それでも風は吹く   作:SunGenuin(佐藤)

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●瞬きするほど鮮やかな

はいはい即死即死。

早いんだわ死ぬの。

こちとら生後1年も経ってないんですけど。

乳離が済んで、子馬の群れにも慣れ始めて、せっせと草原を走ってたら胸が痛くなってバッタンですわ。

最期の記憶なんか、急に倒れた俺を見てビビって集まってきた他の子馬のヤバそうな嘶きだぞ。

俺の突然死にパニクって柵に突っ込んで死んだ馬とかいたらどうしよ。

子馬、割とそういうのあるからな。集団で行動してるから、1頭がどこかに向かって突っ込んだりすると釣られたりすんだよな。

まあ、ロベ、ロベなんちゃらって馬が冷静ならどうにかなんだろ。

アイツ、俺がいた牧場で1番期待されてたし、これまでの経験で行けばアイツは絶対でかいことやる馬だから死なないだろうし、うん。

 

それにしても……日本に転生したからもうずっと日本か、なんて思ってたけど普通に外国に生まれたな。

まったく知らん牧場に、聞いたことあるけど言ってることは全然頭に入ってこない言語。

大体の牧場には国旗もあるんで、それで判別はできるけどね!

ウタワカから数えてもう3回、あ、今回で4回転生。スパンは割と短かったな。

簡単に死にすぎっていうのもあるけど。

そう考えるとウタワカも割と長生きの部類だったのかも。

ウタワカより後の転生で、出走できた回がどんくらいあったと思う?

 

1回!!!!

 

3回の転生の中でたった1回とかウケる。

残り2回のうち1回は誘拐されてサクッと殺されたし、今回は突然死だもん。

 

あ、そーいや誘拐されたのはフランスに産まれた時だったけど、隣の馬房のやつは無事だったんかな?

まあアイツもすごいことやりそうな馬だったから大丈夫か。

すごいことやりそうな馬、だいたい俺とは一緒に死なねーから。

 

出走できた回はイギリスにいた時。

こん時は同期がやべー馬しかいなくて……ちなみにこの場合のやべーは戦績もそうだけど性格です。

もう暴れる暴れる……ディクなんちゃらって名前のやつとか、くっそ強すぎてフルボッコにされたにんじん大好き!みたいな名前のやつとか。

俺、ディクなんちゃらには3回蹴られたからな。

当たりどころ悪かったら俺の死因になってるレベルだわ。

でもあいつも強かったな。

なに?暴れ馬じゃないと強くなれない法則があった?

 

しかも結局イギリスやフランスだと勝てねえ!ってんでアメリカに売り飛ばされたよ。

今度こそいい具合に走って引退して余生過ごすぞ、なんて思ってたのに、次はハロー!みたいな名前のやべー馬が移籍先の厩舎にいて笑っちまった。

そんで、そいつの特訓の練習相手やってたら死んだ。

でも別にそいつに蹴られた訳ではない。

ただ、ギャアギャア暴れるそいつに近づきたくなくて身を捩ってたら、乗ってた人間が落ちちゃって、それにキレたっぽい人間に鞭で打たれたんだわ。

鞭でバシバシやられてビビった俺は自分から柵に突っ込んでしまい、当然のように死亡。

 

我ながら情けねえ死に方だ……鞭で打たれるなんて慣れっこのはずなのに俺ってやつは……。

で、そこから転生したのがついさっきの子馬時代で、今度は突然死ですよ。

 

辛すぎて一周回ってワロた。

突然死に関してはせめて1回くらいレースに出させてくれやって感じ。

ま、今更過ぎ去った日々に縋っても無駄無駄。

切り替えて次の馬生で長生きを目指すとするか。

 

 

 

ということでまた日本です。

もうしばらくないかと思ったけど間違いなく日本だな。

耳を澄ませると西暦1970年らしくて、前に日本にいたのは1964年とかそんなんだった気がするから6年ぶりくらいか?

ウタワカの時は1961年生まれだった記憶があるから、日本に生まれるのは大体10年周期なんだろうか。

海外だと言葉がわからなくて何年に生まれたか把握できなかったけど、今までは国によって生まれる周期とかはなかった気がする。

ま、実際にまた10年後くらいに生まれたらその時に考えればいいか。

 

とのんびり構えてたら俺が生まれた牧場潰れた。

ドウシテ……ドウシテ……!

トラックに乗せられながら泣いた。

 

けどこれは前にも経験したことがある。

あん時は確か、引き取り手なくて即屠殺場送りだったはず。

今回もそれだったらキチィわ。

突然死の時といい……せめて1回くらいは走らせて欲しいよな。

ひょっとしたらひょっとするかもしれないだろ!

 

そんな俺の祈りが通じたのか、トラックに乗せられて着いた先は普通の牧場っぽいところ。

このままここで余生過ごせねえかな、と思ったけどそううまくいかないですよね、はい。

なぜか知らんけど、前の牧場からそのままついてきた少年に世話されつつ成長。

この少年、俺の部屋の隣で寝泊まりしてたから衛生環境心配だわ。

本人ニコニコしてたからアレだけど。

 

……そういやうんと昔、エクレアみたいな名前の馬と走ってた時も、俺の世話をしてたのはちっこい少年だったな。

人間だった頃、死んだ俺よりもさらに幼いくらいの。懐かしい。

あの少年は大家族で、俺のレースの賞金からお給料が出てたっぽいからなあ。

当時の俺の所有者が、レース主催者っぽいやつから貰った金の一部を少年にあげてるところ見たから、そのはず。

俺が死んだあとは他の馬の担当につけてるといいけど。

今回世話してくれてる少年は、聞き耳を立てて手に入れた情報によると家出してそのまま牧場住み込みらしい。

ガッツありスギィ!!

そんな少年に世話をされつつまた別の牧場に移動した俺は、そこで走る訓練をしていよいよ競馬場入りした。

 

 

 

ここまですげえ長旅だったなあ。もうクッタクタ。

疲れすぎてトラックん中で熱出したぞ。

はあつらい。

何がつらいって、今度こそ丈夫なボディをくれ、と転生するたびに祈ってるのに、今回のボディは過去1、2を争うレベルで脆い。

走ったらすぐ疲れるし、脚はすぐにボロボロになるし、熱はすぐ出るし。

移動に使う車はウタワカの時代より良くなってるはずなのに、ものすごくしんどいのは単純にこのボディの体力不足が原因に違いない。

 

あ、鼻血出たわ。

やべっ、息すんの苦しくなってきた。

お〜いおっちゃん、鼻血出たわ拭ってくれ。

 

「まずいっ!おいお前テキ呼んでこい!ラブが鼻出血だ!」

 

ラブて。

前から思ってたけど俺の略称可愛すぎんか?

まだ梅太郎のオス感あったな。

 

「軽く追わせただけでこれですか……」

「しんどいなあ……また1ヶ月は競馬できんぞ」

 

またぁ?

どんどんデビュー遠のいてて笑う。

言うてウタワカの時も桜舞う季節に華麗にデビューしたわけじゃないですか。

まあなんとかなるんじゃね?

な、お隣くん!

 

「ブルルッ」

「お、心配してるのかタケホープ。大丈夫、ラブはよくなるよ」

 

タケホープ。

俺の隣の部屋に入っている馬の名前だ。

百年単位の馬生活で身につけた、相手馬を見極める俺のウルトラスーパーデラックスすごすごアイによると、この馬も強いやつになる、気がする。

タケホープって呼ぶの面倒、じゃなくて長いから略してタッちゃんって呼んでる。

……何?俺の今世の名前の方が長い?

うるせえやい!こっちはこっちで「ミナミちゃんって呼んでね♡」って言ってあるから、セーフだから。

 

このタッちゃんは甲子園には連れてってくれなさそうだけど、強いレースで勝ちそうな馬だ。

牧場の人間たちも、タッちゃんはスタミナがすごいとか、心臓がでかいとか、色々褒めてたし。

あと、俺の部屋には鏡とかないからわかんないんだけど、周りの人たちがいうには俺とタッちゃんは激似らしい。

まあ何もしなくても常にボロボロな俺のボディと違って、タッちゃんは絵に描いたような頑丈つよつよボディなわけなんだけど!

マジでタッちゃんのボディ頑丈すぎんだろ。

この前も柵に突っ込んでたけど無傷だったしな。

ノーダメージすぎて牧場の人間、タッちゃんが柵に突っ込んだこととか絶対気づいてないぜ。

あと体力もありすぎ。長いことトラックに乗ってたのにケロッとしてやがる。

その万分の一でもいいから俺のボディも頑丈であれよ。

 

「わあ……こりゃまたド派手にでたな」

「すんませんテキ」

「いやいやお前のせいじゃないよ。出ちまうもんは仕方ないさ。……どっちみち1ヶ月は確実に競馬に出せん。予定は秋に、そうだな、余裕持って12月。ここに合わせてキッチリやっていこう。オーナーにはこっちから伝えるから」

 

12月か。後4ヶ月。

俺が言うのもなんだけど、間に合うのか?

まあ調教師が言ってんなら間に合うか。

ちょっと俺も気合い入れてデビュー戦がんばろっと。

海外だけど、デビュー戦勝てないままいろんなところ走らされて、そのまま競馬場で死んだことあるからな俺。

ボロ雑巾みたいに使い倒されるよりは、ギリギリでもなんとか勝っておきたいところ。

 

「でもオーナーさん許してくれますかね。希望はタケホープとほとんど同じ時期でしたよね」

「まあな。でも無理だろ。このまま出したら最悪ゲートでた瞬間死ぬぞ」

 

それは弱すぎて芝が生い茂っちゃう。

調教師、俺のことどんな弱体生物だと思ってんだよ。

でも俺もそんな気ぃするわ。

 

「それにオーナーは今ゆとりがある。優駿牝馬はタケフブキが勝って、すぐ後にタケホープが新馬戦を勝った。虚弱のラブを今すぐ走らせる必要もないわけだ」

 

今だと死んだときの処分の費用のほうが高そうだしな。

 

ちなみに俺の所有者はタッちゃんと同じだ。

当初はタッちゃんの名前にちなんで『タケロープ』とかいう一切ちなんでない名前になる予定だった。

途中で正気を取り戻してくれたのか、それとも誰かが助言したのか気づいたら『ライブアゲイン』って名前に変わってたけど。

 

なんで俺がタッちゃんと同じオーナーなのかに関しては、ぶっちゃけると、馬の売買取引で俺が余っちゃったんだよな。

パッと見は悪くないらしんだけど、やっぱ虚弱ってのがマイナスになって売れなかったわけだ。

これは殺処分フラグか……と思ってたら、タッちゃんの馬主が『似てるから』っていう理由だけで俺を買ってくれた。

馬は決して安い買い物じゃないと思うんだが、所有者に感謝感激ィ!ですわ。

とりま売れ残りからの死亡は避けられたからね。

買ってくれた分の金額くらいは走って稼いでおきたい。

あ、でも、死亡時の処分費用がなんぼかは知らんけど、それとトントンになるくらいじゃないと割に合わんか?

なんにせよ、大レースは無理ぽだと思うけど、そこそこのレース走って賞金積むからヨロシクぅ!

 

 

 

 

 

 

「よかった……これで未勝利戦脱出……!」

 

いやあ、夏だよね。

え?結局12月じゃなくて夏にデビューできたんかって?

違う違う、今4歳。そして今日でたレースは4歳未勝利戦。

つまりですね、3歳の末に行われた3歳新馬戦で負けたってワケ。

途中まではなんかいい感じだったんだけど、走ってる途中で靴が脱げてそこからダメだった。

なんとか4番目にはゴールできたけど、裸足で走ったせいで脚がひっでえことになって即休みになったわ。

そこから出走して負けて休んで、を繰り返してたら夏。とうとう5戦目。

これ絶対走り終わった後は熱でるな、と確信できるレベルの雨の中、ドロッドロの砂を掻き分けて走って、ゴール前でなんとか鼻だけ出して勝った。

わざわざ牧場の仕事放り出して見にきた世話役の少年と、俺の体調に苦労しっぱなしのおっちゃんが泣いて抱き合ってるのを横目に、俺は無事発熱。

部屋で治療を受けつつ、秋になったら2勝目を目指してまたレースに出ることになった。

 

隣のタッちゃんはといえば、俺の予想通りめちゃめちゃでかいレースで勝ってスーパーホースの仲間入り。

もはやオーナーも俺のことなんか忘れているレベルの出世である。

そんなタッちゃんの気になる次走は菊花賞。それを目標に夏の間は休養するようだ。

そらこんな暑い中で訓練なんかできるかっつーの。

俺もぶっちゃけ休みたいけど、熱明けてからまた休み入れると秋に間に合わないんで、ちょっとずつ訓練を再開してる。

 

それにしてもタッちゃんは菊花賞か。

俺はあれ、ウタワカの時に走って死んでるからね。

そういやあれからちょうど10年じゃね?

シンザンも生きてりゃ14歳か。

っていうか2年前までは確実に生きてたよ。

なんで知ってるかって、俺が2度目に移動した牧場にシンザンがいたんだわ。

シンザン!?シンザンナンデエ!?とか思ったよねそりゃね。

当然向こうはこっちが前にウタワカだったことなんか知らんので。

特に会話なんてしなかったけどさ。

 

あいつ長生きだなあ。

俺なんて一桁しか生きたことないからな。二桁まで生きてみてえよ。

今世で成し遂げたいけど、このボロボロボディじゃ、楽に引退しても長生きできそうにないじゃん?

もう来世に期待するしかないっていうか……せめて穏やかな最期を迎えたいっていう低レベルな目標になってる。

幸いオーナーがタッちゃんで稼げてるので、俺はそんなにレースきつきつに出なくてもよくなってるし、引退自体は出来そうだからな。

いやマジでタッちゃん様様だよ。

タッちゃんがでかいレース勝ってくれたおかげで俺もゆったりできます。

はいこれタッちゃんににんじんあげる。

 

「おおラブ、珍しく完食……いやお前!タケホープの桶に移したな!?」

 

バレテーラ。

 

 

 

 

 

 

はい、5歳。

俺ももう5歳になったぜ。

これまでの馬生の中では長い方では?

あ、ちなみにタッちゃんは菊花賞勝ちました。

そんでついさっき天皇賞・春っていうでかいレースにも勝ちました。

 

ヒュウ!さすがタッちゃんそこに痺れる憧れるぅ!

……何?瓜二つなのに戦績が違いすぎる?

そら別人ならぬ別馬なんだから当然やろがい!

俺は俺なりに頑張ってんの。

死なないようにな!

 

……けど、そろそろ限界な気がする

ここ最近は休んでも体力が回復しきった気がしないし。

面倒を見てくれてるおっちゃんたちにもそれは伝わってるらしく、今年いっぱいで引退が決まった。

やったね俺!これで引退だ……身体はボロクソだから余生はあっという間かもしれないけど、この約300年で初めての引退になるかもしれん。

ウッキウキしちゃうなあ。引退したら何しようかなあ。

とりま死に怯える必要がないってだけで最高じゃね?

はえ〜、この短期放牧とやらも楽園へのステップかと思うと楽しいですわあ。

 

なんて思っていた時期が俺にもありました。

 

クッソ熱いわ。

誤字?暑いの間違い?ちげえよマジで熱いんだよ、焼けてるから。

 

「ラブ──ッ!ラブッ!ライブアゲイン!!」

 

おっ、世話役の少年。

お迎え遅かったやん。

でも呼んでくれてるとこすまんが俺はもう無理だ。

こんな火だるまの建物から出るとか無理ゲーがすぎる。

燃えてる今となっちゃ理由はどうでもいいけど、こんな、焼け死ぬとか久しぶりだわ。

戦場に出てた時は割とよくある死因だけども。

俺がパッパカ走ってた頃の戦場だと、敵が火炎瓶的なものを投げ込んでくることもあった。

それに当たってしまうと、背に乗せてる戦士もろとも焼死確定。

あとは今回みたいに厩舎が火事にあって、そん時に一緒に厩舎に入ってた他の馬もろとも死ぬとかそういうのもあったな。

今回は後者のパターン。

 

全然迎えの車来ないし、部屋に戻っておけって言われたから待機してたからこの様とはな。

穏やかな余生を望んだ瞬間これとか、やっぱり神様なんていない。はっきりしてんだね!

あーあ、あとちょっとだったのに。

 

焼死、ギリギリまで意識あるし何より熱いのしんどいし焼けるの痛いしで最悪の死に方。

厩舎内で初めて燃やされた時はパニックになって脱出を試みたこともあるけど、逃げようとすると壁とかに当たって余計痛いんだよな。

ほかの馬もパニックになってるから、馬同士が正面衝突して首が折れるというコンボが決まることもあった。

戦場だと燃えてる馬にぶつかって巻き添えくらったこともあったっけ。

だから学んだよね。

燃やされたら終わり。無駄な抵抗せずに今世にさよなら、来世にこんにちは。

 

……あ、煙吸い込みすぎて意識が遠のいてきた。どうやらここまでのようだな。

もう頭上がらんわ。どんどん下がっちゃう。

なんか世話役の少年が叫んでるけど、すまんなもう聞こえん。

まあなんだ、君はまだ若いからこれからいい感じの馬に当たるといいな。

牧場にはシンザンの子供とかもいるらしいし、タッちゃんもこれから種牡馬としてパコパコ励む予定なんだろ?

シンザンとかタッちゃんの子供で成功するといいな。

俺も来世こそは丈夫なボディ手に入れるから、少年も馬が燃えるとかいうショッキングなシーンは忘れて元気に生きろよ。

 

ほいじゃ、タッちゃんたちにもよろしく伝えておいて。

次は厩舎が燃えるとかいうトンチキやらかさないように対策たてといてくれよな。

じゃあね。

 

 

 

こうして俺の日本での2度目の転生は幕を閉じ、目が覚めた時にはいつも通りまた知らない牧場だった。

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