レジェンド ~精霊術師の軌跡~   作:ミヤシュン@

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思ったより、長くなってしまいました。


第9話 辺境の街、ギルム!

 朝日も昇ってきた頃、セトが喉を鳴らしながら自分の身体に寄り掛かって眠っているリオに対して身体を揺すって起こす。それと同時に、ティアが起きて実体化してきた。

 

 「ん? セト……か?」

 

 「おはよう、リオ、セト」

 

 「ああ。おはよう、ティア、セト」

 

 「グルゥ」

 

 目を擦りながら周囲を見回すと、すでに太陽がその姿を完全に現しており、早朝であることが理解出来る。一度大きく伸びをし、立ち上がって身体の調子を確かめる。昨夜は寝る直前まで身体を動かしていたのだが、筋肉痛のようなものは一切無い。ここでもまた、自分の肉体の能力に驚く。

 

 「グルルゥ」

 

 セトの声に振り向くと、そこには水球が浮かんでいた。これで顔でも洗えということなのだろう。

 

 「助かる」

 

 短く礼を言って昨夜と同じように水で顔を洗い、眠っている間もセトが面倒を見ていたおかげでまだ燃えている焚き火でウォーターベアの肉を焼いて朝食を取り、出発の準備は完了した。

 

 「さて、そろそろ出発しようと思うんだが……昨夜の見張りを任せたけど、体力的に大丈夫か?」

 

 リオの問いに全く問題無いと喉でゴロゴロと鳴くセト。

 通常のグリフォンなら一晩徹夜すれば多少の疲れは見せるのだが、セトはリオの莫大な魔力を使った魔獣術によって産み出されたグリフォンだけに、一晩程度の徹夜は問題無いらしい。

 

 「すごい体力ね」

 

 「ああ、そうだな。なら、早速行こうか」

 

 ティアの言葉に同意したリオの言葉を聞き、森の中のときと同じく背を屈めて乗るように促す。リオは感謝の意味を込めてその背を軽く撫でてから跨がる。そんなリオにティアが、

 

 「あら? 双龍銃剣はいいの?」

 

 「ん? ……ああ。セトの速さなら大抵の魔獣なら振り切ることも出来るだろうし、それが無理なら精霊術で迎撃すればいい。精霊術の練習にもなるしな」

 

 「……それもそうね。精霊術の練習もしないとね」

 

 リオの返答が嬉しかったのか、声を少し弾ませながら言い、霊体化していくティア。それを確認したリオがセトの背を軽く叩いて合図を出す。

 

 「グルルルルルルルゥゥッッ!」

 

 高く鳴き、数歩の助走で翼を羽ばたかせて、まるで空を走るようにして駆け上がっていくセト。

 そして十分な高度を取ったところで首だけを自分の背に乗っているリオの方へと向ける。

 

 「グルゥ?」

 

 どっちに行くの? と尋ねてくるセトに南の方を指し示すリオ。特に南を示したのに理由があった訳では無い。自分の中の直感に従っただけだった。

 

 「グルゥッ!」

 

 リオの指示に鋭く鳴き、一路南へと進路を取ってその翼を羽ばたかせる。

 

 「……凄いな」

 

 (ふふ、そうね)

 

 セトの背から眺める光景に、思わず言葉を漏らすリオ。それにリオの視界を通して同じものを見たティアが同意する。

 リオの眼前に広がっているのは、どこまでも突き抜けるような青空と、一面に広がる緑の絨毯。見渡す限り街や村といった人工物は一切存在しない。

 リオが空からの景色を見て喜んでいるのが分かったのだろう。セトは嬉しげに鳴き、より大きく翼を羽ばたかせて空を疾走する。

 

 「……っと、見とれてる場合じゃないな。俺の素性を考えておかないとな」

 

 そもそも自分はこの世界の常識というのものを全く知らない。そのため、世間知らずに見られてもおかしく思われないように自らの設定を考えておかないといけない。そう判断したリオは、景色を眺める気持ち半分、自分の設定を考える気持ち半分で頭を働かせる。

 

 (冒険者として暮らさざるを得ない以上、精霊術師という設定は絶対に必要だな。セトと一緒にいることを踏まえるとテイマー系の能力を持っているという設定も必要だな。それでいて世間知らずでもいいような設定……)

 

 今までに読んだり見てきた小説・漫画、映画といった内容で似たようなものを思い出し……それらを今の自分の境遇に一つ一つ当て嵌めていく。

 

 (人里離れた山奥に師匠と二人と一匹で住んでいたので世間について疎い……OK。その師匠から習った魔法、いや魔術が精霊術と召喚術……は、セト以外を召喚しろと言われたら困るからテイマーってことにしておくか。ゼパイルの知識によると一応テイマーも存在しているらしいし。で、その師匠に一通りのことは教えたからと修行のために空間魔術で見も知らぬ場所に転移させられて、相棒のセトと一緒に魔獣を狩りながら彷徨っていたら街なり村なりを発見した、と。ティアに関しては契約精霊がいることを伝えればいいか)

 

 頭の中で一通り自分の考えた設定に矛盾が無いかどうかを考え、問題無いだろうと判断する。

 深く考えれば、魔術師の修行をしていたのに双龍銃剣という異質な武器を有していたり、修行に出すのに無一文で放り出したり、リオの他にセトも高価で高性能なマジックアイテムを装備していたりと、色々おかしな点は多々あるが、現状ではそれ以上説得力のある設定が思い浮かばなかったので満足そうに頷くのだった。

 設定を決めてから、数時間。特に何事も無くセトとその背に乗ったリオと霊体化したティアは、空の旅を楽しんでいた。いや、寧ろ飽きていた。

 

 「暇だ……」

 

 「グルゥ」

 

 (リオもセトも、そんなこと言わない)

 

 リオの言葉に同意するセトに、念話で話し掛けるティア。

 

 「そうは言っても、な。……そういえば、ティアはどの系統の精霊術が使えるんだ?」

 

 そんなリオの質問に、

 

 (あら、教えてなかった?)

 

 「ああ」

 

 (ごめんなさい。私が最も得意な系統は水よ。他に風と光と治癒等の補助系統が使えるわ)

 

 ティアはそう返すのだった。

 

 「そうか。それじゃ、水場なら凄まじく強いんだろうな」

 

 (ええ。まあ、リオに魔力を供給して貰えば水場ではなくても、思い切り戦えるでしょうけど)

 

 「そ、そうか」

 

 ティアの言葉に、ティアが全力を出すときは周囲に人や物が何も無いのを確認してからじゃないと、と内心で心に誓うリオだった。

 そしてさらに数時間。太陽も直上へと昇り、時間的にそろそろ昼食をどうしようかとリオが考え始めたとき。

 

 「グルルルルゥッ!」

 

 セトが注意を引くような鳴き声を上げたのだった。

 

 「どうした?」

 

 リオの問いに、視線を前へと向けるセト。その視線を追うと、そこには、明らかに人工物……というよりはたくさんの家々が存在していた。それも村ではなく、数万人規模は存在していそうなかなり大規模な街だ。魔獣対策のためか街を城壁で覆っている、いわゆる城壁都市とでも呼ぶべき造りになっている。

 さすがに街が近いためだろう。その街から続く街道のような物が眼下には存在している。もちろんコンクリートや石畳で造られた道路ではなく、街に出入りする人々の足や馬車で踏み固められて自然に出来た道路だ。

 

 (さてと、どうするか。セトに乗って上空から直接街の中に入ったり、入口近くにセトで直接降りるのはだめだな。なら少し離れた所に降りて、そこからセトと一緒に歩いて街に向かうか)

 

 下の道路を通っている者たちがセトの方を指して驚きの声を上げているのを見ながら方針を決める。

 

 「セト、もう少ししたら地上に降りてくれ。飛んでじゃなくて地上を歩いてあの街に向かおう」

 

 リオの頼みに小さく鳴き、翼を大きく羽ばたかせて街の方へと向かうセト。それから数分、街までの距離が歩いて十分ほどの場所で、リオとセトとティアは空の旅を終えることにした。

 地面へと着地したセトとリオは、街へと続く道路を歩いて行く。その周囲にはセトが着地する所を見ていたためか、一人と一匹からかなりの距離を取って街へと向かう旅人や商人、あるいは冒険者と思われる武器を装備している者たちの姿があった。

 

 (なるほど、あれが冒険者か。武器は剣に槍、そして弓。杖を持っているのは魔術師か?)

 

 (そうみたいね)

 

 それと悟られないように踏み固められた地面を歩き、周囲の様子……中でも冒険者と思われる者たちを観察するリオと同意をするティア。冒険者たちの方も、自分たちが観察されているのに気が付いているのか、あるいは純粋にグリフォンであるセトを警戒しているのか、リオたちの方を見ていた。

 そんな状態が十分ほど続き、ようやく街の入り口が見えてくる。そこには当然と言うべきか、予想外と言うべきか、五人の兵士がそれぞれ槍や剣で武装してリオたちを待っていたのだった。

 

 「……」

 

 さすがに自分たちから手を出す訳にもいかず、無言で兵士たちに近付いていくリオ。その後に大人しく従って歩いているセト。そんな風に自分たちに近付いてくる一人と一匹の様子を見ていた兵士たちだったが、距離が縮まるにつれて緊張感が満ちていく中で、唐突に兵士の中から一人の男が前に出る。

 

 (他の兵士たちが若いのに比べて、30~40代。恐らく兵士たちの纏め役といったところか?)

 

 そんなリオの予想を裏付けるように、顎鬚を生やした男は声を掛けてくる。

 

 「私はギルムの警備隊隊長を務めているランガという者だ。君はこの街に用があって来たと思ってもいいのかな?」

 

 厳つい容貌にもかかわらず、その口から発せられたのは予想外に軽い声だった。その違和感に戸惑いつつも、頷くリオ。

 

 「そうだけど……この出迎えの様子を見ると、何か問題があったりするのか?」

 

 「グリフォンのようなランクAモンスターを連れているだけに皆戦々恐々としていてね。すまないけど、向こうの詰め所でちょっと話を聞かせて貰えるかな?」

 

 ランガの言葉に周囲を見回すと、確かに門の近くにいる者たちの視線の多くがリオとセトへと集まっていた。特にセトに向けられている視線には恐怖とも畏怖とも取れる色が浮かんでいる。

 ランクは知っていても、ランクAモンスターという区分は理解出来なかったリオだが、それでも視線の意味が理解出来ないほどに鈍い訳では無い。

 

 (確かに予想以上にセトを怖がっているみたいだな。となると、大人しく詰め所の中で説明した方が結果的に早くすむ、か)

 

 内心で溜息を吐き、男の声に頷く。

 

 「分かった。俺も別に余計な騒動を起こしたい訳じゃないし、そっちの方が良さそうだな」

 

 「悪いね。さすがにグリフォンのような高ランクモンスターを連れた人物をそのまま素通りさせたら、上司に怒られるんだよ」

 

 厳つい顔に似合わぬ軽い口調で事情を説明するランガ。どうやらその厳つい顔と正反対の軽い口調は、リオやセトを警戒して意図的に出したというよりも、単なる素だったらしい。

 見かけと性格が違う、どこかアンバランスなランガの案内に従い、門の脇にある小さな建物へと向かう。

 

 「その、悪いけどグリフォンが入れる大きさは無いから、外で待ってて貰ってもいいかな?」

 

 「ああ、構わない。セト」

 

 リオの後ろを大人しく付いて来ていたセトの名前を呼び、嬉しそうに顔を擦りつけてくる頭を撫でながら声を掛ける。

 

 「俺は建物の中で話があるから、セトは近くで休んでてくれ」

 

 「グルゥ?」

 

 大丈夫? と蒼い瞳を向けて小首を傾げるセトに、頷きを返す。

 

 「大丈夫だ。俺の実力は知ってるだろ?」

 

 リオの言葉に安心したのか、短く鳴いて詰め所の脇にある草むらに寝転がるセト。一晩の徹夜と、ここまで休み無しで飛んできたことでさすがに多少の疲れはあるのか、その目をゆっくりと閉じるのだった。

 当然、警戒をしていないという訳ではない。並のグリフォンと比べてスペック的に圧倒的な差があるセトは、視覚情報以外の嗅覚や聴覚、あるいは第六感や魔力といったもので、身体を休めながらも警戒をするのはそれほど難しいことではない。

 

 「俺が詰め所の中にいる間、誰かがよけいなちょっかいを出さないようにして貰えるか?」

 

 「もちろん分かってるよ。私としてもグリフォンを怒らせるような事態なんて考えたくないしね。そうだな……君」

 

 ランガが、近くにいた兵士へと声を掛ける。

 

 「何でしょうか?」

 

 「私と彼が詰め所で話している間、誰かがグリフォンによけいなちょっかいを掛けないように見張っていてくれるかな」

 

 「え? 自分が、ですか?」

 

 「そう。君が」

 

 「……了解しました」

 

 不承不承、といった感じで頷く兵士。

 どのようなランクが設定されているのかリオは知らないが、少なくとも警備兵たちの様子を見る限り、ランクAというのは相当に危険なカテゴリーだろうというのは容易に予測出来る。それゆえに兵士の気持ちが理解出来ない訳でもないし、リオとしてもこれから世話になる相手を無駄に怖がらせたいとも思えないために、兵士を安心させようと声を掛ける。

 

 「グリフォン、セトは基本的に大人しい。ただ見ているだけなら何もしないから安心してくれ。ほら、ああやって日向ぼっこをしているのを見れば、危険だとは思えないだろう?」

 

 「はぁ……た、確かにそう言われれば、大人しそうに見えるかも」

 

 セトとしては目を瞑って周囲を警戒しているのだが、それは側から見た限りでは分からない。寧ろ猫が気持ちよさそうに昼寝をしているように見えるその光景に、兵士の顔から微かにだが恐怖の色が消える。

 

 「じゃ、詰め所に行こうか」

 

 

 

 詰め所の中に入り、ランガに勧められて椅子へと座るリオに、ランガは木のコップに入った水を手渡す。

 

 「悪い、助かる」

 

 さすがに何時間もセトの上で飲まず食わずだったために、短く礼を言ってコップを受け取って口に付ける。

 冷たい……とはとても言えない温度だったが、それでも喉が渇いていたためかそれなりに美味く感じた。

 

 「もう一杯どうかな?」

 

 再度コップに水を汲み、リオの返事を聞く前にテーブルの上に水の入ったコップを置き、リオの向かいへと腰を下ろすランガ。

 

 「さて、まずは何から聞くべきかな。いや、その前に自己紹介をしておこうか。先程も言ったが、私はこのギルムで警備隊の隊長を務めているランガだ」

 

 「俺はリオ。で、表にいるグリフォンはセトだ。よろしく頼む」

 

 短い自己紹介が終わり、いよいよ本題とばかりにランガが口を開く。

 

 「そうだね、まずはこの質問から行こうか。このギルムには何の目的で?」

 

 「冒険者ギルドに登録しようと思って。……冒険者ギルドはある、よな?」

 

 もしかしたら冒険者ギルドが無いかもしれない。若干だがそんな不安を滲ませつつ問いかけたリオに、ランガは当然とばかりに頷く。

 

 「そりゃあ当然じゃないか。小さな村にも冒険者ギルドの支部があるのが普通なのに、辺境で唯一のこの街に無い訳がないだろう?」

 

 ランガのその言葉にリオは大きく安堵の溜息を吐き、前もって考えておいた設定を口にする。

 

 「良かった。何しろ生まれてからずっと師匠との二人暮らしだったから、どうも世情には疎いんだ」

 

 「……さっきの口ぶりからすると、この街に冒険者ギルドの支部があるかどうかも分からなかったのにかい?」

 

 口調は柔らかいが、嘘は見逃さないといった感じでランガが問い掛ける。

 

 「さっきも言ったけど、生まれてからずっと山奥で師匠と暮らしてたんだ。その師匠にしても魔術馬鹿で、常識には疎かったし」

 

 「……魔術? 魔法じゃなくてかい?」

 

 不思議そうに尋ねてくるランガに、リオは小首を傾げながら尋ね返す。

 

 「魔法? うちの師匠は魔術って言ってたけど……こっちでは魔法って呼ぶのか?」

 

 「……なるほど。確かに君は一般常識を知らないようだね。魔術なんて呼んでいたのは数百年も前のことで、今では魔法と呼ばれている」

 

 数百年、という所で微かに眉をしかめたリオだったがすぐに気を取り直して話を続ける。

 

 「それが本当なら、確かにうちの師匠はよほどの世間知らずとしか言えないか。まあ、修行に出てこいと言って空間魔術……いや、今風の呼び方なら空間魔法で転移させるんだから、それもおかしくはないかも」

 

 「修行?」

 

 「一通りの精霊術を修めたから、後は自分で修行して力を磨けと言われて放り出された」

 

 リオの言葉を聞いたランガは、思わず気の毒そうな視線をリオへと向けながら言葉を続ける。

 

 「なるほど、それで冒険者な訳だ。ちなみに表にいるグリフォンは君の魔法で?」

 

 「セトに関しては精霊術で従わせてる訳じゃなくて、子供の頃から一緒に育って来たんだ」

 

 「……テイマー、なのかな? それと、精霊術って何かな?」

 

 「テイマーに関しては自覚は無いけど、分類上は多分そうなると思う。精霊術は、簡単に説明すると、詠唱や魔法発動体を必要としない魔法と、思ってくれればいい」

 

 「なるほど。……うーん、召喚魔法とかじゃないのか。……そうすると……」

 

 リオの言葉にランガは数秒ほど何かを考え、やがて口を開く。

 

 「一応、この街の冒険者にもモンスターをテイムしている者は存在する。ただ、それでもランクAモンスターのグリフォンを……なんて冒険者はいなくてね。辺境にあるおかげで腕利きの冒険者が揃っているこのギルムでも、冒険者がテイムしているモンスターとなるとランクDまでが殆どで、極稀にランクCといったところだから、どうしたものかと思ってね」

 

 そう言うランガだったが、そもそもこの世界の常識を知らないリオにとっては、ランクAとランクDの具体的な違いというのは分かっていない。戦闘力や危険度によるランクだというのは予想出来るのだが。

 

 「それと、一応この街に入るには税金を払わないといけないんだけど。山奥で暮らしていたんなら、お金の類は持って無い……よね?」

 

 確認するようなランガの言葉に、頷くリオ。

 このエルジィンという世界では、基本的に銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。金貨10枚で白金貨1枚、白金貨10枚で光金貨1枚となっている。

 リオに分かりやすく説明するとしたら銅貨1枚が100円、銀貨1枚が千円、金貨1枚が1万円、白金貨1枚が10万円、光金貨1枚が100万円といったところか。

 

 「で、基本的に冒険者以外の人、つまり旅人とか商人とかは街に入るたびに銀貨一枚の税金が必要になる」

 

 冒険者が街に入る際に税金が掛からないというのは単純な話で、税金を掛けると冒険者たちがその街を拠点として使わなくなるからた。考えてみれば当然の話なのだが、街の中と外を行ったり来たりする必要性のある依頼も多いのに、そのたびに銀貨一枚を取られていては堪ったものではない。そのため、街を治める貴族たちは冒険者ギルドに所属している冒険者がギルドカードを見せた場合に限り街に入る際の税金を免除している。銀貨1枚の税金よりも、冒険者たちに依頼を受けて働いて貰った方が結果的に利益が大きいと判断しているからだ。

 ランガからそのような話を聞いたリオは思わず溜息を吐く。

 

 「つまり、現在の俺は冒険者じゃない。だから税金が必要だと?」

 

 「そうなるね。師匠から餞別とかは貰わなかったのかい?」

 

 ランガの質問に小さく首を横に振るリオ。そもそも師匠というのはあくまでも設定でしかない以上は餞別なんて貰えるはずもない。

 

 「うーん、出来れば私がお金を貸して上げたいんだけど、その辺は規則で禁止されているし……」

 

 呟きながらリオをじっと見つめるランガ。

 ランガの立場としては、怪しい人物を街に入れる訳にはいかない。しかし、目の前にいるリオという人物はランガの経験から考えても悪人には見えない。それどころかグリフォンというランクAモンスターを従えている、見るからに腕の立つ人物なのだ。

 このギルムは、エルジィンにある大陸の中でも中央大陸の大国であるミレアーナ王国、その中でも十万人近くを誇る、辺境唯一にして最大の街である。それゆえにモンスターの討伐という依頼が多く、襲ってきたモンスターに対処するという意味でも、腕の立つ冒険者はいればいるほどに街の安全を守るための力となってくれるのだから、ここでみすみす逃す手は無いというのがランガの考えだった。

 

 「そうだね。じゃあ何か売っていいような物とかは無いかな?それを私たちが代わりに街の中にある店に売りに行くとかは出来るけど」

 

 「売ってもいいような物……あ、こういうのでもいいか?」

 

 ランガの言葉に、ふと思いつき、脳裏に展開したミスティリングのリストからジャムルの毛皮と刃物状の尻尾が二十匹分と魔石が十九匹分とウォーターベアの毛皮と牙と爪を取り出す。

 

 「こ、これは……アイテムボックス!? それにこれは魔の森の入り口に巣くっているジャムルと……ウォーターベアの毛皮!?」

 

 どこからともなくリオの手の中に現れてテーブルの上に置かれたジャムルとウォーターベアの毛皮等に驚愕の表情を浮かべるランガ。

 なお、リオは全く理解していなかったが、ミスティリングのようなアイテムボックスと呼ばれる種類のマジックアイテムは非常に稀少であり、世界でも数えられるほどの数しか現存していなかったりする。それゆえにランガは驚愕の表情を浮かべたのだ。

 

 「これは、その……もしかして君が仕留めた……のかな?」

 

 「そうなるかな。転移先の森でいきなりそのウォーターベアに襲われて、セトと一緒にどうにかね。初めての実戦だったから、予想以上に苦戦したけど」

 

 「なら、君が転移させられた場所は魔の森ということになる。少なくとも、私の知ってる限りウォーターベアとジャムルの存在が確認されているのは、この辺だと魔の森しかないからね」

 

 「魔の森?」

 

 「ああ。ランクの低いモンスターも多いが、それ以上にランクの高いモンスターが生息している場所として危険視されている森だよ。森の中からモンスターが出て来ることは特殊な例外を除いて殆ど無いから、冒険者たちが進んで出向くことはない。特定のモンスターの素材を得るという依頼のために出向く冒険者はいるみたいだけど。それにしても、初陣でCランクのウォーターベアを倒すというのはちょっと信じられないね」

 

 「確かに俺一人だとちょっと厳しかったかも。セトがいたからこそ勝てたんだし。で、この毛皮とかは買い取って貰えるか?」

 

 「あ、ああ。すぐに手配するよ」

 

 リオの言葉に我に返ったランガが部下を数人呼び寄せると、毛皮等を持たせて街の中へと走らせる。

 

 「申し訳ないけど、買い取りの査定に少し時間が掛かると思うからしばらくこの詰め所て待ってて欲しい」

 

 「そんなに気を遣わなくてもいいさ。グリフォンを連れていきなりやって来て、さらに街に入るために支払う税金を持って無いような俺にここまでしてくれたんだ。ちょっとの時間待つくらいは何でも無いよ」

 

 「そういって貰えると助かるかな」

 

 苦笑を浮かべるランガだが、元々はランクAモンスターのグリフォンを連れた相手なので、手荒な真似をしてもまず勝てないと判断して丁重に対応したというのが、正しいところだ。

 そして詰め所の中でリオとランガが世間話……という名の情報収集を始めてから一時間ほど。普通なら昼食の時間が終わり、午後からの仕事を始める頃になって、ようやく毛皮等を売りに出ていった兵士たちが詰め所へと戻ってきた。

 

 「隊長、ただいま戻りました。これがそちらの方の品を売った金額になります」

 

 兵士が渡した小さめの袋をそのままリオへと渡すランガ。

 

 「その、ウォーターベアの毛皮は処理の仕方に失敗した所と焦げていた所があったため、本来なら金貨7枚らしいのですが金貨5枚に。爪が一本銀貨5枚が二十本で白金貨2枚に。牙が全部で白金貨1枚と金貨5枚に。ジャムルは毛皮が20匹分で金貨7枚に。尻尾が20本で金貨8枚に。魔石が19個で金貨6枚に。合計で、白金貨6枚と金貨1枚になりました」

 

 (白金貨6枚と金貨1枚か。予想より稼げたな)

 

 内心で安堵したリオだった。毛皮が少し安くなったがそれが自分の解体のミスでは誰も責められない。

 袋の中から金貨を1枚取り出してランガへと渡すと、お釣りと共に首飾りを渡される。

 

 「はい、税金の方確かに。銀貨9枚のお釣りです。それと、テイムされたモンスターや召喚獣を街中で連れて歩く場合は、この従魔の首飾りを見て分かる場所に着けておいて下さい。テイムされたモンスターや召喚獣が暴れたりして被害を出した場合、その処罰は主人の方にいきますので注意して下さい。なお、グリフォンほどの大きさのモンスターを連れているのなら、街の東の方にある夕暮れの小麦亭という宿がお薦めです。と言うか、そこくらいしかグリフォンを休ませられる大きさの厩舎がある宿は無いというのが正確な所ですが」

 

 「冒険者ギルドは?」

 

 「街の中に入って、大通りを真っ直ぐに進めばすぐに見えます」

 

 「なるぼど。色々と手間を掛けさせてしまったかな。ありがとう」

 

 「いえ。では、ようこそギルムへ。よい出会いがありますように」

 

 ランガにそう送り出され、リオは詰め所を出て、セトを連れて街の中に入って行くのだった。

 

 

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