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あ、ありのまま、いま、起こったことを話すぜ……!
『濡れた家』みたいな名前のやつにレースでボッコボコにされていたかと思えば、また日本に馬転生していた……!
な、なにを言っているかわからねーと思うが、俺はほんとに直前まで『濡れた家』みたいなヌルっとした名前の馬にボコられていたんだ。
明確に骨折したとか、火だるまにされたとか、そんなチャチな死に方じゃあ、ないぜ。
もっと恐ろしいものの片鱗を──
味わう以前にどう死んだのかわからん。
エッていうかほんとに死んだ?
死んだ自覚もないまま次の転生きちゃったが……いや、思い返したらよくあることだしいいか。
気づいてたら死んでた、とか馬転生者あるあるだからな、ウン。
誰しもが通る道よ……。
「シンちゃん、あそぼー!」
お、はいはい、ちょっと待ってね。
よっこらショーイチっと。
「きょうは、あそぶまえに、さんぽ、つれてったげるわ!おねえちゃんだから!」
おうおう、ありがとよオネエチャン。
……ん?お前、人と関わるつもりなかったんじゃないか、って?
ばっきゃろー、相手はいたいけな幼女だぞ。
さすがに幼女をガン無視するほど人間、いや馬として腐ってねえわ。
しかもこの子、生まれつき身体弱いみたいだし。
人間だったころの自分と重ねたわけじゃないけど、こういう年ごろで、周りに同世代がいないとなかなかさみしいモンなんだよ。
オネエチャンの感じるさみしさとはちょっと違うけど、その感情は俺にも覚えがある。
俺はオネエチャンよりさらにチビの頃から入院してたけど、筋肉に影響が出る病気だったから他の子とも遊べなかった。
みんなが多目的ルームで花札やベイゴマ、おはじき、あやとり……なんか思い出すと渋い遊びばっかりだな、ウン、まあいろんなので遊んでいるのを見てるだけの毎日。
ぶっちゃけつまらんかったよな。
院内にある本をかき集めて病室に積み上げて『は?いや俺は読書してるほうが楽しいですしおすし』なんて言って。
まあ強がってました、ハイ。
でもそんな俺にも『弟』がいた。
そいつは俺より2つ下で、そんで俺とは真逆の健康優良児で、病気はおろか風邪ひとつ引いたこともない。
1回通学中に車に跳ね飛ばされたらしいけど、無傷でぴんぴんしてたって後から聞いた。
その弟がほとんど毎日のように俺の見舞いに来てたんだよな。
他に友達いないんか、って言ったらそいつらとは学校で会えるから俺と遊びたいって言う。
小学生なんだから放課後もドッジボールとかせえよ、とか思ったけど、俺も特に用があるわけじゃない。
友達の多い弟と違って俺の交友関係は狭かった。
本当にチビの頃は同じ病棟にいる同世代と遊んだりもしたんだけど、まあ入院してるからには大なり小なり何かしら抱えてるわけで。
場合によっては『また明日ね』がない。
3人くらい友達が天国に旅立つのを見送ってからは、誰かと関わるのはつらいだけだと悟ったね。
仲良くなっても明日がないんじゃ意味がない。
別れに立ち会うのも心が痛いだけなら、最初から仲良くしなけりゃいいんだ。
無限馬転生状態の今も、その考えは変わらない。
むしろ強くなったと言ってもいい。
仲良くなったと思った人間に殺されたり、一緒に駆け回って遊んだ仔馬が脚折れて処分されたり。
戦場に駆り出されてた頃はもっと酷かったなあ……。
傷つくくらいなら関わらない、心を預けない、預からない。
これ、馬転生をスムーズに熟すテクニックです。
今回の馬転生でも、今までと同じように生産者に過剰なスキンシップを取らない、ごはん貰うときや部屋を掃除してもらう以外で世話役に近づかない、を徹底するつもりだったんだけど。
……どうしてか、俺がどんなに素っ気なくしてもオネエチャンが諦めてくれそうになかったので。
気づけばお散歩とかおしゃべりとかおままごとに付き合うようになってた。
俺ってやつは、何かあったときにしんどくなるのは自分なのになあ。
来世こそ徹底しなきゃ。
そう思いつつ、小さな口で懸命に話すオネエチャンを見た。
オネエチャンは大人たちには『静かでおとなしい』なんて言われてるけど、こうしてたくさん話すのを見ていると、本当ははしゃいだりするのが好きなタイプなんだろう。
そもそもオネエチャンは入院こそしていないものの、その虚弱っぷりからほぼ家と病院を往復するだけの毎日だ。
当然、同世代に会う機会はほとんどない。
仮に会えたとしても、制限の多いオネエチャンがその子らとまともに遊べるか、と言ったらまあ、無理だろうな。
オネエチャンの身体の弱さは周知の事実だし、同世代の子らは親からそれを言い含められてるだろう。
万一のことがあってはいけないから、遊ぶにしても常にオネエチャンの事を気にしたり、配慮しながらやらなくちゃいけない。
そんなの、オネエチャンもその子らも楽しくないじゃんね。
お互い気まずくなって交友関係が途絶える……そんな気がするわ。
せめて両親が積極的に遊んでくれるタイプなら、と思うが、まあ俺がここにいる通り、オネエチャンの実家は牧場なわけでして。
牧場経営してる両親が暇してるわけがない。
でっけえ牧場ならまた違うんだろうけど、見た感じだと家族だけで営んでる牧場っぽいし。
オネエチャンにはほかの兄妹もいないみたい。
だからなし崩しに俺が相手になってるんだが。
一応ね、俺以外にも馬はいるにはいるんだけど……所有者の話を盗み聞きしたところ、どうも所有してるのは俺だけで、ほかの馬は預かってるだけらしい。
いつかは返さなきゃいけない馬たちを遊び相手にするわけにはいかないからね、仕方ないね。
「……あのねシンちゃん」
フンフンと鼻を鳴らしながら歩いていたオネエチャンが立ち止まる。
なんだいオネエチャン。
あ、ちなみに俺がずっとオネエチャンって呼んでるこの幼女の本名はユメちゃんだ。
漢字にしたら『夢』になんのかな?
精神年齢的に俺のほうが年上で間違いないんだけど、どうもずっと弟が欲しかったみたいで姉を自称してくる。
ので、それに合わせてオネエチャンと呼んでるのだ。
馬が弟とか激ウマギャグでしかないので、ユメちゃんパパこと俺の所有者には奥さんとふたり、第2子に向けて励んでほしいところである。
はよ本当の弟か妹を作ってやれ。
「シンちゃんねー、もうすぐおねえちゃんとね、バイバイなのよ」
あー、あれね、あれでしょ、入厩ってやつね。
俺もこっちに馬転生して2年ちょっと。
生まれた年に1歳と数えるらしいので今は3歳なんだが、そろそろ競馬場に行く頃合いだ。
ウタワカの時は京都、ライブアゲインの時は東京の競馬場に移動した。
はてさて、今回はどっちの競馬場か、はたまた別の競馬場か。
どこに入るんだろうな。
俺がのんきにそう考えていると、オネエチャンの目がうるうると潤みだした。
お、なんだ、泣くか?
ちょい待ち、いま耳を伏せるから。
「シ゛ン゛ち゛ゃ゛ん゛ん゛」
ん~、クソデカボイス。
しゃくりあげるオネエチャンが俺にしがみつく。
これ絶対あとで水浴び確定だわ。
だが俺は身体を動かさず、オネエチャンにされるがままじっとしていた。
馬の3歳と幼女じゃ対格差がありすぎるんで……俺がちょっと身体ゆするだけでオネエチャンが吹っ飛ぶかもしれんし。
人間に危害を加える動物は害獣として処分になっちゃうのでね。
馬転生するみんなも気を付けよう!
「シ゛ン゛ち゛ゃ゛ん゛……い゛っ゛ち゛ゃ゛や゛あ゛……っ」
そうは言うても。
こればっかりはしゃーないんだわオネエチャン。
俺も『とっとこ~!走るよシン太郎~!』しないといけないんでね……それ用に生まれてますんで、一応。
あ、走らなくてもいいなら走らないんですけど。
むしろ牧場の隅っこでペットみたいな感じで大往生させてほしいくらいなんだが。
まあこれまでの転生経験を振り返ると絶対無理だけどな!
どうせ最初っから走る以外の選択肢なんてないわけでして。
でも今世の所有者が優しそうなおっちゃんとその家族でむしろ当たりっていうか。
恵まれたほうといいますか……前にさあ、生まれた時からロクに世話もやかなかったってのにバンバン走らせるやべーのに当たっちゃったことがあるから、それと比べると大抵のことはハッピーなんよね。
っていうか戦場に比べればなんでもマシなのでは?
でもあれだ、マジでそいつは最悪だった。
フツー脚が折れて骨むき出しの馬を放置するかっての。
祟ってやろうかと思っちゃったじゃん。
まあ怨霊になる間もなく馬転生しちゃうんだけどな!
「夢、また泣いてるのかい」
「お゛と゛う゛さ゛ん゛ん゛」
所有者やん、チッスチッス。
あれま、せっかくのスーツがオネエチャンの鼻水で……。
お疲れ様ですわ。
オネエチャンが所有者に駆け寄っていったので俺の紐はフリーになったのだが、俺は人入りの馬なんでね、もちろんここから駆け出したりしないんで安心安心。
そのままオネエチャンを抱っこしててもらえます?
泣き止んでから俺の紐を握ってもろて。
馬ってめっちゃ耳いいから、オネエチャンの泣き声すっごい響くんだわ。
俺との別れを惜しんで泣いてるのはわかるんだが。
それはそれ、これはこれでして。
「いいかい夢。シンはね、美浦に行って、立派な競走馬になるんだよ」
「わ゛か゛っ゛て゛る゛も゛ん゛」
「じゃあどうして泣いてるんだい?」
「た゛っ゛て゛え゛……シ゛ン゛ち゛ゃ゛ん゛は゛ま゛た゛あ゛か゛ち゛ゃ゛ん゛な゛の゛に゛~~!!」
赤ちゃんて。
……いや、赤ちゃんなのか?
馬の1歳が人間換算でどれくらいなのかはわからないんだけど、乳離れが済んだ瞬間から大人かと思ってたわ。
でもオネエチャンは今5歳くらいだっていうし、5歳からしたら3歳は赤ちゃんかも。
俺の中身は3桁超えだけどな!
「夢はシンのことが心配なんだね?……それじゃあ、夢が心配しなくていいような名前を、シンにつけよう」
ここで名付けのタイミングか。
前回日本にいたときはライブアゲインだったっけ。
あの時はスルーしたけど、名前の由来が『何度でも生き返る』ってやかまし!
俺が馬転生繰り返してんのバレてんのかこれって思ったな。
いやタケロープよりはマシなんだけどさ。
いくらタッちゃんに似てたからってホープとロープは音以外似てるとこないからな!?
まだ最初に日本に転生した時の名前、ウタワカのほうが格好よかった。
今回もアレの路線で名付けてほしい。
いっちょ頼みますわ所有者。
「夢が心配しなくていいように……そうだな、シンは今日から── ユメシンパイスルナ、だ」
えっ。
「カッコわるい……」
それな!!!!
ハイ、どうもユメシンパイスルナです。
オモシロネームっていうか珍名っていうか。
まあこんな名前ですけどパッパカ走らせてもらってます、ハイ。
「テキ、準備できました」
「おう。じゃあルドルフも出して、いつも通り併せるぞ」
「はい」
ん、出番か。
部屋の扉をあけてもらってレッツゴー馬場。
俺も美浦── トレーニングセンターってところに入って早2年。
ライブアゲインとかウタワカの頃は競馬場内に厩舎があったのだが、今はトレーニングセンターという施設内にたくさんの厩舎がある。
俺はそのなかでも比較的デカめの厩舎に入ったらしい。
最初の1年はいい感じにスタートを切って、これは俺の時代がキター!と思ったのだが、同世代にバケモンみたいなつよつよウッマがいて無理だった。
やばくてヒィヒィ言ってたらいつの間にかそいつ、シンザンみたいに三冠馬になってたよね。
最後方走ってたのに、ゴール手前で抜かされたのマジで意味わからんすぎる……こわひ。
結局俺が調子が良かったのもデビューした1年目くらいで、デカいレースにもたくさん出たけど勝てずじまい。
でもでも、今回の身体は当たりだ。
どんなにレースに出まくっても特に疲れないし、痛みもでないし。
渇望してたつよつよボディが手に入ったのだ。
こりゃ今回こそ長生きして馬転生ストップするかもしれん!
もしかして俺がオネエチャンとうっかり仲良くなっちゃったのもコレの前触れ?……勝ったな!
ちょっくら年下の練習相手にでもなってやりますか、っと。
「──……で、どうだ?」
「調子いいですよ。やっぱりこの馬と併せるほうが整いますね── ルドルフは」
ボッコボコにされた。
やっぱこの馬……強すぎィ……!
「ルドルフもいよいよ最後の一冠。ここが取れたら……史上初の無敗三冠馬だ。万一にもここを落っことしちまったら……はあ……」
「テキ、何弱気になってるんですか!獲れますよ、ルドルフなら!」
「そうか……そうだな、こいつなら!」
あ、いい感じに盛り上がってるところスマンがコイツを俺から引きはがしてもらえません?
練習相手になるのはいいんだけど、最後はいっつもこう……俺に張り付くんだわ。
まあまだ4歳だからね……俺の圧倒的包容力を前に甘えたくなる気持ちも、まあ、理解できます。
それはそれとして助けてくれ、そろそろ跳ね飛ばしそう。
他馬と揉めた時、相手馬が怪我なんかしちゃうと……場合によっては処分されてしまうって俺、知ってます。
「それにしても。……ルドルフはほんと、シンに懐いてますよね。とんと愛想ないのに」
「ルドルフの隣の部屋にしてもストレスにならんのは、まあコイツだけだったからな。その安定感が良いんだろう……コーナリングもだいぶ改善された」
「こんだけ併せてるんだから、シンもそろそろデカいとこ獲ってくれたらいいですね」
やかまし、馬にも得意不得意があるんやぞ!
俺はデカいとこは無理でも一般的なレースならキッチリ稼いでますんで。
「……テキ、そろそろ戻していいですか」
「おお、オミ。いいぞ、戻してやれ」
アイツの世話してるスタッフ、悪気がないのはわかるけど、その天然さゆえか……俺の世話してるおっさんがイライラしちゃってますわ。
落ち着けおっさん、イライラするより先に俺を部屋に戻してくれ。
ついでにコイツに、ボーちゃんにぶっかけられた砂を落としてくれや。
……あ、ちなみにボーちゃんってのはコイツ── シンボリルドルフのあだ名な!
シンボリルドルフなんて贅沢な名前だねえ!
こちとら『ユメシンパイスルナ』だぞ!?
ルドルフってだけで格好良すぎる……うらやましい……これは別に嫉妬じゃないけど、シンボリの『ボ』をとってボーちゃんと名付けました。
某ケツ丸出し幼稚園児の友人とは別人、ならぬ別馬なのであしからず……。
最初はカザマくんにしようと思ったなんて俺だけの秘密だゾ!
「お前は職人や……ストイックな男。チャラチャラしたやつらとはちゃう。他馬なんか気にする必要ない。いつも通りでええ、いつも通り、走り切ったらええんや」
おっさん、俺といるときだけ関西弁だよな。
ま、わざわざ忠告されんでもキッチリ走るよ。
なにせオネエチャンの治療費とかも稼がなきゃだし……ゆくゆくは俺の余生にも繋がるからな。
俺も5歳。
ライブアゲインの時も5歳まで生きたし、これを突破したら年長記録更新するんじゃね?
馬がだいたいどれくらいで引退するかはアレだけど、たぶん2桁は走らんだろ。
あと2、3年くらいしたら引退するはず。
そん時に『こいつはユメの治療費も稼いだし余生の面倒みてやろう』って思えるくらいには稼いどかないと!
ん?なに?現時点の俺の獲得賞金よりもボーちゃんの獲得賞金のほうが上……?
ウッ頭が……ッ!!
「シリウスシンボリもダービーを制した……やっぱり、この馬は『持ってる』ぞ……!」
あ、このにんじんと四角い砂糖、差し入れっすか。
あざーっす!
ボーちゃんの所有者に敬礼!
「とうとう2頭目のダービー馬を出しちまったなァ、シン。お前が人間だったら、きっと調教師が天職だ。馬なのが惜しい……いや、馬だからこそ、この結果をだしてくれたのか……?」
めっちゃ褒めるやん。……褒めてんのか?ウン、褒めてることにしとこ。
さて、俺も6歳になった。
そう、年長記録を無事更新したのだ。
ヤッタネ!
相変わらずデカいレースは勝てないけど、毎月レースに出て賞金は稼いでる。
オネエチャンも順調に治療が進んでるらしく、この前は俺のレースを競馬場で応援してた。
あのちっこいオネエチャンも今や小学校の2年生。
時の流れってのは早いですなあ。
ボーちゃんもデカいレース勝ちまくってブイブイ言わしてるし。
っていうか『持ってる』っていうならそれはボーちゃんの所有者のほうじゃね?
今年のダービーっていうデカいレースに勝った馬も、ボーちゃんと同じ所有者の馬なわけじゃん。
ソイツの名前は『シリウスシンボリ』っていう、これまた格好良い名前でしてね。
もうボーちゃんってあだ名使っちゃったわ……ほかのあだ名も思いつかなかったんでそのままシリウスって呼んでるけど。
この馬がちょっと暴れ馬っぽくて、よく蹴ってくるので1回だけ腹が立って尻で跳ね返したことあるんだよ。
やばい、しくった、これでこいつ怪我したら処分されちゃ~う!なんて思ったんだが、ギリギリのところを耐えて脚じゃなくて尻で蹴ったからか、なんとか怪我をさせずに済んだ。
あとなんか次からは俺を蹴らなくなった。
ほかの馬のことは相変わらず蹴っ飛ばしてるらしいけど、まあ俺を蹴らないならなんでもいいです。
「和久さん、シンをシリウスに帯同させたかったらしいですね」
「ああ……だがシンは沖上さんの馬だ。向こうで長期遠征させる旨味は、今の沖上さんにはないからな。こっちで連闘させるほうがまだ稼げる」
帯同っていうのは付き添いとほぼ同じ意味らしい。
シリウスはダービーの後に海外レースに出走してて、最初はその付き添いに俺が指名されてた。
でもまあ、向こうのレースで俺が勝てるとは限らないし、税金とかもろもろ考えると一緒に行く意味ないらしいよ。
飛行機とかの費用も馬鹿にならんだろうし。
俺が海外に行くことはなかろう。
それに今世海外に行かなくってもどうせそのうち向こうに転生するだろうし。
これまでも何回も転生してるしな!
あと調教師が言う通り、こっちのレースをパッパカ走ったほうがマネー的にお得なわけだ。
ということで、俺はボーちゃんの練習パートナーしつつ、今月も元気に出走である。
今回も稼ぐぞ~~!!
7歳である。
最長記録更新その2~~!!
いやあ、これはもう決まったでしょ。
今世で無限転生ともおさらばです。
ありがとう丈夫なボディ。
「クソッ、なんもかも……勝手すぎるわ……」
どうしたおっさん、またイライラしてんのか?
相変わらず短気だなあ。
いや、おっさんは仕事をきっちりしてくれるタイプだからいいんだけど。
必要以上にペタペタ触ってこないし。
「オミ、わかってるとは思うが」
「ッはい。今までと変わらず、キッチリ、しっかり、シンの面倒は俺が見ます」
「いちいち環境に左右される馬ではないが……頼んだぞ」
「はい!」
あ、そうそう、今世では海外にいかないと思ったが、どうやら行くらしい。
どうも今回はルドルフ、あっ間違えた、ボーちゃんが海外レースに出るらしくて、その付き添いだ。
調教師は前に所有者に旨味ないとか言ってたけど、俺が行くことになったのはオネエチャン絡みっぽい。
今まで国内で治療してたオネエチャンが、いよいよ根本的な治療のためにアメリカで手術を受けることになった。
その病院とかをボーちゃんの所有者経由で見つけたらしく、お礼とかも兼ねてるとかどうとか。
遠征費もボーちゃんとこが持ってくれるっていうから、ほぼ無料なのも遠征に行かせる決め手なんじゃない?
何はともあれ、俺は懐かしの── いや全然懐かしくないけど、アメリカに行くことに。
この身体で向こうの馬場を走ったことはないけど、記憶はあるしなんとかなるなる!
おそらく、たぶん、メイビー!
「シン……ッ」
クッソ痛いんだが!?
「すみません、すみません……!」
あの、謝罪はいいので安楽死頼むわ。
これあの、そういうアレだろ?
こんなん死亡確定の痛みじゃんね。
走り終わった後からなんかやべーとは思ってたけど、時間が経つにつれて痛みがマックスピーポー!
もうサクッと終わらせてくれぇ……!
命乞いならぬ安楽死乞いです。
おっさん、これが俺の最初で最期の頼みやぞ!
「なんでや……シン……ッ!」
なに!?
安楽死乞い足りない!?
先に痛みでショック死しそうなんで早めに頼むわ。
っていうかボーちゃんうるさっ!
大丈夫かって無理なんだわ、これは無理としか言いようがない。
ボーちゃんも怪我してるらしいけどそっちは大丈夫か?
……いや、ボーちゃんは俺のスーパーウルトラすごすごウッマを見分ける目によると大成功を収める馬なので、ここで死にはしないだろう、ウン、大丈夫だ!
よかったなここで2頭とも死んだら呪われた競馬場だぞここ。
「安楽死の……処置を……お願いします……っ」
所有者~~!!
ここぞという時に決めてくれると思ってました!!
ありがとうありがとう!!
あ、さっきチラッと聞いたけどオネエチャンは手術成功したらしいな?
いやあ、よかったわ。
デカいレースじゃないし賞金はちょっとしかないだろうけど、今回のレースで勝った分で残りの治療費をどうにかしといてくれ。
あ、あとオネエチャンも頑張ってたし、今度は本物の弟か妹を用意してやれよ。
俺みたいなまがい物にあれほど熱心に接してたんだから、その欲望はガチだぞ。
所有者も奥さんもどっちも若いんだしいけるよ!!
それじゃ、俺はここらへんでお暇するぞ!!
「ごめんね、シン、ほんとうにごめん……それから……今まで、ありがとう……ずっと、ずっと、愛してるよ、シン」
ん、なんて?
ごめん、ちょっともう耳が遠くなってて最後のはわからんかったけど、まあなんだ。
今回は平和な感じの家族に生産されて俺、結構ハッピーだったよ!
7歳まで生きれたしな。
なんだかんだ日本に生まれるとちょっとずつ寿命伸びてるっぽいし、次は8歳行けちゃうんじゃないか!?
そう考えたらちょっとやる気でてきたわ。
ウン、次こそいけるかも。
よおし頑張るぞ~~!!
あ、息できなくなってきたわ……今度こそ、じゃあな!!
こうして俺は無事に安楽死処理され、次の転生先へ旅立った。