レジェンド ~精霊術師の軌跡~   作:ミヤシュン@

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書いていたら、思っていた以上に長くなってしまいました。そして、大晦日に出来ました。

 では、第10話どうぞ!!


第10話 ギルド登録とランクアップ

 ギルムの大通り。現在そこはざわざわとした声に包まれていた。

 いや、それ自体はいつものことであり、特におかしいことではない。いつもと違うのは、ざわめきの中心に一人の男……というよりは青年と一匹のグリフォンがいたことだろう。

 周囲から向けられている視線が気になるのか、喉の奥で小さく鳴くセト。一瞬だけ周囲のざわめきが静まるが、すぐに元のざわめきが戻る。

 だが、それも無理はない。何せグリフォンというランクAモンスターが街の中を堂々と歩いているのだから。その首にテイムされたモンスターや、召喚獣であることを示す従魔の首飾りが掛けられているからこそこの程度ですんでいるのだ。もしこれが野生のグリフォンだった場合、周囲の住人たちは逃げ、冒険者や騎士、兵士といった存在が武器を構えて向き合っているだろう。

 

 「気にするな。お前が何もしなければ向こうも何もしないさ」

 

 そう言ってセトの頭を撫でるリオだったが、内心では少し驚いていた。

 

 (従魔の首飾りをしているとはいっても、ざわめきだけで済んでいるのは辺境にある街の住人だからか?)

 

 (そうだと思うわよ)

 

 と、ティアと念話で話しているリオも、自分の中性的な顔立ちも注目を集めている原因とは思っていないのだろう。

 そんなざわめきと共に大通りを歩くこと二十分ほど。ランガに聞かされていた通り、冒険者ギルドと大きく書かれた看板の掛かっている建物がリオの視界へと入って来た。ゼパイルの知識のおかげで文字を読むのに不都合がないというのは幸運だったのだろう。

 

 「セト、あそこに従魔や馬車用の待機スペースがあるから、そこで待っててくれ。この首飾りがよく見えるようにな」

 

 リオの声にセトは喉を鳴らしながら頷き、指定された場所へと向かう。それを見送ったあと、リオもまた冒険者ギルドの入り口にある扉へと手を伸ばす。

 ギィッと音を立てて開く扉。そこでリオの目に入ってきたのは予想外の光景だった。荒くれ者が大勢集まり、好き勝手に酒を飲み、ときには喧嘩をし、下品なほどの大声で笑い声を上げている。……そんな光景を予想していたリオだったが、目の前に広がっていたのはそんな予想とはかなり違う光景だった。確かに冒険者ギルドに酒場が併設されていたが、そこには五人の冒険者らしき者たちが酒を飲んでいる他は数人ほどがポツポツといるだけで、殆どの席は空いている。

 

 (思っていたよりは人が少ないな。もう昼を過ぎたし、依頼でもこなしているのか?)

 

 (そうじゃない? ……というか、私に聞かれても解らないわよ)

 

 (そうだな。ごめん……)

 

 と、ティアと念話していた。

 

 「いらっしゃいませ。用件の方は何でしょうか?」

 

 リオがギルドの中を物珍しそうに眺めていると、唐突に声を掛けられる。声のした方へと視線を向けると、そこには受付らしき場所が複数あり、その中の一人がリオへと声を掛けていた。

 さすが冒険者ギルドの顔というべき受付を任されているだけあって、数人いる受付嬢たちは皆が皆美形と表現しても構わない容姿を誇っている。猫耳や犬耳をした獣人や、エルフらしき耳の尖った女性。そして当然いる普通の人間。その中でもリオに声を掛けたのは、茶髪をポニーテールにした人間の受付嬢だった。

 

 「ギルドの登録を頼みた……」

 

 そこまでリオが口に出したとき、酒を飲んでいた集団の方から唐突に下品なまでの笑い声が聞こえて来る。

 

 「ぎゃはははは! ここはお前みたいな貧弱なガキが来る場所じゃないぞ! 僕ちゃんが行くのはママのスカートの中だろう?」

 

 「そうからかうなよ、バルガス。ほら、ビビッちまって声も出せないじゃないか」

 

 「坊主、お前がここに登録に来るのには五年……いや、十年は早いんじゃないか? そんな貧弱な身体で冒険者が出来るとでも思っているのか?」

 

 「そうそう。それに武器も持って無いようだしな」

 

 「おい、絡むな。打ち上げだってのに、余計な騒ぎを起こしてどうするんだよ」

 

 五人のうち素面気味の一人が止めようとしているものの、残りの四人はすでに大分酔っ払っているのだろう。制止の声も関係ないとばかりに、リオに対して小馬鹿にするような野次を飛ばしている。

 

 「ちょっと、新人に絡むのは止めて下さい!」

 

 さすがにリオがこのまま絡まれ続けるのは可哀想だと思ったのだろう。あるいは受付嬢としての職務上というのもあるかもしれないが、受付嬢がそう声を上げる。だが、それが余計に気に入らなかったのだろう。リオだけではなく、受付嬢まで揶揄するかのような声が上がる。

 

 「は、何だ。レノラはそんなガキが好みか? そんなガキじゃ夜も満足させて貰えないだろ? 俺に任せれば充実した夜を過ごさせてやるぞ。だから今夜辺り付き合えよ」

 

 「……いい加減にして下さい。最近の貴方たちは問題行動が目に余ります。これ以上こちらの業務を妨害するようでしたら、こちらとしても相応の対応をしなければなりませんが?」

 

 「はいはい。全く、これだから受付嬢ってのは気位ばっかり高くていけねえ」

 

 酒が入っているためだろう。普段ならまず口に出さないだろう言葉を口にする男たち。

 そんな態度に、リオの前にいた受付嬢が先程よりもさらに鋭い視線を冒険者たちへと向けるが、最初に止めに入った冒険者以外はそれに気が付いた様子は無い。

 

 (で、リオ。あれらにああ言われてるけど、どうするの?)

 

 (どうするって、無視だよ、無視。酔っ払いの相手なんてするだけ時間の無駄だからな。さっさと手続きを完了して、宿を取って食事にするさ)

 

 と、ティアと念話しながら登録後の予定を決めていた。

 

 「……」

 

 野次を飛ばしている男たちに視線を向けるが、興味が無いと判断してすぐにギルドの受付嬢へと向き直るリオ。

 当然、男たちは自分が馬鹿にしていた相手に無視されるという行為に耐えられるはずも無く、頭に血を上らせて怒鳴りつける。

 

 「てめえっ、俺たちを無視してんじゃねえ!?」

 

 「クソガキが! ギルド登録に来たばかりの新米如きが。自分の立場ってものを教えてやろうか? あぁん!?」

 

 「おいおい、バルガスもゾリトも落ち着けよ。あいつはゾリトの言葉通り登録に来たばかりの新米だぜ?無理して強がってるのさ」

 

 「新米だからこそ年上に対する礼儀ってのは教えてやらなきゃいけねぇだろ」

 

 そんな風に言っている四人と、頭を抱えている一人。そんな五人を意図的に無視して受付嬢へと声を掛ける。

 

 「ギルドの登録を頼みたいんだけど」

 

 「え、ええ。……って、ちょっと、貴方大丈夫なの?あの人たちはああ見えても歴戦の冒険者なのよ!?そんな風に挑発なんかしたら……」

 

 リオの見た目と冒険者たちを見比べ、心配するように尋ねる。だが、リオは問題無いと笑みを浮かべて話の続きを促す。

 

 「……まあ、貴方がそう言うのなら説明を続けますけど……本当に気を付けて下さいね? あの人たちは腕が立つ割には何度も問題行動を起こしてきた人たちなんだから。……ん、コホン。では説明に移りますが、その前に改めて。私は冒険者ギルドギルム支部の受付をしているレノラといいます。よろしくお願いしますね。では、こちらの用紙に名前、年齢、戦闘で使える特技があったら書いて下さい、代筆はいりますか?」

 

 レノラの言葉に大丈夫だと言葉を返し、ペンを手に取り、渡された紙に名前をリオ、年齢を十八、特技の欄に精霊術、近接戦闘、テイムモンスターあり、契約精霊ありと書き込んでレノラへと手渡す。

 ちなみに、エルジィンでは名字を持っているのは貴族やそれに準じる者。あるいは何らかの偉業を成し遂げた褒美として与えられるのが一般的だ。なので、当然この世界に来たばかりのリオに名字は存在しない。

 

 「はい、ありがとうございます。ギルドカードが出来るまで多少掛かりますので、その間にギルドの説明に移らせて貰います」

 

 渡された紙を事務員へと手渡し、レノラは軽く一礼をしてから改めてギルドの説明をするために口を開く。

 

 「まず、冒険者ギルドというのはランク制で、最下級のランクHからG、F、Eという風に上がって行きます」

 

 「そうなると、ランクHというのは初心者用?」

 

 「そうですね。より正確に言えばE、F、Gが初心者用、あるいは駆け出しや新人のランクとなっています。同時にCとDまで上がればベテランで、AとBは一流や腕利きとなります」

 

 「……ん? じゃあ、ランクHは?」

 

 レノラの言葉にランクHの説明が無かったのを不思議に思ったリオはそう尋ねる。

 

 「ランクHは戦闘を必要としない、いわゆる街の中だけで出来る依頼のみ受けることが出来るランクです。例えば店の商品や倉庫の整理や、店番、草むしりといった、雑用仕事ですね。ランクHの依頼に限って言えば、冒険者というよりも街の住人が小遣い稼ぎでやるという人もいます」

 

 「なるぼど」

 

 レノラの言葉に納得したように頷いたリオは、説明の続きを促す。

 

 「ちなみにランクに関してですが、実はランクAよりも上のランクSというのもありますが、これに関しては世界でも三人しか存在していません。それほどの規格外の……より正確には人外の存在と表現するのが正しい人たちですね。このミレアーナ王国の王都にも一人存在しますよ」

 

 人外の存在という言葉に一瞬だけ反応しそうになったリオだったが、幸いレノラはそれに気が付かずに説明を続ける。

 

 「ここまでで何か質問はありますか?」

 

 そう尋ねてくるレノラの言葉に、リオは気になっていたことを口に出す。

 

 「ギルドに登録した場合、ランクHから始まるということだけど、街の外に出る必要がある依頼を受けるためにはどうすれば?」

 

 そもそも、リオの目的は魔獣術で産み出されたセトと双龍銃剣の強化だ。そのためには必然的に街の外でモンスターを相手にする必要があり、当然の疑問だった。

 

 「ランクHの冒険者が外に出る必要のある依頼を受けるには、ギルドの試験官にある程度の戦闘能力があると認められれば、ランクGに上がって街の外での依頼を受けることが可能になります」

 

 「なるぼど、試験官に……」

 

 リオが頷いたのを確認し、納得したと判断したのだろう。レノラは説明を続ける。

 

 「続いて依頼に関してですが、あそこにボードが幾つもあるのが分かりますよね? あのボードは依頼ボードと言って、ランクG用、ランクF用といったようにランクごとに受注可能な依頼を貼り付けています。その依頼書を受付に持ってきて受理されれば依頼の受注は完了となります」

 

 レノラの見ている方へと視線を向けると、確かにそこには幾つものボードが存在している。その際、先程絡んできた冒険者たちが嘲笑を浮かべているのも見えたが、特に気にした様子も無く無視してレノラへと視線を戻す。

 

 「なお、依頼書に書かれている報酬については、街に納める税金やギルド側の手数料を抜いた金額になっているので、依頼を達成した場合は報酬額全てが支払われることになります」

 

 「なるぼど、面倒な計算をしなくてもそのまま報酬が全部貰えるのは嬉しいな」

 

 「そうですね。リオさんは大丈夫なようですが、冒険者の中には計算が苦手な人もいるので。……それで、依頼に関してですが規定日数が書き込まれているものについては、その日数以内に仕事を終えることが出来ない場合報酬の三割を違約金としてギルドに払って貰うことになるので注意して下さいね」

 

 違約金として報酬の三割と聞き一瞬眉をひそめたリオだったが、それでもすぐに納得した表情を浮かべる。規定日数というのが無ければいつまでも依頼を達成しないような者が出て来るだろうし、その際のペナルティとしては妥当だろうと判断したためだ。

 

 「依頼についてですが、ランクG以降は基本的には自分の一段階上までの依頼を受注可能で、下限はありません。例えばランクF冒険者の方が受けられる依頼はH、G、F、Eの四つといった具合ですね」

 

 「一段階上までというのは、やっぱり無理な難易度の依頼を受けるのを防ぐために?」

 

 「ええ。冒険者というのは荒っぽい仕事も多いので、当然血の気の多い方もいらっしゃいます」

 

 そう言い、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらリオへと視線を向けている冒険者たちを一瞥するレノラ。

 

 「ですので、冒険者を守るという意味でもそういう規則になっています」

 

 「なるぼど。なら、ランクを上げるには具体的にどうすれば?ランクGに関してはある程度の戦闘技術があればいいってことらしいけど」

 

 「ランクアップに関しては、規定回数の依頼をこなした後に申請すればギルド側で審査をし、ランクアップ可能かどうかを判断します。ただしEからDに上がるとき、CからBに上がるときは別個にランクアップ試験を受けて貰うことになっていますね」

 

 (ランクアップ、か。受けられる依頼が自分の一つ上のランクまでだと考えると、強力なモンスターの魔石を手に入れるための討伐依頼を受けることを考えれば、なるべく早くランクアップした方がいいだろうな)

 

 (確かに、そうね)

 

 内心でティアと念話しながら、話の続きを促すリオ。

 

 「今のランクと多少似ていますが、パーティランクというものがあります」

 

 「パーティランク?」

 

 「はい。複数人の冒険者でパーティを組んだ場合、メンバーの平均ランクがパーティランクとなってギルドカードに明記されます」

 

 「パーティを組む上でのメリットは?」

 

 そんなリオの質問に、笑みを浮かべつつ口を開くレノラ。

 

 「何と言っても、ソロで行動するよりも戦力が充実することですね。一人より二人、二人より三人、三人より四人といった風に。他には、ソロだと自分のランクより一つ上の依頼しか受けられませんが、パーティだと二つ上のランクの依頼を受けられるといったところでしょうか」

 

 その話を聞くも、リオ自身はパーティを組む気は無い。リオにはセトとティアいう相棒たちがいるのだから無理にパーティを組む必要は無かった。……まあ、ティアの力を借りることは少ない方がいいのだが。

 

 「それと、ランクというのは冒険者やパーティだけではなくモンスターにも設定されています。例えばランクCモンスターと戦う場合は、ランクCパーティが若干の余裕を持って勝つことが出来る、という風にですね」

 

 「……それだと、ソロだったりパーティの人数だったりで個人によって違うんじゃ?」

 

 「確かにそうです。なので、モンスターランクに関してはあくまでも目安程度と考えて下さい。当然、ランクDパーティがランクCモンスターを倒したりといったことはそれなりにありますから」

 

 モンスターにも個体差がある以上、あくまでも目安でしかないと言われ、納得するリオ。

 

 「ランクに関しては以上ですね。それと、今回は冒険者として登録したのでギルドカードの作成に関しては無料ですが、紛失した場合は再発行手数料として金貨5枚が必要になるので気を付けて下さい」

 

 「金貨5枚?」

 

 「はい。それなりに高度な技術が使われていますので」

 

 予想外の高額さに驚くも、高度な技術が使われているマジックアイテムだと言われれば納得するしかない。

 

 「それで、冒険者となってモンスターを倒したら素材を入手することになります。その素材に関しては、ギルドで買い取りもしていますが街中にある店で売っても構いません。基本的にはギルドでの買い取りは一~二割ほど安くなりますが、買い取り査定が素早かったり同じ素材が市場に大量にある場合でも一定の値段となります。それと、ギルド以外で取り引きをして何らかのトラブルが起きたとしてもギルドでは関知しませんので」

 

 「それだと多少安くてもギルドで売った方がいい……のか?」

 

 「そうですね。安心度という点ではお薦めです。少しでも高く売りたかったり、交渉に自信があるのなら街中の店で売るといいですよ。……ああ、そう言えば忘れてましたね」

 

 不意に何かを思い出した様子のレノラに、首を傾げて視線を向ける。

 

 「ギルド同士がマジックアイテムで密に連絡を取ることが可能なので、ここで作ったギルドカードやランクは他の街の支部でも使用可能となっています。それと……」

 

 再び酒場でニヤニヤとした笑いを浮かべている冒険者たちへと視線を向けるレノラ。

 

 「依頼やその他の関係で冒険者同士が何らかの揉め事を起こしたとしても、一般人に被害が出ない限り冒険者ギルドは基本的に関知することはありません」

 

 「なるほど」

 

 「以上です。長々とした説明でしたが、分からないことがあったら随時聞いてくれればこちらで教えますので、安心して下さいね」

 

 リオが自分の言いたいことを理解したと判断したレノラは、そう言ってギルドの説明を終えるのだった。

 レノラの言葉を聞き終えたリオは、改めて先程から自分を見ている冒険者たちへと視線を向ける。するとそこではギルドの登録が終わるのを今か今かと待ち受けている四人の姿があった。最初にその四人を止めていた一人は、すでにその四人と自分は関係ないという意思表示なのか離れた場所で一人チビチビと飲んでいる。

 その四人が何を考えているのかは、レノラの説明にあった揉め事には関知しないという説明が全てだった。現在のリオはまだギルド登録前の一般人でしかない。さすがに冒険者が一般人へと暴力を振るえばギルドからのペナルティが科されるが、それが登録したばかりとしても冒険者同士なら問題は無いと判断したのだろう。

 

 「何か質問はありますか?」

 

 レノラの言葉に、数秒考えて口を開く。

 

 「例えば、他の依頼中にCランクやBランクの討伐依頼のモンスターを倒した場合は?」

 

 「残念ですが、依頼を受けていない状態でモンスターを倒してもそれは依頼達成とは認められません。ただ、そのモンスターの素材の買い取りは可能です」

 

 「ぎゃははは。登録したばっかのガキがCランクやBランクのモンスターを倒すだってさ。寝言を吐かすのもいい加減にするんだな」

 

 「起きた状態で寝言を言うとか、どれだけ器用に寝てるんだか」

 

 リオの質問を聞きつけたバルガスとゾリトと呼ばれた冒険者たちが再度絡んでくるが、リオはそれを無視したままレノラとの会話を続ける。

 

 「なるほど、説明してくれて助かった。ギルドカードはどのくらいで出来る?」

 

 「えーっと……はい、出来ました。カードはこちらとなります。表記されている内容が正しいかどうかをきちんと確認して下さい」

 

 レノラの言葉に従い、ギルドカードを確認するリオ。ギルド登録場所がギルム支部となっており、名前がリオ、ランクがH、年齢18歳と表記されている。

 

 「特に問題は無いな。……最後に質問を一ついいか?」

 

 「はい、何でしょうか?」

 

 その質問にニヤリとした笑みを浮かべ、わざと先程から絡んできているバルガスたちへ聞こえるような声で尋ねる。

 

 「さっきから妙に絡んでくる、騒ぐしか能のない一団がいるんだが、あの酔っ払いのおっさん共のギルドランクは?」

 

 「てめえっ!」

 

 酔っ払っている影響もあるのだろう。リオの質問を装った挑発に、即座に怒り狂う面々。

 

 「……そのあそこにいる方々はランクDパーティの『鷹の爪』の方々です」

 

 「『鷹の爪』? 俺はてっきりゴブリンの爪とか、そういう身の程にあった名前だと思ってたんだけど。それに、ランクD?あんな大口叩いてた割には低いな」

 

 リオがそう呟いた途端、『鷹の爪』の面々が座っている場所からバキィッ!という破壊音が聞こえてくる。そちらへとリオが視線を向けると、バルガスと呼ばれた男がバトルアックスをテーブルへと振り下ろし、破壊しているところだった。

 

 「登録したばかりのガキが言い度胸だ。ちと表に出ろ、身の程というものを教えてやるからよ」

 

 「いいだろう。ついでだから、ゴブリンの爪全員纏めて相手にしてやるよ」

 

 「あぁ!? 言ったな小僧!」

 

 「礼儀ってもんを教えてやるよ!」

 

 (人に教える前に、まずは自分たちが礼儀を学んだらどうなんだ?)

 

 (ふふ、確かにそうね。……ねぇ、リオ。勝敗の分かりきった勝負を見るのはつまらないから少し離れてもいいかしら?)

 

 (? ……ああ、別に構わないけど、気を付けろよ)

 

 (ええ。それじゃ、行ってくるわ)

 

 内心でティアと会話しながらギルドを出ていくリオの後をそれぞれが自分の武器を持って追いかけてくる。そして、ティアは霊体化した状態でギルドの奥へと向かう。

 そしてギルドから出ようとしたところで、リオが立ち止まってレノラへと声を掛ける。

 

 「戦闘技術があれば登録初日でもランクGになれるんだよな?」

 

 「え? あ、はい。その通りですが」

 

 「ランクGへのランクアップ申請をするから、その権限を持つ人をギルドの表に寄越して欲しい」

 

 「は、はい。分かりました」

 

 レノラへとそう言い残し、今度こそ本当にギルドから出て行くリオだった。

 

 

 冒険者ギルドの建物の前。現在、リオはそこで自分に絡んできた冒険者四人と向き合っていた。……正確には対峙していた、と表現するべきか。

 

 「へっ、今さら泣いても腕の一本や二本じゃ許してなんざやらねえからな」

 

 「『鷹の爪』を侮辱した報いを受けさせてやるよ」

 

 バルガスがバトルアックスを、ゾリトが長剣を構えながらリオを相手に凄みを利かせる。

 その後ろでは、二人の連れである冒険者二人がそれぞれ弓と短剣を持って、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらリオの方を眺めていた。

 そして四人とリオの周囲には、距離を取りつつも街の住人が野次馬として群がっている。

 この時バルガスたち四人が周囲に集まっている野次馬たちの声を注意して聞いていれば、リオがセトと共に大通りを歩いてきたと野次馬が近くの者たちに話している声が聞こえただろう。

 ちなみにセトはと言うと、リオが冒険者ギルドから出て来たときにはすでに気配や魔力といったもので気が付いていたのだが、首を上げたところでリオの目配せを受け、再び寝転がったまま目を瞑ってしまう。

 いつもリオに甘えているセトだが、今リオの目の前に立っている冒険者たちの腕を殆ど本能的に察し、特に問題が無いと判断したのだった。

 なお、バルガスたちは酔っ払っている影響や生意気なリオを思う存分痛めつけるという興奮で、セトの存在には全く気が付いていない。

 いや、普通は街中にグリフォンがいると予想出来る方がおかしいのは事実なのだが。

 それを聞きながらリオは、天眼を使ってあることに気付いた。

 

 (なるほどな。妙な自信の出所はあのバトルアックスか。マジックアイテムで、名前がパワー・アクス、能力が体力の常時回復か。どれだけ回復するのかはわからないが使いこなせるのかな?)

 

 と、考えてながらリオは口を開く。

 

 「……はぁ、弱い犬ほどよく吠える、というが少し五月蝿いな」

 

 『てめえっ!』

 

 リオが言った言葉の意味は分からなかったが、馬鹿にされたと判断したバルガスたちが声を揃えて怒りを発する。

 それを聞いていた野次馬たちも失笑を浮かべていたのだが、弓矢を持った男が周囲を鋭く睨みつけて黙らせる。

 

 「武器も持っていない奴が、何を言っても強がりにしか聞こえねえぞ、ガキが!」

 

 「はっ、確かにな」

 

 馬鹿にされたままでは要られないと、さっきのリオの言葉はただの強がりだと、言うバルガスとゾリト。

 だが、それを聞いたリオは動揺した様子を見せずに淡々と返事を返す。

 

 「ん? ……ああ、武器ならちゃんとあるよ」

 

 そう言いながら、右手を上げてミスティリングからバスターグレイブ状態の双龍銃剣を取り出し、重さを感じさせない動きで肩に担ぐ。

 

 『なっ!?』

 

 突如、リオの右手に現れた武器にバルガスたちと野次馬たちが驚きの声をあげる。それもそうだろう、全長2.5mの巨大な武器が現れたのだから。刀身の長さは1.2mあり、その重厚な刃は切っ先から左右で蒼と紅と色の違う刃を持ち、その刀身の中央には銀色の二体の龍が向き合う形で刻まれており、その刀身の形をあえて例えるならば、上から見た龍の頭部。1.3mの柄と刀身の付け根部分には筒状の物体が存在していた。

 そんな、異形とも異質ともいえる武器が現れたのだから驚くのは無理もない。だが、バルガスたちが驚いたのは武器の事だけではなかった。それは、

 

 「なんで、てめえみたいな新人のガキが、アイテムボックスを持ってやがる!?」

 

 そう、リオがアイテムボックスを持っていたからだ。それに対してリオは何も無いかのように答える。

 

 「そんなことお前らに、教える必要はないな。……。まあ、俺に勝ったなら持っててもいいぞ」

 

 「何だと!?」

 

 その言葉に驚きの声をあげるバルガス。

 

 「ただし、俺が勝ったら、お前らが持っている有り金全部とそのバトルアックスを貰っていくぞ。それでもいいなら賭けるか?」

 

 そう言って、賭けを持ち掛けるリオ。

 

 「……いいだろう」

 

 「バルガスッ!?」

 

 頷いたバルガスに非難の目を向ける仲間たち。

 

 「お前等も覚悟を決めろ。ここまで虚仮にされて逃げ出したりしたら、俺たちは明日からずっと笑いものだぞ! それに勝てばいいんだよ、勝てば。そしたらあのアイテムボックスは俺たちの物なんだ」

 

 バルガスのその言葉に物欲を刺激されたのか、それとも後には退けない状況だと理解したのか。残り三人の男たちも目を据わらせてリオを睨みつける。

 

 「決まったらしいな。なら、さっさと始めるか」

 

 リオはそう言いながら、双龍銃剣を肩から下ろしながら魔力を流すことで、刀身を刃引きをした状態にする。リオも別に『ゴブリンの爪』の連中を殺したい訳ではないからだ。もっとも、今の状態の双龍銃剣が当たれば骨は確実に折れるのだが……。

 丁度そのタイミングでギルドの扉を開けて一人の男が出て来たのだが、気配を殺していたために気が付いたのは少し離れた所にいるセトとリオのみだった。

 

 「そうだ、纏めて来いよ。一人一人相手してたら時間の無駄だからな」

 

 リオはそう言って、最後の挑発をした。もちろん、新人にそんなことを言われて黙ってられる訳もなく、ゾリトと短剣を持った男の二人がリオに突っ込んだ。

 

 「ほざくな、ガキが!」

 

 「後悔しやがれ!」

 

 そう言いながら、リオに攻撃を当てようとしたが二人が気付いた時にはリオの姿が目の前から消えていた。その直後に後ろから、

 

 「ぶげっ!」

 

 そんな声が聞こえ、後ろを見ると弓を持った男がリオの柄を使った一撃で上に吹き飛んでいる所だった。一瞬で自分たちの一番後ろにいた弓を持った男を戦闘不能にしたことに驚き動きを止めたゾリトと短剣を持った男に狙いをつけたリオは一気に距離を詰め、短剣を持った男を石突きを使った一撃で沈める。

 そして、次の瞬間にはバスターグレイブの柄が横薙ぎに振るわれ、肋骨を砕かれつつ吹き飛ばされたゾリトは冒険者ギルドの壁へと叩き付けられ……

 

 「がふっ!」

 

 べしゃっ、とでも表現出来そうな音を立てて地面に倒れ込み、意識を闇へと沈ませた。

 地面に倒れ、無様を晒して気絶している三人を一瞥し、最後に残っているバルガスの方へと振り向き……

 

 「ちぃっ!?」

 

 目の前に広がったバルガスの顔と、振り下ろされそうになっているバトルアックスを見て咄嗟にバスターグレイブの柄を横薙ぎに振るう。

 ギィンッ!という甲高い音を立てつつ、お互いの武器が弾かれる。

 いくら殺さないように手加減しているといっても、バスターグレイブ状態の双龍銃剣の柄とまともに打ち合って刃こぼれすらしていないバトルアックスに、さすがはマジックアイテムと納得した目を向けるリオ。

 言うまでもなく双龍銃剣はリオの莫大な魔力を物質化して作られた……否、正確には創られたマジックアイテムだ。魔石を吸収することによりスキルを増やしていくという特性や、付与されている数々の性能や機能を考えると、実はミスティリング以上の稀少品だったりする。……まあ、リオにしか使うことが出来ないのだが。

 

 「流石はマジックアイテムのバトルアックスだな」

 

 「うるせぇっ! 糞っ、糞っ、くそがああぁぁっっ!」

 

 憎悪に染まった目でリオを睨み、バトルアックスを振り下ろし、はね上げ、叩き付ける。

 その速度や技術はそれなりに高度なものであり、見る者が見ればランク以上の戦闘能力だった。少なくとも剣筋も何も無く、ただ闇雲に長剣を振り回していたゾリトよりはよほどマシだろう。

 だがバルガス必死の猛攻も、リオの身体能力や高い五感を以てすれば見切るのはそう難しい話ではない。振り下ろされた一撃は右足を後ろへと引き、半身になることで回避し、薙ぎ払うような一撃は刃引きをした刀身で弾く。地面を擦るような位置からはね上げられた一撃は柄を滑らせるようにしてその攻撃を逸らす。

 そんな攻防のやり取りが続くこと数分。さすがに全力で斧を振り回し続けていたバルガスも限界なのか、リオが後方へと下がるように強引に横薙ぎの一撃を繰り出してリオとの距離を取る。

 

 「ぜはぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 リオとの距離を取ったバルガスは、息を整えつつ痺れてすでに感覚のない腕の様子を確かめる。

 双龍銃剣の能力の一つである重量軽減。使用者であるリオにとっては殆ど重さを感じないが、バスターグレイブ状態の重量は百kgを超えている。つまり、その一撃を受けた方は100kgを超す金属の塊をぶつけられている状態なのだ。それを考えると、バルガスは短時間の打ち合いのみとは言ってもよく持ち堪えている方だろう。

 

 「さて、そろそろ手は出尽くしたか? なら俺の方から行かせて貰うが」

 

 「黙れぇぇぇぇっっっっ!」

 

 軽い挑発に、まだ息も完全に整っていないというのに再び突っ込んで行くバルガス。この辺が戦闘技術の割にはまだランクDで燻っている理由なのだろう。

 叫びと共に振り下ろされようとしているバトルアックスの一撃。それを目にしたリオは、斜め前、すなわちバルガスの真横へと跳び、スレイプニルの靴を発動させて空を蹴る。三角跳びの要領でバルガスの懐へと飛び込み、バトルアックスが完全に振り下ろされる前に腕、脇腹、膝関節の三ヶ所をバスターグレイブの石突きで殆ど同時に殴りつける。

 腕の関節を折られてバトルアックスが地面へと叩き落とされ、脇腹を殴られて肋骨を折られ、膝関節を砕かれて地面へと倒れ込む。

 それらの攻撃は瞬き一つするかどうかという一瞬で行われ、バルガスは地面に倒れ込んだまま痛みにより気絶した。

 

 (倫理観の適応化、か。なるほどな)

 

 ゼパイルに言われた言葉を思い出しながら頷くリオ。モンスターとの戦いに関してだけでは無く、人との戦いにも躊躇を覚えないのはそれが理由なのだろうと納得出来る出来事だった。

 

 

 一対四の戦い。それも、今日冒険者ギルドに登録したばかりの新人が一でランクD冒険者が四なのだ。

 普通に考えればどちらが勝つのかは一目瞭然だったその戦いだったが、実際に始まってみれば新人がランクDの冒険者四人を完封するという結末に終わった。

 もちろんリオが勝った理由としては色々と挙げられるが、それでも見ている方としては納得する者半分、信じられない者半分といった様子だ。それほどまでに冒険者のランクというのはある意味絶対視されているのだ。

 納得する者は、リオがランクAモンスターであるグリフォンを従えているのだから、それだけの技量はあるだろうと思っていた者たち。信じられない者の方は、背は高いが、筋骨隆々でもない、線の細いリオの見た目で判断した者たちだ。

 そんな野次馬たちの視線を浴びながら、リオは気絶しているバルガスたち三人をギルドの壁近くで気絶しているゾリトの所まで引き摺りながら運ぶ。

 それを終えたリオに、今まで待機スペースにいたセトが近づく。

 

 「グルゥ」

 

 「セト。よく我慢したな」

 

 『……』

 

 そう言いながらセトを撫でるリオ。それを見ていた野次馬たちは本当にグリフォンを従えているのを理解させられた。

 

 「さて、そろそろいいか?」

 

 そう声を掛けて来たのは、戦いが始まる前に気配を消してギルドから出て来た男だった。そろそろ頃合いと見て話し掛けたのだったが、その言葉に小さく首を振るリオ。

 

 「いや、もう少し待ってて欲しい」

 

 男へと短く返事をし、地面に転がっているバトルアックスをミスティリングの中に収め、バルガスたちの懐からお金の入った袋を取り出し、それぞれに金貨一枚と銀貨三枚を残し、後は自分の袋にしまう。その後、地面に転がっている長剣、短剣二本、弓、矢筒を回収してバルガスたちの近くに纏めて置く。

 

 「……随分と律儀だな」

 

 そんな様子を見ていた男が声を掛けるが、リオは無言で首を振る。

 

 「勘違いをするな。あのままだと他の通行人の邪魔になるから退けただけだ」

 

 「……まあ、いい。元々冒険者同士の争い事にギルドは介入しない方針だからな。それよりもすでに確認するまでもないと思うが、一応規則なので確認させてもらう。お前がリオだな?」

 

 「ああ」

 

 「HランクからGランクへのランクアップを希望した」

 

 「戦闘の心得があれば登録初日でもHからGへのランクアップは可能と聞いているけど」

 

 「確かに」

 

 「で、今の戦闘で俺の戦闘の心得というのは確認できたと思うけど……ランクアップは?」

 

 「文句無しに、な。まさかギルドに登録したばかりの新人がランクDパーティを一人で根こそぎ倒すとは……この目て見ててもちょっと信じられないが、自分の目で見たものを信じられないほどまだ頭は固くないつもりなのでな」

 

 苦笑を浮かべる男の言葉に興味が湧き、その様子を観察する。歳の頃は30代後半から40代といった中年で、頬に付いている傷を見る限りでは恐らく元冒険者なのだろう。身長は先程のバルガスと同じ百九十センチ程度で、なかなかに筋肉の付いている身体をしているように見える。

 そんな男にギルドの中へと入るように促され、見物は終わりとばかりに散っていく野次馬を尻目にリオは再びギルドの中へ向かう。

 その様子を確認したセトは、再び先程まで寝転がっていた場所へと戻るのだった。

 

 

 「ギルドに入ってから言うのも何だけど、あの四人はあのままでいいのか?」

 

 「先程も言ったがギルドは冒険者同士の争いには介入しないからな。それよりもギルドカードを」

 

 男の声に従ってギルドカードを渡すと、すぐさまカウンターの奥の方へと移動していく男。その背を見送りながら何となくギルドの内部を見回すと、先程の騒ぎを見ていた者たちが驚愕の表情だったり、納得の表情だったりでリオの方へと視線を向けていた。

 特にその中でもリオの登録を行ったレノラはリオの無事な姿を見て安堵の表情を浮かべつつ、バルガスたちを倒したからこそリオが無事なのだと思い至って微かに驚きの表情を浮かべる。

 遠巻きに見守っている者たちの中、一人の男がリオへと近付いていく。

 その男にリオは見覚えがあった。最初にバルガスたちと一緒に飲んでいたメンバーの一人で、新人であるリオに絡んでいくバルガスたちに付き合っていられないとばかりに一人離れて酒を飲んでいた男だ。

 

 「驚いたと言うか、やっぱりと言うか……まあ、収まる所に収まったって感じだな」

 

 「……あんたは?」

 

 「ルーノ。知ってると思うが、あんたに絡んでいった馬鹿たちと臨時のパーティを組んでた男だ」

 

 「……臨時?」

 

 「そう。今回の依頼はあいつ等だけじゃ厳しかったらしくてな。俺が助っ人として臨時でパーティを組んだ訳だ。にしてもあいつ等も、何を考えてあんたみたいな化け物に絡んだのやら」

 

 化け物。その単語を聞き、リオの頬がピクリと動く。

 別に化け物呼ばわりされたのが気に障った訳ではない。そもそも自分の身体が半ば化け物じみているというのはリオ自身が一番知っているのだから。だが、あくまでもそれは自分の肉体の性能を知っているリオだからこそ言えることである。セトの存在にしても、ギルドの内部にいたのでは気が付かなかっただろう。

 

 「何で俺をそんな風に判断したんだ? 見た目で……じゃないだろう?」

 

 怪しい動きは見逃さない、とばかりにルーノの様子を注視する。

 だが、ルーノは素早く首を振り、敵対の意志がないことを態度で示す。

 

 「おいおい、そんな目で見ないでくれ。言う。正直に言うから」

 

 「……で?」

 

 リオに促され、冷や汗を滲ませつつルーノは説明を始める。

 

 「俺の目は一種の魔眼って奴でね」

 

 「魔眼?」

 

 「ああ。……とは言っても、見ただけで相手を石化するとか魅了するとか、そういう強力な魔眼じゃない。俺の魔眼の能力は一つだけ。魔力を見ることが出来るってだけなんだよ」

 

 「魔力を見る……ねぇ」

 

 「そうだ。今回バルガスたちと組んだのも、ここから徒歩で何日か行った所にあるダンジョンに魔力を使った罠が多く仕掛けられている階層があってな。そこの攻略のために俺の魔眼が必要だった訳だ。で、俺の魔眼で見たところ……あんたの魔力は正直化け物という言葉以外では表現出来ない量と濃度を持っている」

 

 「……なるほど。一応納得しておこう」

 

 頷きながらも、リオの興味はダンジョンの方へと移っていた。

 ダンジョン。それは魔力が何らかの原因で集まり、半ば物質化して核となったときに創られる存在だ。その核により力を得たモンスターがダンジョンの主であるボスモンスターとして存在しており、そのボスモンスターが倒されるまで徐々にだがその規模を広げていく。

 そして一度でもボスモンスターを倒してしまえば、ダンジョンはその時点の規模で固定化される。

 なお、ダンジョンはその性質上魔力溜まりが起きやすいので、通常の獣がダンジョンに入り込んでモンスター化するというのは良くある話だ。また、ダンジョン内にいるモンスターの数が一定数以下になると、核がどこからかモンスターを転移させてくるなり、新たに生み出すなどしたりする。

 核を破壊すればダンジョンも消え去るのだが、それをしないのはダンジョンが生み出すモンスターの素材や、それを目当てにして集まってくる冒険者たちの落とす金、素材を買い取るために集まってくる商人たちといった利益が不利益を上回ってくるからだろう。

 

 (ダンジョン……モンスターが多くいるのなら、魔石を求めてセトと一緒に行ってみるのも悪くない。問題としては、セトが戦闘出来るだけの空間的余裕があるかどうかだな)

 

 リオが頭の中でそう考えていると、ギルドカードを持っていた男が戻ってくる。

 

 「何だ、バルガスたちとは派手にやり合った癖に、臨時とはいえパーティを組んでたルーノとは仲良くやってるようだな」

 

 「グラン、余計なことは言わないでくれよ。せっかく俺がバルガスの仲間じゃないって誤解を解いたんだから」

 

 「ルーノは相変わらずか。リオ、一応紹介しておくとルーノはそれなりに腕の立つ冒険者だ。基本的には戦士と言ってもいいんだが、ある程度の攻撃魔法を使え、ある程度の回復魔法も使えて、ある程度のシーフの技能も持っているという便利な奴だ」

 

 ギルドカードを渡しながらルーノの能力を説明する男、グランの話を聞きながら、リオはボソリと呟く。

 

 「つまりは器用貧乏な訳だ」

 

 「……いや、まあ、外れちゃいないんだけどさ」

 

 「それにこいつは、パーティにいれば便利な奴なのは間違い無いんだ。どうだ、ルーノとパーティを組んでみる気はないか?」

 

 ルーノとパーティを組むことを勧めてくるグラン。

 グランにしてみればリオは期待の新人であり、その実力には期待していた。だが、登録直後にいきなりランクDパーティと揉め事を起こすなど、対人関係に問題を抱えているように思えたのだ。そこで、オールマイティな能力を持っており、人間関係も無難にこなすルーノとパーティを組ませれば上手い具合に回るのではないか。そう考えたのだが。

 

 「すまないが、しばらくはソロで動くつもりだ。相棒もいるしな」

 

 あっさりと断るリオ。そもそもモンスターの素材を売るときに一番高額で売れるのは基本的には魔石だ。だが、リオの目的はその魔石をセトと双龍銃剣に吸収させることであり、そうなるとパーティを組んだときに確実に揉めるという判断があった。

 

 「……まあ、確かにグリフォンが仲間にいればちょっとやそっとの相手はどうにでもなるだろうが」

 

 「グリフォン?」

 

 ずっとギルドの中にいたのでルーノは、当然セトの存在は初耳だった。

 それに気が付いたグランが、ニヤリとした笑みを口元に浮かべる。

 

 「そこにいるリオはな、何とグリフォンをテイムしてるんだよ」

 

 信じられない、といった様子で尋ねるルーノだったが、リオはギルドカードをミスティリングへと収納しながら頷いて答える。

 

 「さて。ランクアップの更新もすんだし、俺はそろそろ失礼させて貰うよ。そろそろ宿も取らないといけないし。ランクアップの件は助かった。ありがとう」

 

 グランへと礼を言い、ギルドの出入口に向かうリオ。その後ろ姿を見送りながら、グランとルーノの二人はこれから色々と騒がしくなるという予感を覚えるのだった。

 そしてそんなリオの体内に、ギルドの奥に行っていたティアが戻ってくるのだった。

 

 (ただいま、リオ)

 

 (ああ、おかえり。……で、どこに行ってたんだ?)

 

 (ん? 内緒よ。敢えて言うなら、ここは私にとっても居心地が良い、とだけ言っておくわ)

 

 (……? まあ、危険がないならいいけど)

 

 (ふふ、リオならいずれわかるわよ)

 

 (じゃあ、その時を楽しみにしてるよ)

 

 そんなティアとの会話をしながら、ギルドを出ていくリオ。そしてティアがどこで何をしていたのかはいずれ判明するのだろう。

 

 

 ギルドの外、セトが寝そべっている場所へとリオが近付くと、目を瞑っていたセトが顔を上げて嬉しげに喉の奥で鳴いて出迎える。

 

 「待たせたな。宿は夕暮れの小麦亭しかないらしいから、さっさと行くとしようか」

 

 セトの滑らかな毛を持つ背中を撫でながら話し掛けるリオだったが……

 

 「グルルゥ」

 

 生まれてからここまでリオと離れたことが無かったセトは、リオへと頭を擦りつけて甘えてくる。

 結局そこから十分ほどセトに構ってからギルドを出発し、夕暮れの小麦亭へと向かうのだった。

 

 

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