春嵐   作:パズル飴

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ロードカナロアさんお誕生日おめでとうございましたということで大遅刻衝動書きのウマ娘パートです。ほぼ旅路がメイン。
月一更新になってるの本当に良くないね。次こそ函館2歳S。


‪✧︎観戦、葵ステークス(と京都への旅路)

温かな光、ふかふかの布団、最高の朝。

しかし今日はなんだかバタバタしているような気が、

「とっとと起きろねぼすけストーム!!!!」

「うわああああああ!?」

 

痛い。ベッドから転げ落ちた。

若干デジャブだけど、ロアの起こし方が前より暴力的になっている気がする。

 

「急がないと遅刻するから、あと10分で支度終わらせて」

「待って待ってロア、今日なんかあったっけ? 集会とか? 私たちまだデビューしてないし」

「カレン先輩のレース見に行くって約束したでしょうが、この前」

 

「あぁ、今日だっけ……えっ今日何日!?」

 

「全くお前は……カレンダー見ておけ、私は切符の確認しておくから」

 

壁にかかってる日めくりカレンダーを確認したところ、まごうことなく約束した先輩のレースの日でしたありがとうございました。

自分が出走するわけでもないのにやたら緊張しちゃって、昨日は全然寝付けなかったんだよね。その結果の寝坊とは……。

 

「そうだ、途中のコンビニで朝食と飲み物買うから財布忘れるんじゃないぞ」

「了解」

 

というわけで、ロアが切符やら乗り換えの確認をしてるうちに私は顔を洗って髪と尻尾を梳かして制服を着て……と準備完了。

お財布の中身にも余裕を持たせておこう。

ロアはカレンチャン先輩への差し入れにこだわりが強いから、たまに高いのを買っていこうとする。

基本的に支払いは割り勘なのであんまり高いものを買われ続けるとちょっとこっちが辛い……というのは事前に話してあるので、最近は価格を抑えめにしつつ、メッセージカードをつけるなどして工夫しているようだった。

 

「寮長には昨日のうちに外出届けを出してあるから、部屋の施錠はしっかりしろよ」

「分かってるよ、もう閉め忘れなんてしてないってば」

 

昨日外出届けを出しに行って改めてフジキセキ先輩のイケメンさに目が眩んだし、その時に鍵のかけ忘れについても注意されたから覚えてるよ。

なんで私の施錠忘れがそんなに知られてるのかはさておき、本当にかっこよかったな……。

ウマ娘はもともと美形な種族だけど、たまに桁外れの美貌を持つ人が居て、例えば我らが栗東寮長のフジキセキ先輩。

同じく栗東寮のハーツクライ先輩とか、美浦寮のトウショウファルコ先輩なんかもイケメンウマ娘として名前を聞くことが多い気がする。

 

「施錠OK、行ってきます!」

 

学園出発から程なくしてウマ娘専用道路を突っ走る。

しかし、ウマ娘の専用道路が用意されてるって本当に良い社会だと思う。

ヒトにぶつかって怪我をさせるリスクもぐんと減るし、ちょっとしたトレーニング代わりにならないこともないし。

ところで、この友人ちょっと移動速度が速すぎる気がする。

 

「ロア、ちょ、ちょっと待って……寝起きにこのスピードは辛い」

「寝坊したお前が悪い」

「それはそうだね、反論のしようが無いよ」

 

トレセン学園から駅までの距離はそんなに長いというわけではない。ないけれど、正直準備運動なしにこのスピード、この距離はしんどいところである。

 

「ロアストップ」

「なんだ、ウマ娘は急には止まれないが」

「コンビニ近い入り口目指すならこっちの方が良いと思うよ」

「なるほど」

 

方向転換した後に駅へ向けて再び加速。

そういえばロアが冗談言うなんて珍しいな、なんて考えながらコンビニに入店。

前走ではカレンチャン先輩、思わしくない結果だったから今日のレースに向けてすごく頑張ってたの知ってるし、よっぽど気分上がってるんだろうな。

朝食代わりにサンドイッチ、差し入れには昨日発刊されたばかりの雑誌とカレンチャン先輩が好きなドリンク。

 

「差し入れ、これだけだと少ない気がする」

「だったらまだ時間あるし売店見に行くか」

 

コンビニを出て売店へ直行。

最近話題になっているカロリー控えめのスイーツとそれに合わせてブレンドされた紅茶を発見したので購入。

包装がとってもカワイイ。

 

「あと20分くらいで新幹線来るけど、意外と時間余ったね。もう少しゆっくり移動しても良かったかな」

「時間には常に余裕持って行動するべきだし、ギリギリで乗り込むよりマシだと思うが」

「む、それはまぁ……」

 

駄弁りながら待合室に移動。

数分前に来ていたウマスタの通知を確認すると、カレンチャン先輩の新しい投稿だった。

 

 

『今日は京都レース場で走ります!みんなカレンの応援よろしくね☆

#レースがんばるぞ #葵ステークス #カワイく走るよ #カワイイカレンチャン』

 

 

テキストに添えられてるのは蹄鉄をメインに据えて、画面の端にピースした手が写り込んだ写真。

顔が写ってるわけじゃないのにひしひしと画面越しに伝わってくるブレないカワイさ、さすがだと思います。

だってロアが隣で死んでる。

 

「私らも何か投稿してみる?ウマスタ、ほとんど更新してないし」

「何かって何……」

「先輩の応援行くよーみたいなのとか? いやでも、そういうの投稿するのは違うよね……やっぱいいや、忘れて。ドリンク注いで移動しよ」

 

 

放心状態のロアを揺すって、待合室のサーバーでココアを注いだらホームに移動。

タイミングよく来た新幹線に乗り込んで席に座った頃、ようやくロアが現世に帰ってきた。

「えっと、京都にはたしか2時間くらいで着くから、早めにサンドイッチ食べようかな。ロアは朝ごはん何買ったの?」

「これ」

エッグベネディクトとパンケーキだった。サーバーで注いだだろう飲み物はブラックコーヒー。

 

「パンケーキか、なんか意外。甘いのと苦いのの組み合わせ?」

「パンケーキはこの前カレン先輩がおすすめしてくれたから。コーヒーは単純に好み」

「ほほう、そういうことか」

 

ブラックコーヒー飲めるとは大人だな。

 

「あ、そういえばさ、この前カレンチャン先輩ウマスタでタイアップ投稿してたじゃん。あれってカフェオレだっけ、カフェラテだっけ」

「先輩の投稿にあったのはカフェオレ。買おうと思ったけどもう売り切れてた」

「はへ、人気凄まじいね」

「カレン先輩が投稿してるんだから当然だろう……でも正直、この時間ならまだあると思っていたのは否めないな」

ロアはちょっと悔しげな顔でそう呟いた。

 

そのまま朝ごはんを食べて、ポケット席の旅雑誌を読んだり景色を眺めたりしながら過ごし無事京都に到着。

差し入れはレースの後に持って行くことにして、最初に向かうはとある神社。

レース前のウマ娘がお祈りしに来るとして有名な場所で、私たち以外のウマ娘の姿も散見される。

神社のマナーを一通り終えて、鈴を鳴らした後に手を合わせて祈る。

 

『カレン(チャン)先輩が勝てますように』

 

お祈りを終えた後は神社の周囲をぶらぶらと散策して、私はお土産屋さん、ロアはショッピングモールへと向かった。彼女も何かしらお土産を買うらしい。

お昼時に駅前に集合して昼食、そのあとレース場へ向かって観戦というスケジュールで動くことになる。

 

「オルとドリジャ先輩と、ブルボン先輩と……うーん、ホエちゃんとかにも買っていこうかな」

 

小一時間ほど悩み、無難にご当地のお菓子を買うことにした。

味の好みが分からないので、売れ筋のものをチョイス。

次に何か買うことになる時までに、もう少しみんなの事を知っておこうと心に誓ったのであった。

 

「嘘だろ……」

「【悲報】お昼を食べる予定の店、臨時休業」

 

脳内で再生される悲しげなBGM。だめぽ。

朝ごはんは軽めでお腹を空かせた私たちは、完全にこのお店で昼食を摂れると信じて疑わなかったのだ。

「どうする? ファミレスってのもなんか風情が無いよね」

「最悪そうなるが、まだ候補はある」

「マジか。神様仏様カナロア様だ」

 

ロアが言うには、少し時間はかかるものの徒歩圏内に定食屋があるとのこと。

隠れ家的雰囲気の小さなお店だった。

 

「良かったね、応援にも間に合いそうだしメニューも京都!って感じのがたくさんある」

「あぁ、想像以上に良い店だな……東京にあったら通いたいくらいには気に入った」

「超高評価だね」

 

「牛カツお願いします」

「私はおばんざいで! ……ロア、もしかしてゲン担ぎでカツ頼んだ?」

「そういう側面が無いとは言わないけど、京都の牛カツは美味しいと聞いていたからな。メニューに載っている写真も美味しそうだったし」

 

珍しく饒舌なロア。もしかしたら旅行が単純に好きなのかもしれない。

そして運ばれてきた料理のなんと素晴らしいことか。

 

「美味しかったです、ありがとうございました!」

「ふふ、こちらこそご来店頂きありがとうございました。お嬢さん方はもうレースで走っていらっしゃるんですか?」

「いえ、我々はまだデビュー前なのですが、今日は尊敬する先輩のレースを観に来たんです」

「あらあら、律儀な後輩さんたちね。また京都に来たら、その時はどうぞご贔屓に」

 

少し茶目っ気のある店員さんにお会計をしてもらって、いよいよ京都レース場へ向かう。

 

 

 

「いやーやっぱり重賞だと人が多いね。デビューとかオープン戦とは大違いだ」

「カレン先輩がSNSで告知していたし、他にも有力なウマ娘達が揃っているからな……1200mだが、ストームはクラシック級で出たいとか考えているのか?」

「いいや、全く。でもやっぱりさ、スプリンターを志すものとして高松宮記念とスプリンターズステークスは欠かせないよね!」

「当然だ。ところで、お前はマイルを走る気は無さそうだな」

「え、うん。まぁトレーナーについてくれた人が出て欲しいっていうなら考えるけど……意外だった?」

「あぁ……併走のタイムとか見てると、マイルも走れそうだと思っていたから」

 

意外とロアが私の能力を買ってくれていたことが分かったところで(嬉しい)パドック入場が始まる。

「カレン先輩が2番人気か」

「1番人気の人、前走8着だって。戦績見た感じ、マイルから短距離に狙いを定めた感じなのかな。……お」

カレンチャン先輩が登場すると同時にざわめきが起こる。耳を澄ますと、「写真より可愛い」とか「気合も乗ってて調子良さそうだな」とか、概ね好意的な意見が多く聞こえてきた。

 

「いよいよだな」

「なんか私が走るわけでもないのに緊張してきたよ……」

「お前が緊張する必要は無い。だって、

『カレン先輩だからな』

……なんで台詞の先読みなんかするんだ」

「なんとなく? 毎日同じ部屋で過ごしてるんだし言いたいことは分かってくるよ。ほら、始まるよレース」

 

大外のウマ娘がゲートに収まって、スタート。

「お、良い感じだねカレンチャン先輩。スムーズにスタート切って、好位につけてる感じだ」

「あの位置どりなら入着は既に堅いな」

 

気が早いよ友人。大いに分かるけど。

その後もレースはハイペースではないにしろよどみなく進み、内枠のカレンチャン先輩はコーナーで不利を受けることもなく直線へ入っていく。

「さーていよいよスパートがって、おや」

「あのゼッケンはたしか3番人気のウマ娘だったはずだ、ここで来たか」

 

ゼッケン4番のウマ娘がカレンチャン先輩に並んで、ほぼ真横にいる状態でゴール。

 

「これ……これ、どっちかな」

意見を伺おうと隣を見ると、ロアは険しい顔で掲示板に目をやっていた。

 

「クビ差の2着、か」

「先輩2着かぁ〜! でもレース運びはやっぱり上手かったし、ロアが言ってた通り入着もしたね。……ロア?」

「あぁ」

 

それでもなお彼女の顔が顰められているのは、きっとカレンチャン先輩の他人に見せない努力を知っていたからなのだろう。

 

 

「カレン先輩、お疲れ様でした」

「レースすごかったです、もうずっとドキドキしっぱなしで!」

「カナロアちゃんとストームちゃん! 現地まで観に来てくれてたんだね」

「勿論です、先輩の出るレースなら海の中でも土星でも観に行きます」

「あは、カレン嬉しい! 2人ともありがとね」

 

愛が重いなこの子。感想を伝えながら差し入れのドリンクを渡して、雑誌とスイーツ、紅茶は側に居た先輩のトレーナーさんに預かってもらった。

しばらく会話を弾ませて、自然とみんなの言葉が消えた時にカレンチャン先輩は話し出した。

 

「カレンね、今日は人気通りの着順だったでしょ。期待を裏切らないってことかもしれないけれど……やっぱり、1番人気で1着をとるのが1番カワイイと思ってるの。だから」

 

絶対に見逃さないでね。

 

ピンクトルマリンの瞳が煌めいて、私たちは思わず息を呑んだ。

この人はもう既に、今日のレースを糧にして前だけを見据えている。

(あの時から、ちっとも変わってない)

恐ろしいくらいの胆力の持ち主だった。

時が止まったような中で、空間を無粋にも壊したのは私がスマホで設定したアラームだった。

 

「うぇ、あ、アラーム!? すみませんすぐ止めます! ……ってロアやばい、そろそろ駅に戻らないと時間がまずい!!」

外出届けには帰寮予定時間も書いてあるので、それをオーバーするとかなりまずいことになるというのは結構有名な噂である。

いくら都会は電車がぽんぽん来るとはいえ、深刻な事態が差し迫っていることには変わりない。

 

「カレン先輩、今日は本当にお疲れ様でした。学園に帰ってきたらまたお話聞かせてください、失礼しました。……ストーム、急ぐぞ」

 

小声で耳打ちした声がカレンチャン先輩を相手にしている時より数度下がってるの、私は気付いているぞ。

冗談はほどほどに、控室を後にして私たちは駅めがけてダッシュを決めるのだった。

 

「やっぱりさ、フジ寮長に遅れますって連絡入れようかな。……私もう時間までに戻れない気がしてきた。すごく眠い」

「弱音を吐くなと言いたいところだが正直私も疲れているからなんとも言えん。任せる」

「連絡しました……ひぇっ、文面がおこだ」

「……最悪、次からは外泊届けにした方が良いかもな」

「モバイルバッテリーも持ってこなきゃだぁ……」

 

ハイスピードで外を流れる夜景と車内の静かな空気が、なんだかんだで今日は悪くない日であったことを物語っている気がする。

所々でやむを得ず発動したダッシュも、スパートの練習になっていると思えばそんなに悪くないし。

 

「カレン先輩は、やっぱり強い人だったな」

「うん、心の強さみたいなのが見えたよね。……私らも、もっと成長しなきゃ」

 

いつかターフで互角に渡り合える日が来ることを願って、私は少しの間目を閉じることにした。

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