レジェンド ~精霊術師の軌跡~   作:ミヤシュン@

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 仕事の疲れで寝落ちばかりで遅れてしたいました、すいません。

 というわけで、遅くなりましたが第15話どうぞ!!


第15話 ランクAパーティ『雷神の斧』

 

 早朝。いつも通りにギルドの中は冒険者たちで混み合っている中、リオがすでに慣れた様子で扉を開けて入ってくる。

 今日はギルドに向かおうとした時にセトがまだ眠っていたので、ギルドにはリオと霊体化しているティアの二人で来ていた。

 まだギルドに登録してから数日なのでリオのことを知らず、身長は平均位だが一見すると華奢な体格をしているのを見た冒険者たち何人かがカモが来たとばかりに絡もうとしたのだが、周りの者たちに『鷹の爪』の末路を聞かされると頬を引き攣らせて顔を背ける。

 そんな冒険者たちを横目にランクFの依頼が貼ってあるボードの前へと向かおうとしたその時……突然大声がギルド内部へと響き渡った。

 

 「聞いてくれ、緊急依頼の募集だ! 依頼内容はギルムから1日ほど離れた場所に集落を造ろうとしているオークの殲滅。前報酬として金貨5枚。依頼達成後に白金貨2枚だ。他にも貢献度合いによって別途報酬を出す。また、オークの討伐証明部位である右耳の買い取りも普段は銀貨3枚だが、今回は銀貨5枚とする。なお、知っての通りオークはランクDモンスターだが、集団になるとランクC扱いだ。それでもやれると判断した者だけ参加してくれ。希望者は1時間後までに受付で依頼の登録をして、ギルド2階にある会議室に集合だ!」

 

 元冒険者なのだろう。右耳の上半分が無いその男の声は、ギルド内の隅々まで響き渡った。

 

 「オークの数は!?」

 

 ランクCの依頼が貼られているボードの前にいた男が大声で尋ねる。

 

 「不明。ただし最低でも50匹以上は確実とのことだ」

 

 50匹。その数が知らされた途端、周囲の冒険者たちがざわめく。

 

 「おい、オークが最低でも50匹ってことは」

 

 「ああ。間違い無く希少種、あるいは上位種が率いている。そうなるとオークメイジなんかも交ざっている可能性が高い」

 

 「……どうする?」

 

 「当たればでかい。何せ、参加しただけで金貨5枚に白金貨2枚だからな。だが、それだけの高額報酬ってことは、当然危険もそれ相応にある訳だ」

 

 「俺はやめとくわ。以前オーク3匹相手にパーティが半壊したことがあったからな」

 

 「俺は参加だ。その報酬はでかいし、何よりオークの集落がここから1日程度の場所に造られてみろ。ギルムにオークの被害が広がるぞ」

 

 そんな話を聞きながら、リオは本で見たオークに関する情報を思い出す。

 

 【オーク】

 顔が豚の亜人型モンスターの総称。身長は成人男性並。基本的には剣や槍、棍棒といった接近戦を行うための武装を好むが、弓を使うオークアーチャーや、魔法を使うオークメイジ、全ての能力がオークより上のオークジェネラルといった上位種も存在している。ただし、上位種は通常のオークに比べると絶対数が少ない。

 

 戦闘技術自体は高くないのだが、力は強く小手先の技は力で押し負けることが多い。

 オークの種族は基本的に雄のみであり、繁殖には他種族の雌を使用する。この時、一番多く使われるのが人間の女である。

 群れる、ということの有用性を本能レベルで理解しており、基本的には数匹~十数匹の群れを作って暮らしている。

 ただし希少種や上位種が現れた場合はより多くの群れを纏め上げるため、100匹単位の群れを率いていることも珍しくない。

 

 (さて、どうするかだが……まあ、参加だな。何しろ緊急依頼ということだからギルドへの貢献度も相当期待出来るし、報酬も破格だ。そして参加条件がランクに関係無いというのも有難い。マイナス要因としては不特定多数に俺の戦闘能力が知られることだが……まあ、ゴブリンの爪相手や一昨日のクイーンアントの件があるし今さらそれを気にするのもな。ただ、この依頼が終わった後に煩わしい勧誘が増える可能性は考えておくべきか)

 

 領主からギルドマスターへと、ギルドマスターから顔見知りの受付嬢であるレノラへと、リオが他の冒険者たちに絡まれたらすぐに知らせるようにという通達が出ていることを知らないリオは、この依頼を受けることのメリット・デメリットを比較してあっさりメリットがデメリットを上回るのだった。

 

 (リオ、説明って時間が掛かるかしら?)

 

 (ん? ……だと思うぞ、今から1時間後に始まるから終わるのは始まってから1時間位掛かるんじゃないか?)

 

 (なら、また離れて良いわよね)

 

 (ああ、終わったら念話で伝えるよ)

 

 (わかったわ。じゃあね)

 

 そう言い、ティアは霊体化した状態でギルドの奥へと進んでいった。……ティアは、買い取りの査定などで時間が出来たらギルドの奥へと進んで誰かと会って話をしているようなのだが、リオがそれが誰なのかは知らない。ティアに聞いてもはぐらかされてしまうからだ。……まあ、リオとしては取り敢えず確認しているだけなので答えが何でもいいのだが。

 そんなやり取りをしながら、ギルド登録のときやその後の依頼で担当してもらったポニーテールの受付嬢、レノラの下へと足を運ぶ。

 

 「あ、リオさんお早うございます。依頼ですか?」

 

 と笑顔を浮かべながら尋ねてくるレノラへと挨拶を返しながら頷くリオ。その隣では猫の獣人族の受付嬢であるケニーが他の冒険者の依頼書を処理しながらもリオへと視線を向けていたのだが、幸か不幸かリオがその視線に気が付くことは無かった。

 

 「さっきのオーク討伐の依頼を受けたいんだけど」

 

 オーク討伐。その言葉を聞いたレノラは数秒固まる。

 

 「ちょっ、リオさん!? 相手はランクDのオークですよ!? いくらリオさんでも……」

 

 リオの言葉に慌てたように言葉を紡ぐレノラ。そして、それはレノラの横で他の冒険者からポイズントード討伐の依頼を受理しようとしていたケニーも同様だった。

 

 「レノラの言う通り、それはちょっと危険じゃない? それにオークは群れるとランクC扱いなんだから、ランクGのリオ君は……リオ君は……」

 

 そう言いつつも、これまでにゴブリンやソルジャーアント、更にはクイーンアントも1人で倒してきたことを思い出し、思わず言葉に詰まる。

 それはレノラも同様であった。リオの戦闘力だけを考えれば、討伐隊の足手纏いにならないのは明らかであり、何よりもリオにはグリフォンのセトという従魔もいるのだ。

 だが、それを知っていても世間知らずでどこか放って置けないリオに対してはどこか心配性になってしまうレノラだった。

 だが、リオは何の問題も無いと言葉に詰まった2人に向かって口を開く。

 

 「オークを倒せる戦力を持っていれば問題無いって話だけど?」

 

 「その、まあ、そうなんですが……」

 

 「なら問題無い。少なくともランクCのクイーンアントやウォーターベアを魔の森で仕留める程度の実力は持っているからな」

 

 『ウォーターベアッ!?』

 

 思わず揃って大声を上げ掛けたレノラとケニーだったが、すぐに自分の口を塞いでそれを防ぐ。

 

 「それに魔の森って……なんであんな危険な場所に行ってるんですか。もしかして昨日ギルドに来なかったのは魔の森に?」

 

 思わず出て来たレノラの問いに、隣で話を聞いていたケニーも同感だとばかりに頷く。

 なお、ポイズントード討伐の依頼書を持ってきた冒険者は特に文句を言うでもなくそんなケニーの様子を……正確には揺れる胸へと視線を釘付けにされていた。

 

 「いや、違う違う。詳しく話すと長くなるから簡潔に言うと魔の森に行ったのはギルムに来る前日だよ。……それでオークの件は?」

 

 「……まあ、確かにクイーンアントとウォーターベアを倒せる実力があるなら問題は無いでしょうが……でもランクGのリオさんがこの依頼に参加するとなるとまず間違い無く悪目立ちしますよ? 『鷹の爪』みたいに絡んでくる人たちもいるでしょうし」

 

 心配そうにそう言うレノラだったが、リオはむしろ望む所とばかりに口元に笑みを浮かべる。

 

 「そのときは、また賭け試合が開かれるかもな」

 

 「……出来れば止めて下さい……」

 

 「そう? 賭け試合なら私は見てみたいかも」

 

 「ケニー……あんたは、取り敢えずこっちに構わないで自分の仕事をしなさい」

 

 リオの言葉に諦めの息を吐き、同時にケニーへと注意しながら手元の書類にリオの名前を書き込むレノラ。

 

 「オーク討伐の受付完了です。後は2階にある会議室で待っていて下さい。依頼の詳しい説明がありますので」

 

 その言葉に頷き、ギルドの2階へと続く階段へと向かうのだった。

 

 

 ギルドの会議室、と言っても日本と違ってプロジェクターやらホワイトボードやらがある訳ではない。広い空間に椅子と机が乱雑に並べられているだけで、本来は会議室の中央に置かれているであろう大きな机は部屋の隅に寄せられていた。

 すでに登録を済ませたのだろう。20人ほどの冒険者たちがすでに部屋の中へと集まっている。

 恐らくパーティを組んでいる者たちなのだろう。3~5人ほどのグループで集まっており、オーク討伐をどう進めるべきかで話を進めていた。そんな中へとリオは歩を進めていく。

 他の者たちは数人のグループを作っているというのに、そこに1人で入って来たローブに身を包んだ細身の青年。当然その姿は非常に目立ち、会議室にいた者たちの視線を一身に集める。

 ガタッ!そしてそんな視線を送っていた者たちのうち、唐突に1人の魔法使いらしき男が椅子に座ったまま後ずさり、その音が会議室に響き渡る。

 

 「おい、どうしたんだ?」

 

 「……いや、何でも無い」

 

 「あいつに何かされたのか? 何なら俺が話を付けてもいいが」

 

 「やめろ! 奴には関わるな!」

 

 リオ自身は精霊術に特化しているので魔力を感じたり可視化する事が出来るが魔法使いに関してはあまり分からなかったが、魔法使いの中にも極稀に他人の魔力を感知出来る者もいる。そしてその能力を持っていた魔法使いの男がリオの身に宿る圧倒的とも言える魔力を感じ取ったのだ。

 

 (? ……、ああ。魔法使いの中にも魔力を感じ取ったりする事が出来るのがいるのか)

 

 訝しそうに騒いでいた魔法使いの男を見ていたが、騒いでいた理由に思い当たり、視線を逸らして部屋の隅にあった空いている椅子へと腰を下ろして他の冒険者たちを観察する。

 

 「おい、あれって確か」

 

 「ああ。『鷹の爪』を倒したとか言う奴だろ?俺も今日聞いた」

 

 「けど、それが本当ならまだランクGでしかないだろ? オーク討伐は早すぎないか?」

 

 「まあ、バルガスを正面から倒せる相手なんだから心配はいらないと思うがな。あいつは戦闘力だけで言えばランクC相当だし。……その分脳筋なんだが」

 

 「戦力になればいいが……足を引っ張られるのは勘弁して欲しいな」

 

 「そう言えば、その『鷹の爪』は? 奴等はオーク討伐に参加しないのか?」

 

 「何でも、あの坊主に負けた時に有り金の殆どを奪われたらしくて、ギルドの借金を返すのにそれどころじゃないんだろうよ」

 

 「借金があるのなら余計にこのオーク討伐に参加すれば良いものを。稼げるのは確実なんだし」

 

 「何でも、迷宮探索の時にメインで使っていた武器がかなり損傷したらしくて修理しないと使えないらしい。で、今は予備の武器を使ってるって話だ。そんな武器でオークの、しかも希少種や上位種に率いられた群れと戦いたいと思うか?」

 

 「……まあ、何となく分かった」

 

 リオから少し離れた所にいる男4人の冒険者パーティが小声で話しており、聞き覚えのある名前に反応したリオだったが、すぐにそれが誰の名前なのかを思い出し、興味を失う。

 さすがにオークの群れに対する討伐依頼ということで会議室に集まっている冒険者たちはそれなりの雰囲気を醸し出している。人数的には男と女の割合は大体7:3と言った所で、リオが思っているほどには女の数が少なくなかった。

 そしてまた冒険者たちの方でもリオに興味があるのか、チラチラと視線を向ける者が多い。

 興味はあるが、人を遠ざけるような雰囲気を放っているリオには話し掛けにくい。そんな、どことなく居心地の悪い雰囲気が漂っている会議室の中へと新たに3人の冒険者たちが入ってくる。

 そしてその人影を見た会議室にいた者たちからは、リオを見たときとは比べものにならないほどのざわめきが起きた。

 その様子に興味を引かれたリオが視線を向けると、まず最初に目に入ったのは先頭にいる男だ。年齢的には30代後半~40代前半といった所だろう。緑の髪をしており、その顔にはどこか年甲斐もない悪戯小僧のような笑みを浮かべ、自分に向けられている視線を真っ向から受け止めている。悪戯少年がそのまま大人になった人物というのがリオの感じた第一印象だった。まるで巌のような筋肉に覆われているためか、身長自体はそれ程高く無いのに重量感はかなりのものだ。巨大なバトルアックスを背負っており、それが男の武器なのだろう。バトルアックスを武器としているという点ではバルガスと同じだが、バルガスをゴブリンとするなら、こちらはサイクロプスとでも表現すべきほどに纏っている雰囲気が違う。背負っているバトルアックスもどこか目を引き付けるような魅力を放っており、マジックアイテムであろうというのをリオは予想した。

 その男の後ろを歩いているのが30代ほどの女冒険者。手に杖を持っている所を見ると魔法使いなのだろう。動きやすいようにしているのか、青い髪を肩口で切り揃えられている。その女冒険者も部屋に入って来た瞬間、反射的にリオへと視線を向けると、その魔力を直視してしまい思わず後退る。

 後退った女冒険者を受け止めた、3人組の最後の人物は若い男だった。年齢的にはリオと同年代、といったところか。腰には鞘に収めた剣を下げており、動きの素早さを重視しているためだろう、何らかのモンスターの革を使ったと思われるレザーアーマーを身に付けている。

 青い髪や顔つきを見る限りでは、前を歩いている2人の血を引いているのだろうと納得出来る程度には似ている顔立ち。その人物が自分にぶつかった女の見ている方、つまりリオへと視線を向けるともう片方の男へと女を任せてズカズカと近寄り、リオの目の前で立ち止まると口を開く。

 

 「おい、お前。母さんに何をした!?」

 

 座っているリオの胸元を掴んで引き寄せながら。

 これが、ギルムでもランクAパーティとして有名な『雷神の斧』とリオのファーストコンタクトだった。

 自分の胸元を掴み上げている男……というより青年の顔を見ながら、リオは無表情に相手の目を見返す。

 それが気に入らなかったのか、リオを睨んでいる青年は先程よりも大きな声でリオへと告げる。

 

 「答えろ。母さんに何をしたのかと聞いてるんだ」

 

 「……放せ」

 

 不愉快そうに眉をひそめながら口を開くリオ。

 それも当然だろう。リオ自身は女が後退った原因が自分の魔力だと分かっている。だが、ただ椅子に座っていただけでこんな風に絡まれているのだから。

 

 「いいから答えろ。そっちがその気なら俺も相応の態度を取らせて貰うぞ? ……これが最後だ。答えろ」

 

 「……」

 

 これ以上は話しても無駄だと判断したのだろう。リオは自分の胸元を掴んでいる男の手を対象にして、威力と規模を最小にした精霊術を放った。

 そして、次の瞬間、

 

 「ぐあっ!?」

 

 『なぁっ!?』

 

 バチッ!と空気が弾ける音と同時に、男の手を電気が走しり、その衝撃で男はリオから手を離す。

 また、その光景を見ていた冒険者たちが驚きの声を上げる。その理由は、リオが詠唱せずに魔法を使ったと思ったからだ。……因みに、魔法発動体は杖だけではなく、腕輪やピアスのような装飾品の形をした物もあるのでリオがしている装飾品の何れかが魔法発動体だと判断したのだろう。実際には、リオが使ったのは雷系統の精霊術で威力も精々弱い静電気位の初歩的な物だった。……因みに、リオが精霊術を使った事は、別行動していたティアとその話相手も感じ取っていて、ティアと話相手は突然の事で驚いたとか。

 手を弾かれた男も黙ってはいなかった。最初の勢いのままにリオに口を開く。

 

 「ッ!? ……何をする!?」

 

 それに対するリオの返事は……

 

 「それはこっちの台詞だ。ただ椅子に座っていただけの俺に掴み掛かって来たのはそっちだろ。それに答えろと、言っておきながらこっちの話を一切聞こうともせずに」

 

 「それは、お前が母さんに何かしたからだろ!?」

 

 リオの言葉に対して男が返す言葉は最初に言った事の繰り返しだった。それに呆れながらもリオは口を開こうとしたが……

 

 「ロドス、いい加減にしろ。彼は正真正銘私には何もしていない。私が勝手に彼を見て驚いただけだ」

 

 ロドスと呼ばれた男とリオの顔の間に、ハスキーな声と共に1本の杖が差し入れられた。

 

 「けど、母さんっ! 母さんが何もされてないのに後退るなんて普通じゃない!」

 

 どこか男っぽい口調を発する女にロドスは言い募るが、女は小さく溜息を吐いてロドスの頭へと杖を叩き付ける、

 ボグッ!と、まさに鈍器で肉を殴ったような音が周囲に響き、リオの近くでその音を聞いてしまった冒険者たちは思わず痛みを想像して眉をひそめる。

 

 「ぐぎゃっ!」

 

 ロドスもまた当然のことながら頭を押さえて床へと踞るが、そんな様子には目もくれずに女はリオへと頭を下げる。

 

 「すまない、少年。息子が無礼を働いた。許して欲しい」

 

 「……」

 

 無言で視線を返すリオに、女は床に踞っていたロドスをひょいとばかりに持ち上げて強引に頭を下げさせる。

 

 「この通りだ。ロドスも反省しているし、二度とこのような失礼な真似はさせない。だから今回の事は水に流してくれると嬉しい。もちろん無条件で、とは言わない。何かあったら私たちが手を貸すと約束しよう。これでも『雷神の斧』というランクAパーティだから、力になれると思う」

 

 ランクAパーティ、という単語にピクリと反応するリオ。早くギルドのランクを上げ、より強力なモンスターとの戦闘を望むリオにとってランクAパーティとは繋がりを持っておいて損になる物では無い。そう判断したリオは小さく頷く。

 

 「何か実害があった訳じゃないし、ランクAパーティに貸しを作ったということで納得するよ」

 

 リオの言葉を聞き、女は安堵の溜息を吐く。

 

 (良かった。こんな馬鹿げた魔力を持った相手と敵対する羽目にならなくて助かった)

 

 内心で呟きながら、リオを目の前にして改めて口を開く。

 

 「すまない、自己紹介がまだだったな。私はミン。今、少年に絡んだ馬鹿息子の母親だよ」

 

 「母さんっ!」

 

 ロドスの言葉を無視して、面白そうに3人の様子を眺めている男の方へと視線を向ける。

 

 「あれが残念ながら私の夫で、『雷神の斧』のリーダーでもあるエルクだ」

 

 自分を紹介する声が聞こえたのだろう。エルクと呼ばれた男が口元に笑みを浮かべながら3人へと近付く。

 

 「おう、うちの息子が絡んで悪かったな。女房に紹介されたようだが、エルクだ。ま、よろしくな」

 

 見た目そのまま、といった感じで豪快に笑うエルク。リオにしてもその様子を見て毒気が抜かれたのか軽く溜息を吐いて口を開く。

 

 「リオだ。こちらこそよろしく頼む」

 

 「って、それだけかよ。もっと何かこう、ないのか? 好きな食べ物とか、好みの女のタイプとか」

 

 「エルク、お前は少し黙っていろ」

 

 ミンの声に不承不承といった感じで黙り込むエルク。この3人の中で誰が最も発言力を持っているのかは、この光景を見れば明らかだった。

 

 「一応私たちは長いことギルムで冒険者をやっているんだが、君の顔を見た覚えは無いな、最近この街に来たのかな?」

 

 「つい先日この街に来たばかりで、ギルドに登録してからまだ数日くらいだよ」

 

 その言葉に最初に反応したのは話をしていたミンではなく、そしてミンの後ろにいたエルクでもない。ミンの隣で胡散臭げにリオへと視線を向けていたロドスだった。

 

 「はぁ!? お前、ここの冒険者たちが何の為に集まってるのか分かっているのか!?」

 

 「オークの討伐だろう? それに、ランクに関してはこの依頼では関係無いだろ?」

 

 さらりと返すリオだったが、それが自分を馬鹿にしているように感じたのだろう。ロドスは顔を真っ赤にしてリオを睨みつける。

 だが、再度暴発するかと思ったその瞬間、再びその後頭部にミンの持っていた杖が振り下ろされた。

 

 「がっ! か、母さん。そうポンポンと息子の頭を殴らないでくれよ。っていうか、その杖は魔法発動体であって棍棒じゃないだろ」

 

 「黙ってろ、私が話しているところに口を突っ込んで勝手に険悪になるな」

 

 「けど!」

 

 ロドスがさらに何かを言い募ろうとした時、先程下で緊急依頼だと叫んでいた男が会議室の中へと入ってくる。

 それを見たミンも話はここまでと判断したのだろう。夫と息子を引っ張ってリオの近くにある椅子へと座る。……因みに、その光景を見たリオは杖を振り下ろすのが様になっているのを見て普段からこうなのか?と考えていた。

 

 「皆、良く集まってくれた。人数的には……」

 

 そう言い、会議室の中を見渡す男。

 

 「30人といった所か。俺は今回の依頼を仕切らせて貰うボッブスだ。依頼の大まかな内容は、先程も言ったがオークの討伐任務となる。報酬は前金として金貨5枚。依頼終了後に白金貨2枚。また、貢献度によっては追加でボーナスも検討しよう。それとオークの討伐証明部位である右耳もこの任務に参加している者に限り通常は銀貨3枚の所を銀貨5枚とする。ここまではいいな?」

 

 ボッブスの声に皆が頷く。

 

 「オークが集落を造っている場所は、ギルムから1日ほどの距離にある。数に関しては最低50匹。……いいか! あくまでも最低で50匹だ。当然これより多い数がいると想定しておくように。また、その数から考えて希少種や上位種が率いているのは間違い無いだろう。出発は今日の昼過ぎになるから、準備が出来た者から正門前に集合するように。予定としては道中で一泊して集落付近に明日の昼過ぎに到着。その後は夜まで休憩して夜襲を行う予定だ。質問はあるか?」

 

 質問はあるかとの問いかけに、冒険者の一人が口を開く。

 

 「オークメイジの存在は確認されているか?」

 

 「現在はまだ確認されていないが、まずいると思った方がいいだろう」

 

 「この依頼を達成した場合のギルドへの貢献度は?」

 

 「当然次のランクへ上がる際には考慮させて貰う。ただし、あくまでも活躍した者に限るがな。この依頼に参加しただけで無条件に、とはいかない」

 

 「集落まで移動する為の馬車はギルドの方で用意してくれると考えていいのか?」

 

 「ああ。ただし、独自に用意出来るというのならそれでも構わない。その場合は空いたスペースに物資を積み込んで行く事になるだろう」

 

 「その物資はギルドの方で出してくれるのか?」

 

 「そうなる。ただし、これも独自で用意出来るのならそちらを使っても構わない」

 

 「指揮系統は?」

 

 「指揮に関しては、俺が執る事になっている」

 

 冒険者たちからの質問に淀みなく答えていくボッブス。

 その質問を聞いていたリオもまた手を挙げる。

 

 「物資の輸送手段に協力出来ると思うけど、それも貢献度にプラスされると考えてもいいか?」

 

 「物資の輸送手段に協力? それはどのような手段だ?」

 

 ボッブスの言葉に、右手に嵌まっているミスティリングを見せる。

 

 「これはアイテムボックスの一種でミスティリングという。これを使えば物資の輸送に関しては問題無いと思う」

 

 そう言いながら、ミスティリングの中から解体用のナイフを取り出して見せ、その後再びミスティリングへと収納する。

 

 「アイテムボックスって……本物か!?」

 

 「俺、初めて見たぞ」

 

 「俺もだ。と言うか、あんな高額なマジックアイテムは普通一生に一度見れるかどうかって所だろ?」

 

 会議室の中にいる者たちはリオが『鷹の爪』と揉めた事を知っている者も多いようだったが、賭けの賞品としてアイテムボックスを賭けたというのを知っている者は少なかったらしい。

 そして知っている者の中でも数名は、リオへと観察するような鋭い視線を送っていた。

 そんな視線を意図的に気が付かない振りをして、リオはボッブスへと視線を向ける。

 

 「……いいだろう。そのアイテムボックスを利用して輸送に協力してくれるというのなら、ギルドに対する功績とさせてもらう」

 

 それから細々とした質問が飛びボッブスがそれに答えていった。

 

 「よし、他に質問は……無いな? これで解散とする。昼過ぎには正門前に集まっておくように」

 

 ボッブスがそう告げ、その場は解散となる。会議室の中にいた冒険者たちは早速準備をする為に外へと向かい、残っているのは何らかの相談をしている数人のみとなっていた。

 そんな中、他の冒険者たちと同様に外へと出よとしたリオの背に声が掛けられる。

 

 「すまないがリオ君、と呼んでもいいかな? その、出来ればでいいんだが、後学の為にもアイテムボックスを見せて欲しいのだが。当然、それ程貴重なアイテムを見せて貰うのだから、相応の礼は後日させて貰う」

 

 そう声を掛けて来たのは、『雷神の斧』の女魔法使いミンだった。ハスキーな声は先程聞いた時と同様なのだが、その顔は興奮で薄らと赤く染まっている。

 

 「構わないけど、ミスティリングは俺以外には使えないようになっているんだけど?」

 

 「ああ、それでもいい。是非頼む」

 

 強引としか言い様のない態度に押されるように、右腕に嵌まっていた腕輪を手渡す。

 

 「へぇ、これが……成る程、確かに強力な魔力を感じる」

 

 感心しているミンの横では、ロドスが相変わらず胡散臭そうにリオへと視線を向けていた。

 

 「ふんっ、結局は自分の実力じゃなくて強力なマジックアイテム頼りかよ。それなら俺だって……がっ!」

 

 最後まで言葉にすること無く、エルクの拳が頭へと振り下ろされる。

 

 「と、父さん……」

 

 「お前な、ミンの興味が他の人に向いてるからって拗ねすぎだぞ」

 

 「父さん、別に俺はそんな!?」

 

 「側から見てれば見え見えなんだよ。ったく。……悪いな、リオ。こいつは見ての通りお前と同じ位の年齢なんだが、どうにも母親離れが出来なくてな」

 

 エルクの言葉に、チラリとミスティリングを熱心に調べているミンへと視線を向けるリオ。そこには当初出会った時の冷静さは嘘のように消え失せ、目を輝かせているミンの姿があった。

 

 「父さん! お前もいい加減にしろよ。ギルドに登録したばかりの低ランクの癖に、偉そうな口を利き過ぎだぞ」

 

 (いや、俺は何も言ってないぞ……)

 

 リオが内心で呆れていた視線の先では、ロドスの頭に再びエルクの拳が振り下ろされ、床で踞ることになる。

 

 「ったく、図星を突かれたからってムキになるなよ」

 

 「お、俺は別に……」

 

 殴られた頭を押さえつつ口を開こうとするロドスだったが、その前にいつの間にか近くにいた新たな人影に気が付く。右耳が欠けているギルドの職員でもあるボッブスだ。

 

 「エルク、悪いがこいつをちょっと借りるぞ」

 

 どこか気安く声を掛けるボッブスに、エルクも同様に気安く頷く。

 

 「ああ、構わない。こっちもそろそろ準備を始めないといけないしな」

 

 そう言い、ミンが熱心に見ていたミスティリングをリオへと返し、そのまま会議室を出て行く。

 それを見送り、ボッブスはリオへと鋭い視線を向けながら口を開く。

 

 「リオだったな。『鷹の爪』を一人で倒せる実力があるのなら、オークも相手に出来ると思っていいのか?」

 

 「オークと戦った事はないけど、ランクCのウォーターベアとクイーンアントを倒してるから、大丈夫だと思う」

 

 ウォーターベアとクイーンアントという単語に、小さく目を見開くボッブス。

 

 「成る程、それなら恐らく問題は無いだろうな。ただ、依頼を受けるのはあくまでも自己責任だ。力及ばず、何てことになっても文句は無いな?」

 

 ボッブスの言葉に小さく頷くリオ。

 

 「よし。なら、お前はこの後、昼前には準備を整えてギルドに来てくれ。そこで物資を預かって貰う」

 

 ボッブスの言葉に、リオはミスティリングを撫でながら頷く。

 

 「ところで、テイムしたモンスターがいるんだけど」

 

 「ああ、それについては問題無い。こちらとしても戦力が増えるのは歓迎だ。ただし、他の冒険者相手に怪我をさせるような真似はしないようにな」

 

 「セトは賢いから、危害を加えられなければ自分からちょっかいを出すような真似はしないよ」

 

 それで話は終わり、リオは会議室を出て行くのだった。

 

 

 (ティア、説明会は終わったから準備しに行くぞ)

 

 (わかったわ、すぐに行く)

 

 「あ、リオさん。依頼の方はどうでしたか?」

 

 会議室を出て、ティアと念話しながらギルドの一階へと戻ると受付嬢のレノラが声を掛けてくる。

 

 「ああ、問題無いよ。無事に依頼を受けられた」

 

 「そうですか。でも、相手はオーク。それもかなりの数と聞いていますから気をつけて下さいね。ギルドとしても将来有望な新人にいなくなられるのは困りますし」

 

 そう話すレノラの目にはリオを心配する色が浮かんでいた。

 

 「そうよ。リオ君はまだまだ新人なんだから、難しいところはランクの高い人たちに任せて、生き残ることを考えないと」

 

 突然聞こえてきたその声はレノラの隣で様子を窺っていたケニーの声だ。

 

 「ちょっと、さっきと随分態度が違うじゃない」

 

 「そりゃそうでしょ。だって『雷神の斧』が参加するのよ?オークが何匹いても、エルクさんたちならどうとでもなるでしょ」

 

 そんなケニーの様子にこれ以上何を言っても無駄だと判断したのだろう。改めてリオへと向き直るレノラ。

 

 「とにかくリオ君。今回のオーク討伐の依頼はかなり危険な事になるだろうから、くれぐれも気をつけてね」

 

 「あ、ああ。もちろん油断しないようにするさ。さて、俺も色々と準備があるからそろそろ行くよ」

 

 「リオさん、お気を付けて」

 

 「リオ君、無事に帰ってきたらお姉さんが褒めて上げるから、怪我をしないようにねー」

 

 レノラは軽く手を振り、ケニーは自慢の大きな胸を強調するようなポーズでリオを見送る。そんなポーズを取ったまま、何かを思い付いたかのような笑みを口元に浮かべながら。

 そんなケニーの様子に気付かずにリオは出入口へと歩き、そこに……

 

 (ただいま)

 

 (お帰り。……で、行き先は何時もの所か?)

 

 (当たり。……それで、どうして精霊術を使ったの?)

 

 (ちょっと理不尽な理由で絡まれたから振りほどくのに、な)

 

 (そう。大丈夫だった?)

 

 (ああ。問題無いよ)

 

 ティアと内心で会話しながら歩くリオに、まだギルド内部に残っていた面々は、自分たちのアイドルでもある受付嬢たちの様子に嫉妬の目を向けたりもしていたのだが、リオはそれに気が付かずそのままギルドを出て行くのだった。

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