春嵐   作:パズル飴

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新馬戦 in 北の大地

がたごとがたごと。

ヒラヤマさんや高川さんが口すっぱく言ってくれたおかげか、たぶん通常よりゆっくりめに進む馬運車の中で私、プランタンストームは考え事をしていた。

 

まずは新馬戦を勝ち抜くことが名馬への、ひいてはウマ娘になるための第一歩だろう。

そしてそのまま流れに乗って次のレース──ヒト族たちの話を聞いている感じだと、函館2歳ステークス──に出るらしいので、そこも勝ってひとまず落ち着く感じっぽい。

 

 

『いいか、プランタンストーム。前にも言ったが、俺たちはカレン先輩の後輩として恥のない走りをしなくてはならない。それはもうお前にも分かっているだろう』

『十分過ぎるほど分かってるよ』

 

『それに……これを自分で言うのは本当に悔しいし、非常に腹立たしいが、今のところ俺よりもお前の方が先輩に気に入られている』

『えっそうなんだ……初耳だよそれ。私てっきりカレンチャン先輩には睨まれてるものだとばかり』

『どうしてこんなやつの方が俺より目をかけていただいているんだ……』

耳を少し後ろに倒したカナロアくんは不機嫌そうな表情をしつつ、そのまま言葉を紡ぐ。

 

『いいか。絶対に、ぜっっったいに勝て』

 

『……了解、頑張ってくるよ』

 

それは初めて見た表情だったし、初めて聞いた声色だった。

真っ直ぐに投げかけられた激励の言葉を、絶対に裏切るわけにはいかない。

 

 

声をかけられて顔を上げると馬運車の扉が開いており、時間もあってか涼しい空気が流れ込んできている。

自身の存在を確かめるようにして一歩一歩踏みしめた地面は、軽やかな音を立てた。

 

2010年、7月下旬某日。

後に短距離レースで名を馳せる事となる名馬の記念すべきデビュー戦は、快晴のもと行われた。

 

「ストーム、今日は1着目指して一緒に頑張ろうね」

ゲート前、水橋さんはそう言うと私の頭をさらりと撫でた。

パドックや返し馬は想像してたよりあっけなく終わり、今は他の馬がゲート入りするのを待っている段階である。

本当に良いの?やること残ってないよね?ってくらいさっさと終わっちゃった。

アナウンス内容から、私は出走馬中一番体重が軽いこと(367kg)、14頭立てのうちの7番人気であることが分かった。

新馬戦ということもあってか客席はお世辞にも賑わっているとは言いがたいけれど、人見知りな私にとっては好都合だった。馬になってからあんまり関係なくなってきてるけど。

 

そういえば、パドックを回っているときにこんな会話を聞いた。

 

「あれだよあれ、あの金色っぽい馬。ミホノブルボン産駒だってよ。母馬は知らないけど、ブルボンって強い馬だったし気になって賭けてるんだよな」

「珍しい色してるな。栗毛か?」

「馬券絡むと良いな」

「んだよお前ら他人事みたいに言ってさー……一応栗毛らしいぞ」

「だって実際他人事だし」

「別に良いよ、今日は当たってもお前らに焼肉奢らねーわ」

 

どうやら馬券を買ってくれたらしき若者たちがこちらを見て話していた。

金色っぽいミホノブルボン産駒といえばたぶん私しかいないはず。

勝ちに行かなきゃいけない理由がまた一つ増えてしまったな……と思いながらささっとゲート入り。

他馬たちにピリピリした空気もなく、どちらかといえばのんびりした雰囲気。

少し暑いぐらいの晴れ空の下、音を立てたゲートから飛び出した。

 

「さて始まりました函館第4レース2歳新馬戦。先頭は11番のエーシンジャッカル、少し離れて2番プランタンストームが走っています、1番人気デラモーレは中団に控えている」

「エーシンジャッカルは短距離を得意とする馬の多いフジキセキ産駒ですから好走が期待できますね。プランタンストームはミホノブルボン産駒ですので、前めにいるのはおそらく脚質にあった走りなのでしょう」

 

 

若者たち見てるー!??

ゲートを飛び出たあと良い感じの位置につけたのでそのまま悠々と走っているプランタンストームです。

晴れているおかげで足元はさっくり軽やかな良馬場、近くの馬とぶつかることもなく順調な運び出し。

 

「あ、ランタンみたいな名前の馬結構走るじゃん」

「このままいけば馬券絡むんじゃねーの?なぁ焼肉じゃなくても良いからさ、ジュースとか奢ってくんね?」

「一円たりとも貴様らには奢らん。あとプランタンストームな」

 

若者たち見てた。良かった。

一度も鞭が入ることなく最終コーナーにかかったところで、少し離れていたはずの背後に気配を感じたので加速する。

スタミナの残りはまだ保つ、気力もあるからあとはスパートをかけるだけ。

 

「おっとここで7番コウミョウガツジが上がってきました、3番手にまで来ていますがプランタンストームが少し早めに抜け出して先頭です」

「コウミョウガツジが2番手に上がりましたがプランタンストームも加速して差が開いていきますね」

「1番人気のデラモーレは未だ上がってこない、ここでエーシンジャッカルがコウミョウガツジをもう一度差し返すがしかし先頭には届かない! 7番人気のプランタンストームがそのまま逃げ切ってゴール! 2位入線はエーシンジャッカル、3位入線がおそらくコウミョウガツジでしょうか」

 

 

「ストーム、1着おめでとう。よく頑張ったね」

 

 

ゴール後に勢いのまま少しだけ前へ進んで息を整えると、上から水橋さんの労いの声が聞こえてきた。

勝った。勝ったんだ、私。

これはもう速攻で帰ってカナロアくんやカレンチャン先輩に報告せねば。

自分だけだと連絡手段が使えないから芳松牧場の面々に勝利を伝えられないのが残念なところである。

 

「ほら見ろやっぱり勝っただろ!? って、なんかこっち見てる?」

「見てるわけねえって、気のせい……いや、マジで見てたわ」

 

応援してくれてありがとう、名も知らぬ若者たちよ。気が向いたらで良いから今後も応援してね。

スタンドにいる彼らへ一礼したのち、私は水橋さんの指示に従って移動する。

 

「……え、今、お辞儀した?」

「した」

「あれは確実に礼してた」

「……俺、プランタンストームに今後も賭ける。絶対にいつかG I勝つよ、あの馬」

 

ウイナーズサークルで口取り写真を撮って撤収。

次の目標は同じくこのレース場で行われる函館2歳ステークス。

 

『次も絶対に勝たなきゃ』

 

決意新たに見上げた空は、ずっとずっと遠い色をしていた。




めちゃくちゃ有名な馬とかじゃないと新馬戦の情報も映像も出てこないので難産でした。途中のタイムとかも見つからないので諦めて序盤と後半のみの実況解説となっています。
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