解体命令なのです! ~電と提督と沖ノ鳥島鎮守府の物語~   作:鎌虚(Kamauro)

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第七話 いつもお疲れ様......なのです!

 「提督?」

 

 電は少し遠慮がちに手を挙げた

 

 「私たち兵器だという事は納得ですが、造られたってところがあまり納得がいかないのです......。私だってちゃんとトイレとかにも行きますし、ご飯だって食べてるます。機械じゃないのです」

 

 「ん〜。そもそも言葉がまだ足りないからな。確かに電が主張したいように、艦娘は人間だ。だが、人間と定義付けるにはちょっとした障壁があったりする。たとえば......そうだな」

 

 提督は教卓から無造作に刃渡り二十cmのアーミーナイフを取り出した。その刃は日の光を反射して鋭い光を放っている

 

 「さっき俺は、艦娘は深海棲艦に対抗しうる唯一の兵器と言った。それがどういうことかわかるな?」

 

 「通常船舶が深海棲艦に攻撃を当てるのは不可能......ということですか?接近して打撃を与えるための艦娘......とか?」

 

 「半分正解だ。だが、通常船舶の攻撃云々については説明を省く。とにかく、俺がいって欲しかったのは、艦娘が深海棲艦の砲弾に耐えられるってことだよ。

 

 本来、生身の人間であれば駆逐艦の砲撃に触れただけで肉片になるが、お前達の体はそうならない。少し服が破れるか、擦り傷、火傷を負うか。その程度ですむ」

 

 そこまで言うと提督はアーミーナイフを手に持ち、机に乗せていた電の右手に振り下ろした。

 

 甲高い金属音と共に、アーミーナイフの刃は根元からへし折れ空を切って回転し、フローリングの床に突き刺さった。

 

 電の皮膚に一切の傷がつくことはなく、電も先程のナイフを危険な物だと認識していなかった。

 

 「よって、常人よりも肉体が頑丈だ。あり得ないレベルまでな」

 

 提督は折れたナイフの歯を拾い上げ、柄といっしょに透けたビニール袋の中に入れて机の上に置いた。

 

 「つまり、俺が言いたいのはこうだ。艦娘は機械じゃない。だが、人間と定義付けるには身体能力に違いがありすぎるんだ。言葉が悪いが、一般人から言わせてみればバケモノってレベルだ。だから俺はあえて艦娘を人間だとは言わない。例えば電。お前なら、片手どれくらいまで持てるか?」

 

 「う〜ん。遠征とかで運ぶコンテナがだいたい4tですから......片手で2tぐらいですかね......?いや、それでもまだ楽なほうだったりしますので、もしかしたら3、4tまでなんとかなるかもしれないです」

 

 「その馬力からしてケタ違いだ。普通の人間であれば、せいぜい50、60kgが限界だ。体を鍛えぬいた巨漢なら100kgレベルの物も持ち上げることができるかもしれないが、1tまで行くと機械が必要になる」

 

 提督がこう言っても電にはあまりイメージが湧かなかった。

 キログラム単位の物が重いという概念が電には無かったからだ。

 

 「まぁ、そういう物だと覚えておいてくれ。とにかく、外の世界では電の常識は通用しない。それだけでも自覚しておいてくれ」

 

 

◼︎◼︎◼︎

 

 

 東京 秋葉原

 

 大型電気量販店が立ち並ぶ電気街。

 

 巨大スクリーンが編み出す多数のネオンと明るい曲調の楽曲が編み出す特殊な空気の中、少女が一人。プリントアウトされた地図を片手に周囲をキョロキョロと見ながら歩いていた

 

 このような街に外見年齢10歳程のいたいけな少女が一人で出歩くのも珍しく、そのそばを通り過ぎた者の大半は振り向き首をかしげることになる。

 

 しばらく進むと、どうやら目的の場所を見つけたようだ。

 

 少女が入っていく建物の玄関には「小松プロダクション」の文字が刻まれていた

 

 

 

 

 

 「失礼しま〜す?」

 

 少女がドアを開けると、薄いオレンジを基調とした明るいオフィスが出迎える。

 

 オフィスに入ると、旅客機のCAのような服装の女性社員が少女の元に寄ってきた。

 

 「こんにちは〜?どうかしたのかな?」

 

「あ、えっと……。昨日、こちらに連絡を入れた常盤ですけど……」

 

少女は「常盤」(ときわ)と名乗った。

 

「あれ?それじゃあ、貴方が末沢さんの中学時代の同級生?」

 

少女は静かに頷いた。

 

「失礼ですが、今お幾つで……?」

 

「26です。見えませんよね……」

 

少女は"わざと"暗い顔をする

 

「あぁ、すみません。えっと……では、こちらにどうぞ……」

 

CAのような服装の女性社員は申し訳なさそうな表情を浮かべ、その少女を案内した。

 

彼女に非があるわけではない。150cm代の少女を見て誰も20を超えているなんて思うはずがない。

年齢を確認した後、大概の人間は 成長疾患者だと勘違いして対応が丁寧になる。

 

逆にそれで都合が良かったりする。

勿論、26という年齢は嘘だが。

 

応接室で待つよう言われた少女はテーブルに用意されていた煎餅をまじましと見つめ、約束をつけていた人物の到来を待ちわびていた。

 

応接室もやはり薄いオレンジを基調とした壁紙があり、椅子が並べられ、化粧台が幾つも並んでいる。

 

部屋の隅には薄型24インチのテレビも置いてある。

まさしく「芸能事務所」といった感じだ。

 

 

 さて、しばらく経つとオレンジ色に塗装された扉が音を立てて開いた。

 

 オレンジ色のワイシャツに黒いネクタイ。フリフリのついた短いスカート。ふくらはぎから伸びる黒いニーソックス

 

 今、芸能界を賑わせているトップアイドルグループ「free's!!」のセンター。

 末沢 梨香子(まつさわ りかこ)がそこにいた。

 

 平均年齢 18歳と言われるアイドル業界に荒波を立て、話題となっている26歳。

 

 20を超えている様に思えないほど混じり気の無い笑顔、独特なキャラクター、ギャップと凸凹のありすぎる特徴的なグループメンバー。

 

 芸能界では引っ張り凧となっている存在だ。

 

 

 

 そんな今、テレビを賑わす有名人が少女の目の前で固まっていた。

 

 誰もを魅了するトップアイドルの表情は驚きの一色に染まり、声が出せないでいた。

 

 暫くの沈黙が二人の間を流れる。

 

 少女は目の前のトップアイドルが口を開くまでその顔をジッと見つめていた。

 

 ようやく梨香子が口を開く

 

 「い、電ちゃん!?」

 

 その口から放たれたのは、決して周囲に明かすことの無い少女の本来の肩書き。

 

 それもその筈

 

 電は立ち上がって言った

 

 「那珂さん、お久しぶりなのです!夢、叶えたみたいですね」

 

 川内型軽巡洋艦三番艦「那珂」。通称、艦隊のアイドル那珂"ちゃん"

 

 元第三艦隊所属、電と同期で艦隊に着任、その後三ヶ月で解体される......という伝説レベルの早業で沖ノ鳥島鎮守府を去った軽巡洋艦。

 

 言うまでも無いが、鎮守府内でアイドルと呼ばれていたのは彼女が自称アイドルとして時たまゲリラライブを広場で行っていたからだ。あまりにも早期で出ていってしまったので、それを見たことのある者は電を含めてもごく少数だが、「アイドル」という通称が彼女のアイドル業を揶揄した呼び名だったということは紛れもない事実だ。

 

 そんなアイドル擬きだった少女は、いまや名を出せば万単位の観客が押し寄せる程のトップアイドルへと成り上がっているのであった。

 

 勿論、普通の人間として。

 

 「久しぶりぃ〜!どうしたのイキナリ!? 中学時代の同級生って聞いてたけど、中学時代とか無かったし誰かと思ったよ!」

 

 那珂は勢いつけて電に抱きつき、右手で電の髪の毛がクシャクシャになるまで撫で回す。

 

 「テレビ点けたら那珂さんが映っていたのです。それで、事務所調べて電話して、学生時代の同級生とか言えば大丈夫なのでは無いかと思って申し入れしたのです!」

 

 「ほほぅ。電ちゃんも随分と狡賢くなりましたねぇ。これも提督の入れ知恵ですかぁ?」

 

 「そ、そんなことないのです!」

 

 電は口を尖らせ、オドオドとした口調で那珂に反駁を送る。

 

 そんな、昔から変わらない電を見て、那珂は安心したように微笑むのであった。

 

 

◼︎◼︎◼︎

 

 「ここは......なんですか?」

 

 那珂が電を芸能事務所から連れ出し、来たのは薄暗いレストランのような所だった。大きなカウンター席の内側では黒いスーツを着た男性が洗い終わったコップを拭いていた。

 

 「私イキツケのバーよ!あ、四人で、いつもの席に......」

 

 那珂がカフェバーの店員に言いつけると、二人は店の奥へと案内された

 

 「......ん?四人?他に二人いるのですか?」

 

 「そうだよ〜!あれっ?言ってなかったっけ?」

 

 「聞いてないですよ?」

 

 「そうですか......。むふふ〜!ビックリすると思いますよ〜!」

 

 疑問符を頭いっぱいに浮かべる電は那珂と共に人目につかない個室の座席に案内された。

 

 既にそこには小さいお皿に盛られた料理が並べられており、先客が二人座っている、その様子が薄いカーテン越しに見ることができた。

 

 「リカちゃんおっそ〜い!もうお昼ご飯きてるよ〜!」

 

 先客のうち一人が椅子から立ち上がり、那珂の名を読んだ。梨香子の子の字を切り落としてリカちゃんと呼んでいるのだろうと電は瞬時に理解した。

 

 それにしても聞き覚えのある声......

 

 「サヨちゃんごっめ〜ん!例の同級生連れてくるのに時間かけちゃったぁ〜!」

 

 那珂が元気いっぱいの声で返事を返し、かかっていた薄いカーテンを開け放った。

 

 「あっ.......」

 

 ある程度予想はしていた電だったが、思わず驚きの声を上げてしまう。

 

 「ぅおあぁ!電ちゃ〜ん!ひっさっしぶり〜!」

 

 目の前にいる電に向かってブンブン右腕を振るのは、川内型軽巡洋艦の一番艦「川内」(せんだい)。通称かわうち、又は夜戦バカ。

 

 そしてもう一人。

 

 「あれ?電さんじゃないですか!お久しぶりです!」

 

 川内が騒いでいる中、一言も声を発さずに食べ物に手をつけていたのは同じく川内型軽巡洋艦の二番艦「神通」。通称はつけられていない。

 

 那珂と同期で解体されたのは那珂だけではない。同じ川内型である二人も解体されたと聞いたことがある。

 

 そしてこの二人も「free's!!」のメンバーだ。ユニットはこの三人で構成されており、二人組ユニット、五人組ユニット、大勢で構成されるアイドルグループが多い中でも稀な人数構成である。

 

 しかも、アイドルグループとして活動を行っているのにも関わらずそれぞれが多方面で自由に活動しており、三人それぞれに一つずつテーマ曲がある。

 

 その為、ソロでライブを行うこともあれば、タッグを組んだり、三人全員のグループライブがあったりと多種多様な方式で歌を歌う。

 

 これもそれぞれのキャラクターの差が生み出した画期的な方式であり、それぞれのライブにはそれぞれ独特な空気が生み出される。

 

 目の前でおちゃらけた会話を繰り広げるかつての戦友は、既にアイドル界の頂点。凡人には会いめぐり合うことの出来ない人物達だ。

 

 「そういえば皆さん。今日はライブとか......アイドルとしての活動はどうされてるのですか?」

 

 電は目の前に運ばれて来たサラダに手をつけながら、最初から気になっていた質問をぶつけた。

 

 「あ、今日は珍しくおやすみなんですよ」

 

 最初に口を開いたのは神通。

 

 「いつもだったら早朝から深夜まで空きなんて無いんだよ〜!電ちゃん運イィね〜!」(※ 駆逐艦 電 (改) 『運』12point )

 

 次に答えるのは川内。

 

 「サヨちゃ〜ん!さっきからそこのお水取ってって言ってるんですけどぉ〜?」

 

 会話に参加しない那珂。

 

 それに応じて水差しを回すのは神通。

 

 「あ!それ今使うの〜!」

 

 と水差しの移動を止めにかかる川内。

 

 「もうそろそろ次の料理が来ますよ?......あ、これお願いします」

 

 歪み合う二人に注意を促しつつ、空になった皿を礼儀正しく店員に渡す神通。

 

 

 この場を表現するのに相応しい文章があるとすればこうだ。

 『みんなやりたい放題』

 

 度が過ぎるような意味に取られてしまう気がするが、これ意外に思い浮かぶ物はない。三人は自由で、自由で、ただひたすら自由だ。

 

 午後一時頃に入店し、昼食を食べるだけの筈だった御食事会は何時のまにか女子会へと変わる。

 

 

 日が暮れ、お店でアルコール飲料の販売が始まる時間になっていた。

 

 「あぁんのプロデューサーの野郎がぁ!今度という今度はとっちめてやるぅんだからぁ!」

 

 「リカちゃん......飲み過ぎ」

 

 仕事の愚痴をこぼし始めた那珂に対し、神通は冷静に注意を加える

 

 「コトちゃんはぁいぃよなぁ!お酒強くてぇ!」

 

 「あれ、オレンジジュースですよ?」

 

 騒ぎ始めた川内に的確なツッコミを加えるのは、初めて飲むジンジャーの味に感動する電。

 

 こんなやりとりのループを小一時間見つ続けていた電は疑問に思う事があった。

 

 「そういえば皆さん。ここの世界でのお名前は何なのですか?」

 

 先ほどからサヨちゃんとかコトちゃんとか。そういったあだ名が目立つ。

 

 「そういえば、私達。まだ名乗って無かったですね」

 

 唯一酔いの回っていない神通が電に返事をした。

 

 他の二人は......お察しの通り。

 

 「那珂さんは......あ、もう芸能事務所で聞きました?......えぇっと、川内さんの名前は『荘司 小夜』 (しょうじ さよ)さん。小夜さんだから私達はサヨちゃんって呼んでるの。それで、私。神通の名は、『佐藤 琴音』 (さとう ことね)です。琴音なのでコトちゃんと呼ばれています」

 

 「あぁ〜。そういうことなのですね!」

 

 神通の丁寧な解説に電は納得せざるをえなかった。

 

 「あっ、ところで神通さんはお酒とか飲まれ無いのですか?」

 

 オレンジジュースを飲む神通に電は質問を投げかけた。

 

 「あ、私ですか?飲めない事は無いですけど、私まで酔いつぶれたら何方があの二人を持って帰って下さるのでしょうか?」

 

 そうして神通は表情を変えずに、右の拳をグーに握るのだ。

 

 見ると、先程まで五月蝿かった那珂と川内はすっかりと睡魔相手に敗北。ぐっすりと眠ってしまっていた。

 

 電は苦笑いして「いつもお疲れ様......なのです」としか言うことが出来なかった。

 

◼︎◼︎◼︎

 

 冷たい海風が吹き付ける夜の沖ノ鳥島鎮守府。

 

 その鎮守府にある甘味処「間宮」では今夜も幾人かの艦娘が夕食を食べたり、自由気ままにお喋りしたり......それぞれの時間を過ごしている。

 

 そんな店内では、カウンター席に並んで座る提督と金剛の姿があった。

 

 金剛は日本酒のおちょこを口に運びながらふと呟く。

 

 「提督って割と自分勝手な部分ありますよネ」

 

 「そうか?......もしかして金剛。昨日、俺が資料の整理をお前に丸投げしたこと。まだ怒ってるのか?」

 

 「そいう事じゃ無いデス。いや、それもありますけど......」

 

 金剛はそう言ってしばらく黙ってしまった。

カウンター席に並んで座る提督と金剛の間の空気が少しばかり重くなる。

 

 「ん?何か言いたいことでもあるのか?あるんだったら言ってもいいぞ?」

 

 提督は湯気を上がるコーヒーの入ったマグを持ち、それを啜る。

 

 「......どうして電さんを解体したのですか?彼女も元第一艦隊二番艦ですよ?彼女が消えただけでも鎮守府の戦力が大きく損なわれる事になるのは提督もご存知ですよね?彼女が一体何をしたって言うのデスか?」

 

 「......艦隊を危険にさらした」

 

 「ですが、そのおかげで大きな戦果を得ることができました。彼女から学ぶ事も出来ました。それに、前回の遠征中の会敵騒動も、あれのお陰で妙な取引も阻止できたし、結果として艦娘も.........」

 

 ふと......ずっと金剛の中でずっと引っかかっていたものがわかってしまった。

 

 「もしかして提督......。初めからこれを狙って......?」

 

 何故かあの日、あの時間に電自信が計画した遠征。

 それを許可した提督。

 都合良くゲットできた証拠写真。

 情報が筒抜けだったロシア鎮守府。

 そして、多額の報酬と戦力の拡大。

 

 この流れの要因を作り出したのは一見してみれば電自信が計画した遠征に見える。

 

 だが、全てを知った上で提督が電を誘導していたとすれば......どうだろうか。

 

 

 あらかじめロシアの鎮守府に響と暁を中に潜り込ませる。

 

 事実を明らかにした後、電に何かしらの方法を使ってあのタイミングで響と暁があの海域を通ることを示唆する。その後、二人の名を意識させた上で遠征を計画させる。

 

 恐らく、深海棲艦との会敵は想定の範囲外だったろうが、提督にして見てば色々とやり易くなったわけだ。

 

 後は相手を適度に脅して資材と人員を搾り取る。

 

 その後に、艦隊を危険に晒したとして電を解体。

 

 この様な筋書きが金剛の中で組み上がっていった。

 どうりで私の調査も捗った筈だ。(実際にほぼ半日で終わった)

 

 しかし一つ。この筋書きには欠点がある。

 そもそも電の解体によって得ることのできる利点が提督に一切無いことだ。

 

 これに関しては金剛も考え出すことはできず、提督自信の言葉で確認したかった。

 

 だが、まずはこの仮説が的を射ているのかどうか。

 それが知りたかった。

 

 そして提督は一言。

 

 「金剛......。お前、今更気づいたのか?」

 

 金剛は、自分の背中に艤装がないことに少し後悔した。

 右手の拳を握りしめる。

 

 「それは、戦力と報酬を得る為に電を使ったということですか?」

 

 静かな怒りをふつふつ沸かせる金剛に対し、提督の反応は意外な物だった。

 

 「金剛......なんか勘違いしてないか?」

 

 「......へっ?」

 

 「電の解体は今回の件とは一切関係無い。あの深海棲艦との遭遇も事故だ。流石の俺も他人が死にかけるようなシナリオを強行させるつもりはない」

 

 「じゃあ何で......」

 

 「それはまだお前には関係無い。それに電だって完全にここから追っ払ったわけでは無い。1年すればどうせ帰ってくるだろ」

 

 そう言って提督はまたコーヒーを啜る。

 

 金剛は何がなんだが分からなくなっていた。この提督が何を考えているのか毎度毎度、さっぱり検討がつかない。

 

 「ちょっと......飲み過ぎたみたいです。先に失礼しますデス......」

 

 金剛は頭を押さえ、ヨロヨロとした足取りで甘味処「間宮」を出て行った。

 

 「......あいつ、一本しか飲んで無いよな。そんな酒弱かったか?どうだ鳳翔?」

 

 提督は目の前でお皿を洗っている鳳翔に声をかけた。

 鳳翔は皿を洗う手を止め、少しの間の虚空を見つめる。

 

 「いや、金剛さんなら3、4本ぐらいお飲みになっていたと思います」

 

 そう呟いた鳳翔は空になった日本酒の小瓶と、それまで金剛が食べていた焼き鳥などの皿をを取り、流し台にそれを置いた。

 

 桂提督はしばらくの間、コーヒーを啜りながら考えを巡らせていた。

 

 そして、何かに気がついたように目を見開き、突然椅子から立ち上がる。

 

 「あいつっ!?飲み代払ってないだろ!?」

 

 こうして桂提督は思わぬ場所からの不意打ちを喰らうのだった。

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