六連星(むつらほし)   作:西風 そら

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六連星本編終了・次回から終章


緋の羽根・Ⅴ

   

 

 

 

「ゆぅじん、これ!」

 リリは首に掛けていたお守り袋を外した。

「やっと返せた」

 

 受け取って少し眺めたユゥジーンだが、袋を開けて中の羽根を取り出し、縦に二つに割いた。

「半分コだ、リリ」

 

「ええっ、いいの? いいの?」

 半分の羽根を入れたお守り袋を渡されて、リリは目を輝かせる。

「不思議! 半分に割いたのに光が大きくなった!」

 

「へえ」と言いながら、ユゥジーンは片割れの羽根をポケットにしまって、皆を見回す。

 よれよれで砂まみれのボサボサ頭、でも晴れ晴れとした顔。

 俺も同じ顔をしているのかな。ああ、こいつらと仲間でいられる事が、こんなに幸福だったなんて。

 

 

 観音開きの扉は少し押すと向こうへ倒れ、長い廊下の先が仄かに明るくなっている。

 片羽根失くして真っ直ぐ歩けないシンリィと、限界でフラフラのフウヤを白蓬に乗せ、右をヤンとユゥジーン、左をリリとルウシェルが歩く。

 

「ねえ、風の妖精の皆はともかく、僕とかヤンとか、結局何でここに居る訳?」

 馬上でフウヤは呑気に疑問を口にする。

 

「ヤンとフウヤだからだよ。それ以外の理由なんて無いね」

 ユゥジーンがシレッと言って、隣のヤンが俯いて照れ笑いをする。

 この二人の草の根の民が、ご先祖の驚異であった事は確かだ。

 

 リリは一人元気にツーステップで跳び跳ねている。

「ね、ね、るぅしぇる、あたしがお馬を貰ったら遊びに行くからさ、また一緒に歌を唄おうね」

 

「ああ、楽しみだな」

 

「やっぱりるぅしぇると唄うのが一番好き。そらさんにも教えたけど、音痴なんだもん」

「ソラは、音痴なのか?」

「うん、すっごいよ!」

「そうか、ソラは音痴なのか……」

 

 反対側で聞いているユゥジーンとヤンは、真面目な顔を見合わせた。

 何であんな事があった直後なのにそんな話題で盛り上がれるんだ? 女子って分からない……

 

 先に明かりが見えて来た。魔法で作った明かりではない、現実味のある見慣れた朝の光だ。

 

「外だ!」

 ユゥジーンが小走りになった。

 

 しかしシンリィは白蓬を止めて、そこで馬を下りた。

「下りるの?」

 フウヤも倣って、ヤンに助けられながら下馬した。

 

 と、シンリィは白蓬の手綱を不意にリリに押し付ける。

 

「え? へ?」

「どうし……たの? シンリィ?」

「行こうよ」

 ヤンとフウヤが両方から手を取ろうとしたが、何故だか近くに居るシンリィに触(さわ)れない。

「あれ、あれれ?」

 

「シンリィ!?」

 異変に気付いたユゥジーンとルウシェルも駆け寄ろうとしたが、すぐそこに居る筈のシンリィに全然近寄れない。

 それどころか羽根の子供はどんどん遠ざかり、いつの間にか水底の揺らぎに包まれている。

 細い指がすぅっと回って、波紋の丸窓を作る。

 

 白蓬が嘶(いなな)いた。

 

「しんりぃ、ばかあ! しろよもぎ、どうすんのよ! あたしは世話なんかしないからね!」

 リリが叫んだが、子供は目を細めて眩しそうにしばたいただけだった。

 

「嘘だろ、もう闘いは終わったんだろ? 何で・・」

「白蓬は生涯を共にするんじゃなかったのか!? そんなんじゃまるで・・」

 叫んでユゥジーンとルウシェルは喉を詰まらせた。

 そうだった……この子はいつだって、やるべき事を心得て、行くべき場所に行っていた……

 

「馬鹿野郎! それは変えちゃいけない事なのか!?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――変えてください、貴方達が――

 

 不意に、丸窓の中のシンリィがポンと浮き上がって、外に向かってくるくると回りながら飛んで来た。

 五人はこの日二度目の全員キャッチをする。

 

 シンリィにも予測外の出来事だったらしい。皆の手の中で目を白黒させ、喉からキュウと音を出している。

 

「ばばさま!?」

 リリが叫んで皆が丸窓の方を見ると、シンリィの居た場所に、一人の美しい女性が、口の端をヒクッと震わせながら佇んでいた。

 

「『ばばさま』はやめておきましょうね、可愛いリリや」

 確かに『ばばさま』と呼ぶには似つかわしくない、雪の精かと見違うような目も綾な女性。

 

「だ、だってじじさまの兄妹だから、ばばさ……」

「此方の世界を完全に閉じるのは、此方からしか出来ません」

 リリの言葉に被せるように女性は話を始めたが、何か大事そうな内容だったので、他の四人は大人しく神妙に聞き入った。

 

「元々この深層世界の帯は、夢でちょっと迷い込む程度の、『必要ではあるけれど陰であるべき存在』でした。こんなに膨らんで現世にはみ出してしまってはいけないのです。マボロシ鏡は言霊の力を失くしていますが、宜しくはない不純物ですし、銀の羽根も幾ばくか迷い混んでいます。時間を掛けて浄化させるまで、誰かが此方に残り見張っていなければなりません」

 

「え、そうなの……戻って来られるよね? そちらが元に戻ったら、穴を開けて……」

 リリの問いに女性は返事をしなかった。

 シンリィが白蓬すら置いて行こうとしたんだ。完全に閉じるというのは…………そういう事なのだろう……

 

「元々は神殿の封印は私(わたくし)の役割でした。私の力及ばなかった事、申し訳なく思っています。貴方達の力には本当に助けられました。心より感謝していま……」

 

 ユゥジーンがビビって動かなかった足をやっと地面から剥がし、一足飛びに丸窓の前まで詰め寄った。

 驚いて言葉を止めた女性の手首を、腕を伸ばしてガッシリ掴む。

 

「あの、貴女は必要なヒトだと思うんです。ナーガ様にもこの世界にも」

 

 女性ははなだ色の瞳をパチパチさせながら、コバルトブルーの少年を凝視する。

 

「お、俺、天涯孤独っスから。居なくなっても現世に影響無いっスから。だから・・

――交代でっすっ!」

 

 グイと手首を引っ張り、反動で女性と位置を差し替えようとする。一発で決まったらさぞかしカッコ良かったろう。

 しかし少年の腕の半分以下の太さの腕しか持たない小柄な女性は、その場に根が生えたように動かなかった。

 

 パシィ! と高音が響いて、後ろの五人の目の前に大きな背筋が吹っ飛んで来た。

 

「この戯け者! 百万光年修行して出直して来なさい!」

 

 ・・え・・ええ…………

 真ん丸に見開かれたコバルトブルーの瞳の下の頬にくっきりと、指を開いた女性の手型。

 こりゃ術で吹っ飛ばされるより百万倍ダメージでかいぞと、ヤンが肝を冷やす横、紫の小さな頭がまろび寄り、転がった少年の肩にしがみついた。

 

「ゆぅじん、バカッ! 本当にタワケだわよ! 里であたしを大歓迎してくれるんじゃなかったの!?」

 

 少年はまだ茫然としたまま、紫のビィドロみたいな瞳を見つめる。

 

「その戯け者の事もナーガの事も、宜しくお願いしますよ、可愛いリリや」

「うん、分かった! 任せておいて、ばばさ……」

「ユゥジンとやら、後ろをご覧なさい」

 

 言われるまま振り返った少年の目に、身じろぎもせずに彼を凝視する八つの瞳。

 シンリィがほてほてと歩いて来てリリの隣にしゃがむ。

 そうして小さな手を伸ばし、ユゥジーンの豆だらけでゴツゴツの指をぎゅうと包んだ。

 

「天涯孤独だなどと、どの口が言うのですか」

 

「…………」

 

 ユゥジーンはただ項垂れた。ああ、史上最低にカッコ悪リィ……

 

「あ、あたしは、ばばさまが居なくなっても悲しいよ! じじさまもきっと悲しむよ!」

 リリの叫びに、女性はちょっと脇へ寄る。

 

「私ならここに居ますよ」

 丸窓に、大長がヒョイと横から顔を出す。

「大長様!?」

「妹がどうしてもこちらに残ると言い張るのでね、付き合ってあげる事にしました」

 

「マ、マジですか」

「じじさまぁ……」

 

「そんな声出さないで、リリ。私を誰だと思っているんです? その内チャチャッと、そちらと行き来出来る方法を開発しちゃいますから。ああ、所で、ヤン」

 

 呼ばれてハイと答える少年を指して、大長はニコニコと隣の妹に話し掛けた。

「ほらほら、この綺麗な瞳の少年がヤンですよ。貴女の文通相手」

「ば、ばらさないで下さい、兄様」

 

 四秒程置いて、目が点になったヤンの喉から何かを絞め殺すような悲鳴が漏れた。

「え゙・え゙え゙・え゙ぇぇ・・どどどどどなたなんですっ? まさかあの、魔法文字を教えてくれたヒトっ!?」

 

 女性は上目遣いで頷いた。

 

「『最果てのLonesome Wolf(ロンサムウルフ)』さんっ!?」

 

 大長はあちゃあという顔になり、女性は耳まで真っ赤になって顔を覆った。

 

「元々は、いつも神殿に酒を届ける、麓に住む氷蝙蝠(コォリコウモリ)の翁が、ヤンの文通相手だったらしいです。翁がツルリと漏らした手紙の内容、『炎の狼と羽根の子供の情報を捜しています』・・そんな事を堂々と調べている子供に驚いて、新たな文通相手として紛れ込ませて貰ったんですって。

でも、成人の儀を頑張っているその少年をいつしか本気で応援している自分に気付いて。顔も知らない遠くの子供と何者でも無い自分としての交流は、素晴らしく新鮮で心癒せる一時だったと、それはもうニマニマしながらあばばばば……」

 隣の女性にガクガク揺さぶられ、大長はその辺で止めておいた。

 

「ヤン、貴方のね、世界中の色んな種族と、『知る』事で繋がりたいという夢、とても素敵だと思います。此方側からですが応援していますよ」

 

「はははいっ、ああありがとうございますっ」

 少年は頭の羽根と一緒にユラユラ揺れながら、必死で返事をした。

 

 一拍置いて、大長と女性は居住まいを正した。

「他の皆さんも、ご苦労様でしたね。貴方達と出逢えて本当に楽しかった。貴方達の存在が、私達の何よりの歓びです」

 

 彼方側の二人はもうそれ以上は余計に喋らず、一枚の絵のように丸窓に収まって六人をじっと見つめた。目に焼き付けるように。

 

 いつの間に、子供達の後ろにナーガが立っていた。

 こちらも言葉は発せず、ただ二人を真正面からしっかり見つめ、そして、最後に一礼した。

 

 そうして幻灯機が消えるように丸窓は閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

      ~緋の羽根・了~

 

 

 

 

      ~六連星・Ⅴ・了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、終章入る前にちょっと日にちください

挿し絵: また会う日まで
【挿絵表示】

ヘボいけど、こういう絵を描いてみたかった


  
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