レジェンド ~精霊術師の軌跡~   作:ミヤシュン@

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 今回は、リオの相棒のセトと『雷神の斧』のメンバーの初対面となりますが、どうなるかな?

 ということで、第16話どうぞ


第16話 討伐隊、出発!

 

 

 ギルドを出たリオは、早速必要な道具を買い揃えるべくギルドの近くにある冒険者用の商店街へと向かっていた。

 冒険者が集まるギルドの近くという事で、その冒険者たちを目当てにした武器屋、防具屋、道具屋、中にはマジックアイテムを売っているような店もある。そんな一角へと向かっていたリオだったが、不意に右肩を叩かれて後ろへ振り向く。

 

 「えへへ、来ちゃった」

 

 振り向いた先にいたのは頭部にある猫耳を動かしている獣人の女であり、リオにとっても当然その顔に見覚えはあった。何しろ、つい数分前まで話していた相手なのだから、忘れろと言うのが無理だろう。

 

 「ケニー? 何か俺に用でも?」

 

 そんなリオの言葉に、不満そうに頬を膨らませるケニー。

 

 「そういう言い方は無いんじゃない? リオ君ってば冒険者が大勢参加する依頼って初めてでしょ? だから少しお手伝いしようと思ったのよ」

 

 「それは助かるけど……ギルドの方はいいのか?」

 

 「ああ、それは大丈夫。今日はオークの件で腕に自信のある冒険者はそっちに行っちゃったし、今の時間なら冒険者の人たちもあまり来ないから私がいなくても十分対応可能だし」

 

 堂々とサボってもいいのか?そうも思ったリオだったが、実際にケニーの言葉通り大勢の冒険者が参加する依頼を受けるのは初めてであり、その際に必要な物資に関してもセトやティアと一緒に活動している時とは違ってどの様な物を揃えればいいのか分からないというのも事実だった。

 数秒ほど悩んだリオだったが、やがて小さく頷いて口を開く。

 

 「その、確かにケニーの言う通りこういう大規模な依頼を受けるのは初めてだから、色々と教えてくれると助かる」

 

 そう言い、よろしく頼むと小さく頭を下げたリオへと視線を向けながら、ケニーは自分の選択が間違っていなかった事を確信する。

 

 (良し! 好感度アップね。レノラには今日の夕食を奢らされる事になったけど、それだけの価値は十分にあったわ)

 

 内心でそんな風に考えつつも、表情に出さない様に頷いてリオへと手を伸ばす。

 

 「任せて。ギルドの受付嬢になってから、それなりに長いんだから。さ、行きましょ」

 

 リオの手を掴み、そのまま近くにある道具屋へと向かっていく。

 大きさ自体はそれ程でも無いのだが、店舗の周辺は小まめに掃除しているのか小綺麗でゴミの類も殆ど落ちてはいない。

 

 「いい、リオ君。こういう風に店の周辺を綺麗に掃除しているお店は、それだけお客さんを大事にしているの。特に女の冒険者は汚い店よりもこういう綺麗な店に入りたがるのは分かるわよね?」

 

 「……それは確かに分かるけど、俺が知りたい内容とはちょっと違うような」

 

そもそも、リオはケニーが今言ったような女ではなく立派な男だ。そんなリオにしてみれば、店の周辺は多少汚くてもいいから良い品を安く売っている店を紹介して欲しいというのが正直な気持ちだった。

 だが、そんなリオの様子にケニーは笑みを浮かべて首を左右に振る。

 

 「自分でも分かってると思うけど、リオ君の外見は他の人よりもちょっと……その……」

 

 最後まで喋ること無く言い淀むケニー。

 ケニーから見れば……否、このエルジィンという世界に住む者から見ると、リオの外見は細身なのだ。先祖代々モンスターと戦ってきたのが影響しているのか、この世界の住人の身長は基本的に高い。エルフやドワーフ、獣人といった例外がいるにしても、人間の大人は180cmを越える身長の持ち主というのは珍しくもないし、2mオーバーの者もかなりの数存在している。そして、一部の人間やエルフに獣人といった者たちの中にも細身の体格をしているが、冒険者や騎士、軍人と言った職業に付いている男性は筋骨隆々といった具合にがっしりとした体格の者が多い。そんな中で身長は180cmと平均的だが、細身にしか見えず、更には中性的な顔立ちをしているリオだ。……実際には、引き締まった身体をしているので筋肉がついていないわけではないのだが。

 それゆえに、乱暴な性格の持ち主が多く集まるような道具屋へと行けば、絡まれることは明白だった。

 

 (リオ君自身も強気だしね)

 

 内心で呟き、リオの手を引きながら道具屋の中へと入っていく。

 

 「ほら、絡まれるのも面倒でしょ?」

 

 「まあ、確かに」

 

 リオ自身としては、絡んでくる相手を倒して『鷹の爪』のように賭け試合にしてもいいのだが、面倒な事にならないというのなら、確かにそっちの方が楽だと言うのもだった。

 

 「だから、リオ君は少なくともギルムである程度その名前を知られる様になるまではこういうお店で買い物をした方がいいと思うわ。ほら、こういうお店なら乱暴な人たちに絡まれる心配も少ないでしょ?」

 

 それでも絶対と言い切れないのは、ここが辺境にあるこのギルムだからこそなのだろう。中には女の冒険者でも気に食わない相手に噛みついていくというのはそれ程珍しくはないのだから。それでも絶対数で言えば今ケニーやリオが入ったような店の方が安心出来ると言うのも事実だった。

 

 「へぇ、確かに」

 

 店の中を見回し、ケニーの言葉に思わず同意するリオ。

 店の外と同じく綺麗に整理整頓されており、売り物のアイテムもきちんと種類こどに分かれて棚の上に置かれている。

 

 「ほら、こっちこっち。リオ君は精霊術?って言うのを使えるらしいけど、ポーションの類はあった方がいいでしょ」

 

 「っ!? ケニー、精霊術を知ってるのか?」

 

 「え? 私は知らなかったけど、昨日の午後にね、魔法に似ている精霊術って言うのが存在しているって、上から教えてられたのよ。詳しい事は後日、精霊術について纏めた資料を回すからそれを読む様に、って言われたの」

 

 「へぇ、そうなんだ」

 

 そう、ケニーが精霊術を知っていたのは、精霊術に関して簡単にだが説明されていたのだ。その稀少な使い手が最近登録したばかりのリオである事も一緒に。……因みに、レノラは自分に対して出された命令の理由の一端をその時に知って、納得したという。

 そんな会話をしながら、棚の上に幾つも整理されて置かれている瓶へと視線を向けるケニー。リオの感覚で言えば試験管というのが正しいだろうか。透明度はそれ程高くないガラスに青色の液体が入っているのが見えた。

 

 「ガラスって、戦闘中とか移動している時に割れたりしたら大変なんじゃ?」

 

 「ああ、大丈夫よ。少しの衝撃では割れない様に作られているから。一応、こんなのでも広義的な意味で見ればマジックアイテムなんだから」

 

 「……へぇ」

 

 ケニーの言葉に、思わずポーションへと視線を向けるリオ。

 高度な技術を使って作られている訳ではないが、それでもこのような生活に密着しているマジックアイテムというのは広く使われている。そして、そのマジックアイテムを作るのに必要なのがモンスターから取れる魔石であり、それ故に、ギルドでは魔石を高く買い取っているのだ。

 

 「で、リオ君はポーションを使ったことは?」

 

 レノラから聞いた世間知らずだという話を思い出し、念のためとばかりに問い掛けたケニーの言葉に、リオは小さく首を左右に振る。

 

 「今日初めて見た」

 

 「……でしょうね」

 

 曖昧に頷きつつも、確かに世話好きのレノラが放って置けない程に世間知らずだと納得する。

 

 「使い方は簡単で、飲むか傷口に掛けるかするだけでいいわ。傷口に掛ければ怪我をした場所が治るし、飲んでも同じ効果を得られるの。けど飲んだ場合は少しの間だけ、凄く弱いけど常時回復効果を得られるわ」

 

 「なら、飲んだ方が圧倒的に得なんじゃ?」

 

 傷を癒すという効果が同じで、なおかつ弱いとは言っても常時回復効果があるのだ。それなら飲んだ方が絶対的に得だろうと思って口にしたリオだったが、ケニーから返ってきたのは苦笑だった。

 

 「確かに純粋な効果だけを考えれ飲んだ方がいいんだけど……」

 

 そう言い、そっとリオの耳元へと口を寄せる。

 微かに香ってきた甘酸っぱいような香水の匂いに一瞬鼓動が速くなるリオだったが、ケニーはそんなリオには構わず小声で呟く。

 

 「途轍もなく不味いのよ。だから普通は飲むなんて事はしないで、傷口に直接掛けているわ。何でも一度飲むと数日間は食べ物の味が分からなくなるくらいの味らしいから、リオ君も気を付けてね」

 

 「……ああ」

 

 予想外の言葉に驚きつつも、それでも念のためと10個ほどのポーションをレジへと持って行き購入するリオ。

 ミスティリングのあるリオにとっては大量のポーションを持ち運ぶのに苦労はしない為、いざという時の手段は幾つあっても有りすぎるということは無かった。

 その後も道具屋でケニーから色々と説明を聞きつつ、30分ほど過ごすのだった。

 

 

 「じゃ、私はそろそろギルドの方に戻らなきゃいけないから、そろそろ行くわね」

 

 「ああ、その……色々と教えてくれて助かった。ありがとう」

 

 「いいのよ」

 

 リオのお礼に笑みを返しつつ、一瞬だけだが心臓が高鳴った自分に驚くケニー。

 

 (色々と放っておけないのは事実だけど、別に私は年下好きって訳じゃ無いと思ってたのに……あ、これちょっとまずいかも?)

 

 ケニーが以前レノラに言った様に、リオを狙うというのは冗談だった筈なのだ。だが、冗談が冗談では無くなりそうな気がしたケニーは何かを誤魔化すように口を開く。

 

 「いい、オークは強いんだからくれぐれも注意するようにね。怪我とか絶対にするな……とは冒険者のリオ君には言えないけど、くれぐれも気を付けてね」

 

 そう告げ、リオの返事を聞かずにさっさとギルドへと走っていくケニー。

 薄らと頬が赤く染まっているのを自覚したための行動だった。

 だが、リオはそんなケニーの事情を知る筈もなく、ギルドの方が忙しくなるんだろうなという程度の感想しか持たずにケニーの後ろ姿を見送るのだった。……因みに、そんなリオとケニーのやり取りをリオの目を通して見ていたティアは、どこか鈍いリオを見ていて呆れていたのであった。

 

 

 「あら、お帰りなさい。早かったですね。今日もお休みですか?」

 

 夕暮れの小麦亭へと戻ると、丁度入り口でラナと鉢合わせをする。その恰幅のいい身体でこれでもかとばかりに大量の食材を手にしているのは、今日の夕食用なのだろう。

 

 「丁度良かった。これから依頼で何日か留守にするんだけど」

 

 「はい、分かりました。ただ、貰っている日数分の料金を過ぎてしまったら部屋にある荷物はこちらで預かる事になります。その後3ヶ月経っても戻ってこない場合、処分する事になりますがよろしいですか?」

 

 「ああ、分かった。それとセトも連れていくことになるから」

 

 「分かりました。出発は何時になりますか?」

 

 「昼前くらいかな」

 

 「では、出発前に食堂の方に顔を出して下さい。お弁当を用意しておきますので」

 

 短くそれだけを言うと、食堂の方へと消えていくラナ。昼食の準備や夕食の仕込みで忙しいのだろう。

 その姿を見送ったリオは部屋へと戻り、ドラゴンローブとスレイプニルの靴を脱いでからベッドへと横になる。

 何しろ基本的な荷物は全てミスティリングの中に入れてあるので、部屋に置いてある私物はそれこそ着替えや小銭程度しかない。

 

 (オークの群れ。それも希少種か上位種に率いられている可能性が高い、か)

 

 希少種と上位種。この二つは明確に違う。例えば以前にリオが倒したゴブリンの希少種。これはゴブリンそのものの突然変異だ。それに対してゴブリンの上位種となると、ハイ・ゴブリンのようにゴブリンそのものよりも上位の存在としてこの世に生を受けたモンスターだ。

 

 (どのみちオーク自体もランクはそれなりに高いから、スキルの習得に関しては期待出来るだろう。ただ、セトや双龍銃剣の特異性についてはあまり目立たせない方がいいのも事実、か)

 

 只でさえ現状のリオをその実力や装備等で非常に悪目立ちしている。それに加えてミスティリングの存在を大勢の前で披露したのだから、現状のままでもいずれ何らかの魂胆を持った相手が近付いてくるのは避けられないだろう。現に会議室でミスティリングを見せた時に鋭い視線を送ってきた者も数名いた。そこに加えて水球やファイアブレスにアジットブレスを使うグリフォンや、切り結んだたけで相手の装備を腐食させる効果を持った双龍銃剣の存在が表沙汰になった場合……

 

 (いや、待て。セトの水球やファイアブレスとアジットブレスに関しては誤魔化しようがないが、腐食に関しては俺の精霊術と言い切れば誤魔化せるか? ……ティア、どう思う?)

 

 (そうね。……大丈夫だと思うわ。精霊術は術者のイメージ通りの事象を発生させるから腐食のようなことも出来るわね。それに、精霊術についてはあまり知られていない様だから、実際に使っているリオが言うなら納得するしかないと思う。……ただ、怪しむ人も出る可能性はあるけど)

 

 (そうか、なら双龍銃剣が習得していくスキルに関しては俺の精霊術って事にするか)

 

 そうして、双龍銃剣のスキルに関しては自身の使う精霊術だと思わせる事に決めるのだった。

 敵の金属製の装備を腐食させるという双龍銃剣のスキルは、どちらかと言えばモンスターよりも人間相手の方が有効に働く。

 考えてみれば当然なのだが、己の爪や角、牙や尻尾といった身体の一部が武器のモンスターと違い、人間は武器や盾、鎧と言ったもので武装しなければ戦闘力が極端に落ちる。そしてそれらの武器の大半が金属製である事を考えると、そういう相手にこそ腐食というスキルは天敵と言ってもいいだろう。

 

 (セトにはグリフォンとしての基本的な能力のみで戦って貰う。そして、俺は腐食のスキルはなるべく隠す方向で進める……といったところか。下手に対応の仕方を縛ると動きづらくなるだけだろうし)

 

 臨機応変……と言うよりは、半ば行き当たりばったりで流れに任せた方がいいと判断したリオは、勢いを付けてベッドから立ち上がり、出発の準備を始める。

 昼にはまだ少し早いが、元々のボッブスとの約束が昼前にギルドに行くと言うものだったので、ここの食堂で昼食を食べてから向かえば丁度いいと判断したのだった。

 

 

 「はい、これ。今日の夕食にでも食べて下さいね」

 

 食堂に入った途端にバスケットにたっぷりとサンドイッチの入った弁当を渡される。

 いつもの弁当と違ってかなりの量が入っているのか、ずっしりと重い。その重量感に意表を突かれ、思わず尋ねる。

 

 「いつもより随分多いようだけど?」

 

 「そりゃそうですよ。10日分の宿泊料を貰ってるのに数日も留守にするって言うんですから、このくらいは奮発させて貰います。あと、今日の昼食はそこから天引きって事でいいですよ。座って下さい、すぐに料理を持ってきますから」

 

 こうして夕暮れの小麦亭で昼食を取り、弁当としてたっぷりのサンドイッチも貰って満足したまま厩舎へと向かうのだった。

 

 「グルルゥ」

 

 リオが入って来たのを見たセトが嬉しそうな鳴き声を上げる。朝にリオが迎えに来た時は、まだ眠っていたのでギルドには連れていかなかったのだ。

 同時に厩舎の中にいた他の馬たちが落ち着き無くそわそわし始める。

 自分たちより生物としての格が圧倒的に上のセトの活発になった気配に、再び恐怖を覚えたのだ。

 そんな様子に苦笑を浮かべながらもセトを厩舎から出すリオ。

 

 「セト、これから泊まりがけでオークの討伐に向かう」

 

 分かった、とでも言う様に短く喉の奥で鳴くセト。

 

 「ただし、今回は俺とセト、ティアだけじゃない。全部で30人程度の集団での行動だ。だから俺はともかく、セトの特殊性を他の奴等に知られる訳にはいかない。セトも妙な奴等に絡まれたりするのは面倒だろう? 街の外ならともかく、中だと殺したりすれば事件として色々と面倒な事になるのは間違い無いだろうし。だからオーク討伐をしている間は基本的にスキルの使用は禁止だ。もちろん命の危機とかそういう時はセトの判断で使っても構わないが」

 

 「……グルゥ」

 

 不承不承、といった感じで承知するセト。その頭を撫でながら、宥めるように口を開く。

 

 「その代わりと言ってはなんだが、今回のオークはかなりの数がいるらしい。それにゴブリン討伐の時に戦ったような希少種や、まだ見た事も無い上位種といった存在もいるらしいから、魔石に関しては期待出来る。それにセトにとってはオークの肉とかも興味があるだろう?」

 

 「グルルルゥッ!」

 

 その一言で機嫌を直したのか、嬉しそうに鳴くセト。

 食べ物で機嫌があっさりと直ったその様子に苦笑を浮かべつつ、早速冒険者ギルドへと向かう。

 

 

 いつも通りに通行人に驚かれ、あるいは怖がれつつも屋台で適当の食べ物を買ってはセトへと与え、昼食を食べた直後だというのに自分でも食い、そして多めに買ってミスティリングの中へと収納していく。

 そんな事をしながら道を歩き、冒険者ギルドの前へ。そしてセトはリオが何も言わなくても馬車や従魔用の待機スペースへと移動してゴロリと寝転がるのだった。

 そんなセトの頭を軽く撫でてから、リオはギルドの中へと入っていく。

 ギルドの内部はもう少しで昼ということもあり、酒場のスペースに10人近い冒険者たちが座って昼食を取っていた。だが、リオがギルドの内部へと入ってカウンターへと近付いて行くにつれ、その中の数人が食事を取りながらもリオの様子を観察する。

 

 (……誰かに見られている?)

 

 (そうみたいね……)

 

 カウンターへと近付きながら視線を向けられているのを感じるリオとティア。この場所、この時期に注目される理由となると恐らく自分の持っているミスティリングを見たオーク討伐隊のメンバーだろうと当たりを付ける。

 

 (オークの集落まで移動する間も安心は出来ないらしいな。だが、まあ……)

 

 口元に微かな笑みを浮かべる。

 

 (襲ってきたらそれ相応の対処をするまでだ)

 

 (ふふ、そうね。この視線の持ち主たちは襲った事を後悔するでしょうね)

 

 「リオさん?」

 

 カウンターの中でそんなリオの姿を見たレノラに声を掛けられ、笑みを消す。

 

 「あれ、リオ君。どうしたの? 何か忘れ物?」

 

 レノラの隣にいたケニーもまたそう尋ねてくる。

 昼近い時間帯ということもあり、暇なのだろう。実際軽く見回しても依頼書が貼られているボードの周辺に数人の姿があるだけでカウンター内部の職員たちも出払っているのか数が少ない。

 

 「いや、俺はボッブスから昼前に来る様に言われてたから。それよりも随分人数が少ないみたいだけど?」

 

 チラリ、とカウンター内部へと視線を向けてから尋ねる。

 

 「オーク討伐で使用する物資や馬車の用意とかの作業にかなりの人数を引っ張って行かれましたから」

 

 「それよりも、ボッブスさんに呼ばれるなんてどうしたの? もしかしてリオ君、オーク討伐に行くのを止める気になったとか?」

 

 「いや、物資の輸送の件でちょっと」

 

 「物資の輸送? 何でそれでリオ君が呼び出されるの?」

 

 その問いにリオが答えようとした、その時。

 

 「来たか」

 

 リオとの会話を楽しみたいケニーの声を遮ったのは低く、しかし存在感のある声だ。

 

 「あ、ボッブスさん」

 

 「お、お疲れ様です」

 

 レノラとケニーもすぐにその存在に気が付き、小さく頭を下げて大人しくなる。

 そんな2人に一瞬視線を向けたボッブスは、特に何も言わずにリオへと向かって口を開く。

 

 「こっちだ、付いて来い。物資の準備は出来ている」

 

 それだけ言ってカウンターから出てギルドの裏口へと向かう。

 

 「その、行ってらっしゃい」

 

 「気を付けて戻ってきてね」

 

 レノラとケニーからの見送りの言葉に小さく頷き、ボッブスの後を追う。

 因みに、レノラたちと会話している間もしつこく向けられていた酒場からの視線は、ボッブスが姿を現した途端にあっさりと離れていくのだった。

 

 

 「これが運んで貰いたい物資だ」

 

 ボッブスの言葉に、目の前にある物資の山へと視線を向けるリオ。

 そこにあったのはポーションや魔力回復ポーションといった物の他にも、毒消しや麻痺解除薬のようや薬品類、干し肉やドライフルーツ、乾パンといった保存食、テント等今回の討伐で必要になると思われる様々な物資の山だった。討伐対象のオークたちのいるのはギルムの街から1日程度の距離だが、行きに1日討伐してすぐに帰って来られる訳でもないので向こうで1日、帰りに1日と合計3日。そして、何か不測の事態が起きた時の予備等も考えるとその量は、小さな山と言ってもいい程に積み上がっている。

 

 「運べるか?」

 

 「任せてくれ」

 

 ボッブスの言葉に小さく頷き、物資の山へと触りながら次々とミスティリングの中へと収納していくリオ。

 ボッブスは感心したようにその様子を眺めている。

 そして10分も掛からずに全ての物資の収納を終え、確認の意味も込め、ボッブスの指示に従って数度物資の一部をミスティリングから出したり収納したりを繰り返す。

 

 「よし、物資はお前に全て預ける。それと、お前はソロだったな。今回の依頼では、少なくともオークの集落に辿り着くまでは『雷神の斧』と行動を共にしろ。オークの集落に向かう途中でお前が死んで物資が使えなくなったりしたら笑い話にもならないからな」

 

 「分かった」

 

 「では、そろそろ他のメンバーも正門に集まっている頃だろう。俺は用があるからお前は先に行ってろ」

 

 (いよいよオーク討伐か。さて、どんな魔石が手に入ることやら。他にも俺を狙ってる奴もいるようだし、退屈だけはしそうにないな)

 

 オーク討伐に必要な各種の物資をミスティリングへと収納したリオは、まだ用事があるというボッブスとその場で別れて裏口からギルドを出て、待っていたセトと共にギルムの正門へと向こうのだった。

 

 

 「おや、今日も依頼かい?」

 

 すでに慣れたかのようにセトの対応に出て来るランガ。一般の警備隊員ではセトに怯えるということもあり、隊長だというのに……否、隊長だからこそ、ランガが半ばリオとセトの担当のようになっていた。

 ダスカーからリオに注意しておくように言われているというのも、ランガがリオの担当になっている大きな理由なのだが。

 ミスティリングからギルドカードを取り出し、セトの従魔の首飾りと一緒に手渡しながら口を開く。

 

 「オークが集落を造ってるって話を聞いてないか?」

 

 その説明にピクリとするランガ。

 

 「もちろん聞いてるけど……君は強いとは言ってもまだランクGだろう? 依頼を受ける事が出来たのかい?」

 

 「今回は緊急依頼で、オークと戦える実力があればランクは関係ないらしいから」

 

 「……なるほど。まあ、ウォーターベアを倒せるんだから、実力という意味では問題無いか」

 

 「で、討伐隊は昼過ぎに正門前に集合となってるんだ。まだ時間的にちょっと早いけど」

 

 まだ? とばかりに頭を擦りつけてくるセトの頭を撫でながらギルドカードをランガから受け取る。

 

 「すまない、時間を取らせたね。君とセトならまず安心だろうけど、気を付けてね」

 

 ランガの言葉に礼を言い、セトと共に街の正門から少し離れた草むらへと移動する。

 草原で気持ち良さげに横になるセトと、それに寄り掛かるリオ。本来なら正門の横で他のメンバーを待っていればいいのだろうが、ギルムに来てからまだ数日。セトの存在を知らない者もまだそれなりにいるので、街に出入りする際の邪魔にならないようにというリオなりの配慮だったりする。

 そしてセトもまた、街の中にいるよりは草原で夏の日差しを浴びている方が嬉しいらしく、機嫌良さげに喉の奥でゴロゴロと猫の様に鳴いていた。

 

 「……リオ君か?」

 

 周囲の警戒をセトへと任せ、うつらうつらとした眠りを楽しんでいると唐突に自分の名前を呼ばれ、意識が急速に覚醒していく。

 目を開けたリオの前にいたのは少し前にギルドの会議室で知り合ったミンだった。その横には面白そうな顔をしたエルクと、何か信じられないような者を目にしたかのように固まっているロドスの姿もあった。

 

 「そろそろ時間か?」

 

 「いや、それもそうだが……その、一つ聞いていいかな?」

 

 何を聞かれるのかを大体予想しつつ、ミンの言葉に頷くリオ。

 

 「君が寄り掛かっているのはグリフォンで間違い無いと思うんだが。……何故?」

 

 『雷神の斧』のメンバーとは言っても、流石に同ランクのモンスターであるグリフォンには恐怖心を覚えるのだろう。恐る恐るといった様子で問い掛けるミンだったが、リオの返事は至極短かった。

 

 「テイムしたからだ」

 

 「ふざっ、ふざけるな! ランクGの冒険者如きがグリフォンを……っ!?」

 

 リオのあっさりとした言葉を聞き、反射的に怒鳴り返したロドスだったが、セトが喉の奥をグルグル鳴らしながらその視線を向けると言葉に詰まる。

 ランクAパーティに所属しているとは言っても、ロドス自身はあくまでもランクCの冒険者でしかないのだ。グリフォンを相手にすれば本能的に生物的な格の違いを思い知らされても不思議ではない。

 

 「ほら、セト落ち着け」

 

 そんなロドスの様子に苦笑を浮かべながらも、セトを宥めるリオ。

 どこか不満そうに黙り込んだセトの頭を落ち着かせるようにコリコリと掻きながら、ロドスに向かって声を掛ける。

 

 「一応言っておくが、セトは誰彼構わずに敵意は抱かない。ただし、俺や自身に危害を加える相手は別だけどな。それと、何か勘違いしているようだが、セトは俺が小さい頃から一緒に過ごして来て一緒にギルムに来たんだ。つまり、俺がギルムに来てからテイムした訳じゃないぞ」

 

 その言葉に、パクパクと口を開きつつも何かを言えばまたセトに唸られるのではないかと感じたロドスはそれ以上声が出せなかった。

 

 「がははははは。凄いな、坊主。モンスターをテイムしている奴はそれなりに見てきたが、グリフォンをテイムしてる奴なんて初めて見たぞ。なぁ、触っていいか?」

 

 「父さん!」

 

 この辺がランクAとCの違いなのだろう。あるいは、単純に年季の差か。

 

 「セト、どうする? エルクがお前に触ってみたいってさ」

 

 「グルゥ……」

 

 ロドスとエルク、ミンの3人を順番に見据えるセト。そのまま数秒が経過し、短く鳴いて尻尾を小さく振るのだった。

 

 「いいってさ」

 

 「そうか! 悪いな」

 

 ランクAという危険度が非常に高いモンスターへ触れるというのに、緊張した様子も見せずに笑みすら浮かべて手を伸ばすエルク。その手がリオが寄り掛かっているセトの背へと触れ……次の瞬間には驚愕の声を上げる。

 

 「おお! 何だ、この滑らかな手触りは。グリフォンは見るのも初めてだが、こんな滑らかな手触りの毛をしてるのか」

 

 セトの体毛を表現するのに一番適しているのは、シルクのような滑らかな手触りという表現だろう。

 その滑らかな体毛を撫でながら、満足気に頷くエルク。

 

 「なぁ、リオ。セトって言ったか? こいつの体毛で服を作ったりすれば、それこそ王族にでも献上出来るような品質の物が出来るんじゃないか?」

 

 セトの体毛で服を作る。想像もしていなかったことを言われ、目を見開いて驚くリオ。

 

 「……リオ君、私も撫でさせて貰っても構わないかな?」

 

 エルクは言葉に好奇心を抑えきれなくなったのだろう。ミンもまたそう尋ねてくる。

 その質問にリオがセトへと視線を向けると、エルクの時と同じように尻尾を小さく振る。

 

 「構わないってさ」

 

 「そうか、では早速。……エルク、ちょっとそこを退け。私にもその滑らかな手触りを感じさせろ」

 

 「母さんっ! グリフォンなんかに近付いたら危険だよ!」

 

 ロドスがそう止めるが、好奇心で瞳を輝かせたミンを止める事は当然出来なかった。

 

 「ほう、ほうほうほう……確かにこの手触りはいつまでも触っていたいと思わせる程に素晴らしいね」

 

 「だろう? いやぁ、グリフォンに襲われる心配も無く触れるなんて、今日はラッキーな日だな」

 

 「そうだな。ランクAモンスターのグリフォン、その身体に触れるなんて非常に貴重な体験だ」

 

 そんな風に自分の胴体を撫でている二人を見ながら、ジロッとばかりにロドスへと鋭い視線を向けた後は再び目を閉じるセト。

 

 「くっくっく。嫌われたもんだな、ロドス」

 

 その様子を見ていたエルクは、まだセトの胴体を撫でているミンをそのままに、ロドスへ笑みを浮かべて声を掛ける。

 

 「べ、別に俺はグリフォンに嫌われたって構わないさ」

 

 処置無し、とばかりに溜息を吐くエルク。そんなエルクへとリオが声を掛ける。

 

 「ボッブスに言われたんだけど、オークの集落に行くまで俺とお前たちは行動を共にするらしい。よろしく頼む」

 

 「はぁ!? 何でわざわざ新人の面倒を見なきゃいけないんだよ!?」

 

 リオの言葉に真っ先に反応したのは当然ロドスだったが、それに反論したのはリオではなくエルクだった。

 

 「そりゃ当然だろ。あぁ、もちろん俺は構わねぇぜ」

 

 「父さん!」

 

 言い募るロドスに対して、呆れたような溜息を吐きながらエルクは口を開く。

 

 「いいか? 午前中に行われた会議を思い出せ。リオは今回のオーク討伐に使う物資の輸送を任されたな?」

 

 「ああ。俺も聞いてたからそれは知ってるさ」

 

 「じゃあ、もしそのリオが他のモンスターなりに倒されたとしたらどうなると思う?」

 

 「それは……あ……」

 

 「ようやく気が付いたか。もしリオが殺されでもしたら、物資関係は全てパーになる。さて、ここで問題だ。俺たちは何だ?」

 

 「……ランクAパーティ、『雷神の斧』」

 

 「そうだな。さらに言えば、今回のオーク討伐に参加している中で唯一のランクAパーティだ」

 

 ランクA。ギルドのランク的にはSの一つ下という地位ではあるが、そのランクSが世界で3人しか存在していないのだから、そのすぐ下のランクAがどれ程のものかは冒険者なら皆が知っている。そしてランクSが3人という稀少さゆえに、一般の冒険者たちにしてみればランクAを持っている者が実質的に自分たちのトップであるという意識もある。

 そして『雷神の斧』はそんなランクA冒険者二人が所属しているパーティなのだ。ギルムでも実力、実績共にトップクラスのパーティとギルドから評価されているし、実際にそれは間違ってはいない。

 

 「この討伐隊の中でも最大戦力であると見なされている俺たちが、物資を運んでいるリオの護衛に付く。……何かおかしい所があるか?」

 

 「確かに物資の重要性は理解してるさ。けど、何も俺たちがこいつは護衛をしなくたっていいじゃないか。ランクBやCのパーティだっているんだから」

 

 半ば意地となってエルクに反論するロドス。

 

 (くそっ、父さんも母さんも何でこんな奴にそこまで気を遣わなきゃいけないんだよ。大体グリフォンとかアイテムボックスとか、全部こいつ自身の力じゃなくてモンスター頼り、マジックアイテム頼りの実力じゃないか。わざわざ俺たちが護衛してやる必要なんか……)

 

 内心でそう思いつつ、エルクに視線を向ける。

 リオに対する反感が、自分の母親であるミンがリオを認めているというところから来ているとは、本人だけが気が付いていなかった。

 当然父親であり、なおかつ『雷神の斧』のリーダーでもあるエルクもその事には気が付いている。

 

 「いいか。これは『雷神の斧』のリーダーとしての決定だ。反論も、護衛に手を抜くような真似も許さん」

 

 「……分かったよ」

 

 いつになく強硬に命令をしてくるエルクに、最後にはロドスも不承不承頷くしかなかった。

 

 (ったく、こいつを甘やかしすぎたか? 実力だけで言えばランクCでも上の方なんだが……何だってここまで母親にべったりの性格になったのやら。出来れば今回の依頼でリオの影響を良い方に受けてくれるといいんだがな)

 

 ミンと違い、魔力を感じ取る力というのはエルクには無い。それでもランクAの冒険者だけはあり、リオの実力や潜在能力は薄々察していた。話をしてその性格もエルクなりに大体掴めた。それはリオは莫大な力をその身に秘めてはいるが、決して悪人の類では無いということだ。……もっとも『鷹の爪』に対するやり口を聞いた時には苦笑を浮かべるしかなかったが。

 エルクにとって、新人に絡んで雑用係として使うという『鷹の爪』のようなやり方は好みではない。……新人の育成にある程度の効果はあると知りつつも、どうしても好きになれないのだ。だからこそ、オーク討伐の会議終了後にリオの情報を集めて『鷹の爪』とリオが揉めた経緯や結果を聞いても特に不快感を覚える事はなかった。寧ろ、良くやった!と喝采を送っていたほどだ。

 エルクが一人息子の現状に悩んでいるのを見ながら、リオはセトに寄り掛かって正門の方へと視線を向ける。……この時、リオの体内では、ティアは昼寝を満喫していたらしい。

 そこには午前中の会議で見たパーティの者たちが集まって来ており、その殆どが会話をしながらもリオたちを気にしてチラチラと視線を向けていた。その大半はエルクたち『雷神の斧』……ではなく、グリフォンであるセトへと向いている。ギルド内部でリオの情報を聞いていた者にしても、実際に本物のグリフォンを初めてその目で見たのだから無理は無いのだが。

 

 (けど……セトじゃなくて俺を観察してるような視線は相変わらずか)

 

 会議室でミスティリングを披露してから付きまとっている視線だ。

 その視線を送っている者にとっては、オークの討伐よりも自分の持っているミスティリングをどうにかして手に入れるのが優先されているんだろうと、いずれ必ず訪れるであろう戦いの予感に内心で笑みを浮かべるだけだった。

 

 「お、来たな」

 

 エルクの呟きに、再度正門の方へと視線を向けるリオ。

 そこでは8台の馬車が連なって街の中から出て来る所だった。そして先頭の馬車の御者台には御者の他にボッブスの姿がある。

 

 「オーク討伐依頼を受けた者は、集まってそれぞれのパーティ毎に馬車に乗れ! なお、リオと『雷神の斧』は俺と一緒に真ん中の馬車だ。理由は分かるな?」

 

 その場に集まっていた冒険者たちに声を掛け、エルクへと尋ねる。

 

 「物資を失う可能性を少なくするためだろ?」

 

 ボッブスの言葉に、エルクがそう返す。

 馬車の方へと近付いていくエルク。その後を追う様にミンとロドス。そしてリオとセトも馬車の下へと向かう。

 正門付近に集まっていた冒険者たちは、近付いて来たセトを見ると急いで自分たちが乗ると決めた馬車へと乗り込むが、エルクとボッブスはそれを全く気にせずに会話を続けていた。そして……

 

 「よし、出発するぞ! オークの討伐だ!」

 

 ボッブスの声が響き渡り、討伐隊が乗った馬車はオークの集落が造られている場所を目指して、出発するのだった。

 

 




 
 【セト】
 ・水球 Lv.1 ・ファイアブレス Lv.1 
 ・アジットブレス Lv.1

 【双龍銃剣】
 ・腐食 Lv.1
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