とはいえ、第12話どうぞ
リオがギルムへと着いた翌日。朝食を食べて出掛ける準備もすませたリオは、厩舎へと来ていた。
「グルゥッ!」
厩舎へと入ったリオを見たセトが、嬉しげに喉を鳴らす。
「昨夜はよく眠れたか?」
元気一杯、とでも言うように伸びをするセト。その頭をコリコリと掻きながら笑みを浮かべる。
「そうか。それで、今日はどうする? この街には図書館があるらしいから、俺はそこでちょっと調べ物をしようと思うんだが」
リオの言葉に、頭を擦りつけるセト。自分も連れて行って欲しいと身体全体でアピールし、リオはそのアピールに呆気なく陥落するのだった。
朝食のときにセトを厩舎から連れ出すかもしれないとドラムには言ってあるので、特に何かを気にする必要も無く表通りへと出る。
セトが通りへと姿を現した瞬間、昨日と同じように道を歩いていた人々は驚愕の表情を浮かべて数歩後ずさるが、昨日一日でリオとセトについての情報もある程度は出回ったのか、悲鳴を上げて逃げるような者は殆どいなかった。つまり従魔の首飾りを見もせずに逃げ去っていった者が数人ほどいたのだが。
周囲のそんな反応を見て、喉の奥で悲しそうに鳴くセト。そんな相棒の背を慰めるように撫でながら、朝食時にラナから聞いた図書館へと向かう為に歩き出した。
大通りを歩き、冒険者ギルドの前を通り過ぎ、屋台で美味しそうな串焼きがあればそれを買ってセトと二人で食べる。……もっとも、セトの大きさやリオの身体に似合わぬ大食いのために、串焼き三十本を銀貨数枚でまとめて買ったりしながらだが。
だが、そんな風に大量に買い物をするリオを見て上客と判断したのだろう。あるいは従魔の首飾りを見て安心だと判断したのかもしれないが、積極的に声を掛けて来る者も多かった。商人にしてみれば、モンスターでも何でも金を使ってくれる相手は客という認識なのだろう。
(ふふ、商人たちは逞しいわね。グリフォンが一緒でも声を掛けて来るなんて)
(ああ、そうだな。……ティア今さらだが、霊体化した状態でいてつまらなくないか?)
(ええ、大丈夫よ。霊体化した状態でも、リオと五感を共有しているからリオが見たり、感じた事は分かるから。それに、契約を結ぶ時にも言ったけど私達、精霊にとって宿主の体内は居心地がいいのよ)
(そうか、ならいいんだ)
(心配してくれてありがとう。……で、今日は何を調べるの?)
(この時代の常識とゼパイルに関して。それとに精霊術についてだな)
そんな事を内心で話しながら、ティアがリオに調べ物について聞き、その内の一つについて疑問を返す。
(え? 精霊術に関してなら私が教えてあげるわよ)
(ん? ああ、違う違う。昨日の警備隊のランガとの話で精霊術を知らないようだったから、精霊術がこの時代ではどんな扱いになっているか気になってな。流石にティアもそこら辺のことは知らないだろ)
(そう言われれば、そうね)
リオの返答に納得するティア。
そんな食べ歩きをしているような状態で道をしばらく歩いていると、ラナに教えて貰った建物が見えてくる。図書館だ。ただし図書館とは言っても、ギルムはあくまでも辺境の街であるために蔵書の数はそれほど多くないと聞かされていた。だが、それでも現状のリオにとって必要な知識を得る場所はここしかなかったのだ。
「セト、ここで待っててくれ」
昨日の冒険者ギルドのときのように、馬車や従魔用の場所でセトと別れて図書館内部へと入る。否、入ろうとしたそのとき唐突に横から声を掛けられる。
「あら? リオさん?」
その声の持ち主が誰なのかというのは、すぐに分かった。何しろ前日に会ったばかりの相手なのだから。
そんな風に思いながら声のした方へと振り向くと、そこにいたのはやはりリオの予想した相手だった。
強く印象に残っている茶髪のポニーテール、服装は前日に見たようなギルドの制服ではなく、動きやすさを重視した服装だ。
「おはよう、レノラ」
「はい、おはようございます」
リオの挨拶に返事を返すレノラに、リオは質問をする。
「ああ。それで、レノラはどうしてここに?」
「ギルドの関係でちょっと調べておきたいことがあったので。それよりもリオさんはどうしてここに?」
「今まで師匠と一緒に山奥で暮らしてたから、常識が分からないんだ。だから、少し図書館で勉強しておこうと思って」
リオの言葉を聞き、納得したように頷くレノラ。
「ああ、そう言えばリオさんは字の読み書きが出来るんでしたね。えっと、でも……図書館の使い方とか知ってますか?」
「……」
山奥で暮らしていた、というリオの言葉から何となく尋ねたレノラだったが、返って来たのは無言だった。
日本にいたときの図書館なら使った経験があるリオだが、当然そんなものがこのギルムで通用するはずも無い。
黙り込んだリオを見て、大体の事情を理解したのだろう。この辺りの察しの良さは冒険者ギルドで受付嬢をやっているからこそのものだろう。
「いいでしょう。せっかくの有力な新人なんですから多少の骨身は惜しみません。幸い時間もあることですし、少し付き合いますよ。さ、行きましょう」
そう言い、リオを先導するかのように図書館の中へと入っていくレノラ。
リオにしても、図書館の利用方法を教えて貰えるというのに文句があるはずもなく、大人しくレノラの後を追って図書館へと入っていく。
「いらっしゃ……あら? レノラさん? 何か調べ物でも?」
「ええ。ギルドの方の関係でね。はい、これがギルドからの証明書。リオさん、図書館を利用するには一日銀貨5枚が必要ですが、持っていますよね?」
前日の『鷹の爪』との賭けを覚えていたレノラの言葉に頷くリオだが、レノラ自身は利用料金を払う様子が無い。
「ああ、俺は問題無いけど……」
銀貨5枚を取り出しつつ、レノラの分は?と目で尋ねるリオ。
「ギルドの仕事として必要な場合、証明書を発行して貰えば無料で利用出来るんです」
「……なるほど」
この世界では本という存在は高価な物であり、貴重な本ともなれば、白金貨や光金貨で買うことも珍しくはない。それを閲覧できるのだから銀貨5枚はしょうがないのだろう。そんな中、ギルド職員は限定的とはいっても無料で図書館を利用出来ると知り羨ましいと思うリオだったが、ギルドが図書館や街に与える影響を考えればある意味当然ともいえるだろう。
「この銀貨5枚っていうのは保証金も含まれているので、退館する際に本に対して傷を付けたり汚したりしていなければ銀貨3枚が返却されますよ。ただ、逆に銀貨3枚以上が必要なほどに損傷や汚れを与えていれば追加料金が必要になりますけど」
図書館の受付の代わりだとでも言うように説明をしてくるレノラの言葉に頷くリオ。
「それと、何かを書き写すときに必要な場合は紙10枚とペンのセットが銅貨3枚で売ってますから、必要なときはそちらを利用すればいいかと」
(さすがに貸し出しはやってないか)
日本にいたときとは全く違う価値観に、今さらながら小さな驚きを覚えつつもレノラの言葉に頷くと、先程から仕事をレノラに取られていた司書が1枚の紙をリオへと差し出す。
「これは?」
そんなリオの質問に、これもまた答えたのはレノラだった。
「図書館から退館するときに司書の方からサインを貰うんです。このサインと引き替えに保証金が支払われるので、忘れずにサインを貰って下さいね」
「……レノラさん、私の仕事が……」
ボソリと呟かれた司書の声に、我に返るレノラ。リオの常識知らずな様子に、思わず受付嬢として行動してしまったらしい。
「あ、ごめんなさい。つい……」
「まあ、私としては楽が出来るのでいいですけど。さ、それよりも中へどうぞ」
レノラが乾いた笑い声を上げつつ、それでもリオを引っ張って受付から離れて図書館の中へと入っていく。
「……なるほど」
それが図書館の内部を見たリオの口から漏れた一言だった。
リオの感覚で言うのなら学校にある図書館を数個ほど繋げたような大きさとでも表現すべき場所に、高さ2mほどの本棚が規則正しく並んでいる。その中には大小様々な本が並べられていて、司書のいるカウンターの近くには4人用の机と椅子のセットが数組並んでいた。
「さて、私はギルドの調べ物があるから禁書庫の方に行くので一緒に調べたりは出来ません。もし分からないことがあったら、あそこのカウンターにいる司書の方に聞けば教えてくれると思いますので」
レノラがそう言って視線を向けた方には、カウンターで何らかの仕事をしている40代ほどの中年男性の姿があった。
「ありがとう、助かった」
色々と手間を掛けさせた礼を言うと、レノラは笑みを浮かべて首を振る。
その笑みは、昨日ギルドで見たような職業上の笑みでは無く、レノラ個人としての笑みのようにリオには感じられた。
「構いませんよ。それより私の方の調べ物は時間が掛かるので、リオさんは自分の調べ物が終わったら私を気にせずに帰って下さいね。私の方は恐らく閉館くらいまで粘ることになると思いますので」
そう言い、図書館の奥の方へと消えて行くレノラの後ろ姿を見送りながら、ティアに話し掛ける。
(なあ、ティア。レノラの調べ物って精霊術に関してだと思うか?)
(可能性はあるけど、モンスターに関してかもしれないわよ?)
(そうだな、そっちの可能性もあるか。でも、精霊術を調べるのが目的だとするなら精霊術関連の本は禁書庫に保管されていることになるから一般向けの区画には置かれていない可能性が出てくるな)
(まあ、探して見つからなかった時に考えれば良いじゃない?)
(それもそうか。なら、始めるか。セトも待っているしな)
ティアと内心で会話しながら、早速とばかりに司書へと声を掛ける。
「すまない、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょう」
「ゼパイルという人物のことと魔法のことを調べてるんだが、それに関係している本がどこにあるか教えて欲しい」
「魔法関係の本はあちらの通路の周囲の棚にあります。それとゼパイル、ですか?ちょっと待って下さい。確か以前にどこかで読んだような……」
少しの間、何かを思い出すようにしていた司書の男だったが、すぐに笑みを浮かべながら口を開く。
「あぁ、どこかで聞いた名前だと思ったら魔人の名前ですね」
「……魔人?」
あまりに予想外の単語に思わず聞き返すリオだったが、司書の男は逆に不思議そうな顔をして尋ねてくる。
「あれ、違いましたか? でもゼパイルで有名な名前なんてそれくらいしか知りませんが」
「……取りあえずその魔人について書かれている本を見せて貰えるか?」
「神話やお伽噺の類ですから、そこの通路をまっすぐ進んで行き止まりの右側の棚にあるはずです」
「そうか。ありがとう」
司書へと礼を言い、教えて貰った本棚の場所まで移動して関係ありそうな本を数冊抜き取り机へと移動する。
自分の予想していたのと随分斜め上に外れていそうな状況だったが、それでも自分が吸収したゼパイルに関しての知識と精霊術についてはどうしても知っておくべきだ。そう判断し、本のページを開いて読んでいく。
ゼパイル。それは数千年もの昔に実在したと言われる人物で、魔術師の集団を率いていた。それだけならそれほど特別でもないのだが、その率いていた魔術師たちが全て当時の世界でも有数と言われる者たちであり、なおかつ本人もそれらの魔術師を率いるだけの魔力を持っていた。
その戦力は国一つを瞬時に滅ぼせる魔術師たちの集まりであったとされ、それだけに当時数多の国から危険人物扱いをされていた。その戦力を己のものにしようと力尽くで従わせようとした国もあったのだが、その国はその日のうちに国民ごと全て消滅したと言い伝えられる。その魔力の強大さから魔術を究めた人、すなわち魔人と称されるようになった。
特にその長でもあったゼパイルは、自らの一門が生み出した魔術の秘奥を守るために複数の国家の軍と渡り合い、その使い魔である巨大な狼は矢を防ぎ、魔術を喰らい、口からは幾種類ものブレスを吐き、爪や牙は神の祝福を受けたと言われている伝説のマジックアイテムでさえも貫いたという。
その、あまりと言えばあまりな内容に思わず額を押さえるリオ。
(巨大な狼。これが恐らくゼパイルの魔獣術で作り出されたモンスターだったんだろうが……確かにこの伝承にあるだけの力を持つなら魔獣術そのものを狙われてもおかしくは無い、か。それにしても、魔術の秘奥の名称が魔獣術であることが書かれていないのは助かったな)
内心で呆れと驚愕を込めて魔獣術の凄さを呟きつつも、魔獣術について知られることの危険性を再確認しながら、全ての本を本棚へと戻し、次に精霊術について調べる為に本を探して関係ありそうな本を見つけて机に戻って本を開き、読み進めて行くが書かれている事はそう多くなかった。
精霊術は、習得難易度が高いため、その使い手の数は昔から多くなかった。それは、時の流れと共にその数を減らした為に現代で精霊術について知っているのは長い年月を生きるエルフ族くらいであり、その使い手もどれだけの人数がいるか分からない、というのが分かっただけだった。
(精霊術が、あまり知られていないのは分かっていたけど、ここまでとは、予想していなかったな)
(私も、同感だわ)
(……まあ、俺の場合は、精霊術に関しての適性が高いことに、加えてティアとの契約で更に強化されてるから、そこら辺の実感が無いけど使い手が稀少とも言えるほどに少ないなら、相当難しいんだろうな)
(……いや、リオの場合は高いの一言で片付けられない位に凄いんだからね)
リオのそんな無自覚な言葉に、ティアが呆れながら訂正の言葉を掛ける。
(……そこまでなのか?)
(そうよ。リオのように各系統の精霊術を使える上に、魔力量も桁違いに多いから、精霊術を使い慣れれば規模と威力共に凄いのが使えるようになるわ。……それこそ私達、高位精霊と渡り合える位にね)
(そこまで、か。……色々と教えてくれてありがとう)
(ふふ、どういたしまして)
リオはそう言いながら、本を閉じて元の本棚に戻す。
その後は自分の精神的な安定のためにも、冒険に役立ちそうな本やこの世界で役立ちそうな情報の書いてある本を読んでいく。
それらを読んで理解したのは、1日が24時間で、およそ30日で1ヶ月。12ヶ月で1年と、地球との差異は殆ど無いと言うものだった。
ただし時計は一種のマジックアイテムであるため、持っているのは大商人や貴族といった存在に限られる。ならそれ以外の者たちはどうやって時間を知るのか。それは3時間ごとに街中で鳴らされる鐘の音だった。6時、9時、12時、15時、18時、21時の1日6回鳴らされる鐘で、一般人は時間を知るのだ。
他にも冒険者をやっていく上で必要そうな内容の本を読み進めていくが、その中でもリオの関心を一番惹いたのは『魔物の解体 初心者編』というタイトルの本だった。
何しろウォーターベアの毛皮を剥いだのは良かったものの、処理が杜撰だったために安く買い叩かれたのだ。これから冒険者として生活していく以上、魔物の解体方法はまさに必須と言ってもいい知識だろう。とはいえ、この本全てを書き写すというのも時間が掛かり過ぎると判断したリオは、再び司書へと話し掛けることにする。
「すまない、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか」
「この本を買い取るとかは出来るか?」
そう言って持っていた『魔物の解体 初心者編』の本を差し出すリオ。だがそれを見た司書は、すまなそうな顔をして首を横に振る。
「申し訳ありません、本の売買はしてないんですよ。もし始めてしまうと切りがないですし。……あ、でも」
謝りつつもリオが差し出した本を見て、何かに気が付いたように顔を上げる。
「でも?」
「その、街の本屋に確かこれと同じ本があったと思います。見かけたのは2週間ほど前ですし、在庫も1冊だけだったので今もまだあるかどうかは分かりませんが」
「その本屋がどこにあるのかを教えて貰えるか?」
「はい、構いませんよ」
司書から本屋の場所を聞き、これからどうするかを迷う。銀貨2枚という、それなりの額を払って入ったのだから出来ればもう少し本を読みたい。しかし司書が本屋で見たという『魔物の解体 初心者編』という本は何が何でも買っておきたい。しばらく迷ったリオだったが、図書館にある本は無くならないので、また後日来ると決めて受付で渡された書類にサインを貰い、保証金を返して貰って図書館を後にする。
なお、案の定レノラはまだ禁書庫で調べ物をしているらしく、その日はそれ以上レノラと会うことも無いまま、図書館の外で待っていたセトと共に教えられた本屋で初心者編だけではなく、運良く入荷していた中級編と上級編も一緒に購入することを決め、合計で金貨5枚と言うかなりの金額を出して目的の本を購入した。他にも着替えや生活に必要な細々とした物を買いながら夕暮れの小麦亭へと帰ったのだった。
リオが図書館の中で本を読んでいる頃、街から徒歩数時間ほど離れた位置で一つのパーティがモンスターを相手に戦闘を繰り広げていた。
「くそがぁっ!」
大柄の男が罵声を口に出しながら持っていた巨大な斧を振り下ろす。
「ギギ!」
振り下ろされた斧で頭部を切断された体長1mほどの蟻だったが、断末魔の声を上げながらもなお動き続けている。
「バルガス! 油断するな!」
長剣と盾を持った男が自分たちのリーダーへと声を掛け、首を失ったままバルガスに突っ込んだ蟻を盾で防ぐ。同時に素早く近づいて来た男が頭を失った蟻の足を素早く斬り落としてようやく戦闘は終了する。
「おいっ、バルガス! いつも通りに行くのは無理だって言っただろうが!」
長剣と盾を持った男、ゾリトがバルガスへ向かって怒鳴りつけた。
「分かってるよ! けど何でこんな雑魚共を俺たちが相手にしなきゃなんねぇんだよ!」
苛立たしげに持っていた斧を地面へ叩きつけ、刃が地面を抉り、土砂と石を周囲へと撒き散らす。
「落ち着け。俺たちは借金を抱えている身なんだ。踏み倒したりしたらお尋ね者間違い無しだぞ」
短剣を持った男の言葉に、バルガスは苛立たしげに舌打ちをする。
借金。そう、ランクDの冒険者パーティである『鷹の爪』は、現在借金を抱えているのだ。
全ての始まりは、迷宮から無事戻って来た打ち上げのときに起こった。
元々粗暴で粗野といった性格をしていたバルガスが冒険者ギルドに登録に来た相手に絡んだのだが、その絡んだ相手が悪かった。売り言葉に買い言葉とばかりにギルドの前で有り金を賭けて決闘し、見事に敗れてしまったのだ。そして持っていた有り金の殆どを持って行かれ、残ったのは僅かな金と武器に骨折等の怪我を負った身体だけ。
特にバルガスに至っては、迷宮で手に入れたばかりのマジックアイテムであるバトルアックスを奪われるという、踏んだり蹴ったりの状態となっていた。そして怪我をしたからには治療院なり回復魔法を使える魔法使いに頼んで回復して貰わなければならないのだが、『鷹の爪』の面々は有り金の殆どをリオに取られており、その日の食事代は残っていたが、治療費としては足りなかった。それに、バルガスにはギルドの酒場の壊した机の買い換えの代金も払わなければならない。……まあ、完全に自業自得なのだが。
だが、『鷹の爪』はランクDの冒険者パーティだ。つまり、そこそこの信頼や実績がある。その信頼や実績のおかげでギルドから治療費を借りることが出来た。そして借りた金は当然返さなければならず、ソルジャーアントの討伐依頼を引き受けているのだ。
武器に関しては、リオに奪われた武器の前に使っていたものを予備として残してあったので、借金に関しては純粋に治療費のみとなっている。
ギルドからの借金をしている以上それを踏み倒すという真似はまず出来ない。ギルドは世界中の支部とマジックアイテムで密に連絡を取り合っているので、そんなことをすればたちまち自分たちが指名手配されると分かりきっているからだ。そんなものになりたくない『鷹の爪』の面々は、必死に依頼をこなすのだった。
「誰がゴブリンの爪だぁっ!」
リオに付けられた不名誉なパーティ名を否定しながら。