星女神の系譜-三界駆ける冥府の灯火-   作:haruhime

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やっと新馬戦が書ける……。

古すぎてレースの状況が全くわからん……。


第六話 新馬戦

 1976年10月16日

 中山競馬場 パドック

 一競馬ファン

 

「ああ、効くなぁ」

 

 夜勤を終え、疲れた体に酒とモツ煮を流し込みながら降りしきる雨の中、久しぶりの競馬場を楽しむためにパドックを見ていた。

 周囲にいるのは俺と同じように、目をギラギラさせ赤鉛筆片手に馬を見定める競馬狂いばかり。

 俺のようにひっかけながらというやつも多い。

 それもそうだろう。これだけ雨が降る中での、まだ第3レースのパドックなのだから。

 来年の名馬を今からを探し回るような暇な奴しかいない。

 

 第3レースはダート1200で行われる新馬戦だ。

 この雨の中不良馬場で行われるダート戦に期待が高まっていく。

 ダートという芝の二軍扱いされることも多いレース体系だがこれはこれで面白いもの。

 露骨に実力差が出るという意味でも、今日のように不良馬場では番狂わせが起きやすいという意味でもな。

 

「やはりウエッターホーンが来るか? 仕上がりは良いようだが」

 

 目の前に次々と現れる第3レースに出走する馬達を見ていても、やはり一番人気のウエッターホーンの仕上がりが一番のように思えていた。

 だがそれも最後に現れた馬を目にするまではだ。

 

≪8枠10番、トリウィアヘカテー、牝馬、体重498kg、鞍上は本馬信夫騎手、斤量52Kg≫

 

「なんて馬だ」

 

 場内放送の音が頭に入ってこないほどの衝撃に、うわごとのように言葉が漏れる。

 周囲の競馬野郎共もどよめくほどの完成度。

 

≪9日の新馬戦で圧倒的な強さを見せたマルゼンスキーと同父、調教時計も素晴らしい結果を残した注目の馬です≫

≪馬体もしっかりと仕上げられています。左右を見回していますが誰かを探しているのでしょうか≫

 

 美しい馬体に、がっしりとした筋肉が乗り、しかし軽やかな歩みを見せる黄金の馬。

 周囲の馬を圧する気迫が漏れ出しているように思えるほどの、重厚な肉体だった。

 

「あれ牝馬だろう?」

「秋生まれの三歳牝馬とは思えないな」

「牝馬なのにマルゼンスキーより重いのか」

 

 こいつは強い。間違いなく強い。

 イレ込んでるわけでもないのに、周囲の馬を委縮させるこいつが、弱いわけがない。

 オパールステークスにつぎ込むつもりだった3万を握りしめ、ほかの馬をこれ以上見るつもりもなくなった俺は販売窓口へ駆け出した。

 

≪おっと、トリウィアヘカテー柵に寄っていく。子供に挨拶をしているようです。ああ、馬主とそのお子さんなんですね≫

≪人懐っこさを見せたトリウィアヘカテーに、場内から笑いが上がっています≫

 

 

 

 

 1976年10月16日

 中山競馬場 馬主席

 ゲオルギウス

 

 パドックや返し馬でのトリウィアヘカテーの様子を見て、馬主席に帰ってきたニコラオスはとても静かだった。

 競馬場についた時には珍しいほど興奮し、落ち着きがなかったというのに。

 パドックでは真剣な目つきになり、返し馬を見た今は沈思黙考している。

 

「さて、ニコ。人生で初めて見たレース場のトリウィアヘカテーはどうだった?」

「……あの子とはまだ数えるほどしか会ってないけれど、今日出ている馬では一番速く走ると思う」

 

 私の質問に、数拍おいて顔を上げた彼が答える。

 私に付き合い、アメリカではそれなりの回数競馬場へ足を運んだ彼の評価は、競馬新聞や競馬師の評価とも合致する適当なものだった。

 

「なぜそう思うんだい?」

 

 だが私は彼に問いかける。

 メルク―リの家の者としてある程度は観察眼を身に着けてほしいからだ。

 馬を見る目でその人物の器量が図れるというのは、我が家の伝統である。

 

「最後に見た時よりも体が締まってた。ちょっと落ち着きがなかったけど歩き方にも澱みはないし、毛艶もよかった。他の馬はどこか弱そうに見えたし、トリウィアヘカテーと目が合うと落ち着きがなくなってた。多分走る前から序列が決まってたんだと思う。騎乗した途端にすっと落ち着いたし」

 

「返し馬ではゆっくり歩いていたけど、どうかな?」

 

 あの娘は全く走る気配を見せなかった。

 ぬかるんだコースを馬術競技のお手本のような常足で最短距離を歩んでいた。

 

「マルゼンスキーとの並走の時だって、走るべきタイミング以外だと基本的におとなしかった。あれはトリウィアヘカテーの気質なんだと思う。走らない時は全力で拒否する子だしね」

「うん、お父さんも同じ考えだよ」

 

 よく見ている。あの仔は走るべきタイミング、自分のなすべきことを理解している。

 牧場でも、厩舎でも、練習馬場でも。まるで人の言うことを聞き取れるように指示に従い、最適な判断を下すことができる。

 他の馬相手には容赦ないが、天性のボス馬気質なのだろう。現に東京競馬場の牝馬の中でもかなり上位になっているらしいからね。

 

「ニコならどの馬に賭けるかな?」

「当然トリウィアヘカテー」

「2着は?」

「ウエッターホーン」

「3着は?」

「ちょっとわからない。多分カイエンオーかウインリボーだと思うけど」

「わかった、少し待っていなさい」

 

 私は彼に待つように伝え、トランクケースを持って窓口へと向かう。

 うん、とりあえずヘカテーに4000万ほど入れておこうか。

 

 

 

 

 

 1976年10月16日

 中山競馬場 ダートコース

 トリウィアヘカテー

 

 雨が降りしきる中、ぐちゃぐちゃのダートコースを踏みしめゲート入りを待つ私。

 ついにやってきた新馬戦への緊張は、ここに至るまでに吹き飛んでいた。

 なぜなら今回の相手で、怖いと思う馬がいなかったから。

 パドックで視線を向ければ怯えたような雰囲気を醸し出し、返し馬の走りと見ても全く脅威を覚えなかった。

 つまり鞍上君や兄さんが言っていた私が速い馬であるということを、少なくともこのレースにおいては信じることができると思えたためである。

 

 他の馬が次々にゲート入りしていくのを見送り、誘導員に引かれながら私もゆっくりとゲートへと向かう。

 

「勝てるのか、いや、勝たなきゃいけない」

 

 雨に打たれながら、一度嘶く。奥底から湧き上がる熱に浮かされたように体が震えた。

 出発前に励ましてくれた兄さん。

 雨の中パドックまで来て応援してくれたゲオルギウス君とニコラオス君。

 最後まで見送ってくれた本江さんや厩舎の人たち。

 私は、みんなの期待に応えることができるのか。

 弱気の虫が心の隙間から這い出してきたのか、不安が積み上がり震えが止まらない。

 

『武者震いか、やる気は十分だな』

 

 本馬君が私の首に手を添える。濡れた彼の手の熱が、私にじんわりと伝わってくる。

 数度撫でられると、すっと手が離れた。

 

『順当に走れば、間違いなく勝てる。お前は、圧倒的に強い』

 

 全ての馬で最後に狭苦しいゲートに押し込まれ、背後で扉が閉じる甲高い音がする。

 気付けば震えは止まっていた。

 

『勝つぞ、トリウィアヘカテー』

 

 彼の声を聴き、私は耳に意識を集中させる。

 馬の嘶き、彼の呼吸音、周囲の人や馬が芝を踏みしめる音。

 それらを切り捨て、ただスターターがレリーズを握る音を待つ。

 

 何秒経ったかはわからない。皆の足が芝を踏んだ。

 ガチリという小さな音が聞こえた。

 体に力を籠める。

 ほんの数瞬の間の後、ガチャリという大きな音共にゲートが開き始める。

 周囲の馬達が駆け出そうと体に力を入れるタイミングで、用意していた私は第一歩を踏み出し始める。

 本馬君の両足がすり抜けられるぎりぎりのタイミングで、私は半開きのゲートを飛び出した。

 

「今日は逃げに逃げてやるわぁ!!!!!」

 

 距離が足りないなら、最初から全身全霊!スタート直後からのロングスパートで頭を押さえて逃げ切ってやる! 

 

 

 

 

 

 1976年10月16日

 北海道 端本牧場

 

「おうおう、よく食ってんなシル」

「ブヒン」

 

 出産を済ませすっかり食欲も戻ったシルの世話をしていると、厩舎の奥からザリザリというラジオの空電雑音が聞こえてくる。

 ついでに社長の舌打ちまで聞こえてきた。

 

「チッ、なかなか聞こえんな」

 

 社長はダイヤルを弄繰り回し、その度に雑音が大きくなったり小さくなったりしていた。

 

「何やってんスか社長。ラジオなら高いところで聞かないと」

「あん? このあたりでも聞けるように態々高いアンテナ立てたんだろうが」

「それだって金属に囲まれた厩舎の中じゃまともに電波来ないっス」

 

 締め切った建物だし、発電機を含めた電気設備が一杯あるんだからいくら高精度ラジオだからって無茶だってのに。

 

「つーかこの前買ったチューナーも繋いでないんじゃ無理っすよ。母屋で聞き来ましょうよ」

「チッ、ほかの馬にも聞かせてやりたかったんだがな。茶淹れとくから繋いといてくれ」

 

 汚れを落とし一度着替えてから母屋の炬燵に入りつつ、ラジオに大アンテナから引っ張った線をNSBチューナー経由で繋いでやるとすぐに人間の音声を吐き出してくれた。

 

≪雨降りしきる中山競馬場からお届けしていますラジオたんぱ競馬中継、第3レース新馬戦、ダート1200は間もなくの発走です≫

 

「よかったよかった、聞こえるようになったっス」

「ありがとうな、間に合ってよかったぜ」

 

 安堵の息を漏らした社長が台所から持ってきてくれた日本茶を啜りつつ、頂き物の煎餅をかじる。

 

≪本レースの注目株は3枠3番、一番人気のウエッターホーン、そして2番人気のトリウィアヘカテーであります≫

 

 お、トリウィアヘカテーが出るレースだったんスね。

 

「そういえば坊ちゃん達は向こうにいるんでしたっけ」

「おう、日本の競馬を見せてやりたいってんでな」

 

 学校休ませてまで態々現地に連れていくとか、社長の娘さんたちが聞いたらどんだけわがまま言うかわかんねぇ。

 まぁ、お嬢さんたちと違って、坊ちゃんは小学校の勉強くらいしなくても良い程度に頭いいけれど。

 

≪一番人気のウエッターホーン、良い仕上がりです。内枠を確保できたのが有利に働くか≫

≪続いて三番人気のトリウィアヘカテー。三歳牝馬とは思えない筋量を秘めた大柄ですが、動きは軽やか。大外枠が不利に働くと見たか三番人気であります。≫

 

「枠順不利が相当響いたな。新馬戦でしかもダート不良馬場ならしかたないかもしれん」

「けど実況はべた褒めっスよ。相当な仕上がりなんスね」

 

 新馬戦じゃまず聞かないくらいのべた褒め。こっちにいるときからめちゃめちゃ良い体つきしてたけど、向こうで更に仕上げたんかね。

 

≪おっと、場内がどよめいた。ここでトリウィアヘカテーが一番人気に躍り出た、倍率2.5倍ですがこの変動も納得の仕上がりです≫

 

 これはあれっスかね。

 社長の方を見ると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「ゲオルギウスさんが大買いしただろ」

「したッスね」

 

 あの人なら1000万単位を涼しい顔で投げてもおかしくない。

 何億って金を小切手でサッと支払えるレベルのお金持ちのやることは分からないッス。

 

 ラジオから割れた音でファンファーレが鳴った。

 

≪さぁ、発券打ち切りのお時間となりました。いよいよゲートインであります≫

≪各馬スルスルとゲートに入っていきます。新馬戦とは思えないほどスムーズに入ります≫

≪良いレースが期待できそうです。さぁ、大外のトリウィアヘカテーがゲートインし、各馬発走準備が整いました≫

 

「いよいよっスね」

「距離が足りない。追込をするとしたらどうなることやら」

 

 トリウィアヘカテーは典型的な追込ステイヤーの素質馬。1200じゃ加速しきるのすら難しいと思う。

 けれども、あのマルゼンスキーとも競り合えた馬なら、何かやってくれるんじゃないかとも思う。

 

≪雨の中三歳新馬戦が今スタート。芝の上飛び出したのはトリウィアヘカテー! 1馬身、2馬身離れて続くはウエッターホーン! 先頭争いはこの二頭か≫

≪ダートに入って中段はカイエンオーを先頭にウインリボー、ナリキウイング、キクサファイア、コクサイパレードが密集した馬群を形成、その後方にスコットシチーとロッキージャンボ、最後尾はぽつんと一頭コガネグレート≫

 

 トリウィアヘカテーは追込のはずなんスけどね。

 なんでダート入っても頭抑えてブッ飛ばしてるんだ? 

 

≪坂を下って第三コーナー、3Fを通過してトリウィアヘカテーが先頭を飛んでいく! ウエッターホーンが後続を引き離しながら追いすがるが差が広がる! 3馬身! 4馬身!≫

≪この状況に焦ったか中段の馬群からカイエンオーとウインリボーが抜け出した、先行するウエッターホーンをとらえられるか≫

 

 明らかに展開が速い。逃げどころか大逃げのペースだ。

 ラジオ越しでもわかるくらい、場内がどよめいている。

 

≪トリウィアヘカテー! 最終コーナーを一人旅! まだ差を広げていく!≫

≪残り400mを通過、ウエッターホーン追いすがるが差が縮まらない! 中段からコクサイパレードが上がってきた! ほかの馬は失速気味か!≫

 

「距離が足りないなら最初からロングスパートさせればいい、か。やるじゃないか」

「ほんとっスね」

 

 牧場長が無意識に溢した言葉に、思わず同意する。

 2歳で4000m走れてしまう、馬鹿げた体力があるトリウィアヘカテーなら、クラシックディスタンスの半分程度全力で走っても余力があるッス。

 なら適性が低い短距離で実力を発揮させるなら、最初から体力任せにスパートさせてしまえばいい。

 単純だが、体力と実力が圧倒していないととてもじゃないけど取れない戦術っスね。

 

≪最終直線に入って来たのはトリウィアヘカテー! 伸びる! 伸びるがウエッターホーンは間に合わないか! 食い付かんとカイエンオーとウインリボーが叩き合う! その後方コクサイパレードが外から仕掛けた!≫

 

 その結果がこれ。他の馬はまともにレースができない。

 高速展開についていくために足を使ったのに差をつけられ、ずるずると引き離されていく状況ではどの馬も早仕掛けが要求された。

 だが好位に着けない先行も、足を溜められない差しも、射程圏に居られない追込も、体力を残して逃げる馬の脅威にはなりえない。

 

≪残り200m! ものすごい勢いでトリウィアヘカテーが坂を駆け上がる! ウエッターホーン後方を突き放したがもう前には届かない!≫

 

 淀よりはましとはいえ、減速必死の中山の坂をただ一頭で駆け上がっているらしいトリウィアヘカテー。

 ダートを苦にしない筋力と骨格、大きな胸郭に納められた心肺が生み出すスタミナを存分に使い倒した走りを見せたッス。

 

≪トリウィアヘカテー! トリウィアヘカテー! トリウィアヘカテーがゴール板を駆け抜けた! 圧勝です! 明確な大差をつけ勝利しました!≫

≪大きく離されウエッターホーンが二着! 三着はカイエンオー! 続いて四着にウインリボー! 少し離され五着はコクサイパレード!≫

≪勝ち時計は1:08.9! トリウィアヘカテー日本レコードです! ダート1200m日本最速を叩き出しました! 上り3F34.5!≫

 

「レコードっスよレコード!」

「兄妹そろってレコード勝ちとは剛毅だなぁ、おい」

 

 思わず声を上げた俺を見て、社長は楽しげに笑った。

 いやいや、とんでもない馬達の面倒を見てたんだなと改めて思う。

 

≪……さん、いやぁ、素晴らしいレースでしたね。≫

 

 ラジオからアナウンサーが解説に話を振ったのが聞こえてきた。

 

≪泥濘の中、不良馬場とは思えない圧倒的な走りでした。続く二着ウエッターホーンも1:10.9と好タイムです。全体的に異様な高速レースでしたが、それでも最後まで追いすがり、後続を大きく突き放したウエッターホーンの次走に期待しましょう≫

 

「確かに、ウエッターホーンは強い。良い時計だし、トリウィアヘカテーがいなけりゃ順当に勝ってただろうよ」

 

 社長の言う通り、レース全体の所見と二着のウエッターホーンについてのコメントは納得のいくものだった。

 日本レコードとなる超高速展開となった新馬戦で、不良馬場としてはOP戦でも勝てるだけの時計を叩き出したウエッターホーンは今年の有力馬といっても過言じゃない。

 

≪カイエンオーとウインリボーの三着争いもいい勝負でしたね、この二頭についてはいかがですか≫

≪ウエッターホーンにも地力の差を見せつけられた格好ですが、一勝クラスの標準タイムと比較しても悪くない時計です。未勝利戦を勝ち上がるだけの力はあると思いますね≫

≪そして、トリウィアヘカテーが圧倒的な強さを見せつけました。芝のマルゼンスキーに続きダートをも海外良血が制するのか。今後の展開に注目が集まります≫

≪今払い戻し計算が終了したようです、配当額は単勝250円……≫

 

 配当金の放送が始まると、太く息を吐きながら社長がラジオを切った。

 

「ふぅ、順当に勝ったな。しかし消耗してないと良いんだが」

「マルゼンスキーはともかく、いくら追い込んでも平気な顔して走ってたトリウィアヘカテーは大丈夫じゃないっスか?」

 

 社長の心配は分かるっスけど、めちゃくちゃ速くても普通の馬なマルゼンスキーはともかくトリウィアヘカテーは大丈夫だと思うッス。

 3600走らせてズタボロになったマルゼンスキーを尻目に、もっと走りたがるような馬は気にしなくていいはず。

 

「ケガしてなきゃ飯食わせとけば直に走りだそうとしますよ。つーかマルゼンスキーのコズミはどうなんスか?」

「それもそうか。ああ、よくなったみたいでな、今日はいちょう特別に向けて普通に調教掛けると連絡が来たよ」

 

 レコード勝ちした代償か、前レースの後コズミを発症していたマルゼンスキーは回復したらしい。

 こっちにいるときも、トリウィアヘカテーと合わせた時たまになってたからそれほど心配はしてなかったんスけどね。

 そういやトリウィアヘカテーはこのままダート路線に行くんスかね? 地方に移籍しないとあんまレースがないっスけど。

 

「トリウィアヘカテーはどうするか聞いてます? マルゼンスキーはいちょう特別、府中三歳、朝日杯三歳Sってのは聞いてますけど」

「銀杏特別で芝を走らせてみて、結果次第じゃ府中三歳にぶつけてくる」

「えっ!? 持込馬同士で削り合いやるんすか?」

 

 難しい顔をして腕を組んでいる社長。

 出れるレースの少ない有力持込馬同士で勝ち星の取り合いしなくてもいいと思うんスけどね。

 

「向こうさんとしては、どうも芝路線を諦めるかどうかをマルゼンスキーと競わせて決めたいらしい。基準扱いされるのは業腹だが、少なくとも世代最強はマルゼンスキーと見ているという話でな。結局勝った方が芝、負けた方がダートを主軸にするって話になった」

「社長もギャンブラーっスね」

 

 馬主同士のアホな結論に、呆れた声が出てしまう。

 いくら何でもギャンブル過ぎる。

 

「馬主になるような奴がギャンブラーじゃないわけないだろ。それにどっちに出してもマルゼンスキーとトリウィアヘカテーは勝ちまくるだろうからな」

「それは確かに」

 

 どっちがどっちの路線とっても、適正距離なら勝ちまくるのは目に見えてますからね。

 

 それにしても今年デビューした馬達はひどい年になりそうっスね。

 OP戦は芝の2000までは無敵、2500までは好走できるマルゼンスキーと、ダートは短距離以外全距離、芝でも中距離以上なら走れるトリウィアヘカテーが出張ってくるんスから。

 出走できないクラシックやティアラ路線で勝っても空き巣扱いされるでしょ。

 来年の有馬記念取られたら最弱世代扱いだってあり得るッスよ。

 

「来年の有馬が楽しみっスね」

「今から来年の話をすると鬼が笑うぞ? けど、見てみたいよな、あの二頭が中山で先頭争いするのは」

 

 俺も社長も顔を見合わせて笑ってしまう。

 まだ新馬戦を勝っただけの二頭だ。冗談でしかない。

 けれどもトリウィアヘカテーとマルゼンスキーが、国内有力馬を蹴散らして中山の直線を駆け抜ける姿がはっきりと見えた気がした。




兄妹合わせて新馬戦で1200mレコードを叩き出したのにクラシックやティアラ路線に参戦できない馬がいるって?

この時代はちょうど持込馬が外国馬と同じ扱いを受け始めたあたりになります。
このため有名なレースの大半は出走できないんです。

天皇賞も出られなくなったため、このころは今のG1だと朝日杯とエリ女くらいしか出られなかったはず。有馬と宝塚は出られますけど。

次回は本江厩舎での休養と調教の話になるかと。
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