春嵐   作:パズル飴

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初重賞 函館2歳ステークス

新馬戦で勝利をおさめてから数日、私は再び函館競馬場を訪れていた。

というのも、元々デビュー戦を勝ったら函館2歳ステークスに出走する予定だったからである。幸先やよし、このまま名馬への道を突っ走っていきたいところ。

快晴、良馬場、1200、今のところ最高に私向きの条件で大満足ですよ。今から3秒後にゲリラ豪雨とか来なければ意外と好走できると思う。たぶん、きっと、maybe。

 

ここで勝って帰ったら、2戦目にして重賞勝ち馬という甘美な響きの二つ名を得られるわけだけど……いや、あんまり考えないでおこう。フラグが立ってしまう。

 

「3枠4番プランタンストーム、5番人気です。2週間前の新馬戦では今回のレースと同じ函館1200mを快勝しております、馬体重は前走から変動無しの367kg」

 

おや、5番人気か。

ざっと見た感じ今回走る馬は私含めて13、4頭くらいだったからかなり上の方だ。

期待には応えたいなぁとか考えながらパドックをゆっくり回って歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「プランタンストーム大人しいな、落ち着いてる馬は買ったほうが良いんだっけ? 俺も買ってこようかな」

「早めに行ってこいよー、で、お前は今日どれくらいあの馬に賭けてるの?」

「単勝3000円。今月金欠だから無理しない程度でって思うとこれくらいが限度」

「へー。今日のも当たったら次回以降は俺も買ってみるか」

 

その声は新馬戦のときに馬券を買ってくれた若者たちではないか?

生前競馬はテレビの前で見るだけだったからお金賭けたこと無かったけど、金欠なのに3000円も賭けても良いのかな。ブーイングとか受け付けないよ私。しかも単勝だから2着3着だとお金入らないだろうし。

 

「ストーム、もうファンがついたみたいだね」

 

今日も頑張っていこうか、と頭上から聞こえてきた水橋さんの優しい声に頭を振って答えた。金欠兄さんの懐を潤してあげよう。

 

 

「函館競馬場9レース、第42回G III函館2歳ステークス芝1200m戦、いよいよ始まります。今年は14頭の2歳馬が出走、世代最強スプリンターを目指して静かにゲート入りを行なっています。

上空にはからりと晴れた青空が広がりまして函館競馬場、アポロジェニーがゲートイン。

各馬続いてイーグルカザン、内2番のトラストワン、プランタンストーム、外でラッシュウインド。

良馬場の芝コース1200m戦、函館2歳ステークス。最後は13番のルリニガナがおさまりました」

 

「ルリニガナとプランタンストーム非常に良いスタートを切りました、ラッシュウインドもそれに続きます。先行争いはずらりと広がって真ん中からタイセイファントム、さらにコットンフィールドやアポロジェニーも来ましたが、4番のプランタンストーム、内からするりと先頭に躍り出ます。少しヨレましたが問題無さそうです」

 

うわ近っ!? え、ちょ、この隣の子誰?

スタートした時思ってたより近かったからびっくりしてちょっとスピード出したんだけど、ヨレてたか。斜行扱いになると1着で入線しても、そのあと降着になることもあるらしいから気をつけよう。

他馬の進路妨害は重罪だからね、どうしても斜行したくなったらすごい前を走るかその逆で後ろを走るかしかないと思う。

……っと、それは今関係ない。

先頭に出てこられたなら好都合、今日も良馬場で走りやすいからこのまま出来るだけ差を開けておこう。

 

「ルリニガナは4番手あたりにつけています、7番マジカルポケット追走で外はラッシュウインド、マイネショコラーデが抜け出しました。さあ中団から先団めがけて上がる、エーシンジャッカルもつれて上がっていきます」

 

あ、実況を聞いた感じ二、三頭くらい誰か上がってきたっぽいな。

だったら私もこのままじゃなくさらにギアを上げていこう、今ならできる、もっともっと前へ!

 

「4番プランタンストーム独走、第3コーナーに差しかかりましたが他はもう少しといったところでしょうか、このまま逃げきるのでしょうか」

 

まだ他が第3コーナーに入ってないとなると、少しペースが早すぎたかもしれない。

でも、それで良い。

他馬のペースなんて考えて負けたら何にもならないんだから、自分のことだけ考えて走ろう。1200mなんてあっという間なんだから、ハイペースでなんぼだよね。いやそれはちょっと違うか。

 

「ここでマイネショコラーデが3コーナーを回って、中団後ろにはトラストワン、ドリームバロン、最後方に3番のディアマンボウが下がります。第4コーナーカーブへ入って、プランタンストーム依然逃げていますが、内からタイセイファントムとマイネショコラーデも追い上げてきます、さらに外からエーシンジャッカル来た、3頭横に広がって追いかける形となります」

 

1対多の鬼ごっこみたいな展開になってきてさすがにちょっと怖いけど、ここでめげたら方々に申し訳ない。私としても1200mでバテる馬なんて烙印押されたら堪らないし、まだまだ頑張れる。直線が見えたらスパートをかけてもっと離そう。もうそろそろ、前へ踏み込んで。

 

「プランタンストームまだ伸びるのか、直線に入りました、マジカルポケット来ましてテイエムシャトウとルリニガナも飛び出してきましたが、プランタンストームは残り100mもありません、そのままゴール! 2着争いはマイネショコラーデかマジカルポケットか、どちらでしょうか。ルリニガナは4着、5着エーシンジャッカルとなりました」

 

「っしゃおらぁ!! やっぱり強いなプランタンストーム!」

「思わぬ臨時収入だわこれ。もっと買っとけば良かった、次回は1万入れる」

「お前は極端なんだよ。しっかし走るなぁあの馬は……父親誰だっけ?」

「ミホノブルボン。今日の走りはブルボン譲りの逃げ戦法って感じだったな、機械的な正確さってわけではないけど」

 

1着達成!! 前方に誰もいなくて、周りの風景がぐんぐん後ろに流れていくのがただ楽しくて楽しくて、ひた走ったレースだった。

思いっきり走って火照った体にそよ風が涼しい。3000円のお兄さんとそのご友人の懐も潤すことができたようで何より。

 

「お疲れさま、ストーム。やっぱり早いね、君は」

 

水橋さんがむやみやたらに鞭打ったりしないから走ってる身としても快適だった、ありがとうございます。

スプリンターの逸材だ、と私の頭を撫でながら水橋さんはどこか懐かしげにそう呟いた。

 

帰ったら今日の話を他の仲間たちにもしよう。特に、私に絶対勝つよう念押ししてきたカナロアくん。たてがみ洗って待っててほしい。




プランタンストーム
2歳牝馬。鬼ごっこみたいな展開〜しかり、レース中考えてることが時々脱線しがちだが他人にはあんまりバレてない。時間の問題かもしれない。
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