レジェンド ~精霊術師の軌跡~   作:ミヤシュン@

14 / 18
 
今回は、魔獣術を誤魔化すためのある設定を前倒しで出しています。それが何なのかは、ここまで言えば分かるかと思います。

 では、第13話どうぞ!!


第13話 初めての討伐依頼 討伐対象はゴブリン!

 

 図書館に行った翌日。最初の鐘が鳴ってから少し経った頃、リオの姿は冒険者ギルドの中にあった。セトは当然ギルドの外にある馬車や従魔用のスペースで待っている。

 

 「一昨日とは全然違うな」

 

 一昨日ギルドに来たときは、依頼が貼ってあるボードの前に冒険者はほんの数人しかいなかった。

 だが、今は混雑……とまでは言えないものの、かなりの人数がボードの前に立ち、自分のランクで受けられる依頼を熱心に読み進めている。

 リオにとっては意外な展開だったが、冒険者ギルドが最も賑わうのは朝なのだ。考えてみれば当然だが、朝に依頼を受けて日中にその依頼をこなし、夕方には戻ってきて報酬を受け取る。それが街で生活する上では最適の生活時間なのだから。

 

 「おい、あのローブ着てる若いの。あれがバルガスたちを一人でやったって奴か?」

 

 「何? 俺はバルガスとそう大して差がないくらいの体格をした奴だって聞いたぞ?」

 

 「俺が聞いたのは華奢な女冒険者って話だったが……」

 

 見慣れぬリオの姿を見た冒険者たちが話している内容を聞き流しながらFとGのボードに貼られている依頼を眺めていく。

 とは言っても、リオとしてはFランクやGランクの依頼には殆ど期待していない。何しろ、魔獣術の特性として弱いモンスターの魔石を吸収しても殆ど意味がないのだ。だからここの依頼で適当なモンスターの討伐依頼を受注し、セトや双龍銃剣がスキルを習得出来るレベルのモンスターを捜す……というのがリオの狙いだった。……まあ、セトに関してはスキルの習得は出来なくても基礎能力が上がるのだが。

 

 「だが、それにしても……まあ、初心者用の依頼だからと言われればそれまでなんだが」

 

 リオの目に入ってくる依頼の内容は、ファングボアや一角ウサギの肉の納入といった本当に雑魚相手の依頼であったり、ポーションの材料となる薬草の採取。あるいは大怪我をしたときに使う麻酔薬のための材料等々。どれもこれも似たようなものだった。

 そんな依頼を見て溜息を吐く。あくまでもついでの依頼だとは言っても、いくら何でも依頼の討伐対象が弱すぎた。と言うよりも、ファングボア、一角ウサギは共にモンスターではなく魔の森で戦った狼のような野生動物である。基本的にGランクのこれらの依頼は常時依頼という形式になっており、本来なら街中の依頼しかしてこなかったランクHからランクGに上がったばかりの者たちの訓練用の依頼なのだ。

 次々に依頼書を眺めていくと、Fランクの依頼にはゴブリンの討伐、スライムの魔核の納入、ポイズントードの討伐といった弱めの魔獣の討伐や、魔核等の納入依頼があった。その中でリオの興味を引いたのは、ゴブリンの討伐依頼だった。理由としてはファンタジーと言えばゴブリンだろうという程度でしかないのだが。

 その依頼書にはゴブリンの討伐は常時依頼であり、討伐証明部位は右耳。5匹の討伐を最低限とする。右耳1枚につき銅貨3枚と交換といったことが書かれている。

 いくら低ランク冒険者用の依頼と言っても報酬の安さに思わず眉をひそめるリオだが、5匹分の耳を持ってくれば銅貨15枚。すなわち銀貨1枚と銅貨5枚になる。リオの泊まっている夕暮れの小麦亭は一泊銀貨3枚だが、それはギルムでも高級な宿だからこその値段なのだ。ギルドに登録したばかりの初心者は、銅貨5枚程度の安宿に泊まるのが普通であり、そこで自分と同じような境遇の相手を捜してパーティを組むというのが一般的なのだから。

 ゴブリン討伐依頼の紙を剥がし、このギルドに初めて来たときに話したポニーテールの受付嬢の所へと持っていく。

 それを見ていた周囲の冒険者の幾人かは意外そうな顔をしてその様子を眺める。ランクD冒険者4人を相手に渡り合えるというのに、受けた依頼がモンスターの中でも底辺に近い位置にいるゴブリン退治というのが意外だったのだろう。

 

 【ゴブリン】

 人の子供ほどの背丈を持つ鬼族の魔物。緑色の皮膚をしており、額に指先ほどの短い角を持つ。個体として見た場合は非常に弱く、一般人でも喧嘩慣れしている者なら楽に倒せる程度の実力しかない。しかし基本的に群れる習性があり、数匹ずつ纏まって行動することを好む。また稚拙ではあるが知能があり、拾ったり盗んだりした武器で武装している者も僅かながら存在する。

 

 前日に図書館で読んだ本の内容を思い出し、一瞬世話になったレノラの姿を捜すも、受付にその姿は見えない。そのため依頼の紙を猫の獣人と思しき受付嬢へと渡すと、不意に驚かれる。

 

 「え? 君、もしかしてレノラが言ってた……」

 

 「レノラ?」

 

 聞き覚えのある名前に思わず問い返すと、その受付嬢は頷く。

 

 「うん、そうそう。この前私が休んでいるときギルドに登録したんでしょ? とても冒険者に見えないような18歳くらいの蒼みがかった銀色の髪をした人だったって言ってたからすぐに分かったわ。残念だけど、レノラは今ちょっと用事でここにいないんだけど……あ、私の名前はケニーよ。よろしくね」

 

 笑みを浮かべてそう告げ、リオが差し出した依頼書を受け取る。

 

 「ゴブリン退治かぁ。えっと、リオ君って言ったっけ。見かけによらずかなり強いって聞いてるから問題は無いと思うけど、くれぐれも油断しないようにね」

 

 「ああ、それでゴブリンの場所なんだけど……」

 

 「それなら、基本的にギルムの街道沿いにある森の中に出没すると報告が入っているわ。最近だと商人や旅人を集団で襲ったりしているらしいのよ」

 

 「ゴブリンにそこまで知能が?」

 

 「もちろん、普通は無いわ。だから、もしかしたら希少種が生まれている可能性もあるの。くれぐれも気を付けてね。希少種に遭遇したりしたら、すぐに逃げ出すのよ。冒険者なんてのは、命あっての物種なんだから」

 

 希少種というのは一種の突然変異として生まれてきた個体のことだ。希少種の場合は大抵が基になった種族のモンスターよりも高い能力を誇っており、ギルドで公表しているモンスターのランク的には一段階上がる。つまりこの場合はゴブリンのランクがFなので希少種はランクE相当のモンスターとなる。

 ケニーにゴブリンのことを教えて貰った礼を言い、依頼を受理して貰ってギルドから外へと出る。

 すると、ギルドから出て来たリオを見つけたセトが嬉しそうに喉を鳴らして近付いていく。それを見た数人の通行人が立ち上がったセトに驚愕の視線を向けるが、セトはそんな様子を無視してリオへと頭を擦りつける。

 

 「悪いな。じゃあ早速行くか」

 

 「グルゥッ!」

 

 頭を撫でられながら掛けられたリオの言葉、鳴いて応えるセト。そんなセトと共に、大通りを歩いて門まで向かうのだった。

 

 「やぁ、二日ぶりだね。君の活躍はここまで聞こえてきてるよ」

 

 門の側にいたランガが、リオとセトの姿を見るなりそう声を掛けてくる。

 活躍、と言われて思い当たるのがバルガスたちとの一件しかないリオは、思わず苦笑を浮かべながらミスティリングからギルドカードを取り出してランガへと渡す。

 

 「一応言っておくと、正当防衛だったんだけど」

 

 「所持金だけじゃなくて、武器も一つ奪ったと聞いてるよ?」

 

 「確かに、賭けを持ち掛けたのは俺だけど、それを受けたのはあいつらだから、自業自得だよ」

 

 肩を竦めながら言葉を返したリオは、続いてセトの首に掛かっていた従魔の首飾りを外してランガへと渡す。

 

 「可哀想に……『鷹の爪』の面々は昨日、今日と暗い顔をして外に向かったよ。……問題無し、と。じゃあ気をつけて。まあ、君にはこのグリフォンがいるんだから、心配いらないんだろうけどね」

 

 「せいぜい気を付けるよ。セト、まずは上空から捜すか」

 

 リオの言葉に喉を鳴らして地面に伏せたセトの背へと跨がると、セトは数mの助走をつけてその大きな翼を羽ばたかせ、呆然と見送っているランガを尻目に上空へと昇っていく。

 

 「グルルルルルゥッ!」

 

 ギルムから少し離れると、まるでストレスを発散させるかのように高く鳴くセト。その背を撫でながらリオは内心考える。

 

 (考えてみれば、セトもまだ生まれて間もないんだよな。生まれが魔獣術と特殊でも、生後数日なのに宿の厩舎に閉じ込められていたんじゃストレスも溜まるか)

 

 (ふふ、確かにそうよね)

 

 明日からはなるべく依頼を受けて街の外に出ようと考える。

 本来ならリオの目的はセトと双龍銃剣を育てることであり、その為には別に冒険者になるというは必須では無い。だが、ギルドには常に情報が集まっており、高ランクモンスター討伐の依頼が貼り出されることがある。それらはリオにとって非常に有益な情報であり、依頼なのだ。ただ、現状のランクでは高ランクモンスターの討伐依頼があっても受けることが出来ない。それを考えると、現状の目標は少しでも依頼を受けてランクを上げることだろう。

 そんなことを考えている間に、ギルドの受付嬢から聞いた街道沿いの森が眼下に見えてくる。通常の旅人や冒険者ならこの森まで来るのに徒歩で数時間は掛かるというのに、セトに乗ったリオはギルムを出発してから僅か十数分で到着していた。それだけでもグリフォンの……いや、セトの機動力の高さは明らかだった。

 

 「セト、モンスターは見えるか?」

 

 リオの問いに、空を飛びながら首を左右に振るセト。地上に森が広がっており、枝や葉に隠されて森の様子は遮られている。さすがにセトでも、その状態でゴブリンを見つけるのは難しいらしい。

 

 「上空から奇襲を仕掛けられれば手っ取り早かったんだが、見つけられないんじゃしょうがないか。セト、地上に降りてくれ」

 

 リオの声に短く鳴き、翼で調節しながらふわり、と表現出来そうな優雅さで地上に着地したのは、グリフォンの面目躍如といったところだろうか。

 セトの着地の見事さに一瞬見惚れるが、すぐに意識を切り替えて森の様子を探る。

 

 「ちょっとここからだと分からないな。セト、森の中に入ってみるか」

 

 リオの問いにセトが承諾の鳴き声を上げ、そのまま森の中へと入っていく。

 本来であれば森の中という狭い場所は、炎や雷の精霊術が使えなくなるのでリオにしてみれば好ましくない戦場だ。だが今回の場合はゴブリンが相手ということで、そこまで神経質にならなくてもいいと判断して森の奥へと入っていく。

 そして森の中へと入ってから1時間ほどした頃。唐突にリオの前を歩いていたセトが動きを止め、何かを警戒するように喉の奥で鳴きながら周囲を見回す。

 だが、さすがに街道沿いの森とは言っても、ここまで奥に入ってくるとそれなりに太い幹を持つ木が生えて枝や葉で太陽の光を遮り、まだ昼間だというのに周囲は薄暗くなっている。それにリオはドラゴンローブのおかげで感じてはいなかったが周囲の気温もかなり高くなっており、普通の冒険者ならその暑さと汗で疲労度が増していただろう。

 

 「グルゥッ!」

 

 そんな状況の中、短く吠えたセトが水球を発動させてそのまま草むらで覆われている茂みへと撃ち放つ。

 そして次の瞬間。

 

 「ギィッ!」

 

 聞き苦しい悲鳴がその茂みの中から聞こえ、20匹近いゴブリンがその姿を現したのだった。

 

 「待ち伏せ……いや、こんな森の奥で待ち伏せも何も無いか。となると、偶然ゴブリンたちの集団にぶつかったのか?」

 

 (そのようね)

 

 双龍銃剣を大剣形態にしながら構え、ゴブリンを観察しながら呟くリオ。リオの呟きに相づちを打つティア。

 

 (錆びた長剣が2、同様の短剣が3、残りは棍棒か。……知能の高いゴブリンは武器を持つこともあるという話だったが、まさか全員が武器持ちとはな。偶然……な訳ないか)

 

 「はぁっ!」

 

 後方にいたゴブリンが先制攻撃とばかりに投げつけてきた石を、神焔に魔力を流して一閃。周囲にあった直径1mほどの巨木ごと切断する。

 その行為を行ったリオ本人にしても、その太さの幹を一振りで切断出来るとは思わなかったのか、一瞬驚愕の表情を浮かべる。だが、すぐに気を取り直し倒れこんでくる木を戦闘へと活用するべくセトに叫ぶ。

 

 「セトッ、木が倒れて分断したらゴブリンを各個撃破していくぞ!」

 

 「グルゥッ!」

 

 リオの指示にセトが鳴いて応え、木がゆっくりとだが、確実にゴブリンの一角へと倒れていくのを見ながら内心で考えを纏める。

 

 (やっぱりギルドで聞いたように希少種が現れたと判断した方がいいだろうな。そしてここに姿が見えないということは、指揮官が前線に出て来る危険性を悟る程度の頭はある、か)

 

 「ギィギィッ!」

 

 「ギィッ!」

 

 「ギギギィ」

 

 何かを叫びながら、倒れてくる木から回避するように二手に分かれるゴブリンたち。その様子を確認したリオは、双龍銃剣を構えたまま向かって右側へ。セトは左側へとそれぞれ突っ込んでいく。

 

 「はぁっ!」

 

 突然木が倒れこみ、混乱しているゴブリンたちの中へと飛び込んで煌焔を振るうリオ。魔力を流している状態では、巨木すらも抵抗を感じさせずに斬り裂く鋭利さを持つのだ。ただのゴブリンにそれを防ぐことが出来るはずも無く、振るわれた煌焔の刃は周囲にいたゴブリンたちの胴体や四肢、あるいは頭部といった部分を何の抵抗もなく斬り飛ばす。

 一閃。ほんの一度の攻撃で、リオの周囲にいたゴブリンたちの殆どは絶命、あるいは瀕死の状態へと追い込まれていた。

 錆びた長剣を持っていたゴブリンは、殆ど反射的に振るわれた煌焔を防ごうと武器を突き出してはいた。だが、バルガスが使っていたようなマジックアイテムのバトルアックスならともかく、錆びた長剣で双龍銃剣を防ぐというのは、巨大な滝の水をコップ一杯で受け止めろと言っているようなものだ。結局抵抗らしい抵抗も出来ず、長剣、腕、胴体と滑らかに斬り裂かれて内臓や血を地面へと散らかすだけだった。他にも、苦し紛れに持っていた武器をリオに投げたゴブリンもいたが、それは神焔で防ぎあらぬ方向に弾かれる。

 

 「ギィッ!?」

 

 ただ一度の攻撃で仲間の半分以上を失ったのを見たゴブリンたちは、自分自身が生き残るために四方八方へとバラバラになって一目散に逃げ出していく。

 そこに追撃をしようかと一瞬考えたリオだったが、受けた依頼はあくまでもゴブリン5匹の討伐だ。それ以上のゴブリンを倒す暇があったらセトや双龍銃剣の糧となるようなレベルのモンスターを仕留めた方が効率がいい。そう判断して追撃をすることは無かった。

 

 「グルルルゥッ!」

 

 そして木の反対側から聞こえて来たセトの雄叫び。そちらも問題無く片付いたのだろうと判断したリオは、巨木を乗り越えてセトのいる方へと移動する。

 そこに存在していたのは、水球で腹の皮膚を弾き飛ばされ、あるいは鋭利な爪を持つ鷲の前足で斬り裂かれ、鋭く尖ったクチバシで噛み千切られて事切れていたゴブリンたちの死体だった。その数は4匹。リオよりも2匹少ないが、リオが一撃で6匹を仕留めたのに対して、セトは1匹ずつ攻撃してこの数を倒したのだ。ゴブリンの逃げ足を思えば十分な戦果と言ってもいいだろう。

 近付いて来たリオを見て、褒めて、とばかりに頭を擦りつけてくるセト。周囲に散らばっているゴブリンたちの死骸との対比に思わず苦笑を浮かべる。

 少しの間その頭を撫で回してその成果を褒めてやり、水球を使ってゴブリンを血で汚れたセトの顔を洗う。それが一段落した所で討伐証明部位と魔石の回収に取り掛かるのだった。

 ちなみに、ゴブリンの場合は買い取ってくれる素材は存在しないので、剥ぎ取れるのは討伐証明部位の右耳と魔石だけである。

 

 「セト、討伐証明部位と魔石の回収をする間の周囲の警戒を頼む」

 

 自分の頼みにセトが喉を鳴らして頷いたのを見たリオは、腰のミスリルナイフ……ではなく、ミスティリングから解体用のナイフを一本取り出す。このナイフは、前日に買った物だ。ゴブリンの剥ぎ取りにミスリルナイフは勿体ないという判断だった。

 討伐証明部位であるゴブリンの右耳を切り落とし、胸を斬り裂いて心臓から小指の爪先ほどの魔石を取り出す。

 

 (ウォーターベアやジャムルはともかく、人型のモンスターを倒しても特に心に乱れは感じないか。これもゼパイルを吸収したおかげなんだろうが、俺が殺した……とか言ってウジウジと悩むような真似をしなくてもすむのはラッキーだったな。恐らくこの様子だと人殺すのにも多少の嫌悪感は覚えるだろうが、それだけだろう。ここは日本じゃなくてエルジィンなんだから、郷に入っては郷に従えって所か。そもそも獲物を仕留めるのに忌避感を覚えるのなら、最初から冒険者とかにならなきゃいいんだし)

 

 内心でそんな風に考えながらも、ゴブリンの右耳と魔石を次々に剥ぎ取っていくリオ。

 ちなみに、一応ということでセトと双龍銃剣に使う分以外のゴブリンの魔石も回収しているものの買い取り価格が一つにつき銅貨1枚と激安なのだが、それでも無いよりはマシと考えたのだった。

 セトの倒した4匹分の剥ぎ取りを完了し、地面に落ちているゴブリンが持っていた武器へと視線を向ける。どれも使い物にならないというのは明らかであったため、先程逃げたゴブリンたちに回収されて再利用されないように双龍銃剣で破壊して行く。

 その行為が一段落した後は、自分が倒したゴブリンたちの方へと戻って剥ぎ取りを開始する。

 煌焔の一撃で倒したゴブリンなので、セトが倒したゴブリンとは違い殆どが胴体や手足、あるいは首といった部位が切断されており、地面へと内臓や血、肉片をばらまいていた。そんな状態の中からゴブリンの頭部を捜して右耳を切り取り、心臓から魔石を取り出していく。そうやって数匹目の死体へと手を伸ばしたところで、ふと異変に気が付く。まるで何者かが自分の様子をじっと観察しているようなそんな視線。

 近くで警戒しているセトも同様なのか、周囲の様子を窺うように鋭く視線を送っている。

 

 (違和感はあるが、決定的な位置を掴ませないか。……ギルドで聞いた希少種か?狙いは何だ?無難な所ではこのまま俺たちをやり過ごす。あるいはこっちの剥ぎ取りが終わって気の抜けた瞬間を狙っての奇襲か?希少種なら魔石は貰っておきたい所だな。誘き出せるといいんだが。……というか、グリフォンのセトの五感を希少種とはいえゴブリンが誤魔化すって、凄いな)

 

 (確かに。希少種だけあってそういう能力が強化されたみたいね)

 

 自分たちの隙を窺っているであろうモンスターを倒すべき敵と定めたリオは、セトの五感を誤魔化すことが出来るゴブリンのことを内心でティアと話ながらも、最後の1匹の右耳を切り落とし、心臓から魔石を取り出そうとし……唐突に自分の方へと向かって来る飛翔音を聞き、咄嗟に地面を蹴ってセトの側へと移動する。

 次の瞬間には、つい数秒前までリオが触っていたゴブリンの死体へと赤い何かが命中し、周囲へと派手な火の粉を巻き上げた。

 

 「森の中で炎の魔法だと!? しかも収束も何も出来ていない。セトッ!」

 

 リオの声に素早く反応して高く鳴いたセトが水球を発動。ゴブリンの死体から吹き上がる炎が周囲の草木へと燃え移る前に鎮火に成功する。

 その様子を確認しながら周囲に素早く目を向けていたリオだったが、頭上の木の上に何者かの気配を感じ反射的に神焔を頭の上へと突き出す。

 ギィンッ!という鋭い音を立てながらリオの頭部へと向かって振り下ろされた長剣は神焔で弾かれ、その衝撃で刀身の半ばほどの場所で砕け散る。

 

 「はぁっ!」

 

 それを確認するまでもなく神焔を一閃。襲い掛かってきた相手もその一撃を防ぐべく盾を構えるが、長剣同様に真っ二つに斬り裂かれた。

 それでも盾を犠牲にすることで神焔の一撃から逃れたその存在は、盾への一撃で吹き飛ばされた衝撃を利用してリオとセトから距離を取り、地面へと着地する。

 そこまできて、ようやくリオは目の前の相手を観察する余裕が出来たのだった。

 半ばから折れた長剣を持ち、もう片方の手には真っ二つにされてしまった小型の盾の残骸。それらを持ってリオの方を睨みつけているのはゴブリンだった。しかし普通のゴブリンと違うのは、その皮膚の色だろう。普通のゴブリンが緑色の皮膚をしているのに対して、目の前にいるゴブリンは赤い皮膚をしている。また、その背丈も普通のゴブリンと比べると頭一つ分ほど大きい。

 

 「なるほど、希少種か。言い得て妙だな」

 

 あからさまに普通のゴブリンと違うその姿を見て口元に笑みを浮かべるリオ。あるいはそれを自分への侮蔑と受け取ったのか、希少種のゴブリンは半分に斬り裂かれた盾を投げ捨て、刀身半ばになった長剣を構え……

 

 「ギィッ!」

 

 鋭く叫んだかと思った次の瞬間、希少種の目の前には炎の玉が浮かび上がっていた。

 

 (セトの水球に似ているな。となると、炎球とでも呼ぶべきか?ゴブリンにしては戦士としての腕もそれなりで、なおかつ初歩的で杜撰とはいえ攻撃魔法を使うか。魔法戦士型とでも呼ぶべきか。だが、その魔法も実際に放たれなければ意味は無い!)

 

 希少種のゴブリンがその炎球を撃ち放つよりも前に地面を蹴って素早く間合いを殺し、双龍銃剣に魔力を流しながら煌焔でその炎球ごとゴブリンへと斬りかかる。

 

 「ギィッ!?」

 

 振り下ろされた煌焔の刃は、炎球を斬り裂き霧散させ、薄くではあるが希少種のゴブリンの胸にも傷をつけていた。

 己の炎球を消し去られたことに焦り、持っていた長剣の残骸をリオ目掛けて投げつけてくる。

 ゴブリンのその焦りはある意味で当然のものだった。基本的に一度発現した魔法は他の魔法による攻撃か、あるいは魔力の通った武器で無ければ消し去るという真似は出来ないのだが、ゴブリンが魔力を通せる武器を見たのはこれが初めてだったからだ。

 

 「確かにお前は魔法を使えるし、剣技もそれなりで、希少種の名に相応しいだけの能力は持っている。けど、お前の最大のアドバンテージはその気配を殺す能力だ。こうして姿を見せた以上、お前は狩られる獲物に過ぎないんだ……よっ!」

 

 神焔の刃をわざと大振りの一撃で振り下ろし……それを後ろに跳んで回避したゴブリンが安堵したその瞬間、ゴブリンの希少種に大きな影が掛かる。

 その影の正体は、ゴブリンの背後に忍び寄っていたセトだった。

 ゴブリンがリオに意識を集中している間に気配を殺して隙を窺っていたのだ。空中で身動きの取れないゴブリンに向かって、鷲の鋭い鉤爪と、獅子の強力無比な腕力でその首を薙ぎ払うような一撃を放つ。

 セトにとってはいくら希少種といえども、しょせんゴブリンはゴブリンでしかない。冒険者ギルドのランク的に見ても、AとFという圧倒的な実力差がそこにはあるのだ。希少種ゆえに普通のゴブリンよりランクが一段階上だとしてもしょせんはランクEであり、最後まで生物としての格の差を知ることが出来無かったゴブリンは、ゴキリという聞き苦しい音を立てて首の骨を粉砕され、その命の灯火を消えさるのだった。

 

 「セト、良くやった」

 

 リオの呼びかけに甘えてくるセトの頭を一通り撫でてから、素早く右耳を切り落とし、心臓から魔石を抜き出す。普通のゴブリンの魔石を2つを残して、右耳と残りの魔石をミスティリングに収納する。そして、希少種の魔石と普通の魔石を吸収する準備が出来たと同時にティアが実体化して姿を現した。

 

 「魔石吸収の時間ね」

 

 「いや、そうなんだが。俺の台詞を取らないでくれ」

 

 「あら、ごめんなさい」

 

 ティアに自分の台詞を取られたリオは吸収することを認めながらもツッコミを入れるのだった。それでも、気を取り直したリオはまずは普通のゴブリンの魔石から吸収しようと行動を始める。

 

 「希少種は後に取っておくとして、セト」

 

 「グルゥ」

 

 セトに魔石を与え、それを飲み込んだもののスキル習得のアナウンスは流れない。

 

 「スキルの習得はなし、と。……まぁ、ジャムルと同ランクのモンスターだから期待してなかったけど」

 

 「そうね、ランクFだしね」

 

 「グルルゥ」

 

 スキルが習得出来なかったものの、それを予想していたリオの言葉にティアとセトが同意する。そして、時間を無駄にする訳にはいかないと神焔を持ちながら次へと行く。

 

 「じゃあ、次は双龍銃剣だな。よっ、と」

 

 リオはそう言いながら、魔石を上に投げて、それを神焔で斬り裂く。斬られた魔石は霞のように消えて行くがリオの脳裏にアナウンスが流れることはなかった。

 

 「双龍銃剣も外れ、と」

 

 特に落胆した様子もなく、淡々と言葉にするリオ。神焔をホルスターに戻して最後に残った普通のゴブリンの魔石より一回り大きい希少種の魔石を見ながら特に迷うこともなくセトへと差し出す。

 

 「セト」

 

 「あら、いいの? 希少種の魔石なのに、考えもせずに」

 

 その様子を見ていたティアが、リオに聞く。それに対してリオは問題無いと口を開く。

 

 「ああ。俺には、精霊術があるしな。何より魔獣術のメインはセトで、双龍銃剣はサブみたいな物だからな。セトに最優先で魔石を与える方がいいからな」

 

 「そう、リオがそれでいいなら、私が何か言うのは間違いね」

 

 「いいさ。俺を心配してくれたんだろ。なら、文句を言うつもりはないよ。……さあ、セト」

 

 リオの掌に乗っていた魔石をクチバシで咥えて一飲みにするセト。そして……

 

 【セトは『ファイアブレス Lv.1』を習得した】

 

 以前にも聞いたアナウンスメッセージが頭に響き渡る。

 

 「……炎球を使ってたゴブリンの魔石で、何でファイアブレスなんだ? もしかして炎球の上位互換がファイアブレスなのか?」

 

 溜息を吐き、そう呟くリオにティアが聞く。

 

 「へぇ、ファイアブレスを習得したの。でも、そう難しく考えても仕方ないわよ。スキルが習得出来たんだからいいじゃない、それで」

 

 「そうだな。水に続いて火に関しても困らなくなったな。……さすがに、森の中でファイアブレスの能力を試す訳にはいかないけど」

 

 ティアの言葉に難しく考えるのはやめて、スキルの習得が出来たことを喜びつつも、森の中では使えないと判断したリオだった。

 

 

 リオとセトにティアの目の前には希少種の死体が転がっている。首をセトの一撃でへし折られて殺されたために、外傷は殆ど見受けられない。その希少種の死体を前に、リオはセトを撫でながら考えていた。そんなリオに、ティアが質問をする。

 

 「それで、この希少種の死体はどうするの?」

 

 「そうだな。普通のゴブリンなら剥ぎ取れる素材は無いけど希少種だからな。もしかしたら使える部位がある可能性もあるから、取りあえずミスティリングに収納しておくか。使えるかどうかはギルドで聞けば良いだろう」

 

 結論を出すとその死体へと手を添え、ミスティリングへと収納する。そんなリオを見ながらあることに気づいたティアが聞く。

 

 「ねぇ、リオ。討伐証明部位と魔石の数が合わないけどそこはどう言い訳するの?最初の内は慣れてないから、魔石も破壊した、で良いけど。それも、数ヶ月、数年と時間が経てばそんな言い訳も効かなくなるわよ」

 

 そう討伐証明部位と魔石の数が合わないことに関してギルドにどう言い訳するかを決めなくて良いのか、と。そのティアの当然とも言える質問にリオは、多少考えてから口を開く。

 

 「そうだな。……魔石の収集をしてみようと思ったってことにして、1種類につき2個ずつ集めると説明すれば討伐証明部位と魔石の数の違いも言い訳出来るだろう。幸い、保管場所には困らないしな」

 

 「確かに、それなら大丈夫かしら」

 

 リオの説明に納得したティア。そんな話をしていた2人だが、セトが、どうしたの?早く行こうばかりと頭を擦りつけてきた事で話も切りがついたのでこの後のことに意識を向ける。

 今回の依頼の目的はゴブリンの最低5匹の討伐。それに関しては1匹が希少種の攻撃により討伐証明部位である右耳を切り取れなかったが、それでも9匹分の耳に加えて希少種の右耳で合計で10匹分が確保しているので依頼自体は完了している。

 

 「そして時間にはまだまだ余裕がある、か」

 

 木々で遮られて薄暗い空を見ながら呟く。ゴブリンとの戦闘が数分、希少種との戦闘も数分だったことを考えると、まだ昼前なのだ。

 昼食は宿の方に金を払って用意して貰っているのだが、当然リオの分だけであり、その量に関しても細身の身体に見合わず燃費の悪いリオにとってはかなり足りない。 

 

 「となると、俺やセトの食事のためにも食べられるモンスターを狩る必要がある訳だ」

 

 リオの呟きが聞こえていたのだろう。そうだ、とばかりに小さく鳴くセト。それを聞きながら霊体化し、リオの体内に戻るティア。

 

 「よし、じゃあモンスター捜しといくか」

 

 「グルゥッ!」

 

 

 「……見つからないな」

 

 「グルゥ」

 

 リオの言葉に、悲しそうに小さく鳴いて応えるセト。

 希少種のゴブリンを倒してから1時間ほど森の中を歩いて獲物を捜しているのだが、一向に見つかる様子は無い。

 だが、それもある意味では当たり前なのだ。元々この森はギルムへと続く街道の脇にある森であり、旅人や商人に被害が出ないように定期的にギルドがモンスター駆除の依頼を出しているのだから。本来ならリオやセトに倒されたゴブリンたちもその依頼で倒されていたはずだったのだが、希少種というリーダーを得たゴブリンたちは森の奥に避難したり、リーダーの指示に従って身を潜めていたおかげで難を逃れ、街道を通る者たちを襲っていたのだ。

 そのまま森の中を進んで行くと、空腹を訴える腹の音を聞いて哀れだと思われた訳でも無いだろうが、リオの前を進んでいたセトが動きを止めて周囲を見回す。

 その様子から何らかのモンスターがいると判断したリオは、いつでも攻撃出来るように双龍銃剣を構えて獲物を待ち構え、次の瞬間……

 

 「っ!?」

 

 近くにあった茂みから鋭く小さい何かが飛び出してくる。

 それを反射的に神焔で斬り飛ばすリオ。斬り飛ばされた物体は空を飛び、近くにあった木の幹にビチャリと湿った音を立てて叩き付けられる。

 何が襲ってきたのかとその木の幹へと一瞬視線を走らせたリオの目に映ったのは、赤黒い色をした細長い肉片だった。

 

 「蛇の類か?」

 

 小さく呟くリオだったが、その疑問は次の瞬間には茂みから躍り出てきた存在によって解決する。現れたのはリオの膝くらいまではありそうな巨大な蛙。その皮膚は斬り飛ばされた舌と同じような赤黒い粘液で覆われており、表情の一つも感じさせない無感情な視線でリオとセトを見ている。

 

 (この森で蛙……確かランクFの依頼にポイズントードの討伐依頼があったな……こいつのことか?)

 

 リオが内心で呟きながら天眼を使おうとしたのを察知した訳でも無いのだろうが、次の瞬間には蛙特有の跳躍力を使って地を蹴りリオへと無言で襲い掛かってきた。だが……

 

 「馬鹿が」

 

 蛙特有の跳躍力とは言っても、それはしょせんランクFのモンスターでしかない。リオは敵が襲い掛かってくる軌道を冷静に読み取り、煌焔を構え魔力を流しながらその引き金を引く。

 

 「ゲロッ!?」

 

 ドンッ!という銃声と一緒に撃ち出された魔力弾はポイズントードの頭部を貫通し、背後にあった木の幹に当たる。そしてポイズントードは弾に当たった衝撃でそのまま落下して、地面に転がるのだった。

 頭部を撃ち抜かれて地面に転がっているポイズントードの皮膚は赤黒い粘液に覆われており、見るからに毒!と強い自己主張をしているように見える。セトに周囲の警戒を頼んで、ミスティリングから昨日本屋で買った『魔物の解体 初心者編』を取り出してポイズントードの項目を開く。

 

 (剥ぎ取れる素材は舌、体内にある毒袋、後ろ足の2本か。だが、舌は……)

 

 本と見比べながら地面へと視線を向ける。そこには舌を神焔によって切断され、頭部を撃ち抜かれたポイズントードの死体。頭部を撃ち抜いて倒したので殆ど外傷がないが、舌に関しては、リオへと伸びてきたのをそのまま切断したので根本からとはいかないので少し安くなると思ったのだ。

 小さく溜息を吐き、解体用のナイフで毒袋を破かないように注意しながら解体を進めるリオ。まずは、討伐証明部位の水かきのついた右手を切り取り、後ろ足を切り落とし、皮膚を剥ぎ、心臓から魔石を取り出し、最後に毒袋を取り出す。

 毒袋は、薬剤師により解毒剤やモンスターに使うための毒に、舌は一般的に弓の部品として使われる。なお、後ろ足は素材というより食材としての買い取りとなり、モンスターの肉を扱っている肉屋に毒抜きされて店頭に並べられるのだ。

 それらの剥ぎ取った素材を、ミスティリングに収納しているリオにティアが実体化しながら質問をする。

 

 「ねえ、リオ。さっきの一撃は何?」

 

 「さっきのって、銃撃のことか?」

 

 「ええ、そうよ」

 

 「そうだよな、こっちの世界には銃って武器はないからな」

 

 そうティアの聞きたい事とは、銃撃に関してだった。それを聞いたリオは銃撃や銃について説明する。自分がいた前の世界では遠距離用の武器の一つであること。種類によって飛距離や連射性に威力の違いで様々な形をしていたことを。

 

 「……という風に、前の世界で俺が生きていた時代ではよく使われていた兵器だよ」

 

 「なるほど、ね。火薬の爆発力で金属の弾を高速で撃ち出す武器なのね。じゃあ、砲撃はそれを強化したもの?」

 

 「ああ、その通りだ」

 

 「教えてくれて、ありがとう」

 

 「どういたしまして。……さて、収納したし、次を捜すか」

 

 リオの言葉にセトが短く鳴き、意気揚々と道無き道を歩いて行く。

 途中で木になっている果物を発見しては啄んで味見をしているセトの様子に笑みを誘われながらも、初めての依頼ということでそれなりに警戒しながら森の中を進んだのだが……結局それ以上のモンスターを見つけることが出来ず、ギルムに戻ることになったのだった。それと、ギルムに戻る前にポイズントードの魔石をセトに与えるもスキルの習得は出来なかった。

 

 

 「討伐証明部位のゴブリンの右耳、10匹分だ。確認して欲しい」

 

 ギルムのギルドで、ケニーの前にミスティリングから取り出したゴブリンの右耳に魔石7個を置くと、それを見たケニーだけではなく隣にいたレノラまでもが驚愕の表情を作る。ちなみに、リオはそれを聞きながら、ポイズントードの討伐証明部位に買い取って貰える素材を並べていた。

 

 「ちょっ!? え? ソロでゴブリンを10匹倒したの!? 初めての依頼で!?」

 

 「強いとは思っていましたが、こんなに強いなんて……。それに依頼に関係無いモンスターを倒す余裕まで……」

 

 冒険者登録をすませ、さらにはランクもGに上がったばかりの冒険者がゴブリン10匹を倒したのだ。もちろんケニーはともかくレノラはリオが『鷹の爪』を倒したというのは知っている。だが、それはあくまでも街中での賭け試合のようなものであり、実戦ではない。その実戦での強さの証を目の前で見せられ、改めてリオの強さを実感する。……2人は討伐証明部位の中に普通のゴブリンとは色の違う右耳があるのに、まだ気がついていない。

 

 「いや、確かに強いって聞いてたけどこんなに強いとか……凄いわね、リオ君」

 

 ケニーはケニーで、リオの予想外の強さに最初に感じた驚きを通り越して感心へと変わっていた。

 

 「セトもいたから、この程度は問題無いよ。それよりも精算をして貰えるか?」

 

 「えっと、右耳一つにつき銅貨3枚だから、……ん? え? ……ねぇ、リオ君。これって、もしかして……」

 

 計算していたケニーは、ここでようやく右耳の一つが他とは違うことに気付いて、リオに質問する。それに対してリオは、淡々と答えを返す。

 

 「予想通りの希少種の右耳だよ」

 

 それを聞いて、ケニーとレノラが再度驚きの声を上げる。

 

 「って、やっぱり!?」

 

 「ちょっ!? リオさん、希少種まで倒して来たんですか!?」

 

 「ああ、剥ぎ取り中に襲って来たのを返り討ちにした。そのせいで、報酬が1匹分減ったよ」

 

 そう返したリオに、ケニーとレノラの2人はリオの強さが色々と常識外れなのでは、と思ったとか。

 我に返ったケニーは、再び精算を始める。

 

 「それじゃあ、計算するね。普通の右耳が9匹分で銀貨2枚に銅貨7枚で、希少種の右耳が銅貨5枚で、魔石が7個で……って、魔石の数が足りないけど、どうしたの?」

 

 「ん? ああ。魔石の収集をしようと思ってね。1種類につき2個ずつ。希少種のも同様にね」

 

 「そうなんだ、また珍しい事を始めるね、リオ君」

 

 リオの説明に、若干呆れながらもそれ以上追及してくることはなく計算を続けるケニー。その横では、レノラも同意するように頷いていた。

 

 「魔石が7個で銅貨7枚に、ポイズントードの素材を合わせて銀貨4枚に銅貨7枚ね。いや、それにしてもリオ君は凄いわね」

 

 「ありがとう」

 

 そう返事をしながら、報酬を財布代わりの袋に入れるリオにレノラが話掛けてくる。

 

 「リオさん、すいませんが、倒した希少種について聞いてもいいですか?」

 

 「ああ、いいけど。どんな能力を持っていたかでいいのか?」

 

 「はい、希少種に関しては情報が少ないので、上に報告するためにもお願いします」

 

 「わかった、それじゃあ……」

 

 そう言ってリオは、希少種の能力を話しそれをレノラが報告書にまとめていく。それらを終えたリオはギルドを出て、夕暮れの小麦亭に帰る道中で屋台で串焼き等を購入しながら帰路につき、冒険者としての初日は終わったのだった。……因みに、希少種とは言え、ゴブリンと言う事で特に使える素材はないと分かったので後日、希少種の死体は焼却処分されるのだった。

 希少種に関しての報告を聞いた領主やギルドマスターを含む上層部にさらに感心を持たれることになったが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。