解体命令なのです! ~電と提督と沖ノ鳥島鎮守府の物語~   作:鎌虚(Kamauro)

7 / 14
第一章 外界へ
第六話 入居です!入渠じゃない......のです!


 電。外の世界は非情だ。

 

 西暦 2022年 8月18日

 

 

 人間をベースとし、最先端のバイオ技術を投入して造られた、「人型汎用戦艦」

 それが艦娘だ。

 

 最先端技術が使われている為、製造に莫大な費用が掛かるが、現在の人類が深海棲艦に唯一対抗できる兵器となっている

 

 「だからな。外の世界で、艦娘の位置づけは兵器だ。生き物だと思ってる奴も少ない。よって艦娘に人権は無い。これが現実だ、電」

 

 電は六班控え室(教室)で提督の話を聞いていた。

 

 「だから、鎮守府間では平気で艦娘をカネで取り引きする。それについて誰も文句一つ言わず、それがごくごく普通になってる」

 

 「なんか……酷い話ですね」

 

 「だから忠告しておくぞ? 絶対に正体をバラすな。いいか?」

 

 

◼︎◼︎◼︎

 

 日光が激しく照り輝く夏

 

 電は大きなキャリーケースを引きずる様に歩いていた。

 

 通常であれば片手で楽に持てる重さなのだが、小さな体に合わない鞄を持つ時でさえ演技は徹底しなければならない。

 

 都会から少し離れた閑静な住宅街、アスファルトが放つ熱気で電はもう汗だくだった。

 

 手元の地図で、今いる場所を確認する

 

 「ここで......いいんですよね」

 

 電が見上げるその先には年季の入ったアパートが立っていた。

 茶色のトタン屋根、所々錆びて居る階段とその手摺、幾つも並ぶ部屋のドア

 もう一度地図を見る......間違いなく住所は一致しているようだ。

 

 ふと古びた門を見ると、石造りの標識には「綿津見荘(わたつみそう)」と刻まれてある。

 電は、門を押して敷地内に入った

 

 「すみませ〜ん?」

 

 返事は無い。

 

 こういう時の手順は、まず事務所を探す

 

 基本的に一階の一番目につきやすい場所の筈......。

 

 目につきやすそうな場所......。

 

 電は何も考えず目の前にあった入り口から部屋に入った。

 

 それが玄関ではなく、開け放たれていた大きな窓だとは知らずに......

 

 この常識を逸脱した行為、後になって考えてみれば自分の運の良さに感謝するしか無かった。(駆逐艦 電 (改) 『運』12point )

 

 「ごめん下さ〜い!」......と電は大声で呼びかけようとしていたのだが、声を出す前に部屋の主を発見した。

 

 外観からは感じ取ることの出来ないほど、上品なこげ茶色に統一されたその部屋の主はどうやら読書の最中のようだった。

 

 容姿はまさしく大人のお姉さんといった感じだ。長い髪は背中まで伸び、凛とした目つきをしている。

 黒く透き通ったワンピースが窓からの風に靡いて、何処か不思議な雰囲気を演出している。

 

 その様子はまさしく歴戦の女騎士のようだった

 厳かで、美しい。

 

 そんなお姉さんは小難しそうな本を片手にこちらを凝視している

 

 「あなた、住居侵入よ」

 

 「えっ?あっ!ごっ、ごめんなさい!」

 

 言葉の意味はわからなかったが、怒られたことをニュアンスで感じ取った電はすぐに頭を下げて謝った。

 

 「常盤さん......で良いのよね?」

 

 「ふぇっ!?」

 

 「常盤 日向さん。名前、忘れた訳じゃないわよね?」

 

 そうだ。この世界での私の名前は「常盤 日向(ときわ ひなた)」だ。

 

 「そ、そうなのです!......って?どうして名前を?」

 

 「私、ここの大家よ。貴方の書類とかが先にこっちに送られてきてたから分かったのよ。面倒見のいい親ね。ってまさか、見ず知らずの人の家に上がり込もうとした訳じゃ無いでしょうね?」

 

 「そ、そんなことないのです!」

 

 電は必死になって首を振る

 

 「まぁいいわ。とりあえず今日入居するって事は聞いてあるわ。もう業者の人が家具とか運び込んだみたいだから、何かわからない事があったら遠慮なく聞いてちょうだい。勿論、今度はちゃんと"玄関"から入って来てね」

 

 そう言って大家は電に鍵を渡した

 その小さな鍵には「203」と書かれたタグが結びつけられている。

 

 「こ、これは?」

 

 「貴方の部屋の鍵。二階、手前から数えて三番目よ。ドアに番号書いてあるからしっかり確認すること。間違えて隣の部屋に入らないようにしなさいよ?」

 

 電は受け取った鍵をポケットにしまった

 

 「えぇっと、お名前をまだお聞きしていなかったような気がするのですが......?」

 

 「岡田よ。岡田 弘海(おかだ ひろみ)。繰り返すようだけど、分からないことがあったらなんでも聞いてちょうだい。こう見えても人の相談とか聞くの得意だから」

 

 こう見えてもっていうのがどういった意味なのかが電にはわからなかったが、だいぶ社交的な人なのだということは電にもよく分かった。

 

 初対面の筈なのに軽い冗談も交えながら積極的にコミュニケーションを図ってくれている。

 

 電はこの人のことを"ヒロミお姉さん"と心の中で呼ぶことに決めるのだった。勿論、心の中でだけ......。

 

 

 さて、部屋を間違えること無く自室に入ることのできた電は外観からは予想することすら出来ない部屋の綺麗さに感動した。

 

 部屋は広いとは言えず、キッチンもあまり豪華な物とは言えないが、白を基調としたクリーンで明るい、上品なお部屋だ。ガラスのテーブルがよく似合いそうだ。

しかも、これで家賃が安いという......。まさに穴場物件だ。

 

 それに、家具も綺麗だ。

 衣装タンス、机、ドレッサー、全てが優しい木製のアンティーク家具に統一されている。(勿論、冷蔵庫は別だが)

 電は初めて提督の趣味の良さに感謝した。

 

 テンションが上がった電は戸棚を開けたり、閉めたり、机を撫で回してみたり......。

 

 気がつけば、引越しに持ち込まれた日用雑貨が全て戸棚に整えられ、キッチンには香辛料が並べられていた。

 

 気分の良い日は料理もとんとん拍子で出来上がる。

 夕食の時間になる頃には、テーブルの上に料理が並べられていた。

 

 とりあえず、手軽に作れる肉じゃがをメインに、生野菜のサラダとクリームシチューなんかを作ってみた。ついでに、先ほど買ってきたペットボトルのお茶もコップに注いで手元に置く。

 

 「いただきます!」

 

 そうして一人で料理に手をつけようとするとふと気づく事がある。

 

 一人分作った筈の料理は何故か二人分、テーブルに並べられている。

 

 何時も雷は私の正面に座ってご飯を食べるのだ。

 

 まぁ、その気になれば電話一本でお喋りぐらいならできる。

 

 でも、今まで日常生活に必ずいた家族が居ない。それだけで電の心の中に大きな穴がぽっかりと空いてしまう。

 

 やっぱりどこか......寂しいのです。

 

 ふと、電の視界に黒い棒状の物体が目に入った。

 数字が書かれているボタンが幾つも並んでいる。

 

 提督から教えてもらったのだが、テレビのリモコンという物らしい。

 一人暮らしに寂しくなったらテレビをつけてみろ.....と提督が言ってた気がする。

 

 鎮守府では外部からの情報が全く入ってこない。

 

 そんなわけで電は最近になって初めてテレビの存在を知ったのだ。

 

 電はコップに入れたお茶を飲みながら薄型20インチのテレビをつけた。

 

 「箱の中に人が入ってるのです!?」......なんてリアクションはそう二度もやることはない。

 

 今回の電のリアクションはこうだ

 

 「......ゥッ!?......ゲホッ......コホッ......ゥエッ.........えっ!?」

 

 お茶を飲みながら思わず息をしてしまった。

 噴き出してしまう.....とまではいかなかったが、気管に入ってきたお茶を追い出す為に咳が抑えられなかった。

 

 イキナリこんな有様になってしまったのはテレビに写ったある物が原因となった。

 

 驚きを隠せない電は自分の目を擦り、それを再度確認する。

 

 「嘘......なのです!?」

 

 夕食を食べている最中だった電はいつのまにか電話の前にたち、ひっきりなしにある場所に電話をかけるのだった。

 

 テーブルにはとっくに冷めた自慢の手料理が並んでいた

 

 

 

 

 

~時同じくして~

 

 

 執務室に満月の淡い光が差し込む時刻、

 

 「提督?」

 

 たった今、面接を終えた新規着任の艦娘の背中を見送っていた金剛は、自分の隣に座る桂提督に声を発した。

 

 「さっきの人もあの鎮守府からきた人ですよね?」

 

 「ん?勿論そうだ。っというか、それ以外の艦娘は来てないぞ?それがどうした?」

 

 提督は戦艦 ビスマルクのプロフィールをファイルの戻しながら金剛を見る。

 

 「いや、なんで提督は例の敵艦隊の一件に関して尋問しないのかな.....と思って」

 

 何かを深海棲艦の元へ輸送していた艦隊。

 

 結局、艦隊がいったい何を運んでいたのか。それは未だに分かっていない。

 

 護衛に使用されたメンバー、一連の航路、燃料切れで艦隊が帰還してきた事も掴んで居る

 

 さっきのビスマルクがその護衛艦隊の旗艦ということ。

 燃料切れを起こしたのがビスマルクだということも......

 

 恐らく、その何かを輸送していた艦娘は貨物の中身を理解している筈。

 

 となれば、当事者の艦娘にそれを聞き出せばいい。

 

 なのに提督はそれをしようとしない。

 

 金剛はそれが疑問だった。

 何か提督には思惑があるのだろう......と感じてはいるが、なにかこう、モヤモヤとして物が金剛の中で渦巻いているのだ。

 

 それをどうにか金剛は解決したいのだ。

 

 そんな疑問に提督はこう答える

 

 「いや、あのさ。それを知ってこっちが得するのか?」

 

 「えっ?」

 

 金剛は予想の斜め上な解答に思わず声を上げてしまった。

 

 「まず一つ。資材と人員を搾り取れるだけのネタがあればそれで十分。それを突きつけ、ありったけ手に入れる。鎮守府再建。不足していた艦隊メンバーの補充。それだけ できればイイ。後はどうでもいい。

 そして、二つ。ロシアの鎮守府は日本と違って国営。この意味、わかるか?」

 

 

 金剛は首を横に振る

 

 

 「つまり、鎮守府が行う交戦、遠征、演習のほとんどは、突発的な物でない限り国の指示だ。ここまで言えばわかるよな?」

 

 「ということは......。深海棲艦との取引の首謀者はあの提督ではなくてその直上の政府......って、提督!?それって国一つを敵に回したことに!?」

 

 「いや、それは問題ない」

 

 提督は資料の入っているファイルから封筒を一枚、取り出して金剛に見せた

 

 「大本営、横須賀鎮守府からの依頼状だ。今回の輸送船団の一件の情報収集を要請されていた。沖ノ島鎮守府だけに送付されているものではないらしいが、太平洋側の鎮守府は警戒をするよう命令を受けていた」

 

 金剛は頭の上にたくさんの疑問符を浮かべ、それを受け取り中の便箋を見た。

 

 「ということは、本営がこの件を把握していたということデスカ?」

 

 「そういうことだろう。恐らく、俺たちの知らないところで外交的な取引が行われていたと思う。国が管理している鎮守府が、深海棲艦に肩入れするような取引を行っていた。それが発覚し、大騒動になったとしたら、どうなる?」

 

 「そりゃあ、国が管理していてそんな問題が起きたら……国の信用に関わると思いマス」

 

 「そう、そこだ。あくまでもこの件は内密に進めたい。しかし、あそこはアジア防衛の要となっている鎮守府の一つだ。国家が動いてウラジオストクを検挙するのは目立ちすぎる。そこで、こっちの出番だ。こっちは鎮守府が自由に行動をすることができる。鎮守府間の取引と言うかたちで鎮守府にダメージを与え、自然な形で解任に追い込む。検挙はそれから行われたんじゃないか? 俺の推測なんだが」

 

 提督は最後に言葉を濁らせ、金剛から書類を受け取ってデスクにしまう。

 

 「よくそこまで想像できマスネ~」

 

 「当たり前だろ。この件は機密情報に位置づけられているらしいんだ。探りを入れた時点で軍規違反だ」

 

 「なるほど……」

 

 「報酬ももらえるし、戦力増強も保証される。まぁ、金剛がどうしても知りたいというのなら……聞いてもいいんじゃないか?」

 

 「いえっ!全く興味が無いのデース!」

 

 「それでよし!んじゃ、ここの資料。全部片付けておいてね」

 

 そう言うのが先か、立ち上がるのが先か。提督は目にも留まらぬ速さで執務室から出て行った。

 

 あまりに突然の出来事に何も言えず、呆然と立ち尽くす金剛。机の上に積み上がる資料の山。今回の輸送船団に関する調査報告書だった。

 

そんな執務室に再び静寂が訪れるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。