六連星(むつらほし)   作:西風 そら

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風出流山・Ⅳ

 

 

 

「じゃあ、ユゥジーンが言っていた『シンリィと一緒にいる仲間』って君なんだ」

「そそ、今はハグレちゃってるけど。あたしリリ、宜しくね」

 

 ヤンとフウヤは、もう一人の仲間が予想外に小さな女の子だった事にビックリした。

 もっとも今目の前で、その子の度胸と実力を見せつけられたのだから、何も言えない。

 

 名乗り合って、共に廊下を進み始めた三人だが、リリはフウヤの方をチラチラと見ては、フゥンという顔をしている。

 フウヤはフウヤで、彼女の紫の前髪が気になるようで、やはり横目でガン見している。木の枝の杖を付きながら(女の子の前で背負われるはヤダと駄々をこねたのでヤンが作ってやった)横に寄っては、「ね、リリは何処の部族?」などと聞き続けている。

 

「あたし? あたしはしんりぃと一緒、あっちの空間の住人」

「本当?」

「フウヤ、身の上を根掘り葉掘り聞くのは失礼だよ」

 というヤンだって、彼女の前髪や面影がフウリさんそっくりなのが気になっている。

(ただ、ナーガさまとフウリさんが一緒になって、まだ三年なんだよな。親類縁者? う――ん、本人が言わないのなら、話してくれる関係になれるまで待てばいいか)

 

 

 リリが合流してすぐ、長かった廊下に突然突き当たりが現れた。

 重そうな両開きの扉。

「いかにもな扉だな」

「開けろって事だわよね、それ以外ないでしょ」

 三人で協力して片側の扉の取っ手を掴んで引っ張った。

 

 ――ギィイイ・・

 

 

 真っ暗だ。

「ヤン、見える?」

「う――ん、かなり広い部屋だとしか。天井が……ドームになってる、教会みたいな。壁にレリーフが見える、さすがに何が彫ってあるかまでは……」

 

 三人はそろそろと足を踏み入れた。

 

 目が慣れて来ると、奥に祭壇みたいなのが見えて…………誰か立っている?

 

 ――キィン・・

 いきなり強烈な光がスポットライトのように、立っている人物を照らした。

 

「うがっ」

「眩しっ、マブシマブシイッ!」

「さ、最初から明かりを付けとくとかないのかよっ!」

 

 目を覆った三人が怖々と見直すと、光の中に浮いているのは、銀の髪の有翼人だった。

 頭の上から足元まで、色の違う羽根を幾重にも背負っている。

 

《 よく来たね、心強き平凡な民 》

 

 褒めているのか見下しているのか分からない台詞に迎えられた。

 とにかく凄いエコーの掛かり具合。耳にワンワン響いて酔っ払いそうだ。

 

「演出下手……」

「音割れして聞き取れないって教えてあげた方がいいと思う?」

 少年二人は眉をしかめてヒソヒソと話し合う。

 

《 お前達に頼みたい事があるのだ 》

 明かりが弱まり、エコーが少しだけ引いた。こちらの声を拾い、そして改善してくれる存在ではあるようだ。

 

 有翼人が片手を上げると、真上の天井が明るくなって、水底から水面を見上げたような揺らぎが現れ、映像が浮かび上がる。

 分厚い氷の壁? ひび割れ? の中に、何かが見える。……人影?

 

「ル、ルウシェル!」

「ユゥジーン!」

 

 少年二人が悲鳴を上げた。

 大切な友達が、氷の隙間に引っ掛かって宙吊りになっているのだ。二人とも両手足がダラリとなって、ピクとも動かない。特に砂漠の娘の手足は血色を失っている。

 

《 彼らを助けて欲しい。我の手の届かぬクレバスの底に落ちてしまったのだ 》

 

「は、はい、どこですか、早く案内して下さい」

「うん、僕ならあの隙間に入って行ける。早く!」

 

《 慌てるな 》

 銀の有翼人は、腹が立つほどまったりとした動きで、少年達の間の床を指差した。

 凍った灰色の地面に、ボゥと何かが浮かび上がる。

 

 馴染みのない文字が散りばめられた、太陽? のような円の紋様。直径がヤンの背丈くらいで、焚き火の残り火のようにチロチロと瞬(またた)いている。

 

(・・!!)

 ヤンは顔を強張らせて後ずさる。

 フウヤも本能でヤバいモノだと感じて飛び退いた。

 

《 怖れる事はない。その印の中心に立ち、助けたい相手の事を強く念じれば、相手に力を授ける事が出来る。それであの二人は助かる 》

 

「そ、それだけ? 術が使えない僕達でも? 話が旨過ぎない?」

 フウヤは疑り深く有翼人をねめつける。

 だいたいエコーだの強い光だので自分を大袈裟に見せようとする奴は、信用出来ない。

 

 だとしても、ルウの肌色は一刻を争う。

「ヤン、僕が円に立つから、どうなるか見届けて」

 

 しかし入ろうとする白い子供を、ヤンは強く引っ張った。

「ヤン?」

「絶対に、駄目だ、フウヤ!」

 

 黒髪の少年は、銀の有翼人をキッと睨んだ。

「僕の文通相手に古代の魔法文字を教えてくれるヒトがいて。この文字、全部じゃないけれど、読めます」

 

《 ・・・・・・ 》

 

「『形代ノ』、『命ノ灯ヲモチテ』、『命脈ヲ繋グル』………… これ、誰かの命を犠牲にして、誰かを救う呪詛じゃないですか?」

 

 フウヤが口を結んで、円より一歩退いた。

 

《 敏い、子供…… 》

 有翼人は表情を変えずにヤンを見下ろす。

 

「僕達に何をやらせようというんです」

「待って、ヤン」

 今度は白い子供が有翼人に向かって進み出た。

「ねえ、あの二人を助けたいの? それとも何か別の思惑があって利用しているだけ? 正直に言ってよ。内容次第では乗ってあげてもいいから。騙されるのはムカ付くけど、あの二人は助けたい。でもあの二人がどうにかなったら、金輪際僕の協力は得られないと思って!」

 

 うわぁ出た、フウヤの相手を選ばない怖い者知らずな交渉。ヤンはヒヤヒヤしながらも、一緒に有翼人を睨み付けた。

 

 銀の有翼人は一拍黙ったが、すぐに口の端を上げた。

《 お前にはあの二人では駄目なようだな、ではこれではどうか? 》  

 

 不意に、二人の左側が明るくなった。

 その明かりの中に、ここではない小さな部屋の映像が映り、中央に紫の前髪の女の子が立っている。

 

「えっ? リリ!?」

 さっきまでそこに居た女の子が、どこか遠い所に連れ去られている。円の印に気を取られて、居なくなっている事に気付かなかった。

 リリはボゥッとした顔で、手に持った一本の銀の羽を見つめている。心ここに非ずな感じで、目の焦点が合っていない。

 

《 あの娘はお前達の想像どおり、蒼の長の一子だ。もっともお前にとっては、かけがえのない姉の愛し子と言った方がいいか 》 

 有翼人はフウヤに向いて、色の薄い銀の瞳を細めた。少し開いた口の中が墨のように真っ黒で、見てしまったヤンは吐き気を覚えた。

 

「だ、だから何……」

 震え声のフウヤ。

 

《 あの娘をどうすれば、母親により衝撃を与える事が出来るだろう。臨月の赤子と共に 》

 

 ヤンの背筋が総毛立った。

 

 リリの後ろに水の波紋が湧いて、巨大な獣の影が映る。ナイフみたいな爪と歯を持った、黒い虎のカタチの魔物。・・彼女は気付かない。

 

「リ、リリ、後ろだ! 起きろ、リリ――!」

 叫ぶフウヤの横で、ヤンがフラリと太陽の標に足を踏み入れかけた。

 バカッ! と叫んだフウヤが飛び付いて阻止する。

 

 地面でもがくそんな二人を、有翼人は無表情で見下ろしていた。

《 どちらでもいいぞ。お前達のどちらがその標に立ち魂を解き放って、あの娘の『護りの羽根』になってやっても。羽根さえ得れば、何が来ても傷つけられる事はない 》 

 

 二人はさぁっと血の気が引いた。

 ――護りの羽根? 護りの羽根って……

 シンリィの緋い羽根や、疫病を跳ね退けていた翡翠色の羽根。

 羽根って、まさかまさか、そういうのが起源なの?

 

 逡巡している間にも、リリの後ろの影はどんどん濃くなって行く。 

「ヤン、後を頼む」

 有無を言わせず立とうとした子供を、今度はヤンが地面に押さえ込んだ。

 駄目だ駄目! 何をどうしても誰かが傷付いて後悔する。

 でもどうやったらあの子を助けられる? どうやったら・・ 

 ヤンは無意識に指笛をくわえた。

 

 ――ヒュゥイィ―― 

 

《 愚かな。近くに見えるが、壁を隔てた別空間だ。聞こえる訳など…… 》

 嘲笑しかけた有翼人は止まった。

 羽根を見つめていた女の子が、フッと顔を上げたのだ。

 

 ――ピュゥウィィィイ――――!!

 

 音が空間を貫いた。

 

 次の瞬間、女の子のお尻に張り付いていた木切れが白く光って粉々に弾けた。

 こちらに音は聞こえないが、背後に迫っていた獣は目に破片を浴びて、おそらく悲痛な悲鳴を上げている。

 リリもビックリしたようだが、すぐさま振り向き、苦しんでいる魔物の脇を素早く駆け抜けて、それの出て来た穴に逃げ込んだ。

 

(や、やっぱり凄いや、あの子。あんなのを見て冷静に動けるなんて)

 穴がシュルンと閉じるのを見て、少年二人は胸を撫で下ろした。

 ヤンにだって何の確信があった訳でもない。ただ咄嗟に吹いた指笛は、どんな障害物をも越えて必要な者に届けられる自信があった。

 

 二人、改めて有翼人をキッと睨み上げる。

「おあいにく様。僕らはあんたの思い通りになんかならない」

「貴方、何が目的なんです? リリや、ルウやユゥジーンにそんな取り返しの付かないモノを無理やり背負わせて。あの子達がどんな思いをするか分かっているんですか」

 

《 どんな思いだ? 》

 黙って成り行きを見ていた有翼人が、背中の羽根をゆっくりと開きながら言った。

《 我が最初に羽根を得たのは、死に行く曾祖父からだった。暖かく偉大な羽根だった。我らはそうやって、祖先の崇高な護りに包まれて代を積み重ねて来たのだ。何がいけない? 》

 

「…………」

 

《 何故、封印されねばならない? 何故、忌まれねばならない? 》   

 

 有翼人の憤怒の指先が天井に向いた。

《 お前達が救いたくないのなら、クレバスは閉じてやろう。友人を凍氷の底に見捨てた後悔を、生涯背負うがよい 》

 

 二人の少年は慌てふためくか? と思いきや、口をあんぐり開けて天井を仰いでいる。

 有翼人も見上げて目を見開いた。

 氷の隙間に宙吊りになっていた二人が居ないのだ。

 リリに気を取られている間に、二人は忽然と消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




挿し絵:標 
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