六連星(むつらほし)   作:西風 そら

62 / 71
緋の羽根・Ⅰ

 

 

 

 

 

神殿奥、ほの暗いレリーフの間。

銀の有翼人に対峙する、フウヤとヤンの二人。

 

「僕達は金輪際あんたの思惑通りにはならない! リリにこれ以上何かしたら、あんたのその羽根全部むしってやる!」

 

 リリを利用されてからのフウヤのキレっぷりに、横のヤンはちょっと心配になっている。でもまぁ、フウヤにお姉ちゃん関連は地雷だよなぁ……

 

《 どうもせぬわ…… 》

 有翼人は呆気ないほど脱力して、投げやりに言った。

《 何故(なにゆえ)羽根の素晴らしさが分からぬ? かけがえのない者を、あらゆる災渦から守れるのだぞ 》

 

 次の瞬間彼はフィッと消えて、フウヤの耳元に現れる。

《 頭を働かせろ、想像をするのだ。あの娘の背で、美しき羽根になったお前が永遠に共に生きる姿を。どんな愛より深くあの娘を守りながら 》

 

「や・め・ろ!!」

 フウヤは瞳をたぎらせて、腰のナイフを抜いて振り回した。が、有翼人は避ける事もせず、腕はその身体を通り抜ける。

 

「落ち着けフウヤ、傷口開くぞ!」

 と、たしなめるヤンの反対側にも有翼人は現れる。

《 お前はどうだ? あの西風の娘を永遠に守れる身になりたくはないか? 》

 

「え、普通に嫌ですよ、ルウに彼氏が出来た時とか地獄じゃないですか。あ―― でも、母さんを疫病から守れるんなら、ちょっと考えるかも」

 

「ヤン……」

 このマザコン、と喉まで出掛かって、フウヤはさすがにやめた。

 

《 偉大なる羽根を持てるのは、風の末裔だけである。残念ながらお前の母親は該当しない。だが、そういう場合の手段はあるぞ…… 》

 有翼人はヤンを覗き込んだまま、自身の羽根をひと撫でした。

《 この羽根一対で、無辜なる民一人の命を救う事が出来る。要するに、有翼人に頼めば、自分の命を使って誰かの命を救う事が出来るのだ 》

 

 ヤンは硬直して有翼人を見る。冗談半分で言った言葉から、トンでもない情報が転がり出てしまった。それ、この世にあっていい能力じゃない気がする。悪いけど聞きたくなかった。

 

「へぇ」

 フウヤが裏返った声を上げた。

「羽根は『限られた者』にしか持てないのに、羽根になるのは誰の命でもOKなんだ。そしてその羽根で無辜の民の命を救えるって? それって……」

 握ったナイフに力が入る。

「知識の無い者を騙して羽根にするとかやり放題じゃん。怖い怖い。僕達にもやろうとしたよね。しかも貴方、結構やり慣れていた」

 

 頭の先から足元まで、重なって背負われる色とりどりの羽根。

 その中のどれだけが、合意の元に彼を守護する存在となったのか?

 

 元々無表情だった有翼人だが、更に表情を堅くして、自らの羽根を撫でる。

《 だから何故にそのように嫌がる? 忌む? お前達の身近にも居るではないか。緋色の羽根に守られた子供が 》

 

 二人ははたと止まった。

 そう、ならばシンリィの羽根は何処から来たのだろう。あんなに無害そうなボケッとした子が、何処から羽根を得たのだろうか。

 

 

 

 ――羽根は、羽根その物は、忌む物ではない――

 

 二人を百倍元気付けてくれる、西風の娘の声。

「ルウ!」

 

「羽根に依存し支配された心こそ、忌むべき物なんだ」

 水の波紋が天上に広がり、楕円の穴が開いて、オレンジの瞳の娘が飛び下りた。

 

 次いで、紫の前髪のリリ、コバルトブルーのユゥジーン。

「あたしがいなくて怖かったでしょ? もう大丈夫だよ!」

「はぐれたと思ったら、何楽しそうな事やってんだ、俺も混ぜろ」

 

 飛び下りながら、ルウとユゥジーンは、空中で剣を抜いて頭上に掲げた。

 

 ――破邪――――!!

 

 ヤンとフウヤの周りに忍び寄ろうとしていた黒い渦が、一気に洗い流されて行く。

 密かに精神を取り込もうとしていた目論見を、上の二人は見逃さなかった。

 

 破邪の光はそのまま広がり、部屋全体を包んで揺るがし始めた。

 清浄な風が巻き、澱みを吹き散らし、術に縛られた空間をメキメキと解除して行く。

(え、何、この威力?)

 と驚く二人の間を、補助呪文を唱えたリリが、得意気に降りて来た。

 

 

「ルウ、ユゥジーン!」

「リリ、ああ良かったぁ」

 地上に降りた三人に、ヤンとフウヤは駆け寄った。フウヤはちょっと躓(つまづ)いてユゥジーンに支えられた。

 

 闇や波紋の渦は消え失せ、そこは現実味のある古い石造りのホールに変貌している。

 明るくなってはっきり見えた壁のレリーフが、有翼人が羽根を授かる儀式らしき図だったのを見て、ヤンはゾッとした。

 床の太陽マークだけは変わらない。

 

「あれ、あの無表情のおじさん、どこ行った?」

 

 銀髪の有翼人は消えていた。

 代わりに奥の祭壇に、天井まであろうかという背丈の、巨大な石像が立っている。

 顔も姿も重なった羽根も、先程の有翼人と同じ。

 そう、大昔に亡くなった祖先達の強い強い残留想念が、マボロシを結んでいただけだったのだ……

 

 五人は、太陽の印を踏まないように気を付けて立ち、石像を見上げた。

 幾重にも重なった羽根。

 ――自分の命を使って、ヒトに護りを与える方法がある――

 こんなに便利で恐ろしい事はない。

 

「私とユゥジーンを有翼にしようとしたのは」

「僕達を羽根にしようとしたのは」

「蒼の一族に対する自己主張だった訳?」

「嫌がらせだよ、最悪の(俺がフウヤの羽根を背負うとか、そんな事態になったらナーガ様、多分立ち直れないぞ)」

「じじさまが相手にしたがらない訳だわ!」

 

 

 石像は、冷たく虚空を見つめる。

 さっきの破邪で封印し直せたのか? まさか、そこまでの威力は無かっただろう?

 ユゥジーンは油断なく、収めた二刀の柄を握りながら、気を張り巡らす。ルウも腕は立つが、このメンツだと、何かあったら真っ先に盾にならねばならないのは自分だ。

 

「ねぇ、このヒトがあの意地悪な空の波紋を作っていたの? 何でそんな事していたのかな。世界が嫌な奴ばっかになったら、自分も住みにくいじゃん」

 フウヤの素朴な問いに、一番近い所まで知っていたユゥジーンでさえも、すぐには答えられなかった。

「う――ん……」

 

「それともここに引きこもっているから、嫌がらせさえ出来ればどうでも良かったのかな」

 一番遠い所に居るフウヤは、ズバズバと実も蓋も無い事を言う。

 

 

《 どうでも良くなどない! 》

 

 いきなりの声が響いて、一同小さく飛び上がった。

 相変わらずエコー気味の声は、動かない石像から響いている。

 

《 嫌がらせなどでもない。我は与えてやっただけだ。民草の欲する物を与えてやっただけなのだ。世界が欲している物を与えてやっただけなのだ 》

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。