有馬記念全人馬無事に完走してくれて嬉しい限りです
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今回は本編に新キャラ?が登場します
「……さん、起きなさい。プランタンストームさん、起きなさい!」
カンッと耳元を掠める硬い音に驚いて顔を上げる。
「授業中ですよ。この授業が終わったら昼休みなんだから、もう少し我慢なさい」
「す、すみません……以後気をつけます」
くすくすと聞こえてくる潜められた笑い声に俯く。なんという恥。
授業中なのに眠ってしまっていたようで、黒板には見覚えのない説明が並んでいる。
ふと振り返ると、後ろの無人の机にあったのは無残にも粉々に割れた白いチョーク。
もし直撃していたらと思うと、喉からヒュッと変な音が出た。
そもそも私は耳カバーをつけてるのに、睡眠から強制的に叩き出すような音をチョークで出すなんて人間技じゃない。
もしかしてあの先生はウマ娘なのでは……と目を凝らして見るけれど、ヒト耳しか見えなかった。
「ストーム、何してるの」
「あ、おはようロア。いやちょっとさ、あの先生実はウマ娘なんじゃないかってちょっと思って……」
「おはようはあんただけだろうが。それに、先生がウマ娘とか……」
何言ってるんだこいつみたいな顔をして隣の席の彼女は黒板へ向き直った。
話しかけてきたのはそっちなのに……と恨めしく思いながら板書をしようとノートに目を落とすと、とてもじゃないが読めたものではない文字が踊っていた。
エジプトとかで使われてた文字ですか?
ここから消し直しか……と消しゴムをかけていたら、派手な音を立てて紙が裂けた。
「……ロア、あとでノート見せて」
今日は厄日かもしれない。
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「これで4時限目の授業を終わります。ノートの提出は放課後までですよ」
終業のチャイムが鳴ると同時に、勢いよくノートと教科書を閉じて教室を飛び出す。
二つ離れた教室の友人を迎えに行こうとしたところで、その中から聞こえてきた大声に足を止めた。
「いーいーから!私と併走してよって言ってるの!!」
「だからねぇ……あんた、この前また併走してくれるって言ってたでしょ!?私今日良い感じのコンディションだし、絶対勝てると思うんだよね」
口ぶりからして何か言い争っているようだったけれど、1人の声しか聞こえてこない。
恐る恐る教室を覗き込むと、声の主は机から身を乗り出すウマ娘だった。
その対面にいる口論の相手は一体誰かと興味本位で首を突っ込むと、そこに座っていたのはまさに今、私が迎えに行こうとしていたオルフェーヴルだった。
菫色の瞳を細めて、気だるそうに応答している。
「たしかにまた併走しても良いとは言ったけど、日程は決めてなかったでしょ。私は今日予定あるし、さすがに急すぎるから無理」
「予定って何?別の子と併走するなら私も連れてってよ」
「シオンは距離適性合わないから無理でしょ」
無いわーと言いたげに首を横に振るオル。
「私とその子で距離適性合わないならオルフェだって合わないでしょうが」
「こっちには絆があるんですー」
「絆ぁ〜?そういうの言わないタイプだと思ってたよ、あんたはね」
「こっちは入学初日に学園内で迷子になったもの同士という強固な絆があるんだよ」
「言うほど強固なものでもなくない?」
前言撤回、今日はとてつもなく良い日かもしれない。
オルが私のことを友人と認めてくれているようなのはとても嬉しいことだった。
絆がどうとか話してたけど、これ以上迷子エピソードが深掘りされると今後このクラスでの私のイメージが「入学初日に迷子になった子」になりかねないので、さも今来た風を装って扉から顔を出した。
「じゃ、私あの子とお昼食べてくるから」
「ちょっと待って、用事ってまさか昼ごはん食べに行く事なの!?併走じゃないの!?」
「併走行くなんて一言も言ってないでしょうが」
どこ吹く風といった様子で席を立ったオルに、快活な様子のその子はなおも食らいつく。
「……じゃあ、放課後!放課後なら良いでしょ?」
「別に良いけど……」
「決まりね、絶対逃げないでよ。今日こそは私が勝つんだから!」
ぴこんと耳を動かして、その子は教室を後にした。
「早く行こ、お腹空いたし」
「そうだね、今日のお昼は何食べる?」
「メニュー何あったっけ」
口論の時の少し鋭い印象からぽやっとした様子に戻ったオルに食堂の日替わりメニューを教える。
食堂の日替わりメニューは毎日朝に発表されるので、トレセン学園の多くの生徒は朝食を食堂で食べない子も見に来るのだ。
たしか今日はカレーライスがメインで、付け合わせに野菜サラダ。にんじんとオレンジのミックスシャーベットがおまけでついてくる……はず。
「じゃあそれにしようかな、残ってたらだけど」
「あはは、そうだね。私は今日にんじんグラタンにしようっと」
「ストームのクラスは午後何あるの?」
「たしかスタート練習。どの距離でもスタートは大事だけど、短距離マイルだと出遅れが致命的だって先生が言ってた気がする」
「気がする、って。あんまり覚えてないんだ」
「ロアの受け売りみたいなものだから」
ふーん、と相槌を打ちながらカレーライスを頬張るオル。
彼女のクラスは午前中にスタートやコーナリングのコツを教わったらしく、午後はそれの実践を行うそうだ。
「寝よっかな、どうせほとんど知ってる話なんだし」
「起きてた方が良いよ……競走ウマ娘の歴史担当の先生、投げたチョークの切れ味やばいから」
「なんでそんなの知ってるの……? なんかやらかした?」
「ま、まぁそんな感じ……かな」
経験者は語る。
ということで、食事を終えた私たちはこんな感じでお喋りしながらのんびりと残りの時間を過ごし、午後の練習に向けて力を温存するのであった。
オルフェーヴル (ウマ娘の姿)
ダウナー系の(普段は)穏やかなウマ娘。
入学初日に学園内で迷い、同じく迷子になっていたストームと意気投合した。
容姿はかっこいいあの原案の姿をイメージしながら書いてます。