雑誌(作家)視点とは雰囲気、文体、180度変わります。
これを読まなくても雑誌視点だけで話は通るので、雰囲気変わるの嫌な方はスキップしてください。
主人公視点と雑誌視点は今後下記のようにタイトル分けします。
先頭「○」:雑誌視点
先頭「●」:主人公視点
はい死んだ。
また死んだ。
これで何回目だ安楽死。
……わからん!!死にすぎてわからん!!
ただ言えることは、俺は今回も馬だということです。
「ひっひ~ん!?」
何を言っているかわからねえと思うが、順を追って説明していくぞ。
まず俺は馬だ。
……なに?そこからわからない?
仕方ないから人間だったときから説明するぞ。
アレは100年……いや200年?300年かもしれんけどもうわからん、かなり前の話だ。
それはもっとも古い記憶であると同時に、俺の中で一番強い記憶で、というのも俺は── かつて人間だった。
人間の中でも弱い部類で、生まれてから死ぬまで病院で生活していた。
院内にある学校に通い義務教育を受ける日々。
授業が終わったら個室に引っ込んで読書、読書、そして読書、たまに動画鑑賞。
友達?ばかやろー、作って三日後に友達見送ることになったらイヤだろうが。
こちとらもう10人くらいはあの世に見送ってるんだぞ。
まあ普通の学校にいけない、長期入院してる子供ばっかりの院内学級なんだからそらそうなるわな。
見送るのもダメージあるんで、いっそのこと友達いないほうが精神的に快適だと気づいてからはぼっちだ。
ぼっちはぼっちでも名誉ぼっちです。
栄誉ある孤立です。
ラッキーなことに俺の親がめちゃめちゃ金持ちだったこともあり、俺は病院で快適に生活できていたし問題は無い。
いやごめん嘘吐いた。
過ごしていた場所が病院だってこともあって、本以外の娯楽はぜんっぜんなかった。
それにあって院内にある児童書や絵本は100回くらい読み返してる。
100万回生きた猫とか暗唱できるよ俺。
とまあ、退屈な日々を過ごしていた俺なのだが、ある日病気が尋常じゃないくらいのスピードで悪化してしまい、そのまま現世にバイナラした。
最期の記憶は「健康に産んであげられなくてごめんね」と泣く母と、唇を噛みしめる父と、死んじゃイヤだと泣く弟。
まあもう顔とか覚えてないんですけどね!
さすがに百年単位で馬やってると顔まではね……でも両親がいて、弟がいて、病院が退屈だったことだけは今でも覚えている。
俺の記憶の中の両親はいつも謝っていたけど、ぶっちゃけ両親はなんも悪くなくない?
こんなん産まれるまでわからんやん。
むしろここまで生かしてくれてサンキュー!って感じ。
弟は俺とは真逆の健康優良児だったはずなので、親孝行は弟にお任せした
おお、弟よ、すべてを押しつけて先立つ兄を許してくれ、と俺が弟に言ったとか言ってないとか。
あと俺のお墓の前で泣かないでね!そこに俺はいないたぶん!ってな気持ちであとは視界真っ暗。
そんなこんなで死んだわけなのだが……目が覚めたら馬だった。
あ、ありのままいま起こったことを話すぜ!
俺は享年ピーッ歳という若さでこの世におさらばしたはずだった!
だが目が覚めたら馬だった。
な、何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何がどうなってこうなったのかわからない。
頭がどうにかなりそうだったがとりあえず流れに身を任せることにした。
これが記念すべき第1回目の馬転生である。
そして記念すべき第1回目の安楽死である。
いやあ、まさか転生1日目で転んでそのまま死ぬとは。
この時の俺はまったく知らなかったのだが、馬は立ったり走ったりできなくなると死ぬしかないらしい。
馬の脚は第2の心臓と言われるほど重要らしく、それが使えなくなると血液とかの巡りが悪くなって結果死ぬっぽいんだわ。
特に後半になって俺が転生しまくってる馬の品種、サラブレッドというやつがこれまた脚が弱いのなんので、よくポキポキ折れた。
で、第1回目の俺は初めて歩いた直後に転んで骨折、これはあかん!ってことでそのまま闇に葬り去られたわけよ。
そもそもなんで転んだのかと言えば、この時の俺がめっちゃ混乱してたから。
そらそうなんよ。
現世にさよならバイバイした後に馬になるとか誰も思わんからね、当然混乱するし四足歩行慣れてないんだからすっ転ぶわ。
しかもその時の俺のまわりにいたオッサンたちみんなイカつい外国人だったし。
転んで「痛すぎィ!」ってなってたら謎の布被せられて人生、いや馬生終了。
状況飲み込めないまま第2回目。
今度は転ばないように気をつけてたけど、母馬のおっぱいの吸い方わからず死亡。
そこから回数を重ねて第4回目くらいから吸い方を覚え、三ヶ月くらいは生存したはず。
ちなみにこのときの死因は刺殺です、たぶん。
確か誘拐?密猟?母馬からちょっと離れた草原で昼寝してたらイカつい男どもに捕まったんだよな。
いやああれは予測つかないでしょ。
第5回目からは身体がデカくなるまで母馬から離れない決意したね。
初めて母馬くらい身体が大きくなったのは、確か第31回目あたり。
この時はまだ回数数えてたんだよなあ。
俺が何度死んでも必ず馬に転生するんだと諦めがついたのもこの頃。
人から馬になるってそれ、畜生道じゃねえかアレ俺なんか悪いことしたっけ、と思ったけどそうだね、親より先に死ぬのは親不孝だねでも仕方なくない?
若干の理不尽を覚えつつ、親より先に死んだのがこの馬転生の理由なら、母馬とか父馬より長生きすれば転生ストップするかも、と思ったのは記念すべき第100回目の馬転生。
ついでに数えるのもやめた。
あとどうでもいいけど第38回から第100回までの死因No.1は戦死です。
ある程度身体がデカくなるとクッソ重い男どもを乗せて戦場に出された。
イカついオッサンたちの服装がなんか古いなあ、とは薄々気づいていけど、初めて戦場に出された時に見た黒い鳥が描かれた旗から、当時の俺がいたのは16世紀から17世紀くらいなんじゃないか、と思ってる。
黒い鳥が描かれた旗はたぶん神聖ローマ帝国のヤツ。
なんで知ってるのかっていうと、神聖ローマ帝国、っていう名前の響きと旗が格好良くて、その……一時期、その……そういうことだよ!
頭が二つある黒い鳥が旗に使われ出したのが15世紀から17世紀半ばまでで、戦場に他にも白地に赤い十字と楽器っぽいのが入った旗、これは16世紀から17世紀くらいイングランドだかスコットランドの旗のはずだから、時期的には合ってるはず。
敵の兵士はブスブスぶっ刺してくるし、乗ってる男どもも足で俺の腹蹴るし。
酷いときは剣の平らっぽい部分で叩かれたこともあるからな。
マジ最悪だったわ。
それが第100回まで行われた後はしばらくなんもなく、オッサンたちの娯楽代わりなのかゴツゴツしたところを走らされたりした。
俺が負けるとイカついオッサンどもが叩いてくるからど突き返してやろうかと思ったね!
そこから時々戦場にぶち込まれたり、オッサンたちの遊びに付き合わされたりしてるうちに、気づけば18世紀ごろ。
ちょっと前まではユニオンジャックっぽい旗の真ん中に楽器が描かれたヤツだったんだが、その楽器が消えてたから18世紀であってるはず、たぶん、おそらく。
その頃になると、俺は戦場に行く機会がちょっと減った。
産まれるところも、狭い小屋にボーボーの草原っていうよりは、なんか施設っぽいところに変わっていったんだよな。
イカついオッサンたちから、少年から中年まで幅広い年齢層の男たちに世話されることが増えた。
それまで娯楽で走ってたときに背中に乗ってたヤツらも、年齢体重関係ねぇ!ってやつらから細身の男達に変わり、観客らしき人たちまでできたのはビビったわ。
途中から「あれこれ競馬じゃね?」ってなったんだけど、俺がテレビでチラ見した競馬はこんな硬そうな鞭じゃなかったんだよなあ。
乗ってるやつも力一杯叩いてくるから何度振り落とそうと思ったか。
この時期の俺はめちゃくちゃ脚が折れた。
理由は「前よりも脚が細くなったから」だ。
なんでかわからんけど、18世紀くらいから俺が転生する馬の脚が前よりも細くなってくんだわ。
その分スピードが出るようになったんだけど、細いから身体が重くなると支えきれなくてポッキり。
走れないと分ると即処分されたため、戦場にぶち込まれてたときとほぼ同じような速度で転生しまくった。
で、何十回目かの時、運良くめちゃくちゃ頑丈なボディを手に入れた。
立つのも早かったし、強めに鞭が入っても耐えられるレベル。
これは俺の馬転生もこれで終わりでは?とワクワクしてたんだけど、同時期にクッソ強い馬がいてそいつに負けまくった。
そいつの名前はエクレアだかエリンギだかプリウスだか、発音むずくてわかんないけど、そんな感じのやつで、そいつが強いのなんの。
当時の俺は「俺、最強では?俺に勝てる馬とかいないんでは?」くらい勝ちまくってたのに、そいつと同じレースに出たらめちゃくちゃ離されたよね。
俺も後ろの馬をめっちゃ引き離してたけど、それと同じくらいソイツとも差ができてた。
なにこいつ怖ッ!てビビってたらレース中に脚ポッキり逝っておしまいです。はい。
いやあ惜しかったなあ。
なんとか頭一個分まで迫ったんだけど。
あそこでポッキり逝かなかったらワンチャンで勝てたんじゃないか?俺は訝しんだ。
そのメチャ強馬と走ってからだと思うんだけど、俺は転生する先々で強い馬に会うようになった。
ポテト好きそうな感じの名前のやつとか、振られたー!みたいなやつとか、筋肉マッチョだとかムーチョみたいな名前のやつとか、サイとかシモンとかいう感じのやつとか、あとマンなんちゃらとか。
産まれる先も、それまでほぼイングランドとかスコットランド、つまりイギリスなんだけど、フランスやドイツ、イタリア、ハンガリー、最近だとアメリカなどなど、国もバラバラになってきた。
そして今回。
記念すべきうんちゃら回目。
とうとう日本に生まれた。
「……こりゃまた、見事な黒鹿毛だなあ」
日本語聞くの久しぶりすぎィ!
そうそうこういう言葉だったよな!
16世紀~17世紀がスタートだったと考えると、だいたい200~300年ぶりくらいだわ日本。
……なに?長いこと外国に居たのに向こうの言葉覚えられなかったのかって?
ばっきゃろーこちとら生きることに精一杯で言語学習してられるか!俺は部屋に戻らせて貰う!
「もう立ったんですか!いいですね、期待できますね」
「ああ。こいつは走るかもしれん」
「でも、牧場長……」
「……わかってる。すべては、結果が出次第」
なんか人間たちが暗い顔と暗いトーンで話してる。
牧場長と呼ばれた平たい顔のオッサンが今回の持ち主かな。
転生馬を担当するのは初めてか?まあ肩の力を抜けよ。
過去には5回連続で俺を担当した牧場のオッサンとかいたから、直に慣れるって。
いやあ、それにしてもようやく日本か。
日本なら安楽死も結構良い感じにやってくれるんじゃないか?
ここまで数え切れないくらい安楽死による最期を迎えてきた俺だけど、酷いときは刺殺だったり頭のところガッツーン打たれたり、撃たれたり。
安楽死とは一体なんなのか考えさせられるような感じだったけど、時代の流れなのかここ十数年は薬を使われることが増えた。
まあだからってまったく痛くないってことないんですけどね!
とはいえ改良は進んでいるはず。
いちばん良いのは死なないことだけど、生き物である以上死からは逃れられないからね。
せめて心穏やかに逝きたいわけですよ。
頼むぞ日本!穏やかな最期!
そんな祈りを捧げて早2年ちょっと。
俺はとうとう「学校」に行くことになった。
学校とは言っても俺が勝手にそう呼んでるだけで、正式には「厩舎」と言うらしい。
英語がわかんなかったころはその建物をどう呼んで良いかわからなかったのと、同世代っぽい馬がたくさんいたから「学校」って呼んでたけど、これからは厩舎って呼ぶか。
郷に入っては郷に従えって言うし。
「頑張ってくるんだぞ、三郎」
あいよ~!
見送りにきた牧場長にケツを向けると列車に詰め込まれた。
ここからが長いんだよな。
俺が産まれたのは北海道で、これから逝く先、じゃなくて行く先が京都だっていうんだから。
ガタンゴトン列車に揺られた後はトラックに乗せられ、数十時間掛けて厩舎に到着した。
俺は京都に在る「京都競馬場」ってところで暮らすらしい。
本当はもう1年早くに入るはずだったのが、俺の母馬の件でもめ事があったらしく遅れた。
俺と同世代の馬たちの半分近くがデビュー済みらしいので、今から頑張って後れを取り戻すぞ!
初手から強さを見せつけてマッチレースに持ち込めば勝てる!
……え?日本ではマッチレースやってない?
そんなあ。
「ウタワカ号、ここがお前の馬房だよ」
マッチレースないとか絶望しました、馬やめます、と泣きながら部屋に入った。
イギリスの部屋よりは狭かったけどまあ戦場にブチ込まれてたときよりマシ。
さっそく用意してもらったゴハンをたべていると、二つくらい離れた部屋から視線を感じた。
こ、これは……ペロッ、強いやつの視線……!
説明しよう!
エクレアとかそこらへんの強い馬と戦い続けた結果、俺は相手馬がどれだけ強いとかふんわり分るようになったのだ。
まあわかっても何にも活かせないんですけどね!
同じ厩舎に強いやついるとか聞いてないよ~!
こんなん絶対比べられるやつじゃん。
先生……調教師が馬を比較して優劣着けたがるタイプのやつだったら最悪の展開だわ。
強い馬の引き立て役やるためだけにレースに出される流れになっちゃう~!
調教師が人格者でありますよーに、と祈りながらそれから三ヶ月。
デビューレースを圧勝したらしいその馬── シンザンが隣の部屋に越してきた。
時は年末。
馬っていうのは結構静かな生き物で、めったに喋ったりしない。
俺?俺はほら、元の魂が人間やってたんで……。
シンザンも静かな馬だったんだけど、目が語るっていうか、視線の圧がある。
といっても嫌な視線じゃないし、視線の先見ると俺のゴハン見てるので単純に腹が減ってるのだろう。
俺もこれ以上太ると脚に負担掛かりやすいので、ゴハンをいくらかお裾分けした。
ワハハ、たんとお食べ。
そんでこれに恩を感じたら、同じレースになった時は手加減してくれ。
「ウタワカお前、シンザンに食わせてたのか。面倒見が良いとは美徳だけどな、それでもお前が太らないんじゃ意味がないぞ」
バレテーラオコラレーター。
シンザンのゴハンの量が増え、俺は食事を監視されるようになった。
俺がデビューしたのは翌春だった。
なんかね、脚が弱いっぽい。
うすうすそんな気はしてたんだよ、俺、身体大きいし。
まずったな、また安楽死エンドか?と思ってたが、調教師や俺の世話をしてくれるオッサンは俺に負担のない範囲でレースに出すつもりらしい。
これは……勝ったな!
ちょっと走ってくる。
「どうや春一!ウタワカはよお走るな!」
「そうですね」
ドワハハハ!1着!
勝ったぞい、と厩舎に戻った俺は、シンザンと走ったり、シンザンと走ったりして過ごし、季節は流れて秋。
俺と違って頑丈ボディなシンザンは、日本のデカいレースを勝ちまくって日本中から注目されているらしい。
いやさすが俺の目。
やっぱつよつよウッマだったんじゃないですか!
やばあ、この馬と同じレースじゃなくて安心したわ、と思ったのもつかの間。
「次の菊花賞はシンザンとウタワカや。シンザンが三冠取るか、ウタワカが無敗の菊花賞馬になるか」
よせ調教師。
ここまで勝てたのは俺の頑張りもあるけど、シンザンとかいうヤバ馬がいなかったっていうのもある。
シンザンと同じレースになったら勝てるかどうか。
「……せやけど、ウタワカは脚が弱いし、菊花賞勝てたら種牡馬にした方がええな。馬主にもそう言うか」
マジ!?
種牡馬と言えば、種付けするのが仕事の男のロマンみたいなやつ。
そこまでこぎ着ければ少なくとも母馬より長生きできそうじゃん!
でも、うーん、シンザンに勝てたらだろ?
勝てるかなあ……いやでも、勝てばワンチャン馬転生終わるしなあ……。
5分くらい考えた結果、シンザンになんとか勝つという方向性で決まった。
まあワンチャンなくもなくもなくもない。
日本はデカいレースともなると馬がたくさんでてくるって聞いたから、その馬たちにシンザンが沈んでくれればありがたい。
逆に俺が囲まれたり沈んじゃうと意味がないから、当日はなるべく前で走らないと。
そう決意を固めて挑んだ菊花賞だったのだが──
「13頭だけか。……例年より少ないな」
ドウシテ……ドウシテ……!
「シンザン由来で回避が相次いだのでしょうね」
アーッ!シンザンンーッ!
わかるよ、強すぎウッマと同じレース走りたくないもんな!
でも今回だけはいっぱいの馬が欲しかった。
どうしよ、勝つ方向性止めるか?
……いや、もう行ったるしかないな。
頭1個分でも良いから勝つゾ──!
「ウタワカ……ッ!ウタワカッ!」
これはアカンやつ。
おい乗り役のひと大丈夫か。
「馬運車の準備を……」
「これは折れて……」
「医者来ました!」
俺の周りにワラワラとわく人、人、人。
これは安楽死フラグ。
いやあ参った。
まさか先頭で走ってたら折れるとは。
っていうかゴールまであとちょっとじゃなかった?
もう俺の目の前に見えてたんだけどゴール。
マジ惜しかったわあ。
行けたじゃんね。
別の逝っちゃうけど。
アーッ!ほんとうに惜しかった。
気づいたらシンザンがゴールしてたんですけど。
アイツこれで勝ったから三冠ってやつじゃね?
ほんとすごいなシンザン。
……あ、人のみなさん、そろそろ俺をトラックに乗せてくれません?
シンザンが明らかにこっちに戻ってこようとしてるんでまずいです。
他の人間が轢かれちゃう~!
「ウタ……ワカ……」
お、乗り役の。
意識はあるなよかったよかった。
いやあごめんね振り落としちゃって。
乗り役もここで勝てばデカいレース初勝利だったのに、俺の脚が細すぎるばっかりに……。
次はもうちょっと頑丈な馬にあたるといいな。
それじゃあ俺は逝ってくるわ。
「ウタワカ……」
ガチ折れしてる脚を引きずって処置室っぽいところまで連れて行かれた。
先生って呼ばれてるハゲたオッサンはたぶん獣医。
言葉にしなくてもヤベーこと丸わかりの表情してるのでやっぱりアカンやつか。
いつも世話してくれてるオッサン、いや、まだ若そうだからお兄さんって呼んだ方がいいのか?
お兄さんがめちゃくちゃ悲壮感たっぷりの顔をする。
俺の持ち主も汗だくだし泣きじゃくってるし。
いい年したオッサンがそんなに泣くな。
それに持ち主は他にも馬いるんだからでえじょうぶ!
どっかで強い馬が巡ってくるよ、たぶん。
「……それでは、処置を始めます」
最期だからってんで砂糖をめっちゃ舐めさせてもらう。
俺は甘いもの大好きなので砂糖もらえるの嬉しいんだけど、過去にも安楽死前に砂糖たくさん貰うことあったから複雑。
砂糖舐めるとどうしても思い出しちゃうんだよなあ。
調教師とかお兄さんはリッチなのかたびたびおやつとして砂糖くれるけど。
「薬の準備できました」
お、そろそろか。
はいドーゾ。
できれば優しい感じで……痛み少なめで……。
何回やっても死ぬのは慣れないなあ、としんみりしてるところで調教師が処置室に滑り込んできた。
シンザンの打ち上げはどうしたよ。
馬主と同じぐらい汗だくギャン泣きの調教師を宥め、調教師からまた砂糖をもらい、今度こそ処置。
薬が入ってるだろう注射をぶっ刺され、俺は静かに── 逝けなかった。
これ普通につらいやつ~~!!!!
「ウタワカ……ッ!」
あっでもアメリカにいたころよりはなんかマシかも!
ちょっと身体痺れてるけど確実に改良されてる!
俺は意識が落ちていく中で目があったお兄さんに向かって心の中で叫んだ。
『俺が次転生するまでにもうちょっと刺激少なめに改良しといてくれ頼む~~!!!!』
これで俺のうんちゃら回目は幕を閉じ、次に目を開けると、また別の牧場だった。