大丈夫だ、問題しかないから。-Blue trajectory- <1st Season>   作:白鷺 葵

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大丈夫だ、1stシーズンの中盤だから。
23.小康状態


 夕焼けの空が広がっている。地上がどんなに薄汚れた陰謀が渦巻いていようと、空はいつも美しく雄大だ。

 

 2機のカスタムフラッグと、それに随伴する2機のユニオンフラッグが空を舞う。探し物はたった1つ、隊長、もといグラハムの大好きなガンダムである。

 彼曰く、「大本命は白と青基調、好意に価するのがその他のガンダム」らしい。奴はガンダムであれば何でもいいのだろうか。そう思った途端、頭が痛くなった。

 ファースト、Z、∀、XX、自由、正義、運命、翼、死神、砂岩、剛腕、神龍、一角獣、神――ゴットフィンガー。最後に浮かんだのは、懐かしい響きだった。

 

 東方は赤く燃えている――そう言った青年と、その師の名前は何と言ったか。

 後でビリーに、ようやく思い出せた『グラハムフィンガー』の元ネタのことを伝えておかなくては。

 

 クーゴは端末を取り出して、虚憶(きょおく)を記録した。もちろん、その間の操縦モードは自動に切り替えている。

 

 虚憶(きょおく)をまとめるのに時間はかからなかった。

 端末をしまい、クーゴは再び操縦モードを手動に切り替えた。操縦桿を動かす。

 

 

「隊長。こんなことしても、敵さんは見つかりませんぜ」

 

 

 左後方を飛ぶハワードが、どこか困った様子でグラハムに声をかけた。彼の言葉はご尤もである。

 ソレスタルビーイングが活動してから早数か月。世界には、新たな争いの火種がばら撒かれていた。

 

 その名を『憎しみの対象』にするため、無差別テロ団体が行動および暗躍を始めたのだ。テロ団体の目的は、『ソレスタルビーイングの活動停止』である。奴らは既にAEU領のフランスやイタリア、ユニオン領のアメリカや日本、人革領のロシアや中国等でテロ活動を行っていた。ソレスタルビーイングが活動を停止しない限り、これからも非道な真似を繰り返すという。

 奴らは正義のためだと大義名分を振りかざすが、やっていることは無差別報復にすぎない。関係ない人々を巻き込んでおいて、その行為の責任をソレスタルビーイングにおっ被せている。虎の威を借りておいて、その威を地に落とすような真似をするとは。借りるだけの狐より悪質だ。

 

 

(……こういうのを、日本では『詰め腹を切らせる』って言うんだよな)

 

 

 クーゴは深々とため息をつく。テロ集団の行動は、卑怯かつ卑劣なやり方だ。クーゴ自身、ソレスタルビーイングを支持しているわけではない。しかし、テロリストを野放しにするつもりはなかった。

 おそらく、ソレスタルビーイングの面々も憤慨しているだろう。自分たちの名前を汚されたのだ。このまま黙っているとは思えない。テロリストたちが動けば、彼ら/彼女たちも武力介入を開始するに違いない。

 テロリストいるところに彼らあり。言葉にすると簡単だが、テロリストたちは世界全体を対象にしている。諜報部が調べているが、どこに現れるか予測することは不可能だ。砂漠の中から砂金を探すようなものだろう。非効率的だ。

 

 グラハムは、それをわかって行動している。

 わかっていて、でも、納得できないでいるのだ。

 

 

「私は我慢弱く、落ち着きのない男なのさ。しかも、姑息な真似をする輩が大の嫌いときている」

 

 

 苛立ちと怒りにも似た険しい表情。

 通信越しに見たグラハムの顔は、すぐに笑みを浮かべた。

 

 

「ナンセンスだが、動かずにはいられない」

 

 

 彼の瞳は、非道なテロリストへの怒り、愛する少女――刹那・F・セイエイへの想い、恋愛の対象(?)であるガンダムに会えるかもしれないという期待と闘志をごちゃまぜにしたような感情に満ちている。だというのに、狂気的なまでに澄んだ翠緑。口元には、不敵な笑みさえ浮かべていた。

 

 先日、クーゴは『エトワール』――イデア・クピディターズと、グラハムは刹那と、ある種の決着をつけてきた。後者の方はあまり語らないけれど、迷いを吹っ切ることができたらしい。以前の調子が戻ったように思う。いや、むしろ悪化したかもしれない。

 その元凶を担ったのはビリーであった。少女の名前を知って嬉しそうなグラハムや喜ぶ周囲の面々に対して、「古来の日本では、『相手に自分の名前を教え、相手が自分に名前を教える』ということが、夫婦の契りだった」なんて入れ知恵をしてしまったからさぁ大変。

 ダリルとハワードが諸手を挙げてクーゴとグラハムを祝福し、「それはいいことだ。ところで、結婚式はいつかね?」とエイフマンがすっとぼけ、それを聞いたグラハムが怒涛の勢いで刹那にメールを送っていた。その横顔が爛々と輝いていたことが忘れられない。

 

 イデア経由で「その文化は、現代日本においては適用されません」とフォローを入れたが、果たして。

 最も、刹那・F・セイエイという名前は偽名のため、名前云々が現代日本に残っていたとしてもセーフだと思われる。

 

 閑話休題。

 

 

「知ってるよ。お前がそう言う奴だってことは」

 

 

 クーゴは苦笑しながらため息をついた。昔から、グラハムには迷惑ばかりかけられてきたような気がする。

 それでも彼と共にいたのは、彼の人柄に惹かれたからだ。どこまでもまっすぐに空を見つめる横顔に、懐かしさと親しみを感じたからだ。

 一番の理由は、「空で待つ」と笑いクーゴを「友」と呼んだ男性が『彼』であると、本能的に察していたためである。本人には伝えていないが。

 

 グラハムのあり方は、多くの人を惹きつける。

 同調する者、反感を抱く者、一目置く者。方向性は本当に様々だ。

 

 

「本当に、しょうがない。しょうがないから、同行するんだよ。俺は」

 

 

 クーゴは肩をすくめた。自分は相当、グラハムに毒されてしまったらしい。

 

 その言葉に何を思ったのか、グラハムは眩い笑みを浮かべた。

 合点がいったとでも言いたそうな表情である。

 

 

「成程。日本で言う『ツンデレ』だな、クーゴは」

 

「ちげーよ。お前が変な方向に暴走しないよう、フォローしてやるってことだ」

 

「それは心強いな!」

 

「当たり前だろ」

 

 

 変な方向にこじれかけた会話を終わらせる。グラハムの嬉しそうな笑みを見ると、どうでもよくなってしまうから不思議だ。

 クーゴはふっと笑みを浮かべた。仲間とやり取りをしている時間が、一番楽しくて充実している。幼い頃は、想像すらできなかった光景だった。

 そのとき、微笑ましそうに自分たちを見ていたハワードとダリルの顔が『視えた』気がした。そのコンマ数秒後、彼らは頼りがいのある微笑を浮かべる。

 

 

「お供しますよ、隊長!」

「サポートは任せてください、副隊長!」

 

 

 ハワードとダリルが返事をした。

 

 本当に、彼らは頼れる部下たちだ。グラハムの人事は間違っていなかったと言えよう。

 ふと一瞬、沖縄に駐屯しているアキラが「俺、のけ者にされた気がする」と呟きながら泡盛を飲んだくれている姿が『視えた』気がした。

 

 

「その忠義に感謝する!」

 

 

 グラハムは笑みを浮かべ、フラッグを加速させる。クーゴもそれに続くため、操縦桿を動かした。ハワードとダリルのフラッグも随伴する。

 ユニオンの『空の護り手』たちは加速し、夕焼けの空を切り裂くように飛んでいく。高く、高く、高く――どこまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テロリストが所有していると思しき車両や船が、日本およびその近郊で、原因不明の事故を起こしてる?」

 

「どういうことなのでしょう、お嬢様」

 

「わかるはずないじゃない。……あ、まただわ。今度は、タンカーが突然垂直に傾いた後、数十メートル程浮かんで、海面に叩き付けられたそうよ」

 

「こちらでも、テロリストが所有すると思しき車が突如潰れたそうです。別の場所では、突然車が発進し、きりもみ回転しながら湖に転落していったとの情報が入りました。エージェントが捕まえたテロリストたちは、総じて『化け物だ』、『青い光を見た』と口走っていたそうです」

 

「一体何が起こっているというのかしら……。あ、また? もう、本当にどうなってるの……!?」

 

 

 

*

 

 

 テロリストたちが悲鳴を上げながら後ずさる。イデアはそれを見下ろしながら、奴らの元へと歩み寄った。目撃者はテロリストのみ。留美(リューミン)が放ったエージェントたちは、まだここを嗅ぎ付けてはいない。

 彼らがここに来る頃には、すべて終わっているだろう。力を具現させながら、イデアは屹然とした眼差しでテロリストたちを睨みつける。少し前まで戦う気満々だったのが嘘みたいだ。今では皆、怯えの感情に満ちている。

 奴らが放った銃弾は、すべてイデアの目前で止まっている。傍から見れば、壁にめり込んでいると言われそうな状態だろう。それこそ、イデアが一番得意とする能力の発現方法だった。ロケット弾を撃ち込まれようと、ミサイルをぶち込まれようと、耐え抜ける強度と自信はある。

 

 但し、それはあくまでも「普通の実弾およびビーム・レーザー兵器」であればの話だが。

 ここでは見かけないが、『同胞』を殺すことに特化した兵器に対しては、防御力は劣ってしまう。

 

 

(それに関する対策も練ってはいるけど、後手に回りがちなんだよなぁ。MDの件も考えると、流出および開発されてそうで怖い……)

 

 

 そんなことを考えつつも、イデアは表情を崩さない。

 

 青い光が揺らめく度に、テロリストたちは情けない声を上げる。

 声明文でソレスタルビーイングに噛みついていたのが嘘みたいだ。

 

 荒ぶる青(タイプ・ブルー)。『同胞』の持つ能力の中で、最強と謳われる能力。その発現者はあまり多くないものの、(古の『同胞』の場合は)たった1人で艦隊を殲滅する力を有すると言われている。イデアもまた、荒ぶる青(タイプ・ブルー)と呼ばれる能力者の1人であった。

 『同胞』の能力は4つある。1つがイデアの属する荒ぶる青(タイプ・ブルー)であり、万能型の能力だ。他には防御系に優れる完全なる防壁(タイプ・グリーン)、攻撃系に優れる過激なる爆撃手(タイプ・イエロー)、テレパスや感応および読心術に優れる思念増幅師(タイプ・レッド)の3つがある。

 

 

「死ね、化け物め!」

 

 

 声がした方向を向く。男がナイフを振りかざし、飛びかかってきた。イデアが手をかざして下ろせば、男は地面に叩き付けられ呻き声をあげる。

 これくらいなら、『同胞』であるなら、訓練すれば誰でも使えた。基礎中の基礎である。むしろ、この場で発現させた力は『基礎中の基礎』だけだ。

 

 

「化け物、ねぇ」

 

 

 イデアは自嘲する。古の『同胞』たちは、そうやって処分(ころ)されてきた。人間とは大きな違いがある方と言う理由で、命を、仲間を、家族を、安住の地を奪われてきたのだ。同じヒトから枝分かれしたというのに。

 

 

「私にだって感情があるわ。私にだって、心があるわ。私にだって、意志があるわ」

 

 

 倒れ伏した男の方へ足を進めた。身動きの取れない男は、かすれた声を上げてこちらを見上げている。奴の目が血走っていた。

 崇高な意志というお題目で、彼らは沢山の人に危害を加えた。力ある者に刃を向けられないと知っているから、無力な人間を狙った。

 おまけに、自分がやったことをソレスタルビーイングに押し付けて逃げようとしている。卑怯な上に無責任ときた。

 

 わかりたくもないことだが、機械が最後に“あんな”決断をした理由がわかったような気がする。ヒトがヒトである限り、逃れることのできない業。それがたくさんの悲劇を生み出し、命を刈り取っていく。学習しても尚、同じことを繰り返す。だから機械は、そんなヒトを「非効率」だと判断したのだろう。

 機械を開発した人間からしてみれば、創造主に牙を剥くだなんて想像できるはずがなかった。その証拠に、機械には「どちらかが優劣か」を判断する権限しか与えていなかった。しかし、時が経つにつれ、機械は人を管理するようになった。支配するようになった。次第に機械は拡張を続けていく。

 

 その果てに起きた悲劇と犠牲を、知っている。

 

 だけど。だからこそ。

 あんな方法は、認められなかった。

 

 ヒトの尊厳を踏みにじり、ヒトという存在そのものを否定した、欠陥だらけの箱庭を。

 

 

「貴方たちがすることは、箱庭を作り出すのを助長しているだけよ。あるいは、箱庭の管理者がすることそのものだわ」

 

 

 ソレスタルビーイングもまた、箱庭を作り出すための舞台装置でしかないのだろう。存在意義という名の定めに抗うと決断を下したのも、彼らを守ると決めたのも、他ならぬイデアだ。その始まりが『託された』ものだったとしても、選んだのは自分自身。

 銀色の髪に、緑の瞳を持つ女性の姿が浮かんで消える。彼女の最期の言葉が耳をかすめた。『来るべき日のために、遺志を継ぐ者たちを守り抜いて』、『望まれた子どもたちを、お願い』――託されたものの重さを噛みしめて、イデアはソレスタルビーイングにいる。

 

 

「自分の行いに関して、反省も後悔もしない。……そんな貴方たちの方こそ、化け物よ」

 

 

 イデアの手に青い光が収束する。そして、荒ぶる青(タイプ・ブルー)としての力は、躊躇いなく振るわれた。

 群青(あお)が爆ぜる。吹き荒れた風が晴れたとき、そこには気絶したテロリストたちが山を築くようにして倒れていた。

 誰も彼もが泡を吹いていた。『化け物だ』だの、『青い光が』だのと、うわ言のように繰り返している。

 

 遠くから響いてきた足音を察知し、イデアは即座に力を使った。薄暗い部屋の一室は、あっという間に岩山へと変わる。そこは、AEU領のスコットランド。刹那のエクシアとイデアのスターゲイザーが隠されている待機場所だ。

 今頃、留美のエージェントたちがテロリストのグループを発見していることだろう。パイロットスーツに着替えなくてはと思ったときだった。スメラギから、ミッション開始の通信が入った。同時に、エクシアのステルスモードが解除される。タクシーバイクに乗った刹那の姿が見えた。

 

 中東出身だと一目見てわかる、簡素な民族衣装。しかし、刹那は男物を好んで着る節があった。動きやすいからというのが理由だろう。イデアの護衛任務およびグラハムと会うとき以外は、いつもその格好で過ごしていた。

 

 彼女はタクシーバイクを乗り捨てて、そのままガンダムに搭乗した。イデアもパイロットスーツに着替えることなく、スターゲイザーに乗り込む。

 自分たちに割り振られたのはタンカーの襲撃だ。了承の返事をして、空へと飛び立つ。本日の天気は晴天、いい任務日和だ。

 

 

(……あ)

 

 

 不意に、『視えた』。

 

 白い砂浜、青い海。水着姿のスメラギが日光浴に勤しみ、クリスティナとフェルトがシュノーケリングを楽しんでいる。麦わら帽子に半袖半ズボンのイアンは、海に来た人というより農家のおじさんに見えなくもない。

 アレルヤが困った顔をした理由がわかる気がする。ティエリアがぶちぶち文句を言っていた理由もわかった気がする。自分たちが頑張っている間に、面々だけバカンスに興じているのだ。ちょっと待てと言いたくなるのは当然だろう。

 ロックオンがテロリストの憎悪以外に抱え込んでいた感情は知っていた。フェルトの水着姿に何やら思うところがあったらしい。そして、そんなことを考える余裕があった自分に驚愕していた様子だった。その調子で、幸福に関する執着を持ってくれたらいいのに。

 

 

(任務が終わった後のことでも考えよう。今日話す内容とか、オフ会の日程とか、任務終了後はバカンスに加わることとか、水着のこととか)

 

 

 イデアにだって楽しい時間がほしいと願う心はある。スメラギやクリスティナたちがキャッキャウフフしているように、クーゴともそういう時間がほしい。

 自分たちは刹那と違って『そういう』関係ではないけれど、でも、好きな相手と距離を縮めたいと思うことは間違いじゃないはずだ。色々弁えれば、多分。

 

 到達ポイントにたどり着く。イデアは盛大に脱線させていた思考回路を元に戻し、刹那と共に介入行動を行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミス・□□□ス。

 クーゴたちが所属する部隊で行われた、美女コンテストである。

 

 石□からバカンスへ行こうと誘われたときから、なんとなく嫌な予感がしていた。『悪の組織』の連中が嬉々と同行してきたのを見たときから、愉快犯的な作為を感じていた。□神が理由を説明するときに悪人面なんかするものだから、黒い笑みを浮かべて「真の目的とはミスコンである」と宣言されたとき、反射的に飛び蹴りしたクーゴは悪くないはずである。

 渾身の蹴りは石□に避けられ、懐刀のあまりにもあんまりなコメントにずっこけてしまった加□にクリーンヒットしてしまった。そのとき巻き上げた砂の余波を喰らったのは、近くにいて話し合っていた□二とゼロであった。汗まみれの彼らには酷なことをしてしまった。もちろん、全方位に対して土下座ものである。お詫びにスポーツドリンクを差し入れしたが、帳消しになるとは思えない。

 クーゴがぐだぐだ考えているうちに、ミスコンはどんどん進んでいく。教師コスプレが速着替えで水着に変化したり、無人機が襲撃してきたので撃退したり、アイドルが水着で出てきて三角関係大炎上したり、無人機が襲撃してきたので撃退したり、アイドルファンが露骨な贔屓に走ったり、無人機が襲撃してきたので撃退したり。途中で挟まる出来事――無人機の襲撃が、普段の日常と大差ないように思うのは何故だろうか。

 

 ミスコン進行と無人機撃退を繰り返し、やって来た乱入者(くろまく)も追い払い、休暇なのに休暇じゃないバカンスは過ぎていく。

 

 夏の日差しが眩しい。いや、原因はおそらく、ミスコンで盛り上がる熱気とか、ミスコンで披露されるアレなアレとかだろう。

 それに見惚れてパートナーからぶん殴られる男性陣とか、落ち込んで裏方でぐちぐちやってる女性陣とか、悲喜こもごもだ。

 

 

「ロ□クオン、最ッ低……!!」

「待ってくれ□ェルト! これは誤解だァァァァァァァ!」

 

「□イルが、ラ□ルが浮気したァァァァァァァァァァ!」

「待ってくれ□ニュー! これは誤解だァァァァァァァ! お前の家族にも説明させてくれェェェェェェ! 俺死ぬ、確実に殺されるゥゥゥゥゥ!」

「待てコラ、ライ□・ディランディィィィィィィ!」

「可愛い妹分を泣かせやがってぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「貴様の罪を数えろォォォォ!」

「天誅だ!」

「粛清する!」

「DNAを残さないレベルで頑張ってみようか。これは、リ■ンーズキャノンを使わざるを得ない案件だな」

 

「眩しいわね、ア□ルヤ」

「そうだね。でも、僕にとって一番眩しいのは□リーだよ」

「アレ□ヤ……」

「マ□ー……」

 

「アー□さんの馬鹿ー! 女装で可愛いなんて悔しいですぅー!」

「ちょっと待ってくれ! □下は!? 彼はいいのか!?」

「私よりも可愛い□ーデさんなんて、ア□デさんなんて……っ! 大好きですぅぅぅぅうわぁぁぁぁぁん!」

「待ってくれミ□イナ、僕もキミが大好きだァァァァァァァァァ!!」

 

 

 喧騒が聞こえる。

 

 審査員に抜擢されて壇上に上がり、美女を見てデレデレしていたストラト□兄弟は、お互いの恋人から顰蹙を買ったらしい。特に弟は悲惨で、彼の背後には妹分を想う家族が獲物を構えて迫っていた。スイカ、スイカ割り用のバット、氷で作られたジョッキ、サメの形をした浮き輪、釣竿、ロケット花火等、凶器は様々である。

 端の方では、「ミスコンなんてどうでもいい。キミさえいてくれるなら。むしろキミこそがミス・カ□□□だ」を地でいく恋人たちがいた。見るからに、幸せそうで何よりである。クーゴも彼らのように自分の世界へ入り浸れればよかったのだが、性格上、うまく逃げることができないでいた。本当にしょうがない。

 後ろでは、山□の巻き添え+αを喰らって女装したティエ□アを見たミレイ□が、大泣きしながら走り去っていったところだった。彼女の悲しみもわかる。だって、件の恋人はそこらへんの女性よりも女性らしいのだから。そんな□ィエリアも、ミ□イナの後を全力で追いかけていった。

 

 ミスコン進行と無人機襲撃を繰り返し、休暇なのに休暇じゃないバカンスは過ぎていく。

 C.Cによって半ば強引に引きずり出されたバニーガールが悲鳴を上げて逃げ去っていった後のことだった。

 

 

「何やら、向うが騒がしいな」

 

 

 悲鳴が聞こえる。引きずり出されたバニーガールと同じ色の悲鳴だ。

 

 

「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 羞恥心によって憤死してしまいそうな、女性の声。何事かと壇上を見た。

 

 

「また飛び入り参戦らしいな」

 

「いや、無理矢理引きずり出されたの間違いだろ」

 

 

 隣にいたグラハムは能天気に言った。クーゴは思わずツッコミを入れる。誰がどう聞いても、飛び入り参戦しようとした風には聞こえない。

 真夏の太陽が目に刺さる。次の瞬間、かき氷片手に観戦していたグラハムが目を剥いた。クーゴも息をのんで、その光景を凝視する。

 

 白。

 

 太陽の光なんか気にならないほど鮮烈な、白だった。

 

 水着である。まごうことなき水着である。胸元が強調され、きわどいレベルでざっくりと切込みが入った水着である。フリルもふんだんに使われていた。

 一言で表すとするなら、花嫁という単語が相応しい。頭につけられたヘアバンドの飾りが、花嫁に被せるようなヴェールのようにも見える。

 隣にいたグラハムがかき氷を落とした。砂浜にブルーハワイの青が派手に飛び散る。しかし、奴はもう、かき氷なんて気にしていなかった。

 

 視線はただ、まっすぐに。

 純白の水着を身に纏う、刹那・F・セイエイに向けられている。

 

 彼女を引きずり出したイデアは、真夏の太陽よろしくな笑みを浮かべていた。

 空と海の境目を思わせるような、青いグラデーションのビキニ。

 目が焼けただれそうなくらいの眩しさを感じる。クーゴは思わず目を逸らす。

 

 その先に、グラハムの横顔があった。

 

 

「――天使だ。天使が降臨した」

 

 

 グラハムの声は、至極真面目な響きを宿していた。言っていることは(経験則上)アレだが。

 

 ギャラリーが大盛り上がりする中で、グラハムは迷うことなく壇上へと向かった。顔を真っ赤にしてぷるぷる震える刹那だが、グラハムが近づいてきたことに気づいて顔を上げる。

 至極真面目な顔が、今にも泣き出してしまいそうな顔と向き合う。ギャラリーがどよめいたその瞬間、奴は姫に求婚する貴族よろしく刹那の手を取り跪く。どこまでも澄み渡った翠緑の瞳が、赤銅色の瞳を射抜いた。

 

 

「刹那」

 

「な、なんだ?」

 

「結婚しよう。今すぐ、ここで」

 

 

 絶対零度。熱気に燃えていたギャラリーが、ほんの一瞬だけれど、確かに、文字通り『凍り付いた』。

 

 

 

*

 

 

 

「ご家族の皆さん、刹那を私にくださぁぁぁぁぁぁぁいッ!」

「誰がやるかコンチクショウ! お父さんは赦しませんよォォォォ!」

「兄さんが! 兄さんが壊れたー!」

「いくらなんでも酷すぎる……!」

「ここから先は死守する! テコでも動かん!」

「ス□ラギさん、指示を!」

「ええ。各自に通達! 手段は問わないから、グラハム・エーカーを全力で迎撃して!」

「よっしゃああ! □アン、アレ持ってこい!」

「任せろラッ□! こんなこともあろうかとォォォォ!」

 

 

 空を彩る花火なんてなんのその。波打ち際で、ぎゃあぎゃあ叫び声が聞こえる。

 さっきまでいいムードだったのに、完全に台無しであった。

 

 

「□ッセさんとイ□ンさんが構えてるやつ、バズーカじゃないですか?」

 

「そうだな」

 

「どこから持ってきたんだろう、アレ……」

 

「わからん」

 

 

 銀□の問いかけに、クーゴは曖昧な笑みを浮かべて見せた。

 

 

「あの人たち、生身の人間に対してバズーカ向けてますケド大丈夫なんですか?」

 

「多分」

 

「多分、って……」

 

 

 浩一の問いかけに、クーゴは曖昧な笑みを浮かべて見せた。

 

 

「……止めないのですか?」

 

「止められると思うか?」

 

「劣等種にしては、賢明な判断ですね」

 

 

 連邦初の革新者が、言葉とは裏腹に、労わるような眼差しを向けてきた。

 クーゴは曖昧な笑みを浮かべて見せる。ぶっきらぼうに肩を叩かれた。

 

 

「結局、最後までしまりませんでしたね」

 

「そうだな」

 

 

 取っ組み合うグラハムとソレスタルビーイングクルーたちを眺めながら、イデアがのほほんと微笑んだ。

 クーゴは大きく息を吐く。打ち上げ花火はもうすぐ終わりそうだというのに、彼らの戦いはまだ終わりそうもない。

 寄せては返す波の音に紛れて、水しぶきが跳ねる音がひっきりなしに響く。誰かが転んだのか、派手に水が爆ぜた。

 

 でも、とイデアは言葉を続ける。

 

 

「私たちらしくて、いいですよね」

 

「……そうだな」

 

 

 クーゴはイデアの言葉に同意し、喧騒へと視線を向ける。

 平和な日常が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

 

 虚憶(きょおく)を記憶し終えてソファに座っていたクーゴは、ぽつりと呟いた。

 

 虚憶(きょおく)を見て真っ先に思ったことである。もちろんまとめは終わっていたが、色々とツッコミどころがありすぎて捌ききれなかった。シチュエーションで分類するなら、堂々の迷場面だ。

 ミスコンの真っ最中に、(敵の策略と言えど)無人機来襲しすぎである。そもそもミスコン開始から内容そのものに、多くの問題が多発している。女装男子まで参戦可能って、どの方向に行くつもりなのか。

 強制的に壇上へ上げられた人々も可哀想だ。特に『刹那』は公開処刑ものである。いくらなんでもフリーダムすぎやしないか、『グラハム』。終いには『刹那』の家族たちと戦闘を始めてしまった。

 

 本人たちにしてみれば、仁義なき戦いである。

 第三者にしてみれば、ただのはた迷惑である。

 

 

「でも、今の虚憶(きょおく)は初めて見るやつだよね」

 

 

 ビリーの言葉に、ハワードとダリルが頷いた。

 

 

「UXにもバカンスする虚憶(きょおく)がありましたけど、今回の奴は違いますね」

 

「カイルス、でしたっけ? 今まで聞いたことのない部隊名です」

 

「ってことは、新しい分類を作らなきゃな。えーと……」

 

 

 クーゴは考え込む。カイルスとは、ローマ神話で、天空を守護する神の名前だ。スペルは『Caelus』、頭文字はCである。

 

 分類名は部隊の頭文字が基本なのだが、OEの場合は部隊名よりも、『オペレーション・エクステンド』という単語が先に出てきたのである。

 スペルは『Operation Extend』。その頭文字を取ってOEだ。今回は『Caelus』なので、頭文字はCということになる。しかし、今回は何故だか腑に落ちなかった。

 Cだけでは足りない。Cが2つ必要だ。ただ漠然と、強い意志に引っ張られる。そうでなくてはならないという義務感に突き動かされるような形で、クーゴは口を開いた。

 

 

「CCだ。CCじゃないといけない」

 

「それはまた、どうしてだい?」

 

 

 ビリーの的確なツッコミに、クーゴは言葉を詰まらせる。

 何かいいアイディアはないものか。しばし考え込む。

 

 

「……『カイルスの歴史(Chronicle of Caelus)』だから?」

 

「なら、それにしようか」

 

 

 文字通りのこじつけだった。しかし、周囲の面々にはそれで充分だったらしい。満場一致で、後ろにつくアルファベットはCCに決定した。

 その調子で長々と話し合い続け、『カイルスの青い夏/CC』というタイトルが決まった直後のことだった。

 端末が派手に鳴り響く。面々は即座に情報を確認する。どうやら自分たちは、ソレスタルビーイングとニアミスしてしまったようだった。

 

 ソレスタルビーイングによってテロリストの根城が襲撃されたそうだ。彼らの武力介入について、三大国家はそれを黙認および幇助している。

 

 原則的に、国がテロリスト討伐のために他国領へ押し入ることは不可能である。そのため、三大国家は、どこの国に属さない彼らにテロリストを片付けてもらおうとしたのだ。

 各国のデータバンクから情報が流され、それがテロリストの潜伏場所確定に繋がったという。今回はWin-Winの関係が成立したからこそできた連携であった。互いが互いを利用した形である。

 

 

「政治家とは得てしてそういうものか」

 

人災をまき散らかした奴(“あん畜生”)と比較すること自体ナンセンスだが、敢えて言わせてもらう。こっちの方が数倍かわいい」

 

 

 グラハムは険しい顔をした。クーゴも深々と息を吐く。

 

 世界の悪意は深く、人の業もまた然り。憎しみの象徴としての道を進まされていたソレスタルビーイングは、ようやく違う形で、日の目を見ることができるようになった――ということだろうか。

 そのとき、グラハムの端末が鳴り響いた。端末を開いた彼の表情が、ぱあっと明るく輝く。どうやら、メッセージを送ってきた相手は刹那らしい。小さくガッツポーズを取るあたり、また何か進展があったのだろうか?

 グラハムの喜び具合に何かを察したビリーたちも、まるで自分のことのように表情を明るくした。何事かと端末を覗き込み、何やら盛り上がり始めている。クーゴの耳がおかしくなければ、『水着』という単語が聞こえた気がした。

 

 水着。つい先程見た『カイルスの青い夏/CC』でも、彼女と同じ名前の女性が水着で引きずり出されていた。

 花嫁衣装を思わせるような純白の水着を身に纏っていた『刹那』。それを見て、本能に駆られて行動した『グラハム』。

 

 何故だろう。嫌な予感しかしない。

 

 

「まるで花嫁衣裳ですよね、この水着!」

 

 

 ハワードの言葉で、その予感はさらに色濃くなってきた。クーゴが恐る恐るグラハムの端末を覗き込もうとしたときを見計らったかのように、今度はクーゴの端末が鳴り響く。

 メッセージの送り主はイデア。『バカンス』というタイトルで送られてきたのは、眩い水着姿の女子2人だった。写っていたのは、他の誰でもない、イデアと刹那である。

 刹那が花嫁衣装にも似た純白の水着を着ていて、イデアは空と海の境目を思わせるような青いグラデーションの水着を着ている。直視したら目が焼けてしまいそうだ。

 

 いや、もう遅い。脳みその奥が焼けたような痛みを覚えて、クーゴは慌てて視線を逸らす。

 先程見た虚憶(きょおく)と、よく似たデザインの水着だ。刹那の水着が露出控えめになっている以外は。

 

 恐る恐る画像へ視線を戻す。ついでに煩悩も駆逐した。手が勝手に動いて画像を保存してしまったが、仕方ないことだと言い聞かせる。

 

 水着をなるべく意識しないよう心がけながら、クーゴはイデアと刹那が並んで写る写真を見つめた。刹那は顔を真っ赤にし、居心地悪そうにしている。対してイデアは楽しそうだ。バカンスに全力投球しているのがよくわかる。

 何度見直しても、2人がソレスタルビーイングに属する人間とは思えない。どこにでもいる、仲の良い友人同士だ。姉妹のようにも見える。どこにでもある平和な光景に、クーゴの口元は知らず知らずのうちに緩んでいた。

 

 

(『人の業そのものに戦いを挑み、それらすべてを背負わされる運命にある存在』、か)

 

 

 ソレスタルビーイングに属するイデアや刹那たちの行く末を考えると、今回の件も手放しで喜べない。

 

 たとえ、いつか自分たちが空/宇宙《そら》で相対峙し、戦う運命にあるということを知っていたとしても。

 『人の心の光』を宿す、気高き天上人たちに安らぎが訪れるようにと、クーゴは祈らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は続く。




【参考および参照】
『スーパーロボット大戦Wiki』より、『カイルス』
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