて感じる海は果たしてどう映るのだろうか

 

 こうして電は解体された(自由になった)

 

■■■

 

 「提督?どうして電を手放したのデスか?」

 金剛はずっと気にしていた疑問を提督にぶつけた。

 

 新しい艦娘のプロフィール整理に追われる提督は机の資料を整理していた。

 

 「ボケっと突っ立てないでお前も手伝え。これからここも賑やかになるぞ」

 

 暁や響を取り戻し、ついでであの鎮守府から相当量の艦娘を搾り取ったのが原因だが提督の机の上は資料の山だ

 

 まぁ、これにも何か思惑があるのだろうか?金剛はそんな事を考え、床に散らばった資料の整理を始めるのだった。

 

 【序章】完

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