六連星(むつらほし)   作:西風 そら

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薄暮の唄・Ⅴ

  

 

 

 ユゥジーンが風露の谷に引き返した時には、関に多数のカンテラが灯っていた。

 馬を降下させると、複数の者が手招きしたので、そのまま小屋の前に降りた。

 

「リリは? 一緒じゃないんですか?」

 一人の女性が走り寄って、青い顔で詰め寄った。

 

「リリのお母さんですか?」

「ええ、ええ!」

「リリからの伝言を持って来ました」

「ああ……」

 女性はよろめいて膝を付いた。

 

 山菜採りから戻った子供が、変な渦巻きがリリと男のヒトを呑み込んだのを見たと、リリの靴を持ち帰って泣いて騒いだのだ。

 母親はパニックになり、若者達が捜索に行こうと話し合っていた所だった。

 

「それで、リリは、リリはどこに?」

「用事が出来て、ちょっと帰りが遅くなると」

「あの子は、蒼の里ですか? どうして、私は何も聞いていません」

 興奮する母親を、周囲の者がなだめた。

 

 ユゥジーンは山であった事を大まかに話した。

 自身も分からない事だらけなので、本当に大まかだ。

 

「俺、取り急ぎリリの無事を告げる為に、ここへ来ただけです。詳しい事は全然聞かせて貰えなくて」

 ここまで話してユゥジーンは、大長様は、俺が嘘を吐かなくてもいいように教えなかったのかも、と思った。

 

 母親は少し落ち着いた様子で、番人が持って来た椅子に腰掛けた。

 

「リリの伝言を教えてくれた方は、ナーガ長の叔父君です。信頼出来る方だと思います」

 

 周囲に居た若者達にも、安堵の空気が広がった。

「なあ、蒼の妖精さん、その空飛ぶ馬でフウリを自宅まで送ってやってくれないか? よせって言うのに、ツタを滑ってここまで来てしまったんだ」

 

「はい、勿論引き受けます」

 ユゥジーンは女性を助けて、馬に横掛けさせた。

 

「ねぇ」

 大人達に混じっていた数人の子供が、ユゥジーンの袖を引っ張る。

「リリ、大丈夫なの?」

「心配してくれるんだ?」

「だ、だって、あんな奴でも溺れそうになるのを見たら、心配になるよ」

 

「リリな、大きくなったら居なくなるかもしれないけど、今は一緒に暮らしてるじゃん。帰って来たら仲良くしてやってよ」

「うん……でもあいつ、ヒトの一番大事な物を欲しがったり、嘘ついたりすんだ」

「リリが欲しいのは物じゃないんだよ、多分」

「へ?」

「ああ、無理に物をあげたりしなくていいからさ。ダメな事はダメって教えてやるだけでもいい。頼むな」

「しようがないな、分かった」

 

 見上げる子供を後にして、ユゥジーンは女性を乗せて、指定された塔へ飛んだ。

 確かに、風露の花の精かと見紛う美しい女性だが、今は、不安な母親以外の何者でもない。

 特殊だと思っていた風露のヒト達も、子供がいなくなったら心配する気持ちとか、心配している母親を見て心を痛める気持ちは、一緒なんだ。

 

「あの、リリと、何を好きとか、そんな話をしたりしますか?」

「えっ? いえ、そうね、あの子、甘い物とチーズは好きだけれど」

「そんな話を沢山してあげて下さい」

 

 

 

 

 ユゥジーンが蒼の里へ戻った時は、もう日を跨いでいた。

 里は寝静まって、馬繋ぎ場に小さなカンテラが灯るだけだ。

 

 馬装を解いて馬を休め、坂を登ると、執務室から明かりが洩れていた。

 

「おかえり」

 

 カンテラのオレンジに照らされて、ナーガ長が一人で待っていた。

 何だかいつもと違った雰囲気だ。

 

「リリが心配を掛けたね。大長殿から鷹が来て、大体の事は把握している。伝言を引き受けてくれてありがとう」

 

 穏やかな口調ながら、声が明らかに沈んで言葉が重い。

 まだ生まれて二年の我が子を役割に組み込まねばならない事に、相当苦悩したのだろう。目の下に隈を作って酷く疲れて見える。

 

「あの、ナーガ様、俺、分からない事だらけなんですが。聞いても教えてくれないんですよね」

 

「いや、教えるよ」

 

「教えてくれるんですかっ!?」

 ユゥジーンは口をパクンと開けた。

 

「ああ、だけれど先に二つ言って置く。一つは、答えられない事もあるという事。あと一つは……」

 ナーガは大椅子の奥に深く収まって指を組んだ。

 

「知ってしまうと後戻り出来ない。君も秘密を背負う。時には嘘を吐かなければならない。ホルズには、『大長の生存』と、『渦巻きは恐ろしい物だ』という事しか伝えていない。彼がメンバーに対して隠し事を持ってしまうと、執務室が回せなくなる。僕とノスリ殿でそう判断した」

 

 ホルズさんは確かにそうだろう。

 あのヒトが朗らかに笑っていない執務室なんて、執務室じゃない。

 

「俺はいいんですか? そういえば頭数に入っているとか大長様が言っていましたけれど。自分で言うのも何ですが、俺、術力が低いから破邪の術とか使えませんよ」

 

「だから、剣に術を受け取る練習をしているだろう」

「!!」

 何か最近、剣技の指導が厳しくなったと思ったら、それか!

 

「少なくとも、術を使えるからどうかとかは、君が今ここにいる基準じゃない。それだけは確かだ。勿論、今、拒否して踵を返す事も出来る。それでもいいんだ。僕達は明日から、何事もなかったように君に接する」

 

 ・・・・・・・・・

 ズルいな、このヒト。本当に本当にホンットに、ズルいなっっ!!

 

 

 

 

 

            ~薄暮の唄・了~

 

 

 

 

 

 

 

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