『異世界の魔法少女』 作:不可思議可思議
メイド喫茶のメイド長といえば、この国において知らぬ魔道士のいない有名人。
かつては宇宙飛行士で、月を徒歩で一周した最新の偉人だとか。
かつてはトレジャーハンターで、歴史よりも前の時代に存在した金銀財宝を発見したとか。
かつては詐欺師で、転覆しかけていたこの国をさらに転覆させて救っただとか。
他にも、海賊だったとか、勇者だったとか、魔王だったとか、真実もあれば創作もある、数多の武勇伝を持つ、むしろ武勇伝がメイド服を着て歩いていると言っていい、人型のナニカ。
しかしそれ以上に、メイド喫茶のメイド長は方向音痴であることこそが最も有名で、真骨頂とも、唯一の欠点とも言われている。
自他ともに認める、次元規模の方向音痴。
漫画やアニメの世界に迷い込み、二次元の存在となって民衆の目に留まったり。
過去に迷いこみ、歴史の教科書に妙な一文を残したり。
この世の物理法則に従わない、異世界のアイテムを持ち帰ってきたり。
道に迷うどころの話ではないその体質は、科学の裏で魔学の発展したこの国の総力を挙げても解析の一切が不能。後を追い続けたところで、追いかけた方もどこかで見失う。
そんな滅茶苦茶な化け物の後を追える(かもしれない)存在が、一人確認された。
その名も、異世界の魔法少女、
故に、オレ様は彼女をまず殺さなければならないのですわ。
例えばオレ様が住んでいる、例えばメイド長が出身とするこの国には、魔道士と魔族という存在が
魔道士とは、ざっくり言ってしまえば、魔法を扱うために人間であることを辞めたもの。人道を捨て魔道を生きる者。
そしてその人間でなくなったものたちは、まず三つに分けられる。
十五歳まで生きる魔法少女。
三十歳まで生きる魔女。
百歳まで生きる魔法使い。
一般にはそう伝わっているけれど、オレ様からしてみれば、十五歳まで生きるというより、十五歳で殺されると、あるいは十五歳で生まれ変わると言った方が適切極まる。
十五歳、三十歳、百歳。そのどれもが、過ぎると魔族になると、いつからか(少なくともオレ様が生まれるより五世紀は過去から)言われている。
魔族とは、人類絶滅を本能とする、義務とする、趣味とする化け物たちで、かつては数百人いたとされるその全てに、人類絶滅を成し遂げられる可能性と実力が齎されている。
事実として。史実として。
始まりの魔法少女と呼ばれる魔法少女は、『人類絶滅の魔族』と名乗った魔族をはじめ、『日進月歩の魔族』『百鬼夜行の魔族』『天下無双の魔族』といった最強格から、無名まで、計八十八体の魔族を殺した末に、十六の誕生日の夜――魔族となり人類の(というか惑星の)半分を蹂躙した。
現場である惑星半分には未だ草一つ生えてこず、現住の生命体が存在しない。
流石にこのレベルの惨事にはそうそうならずとも、一定の年齢を過ぎた魔法少女や魔法使いが魔族となり、人間に牙を剥いた事例は少なからずある。
故に、本来祝うべき年齢に至った魔道士は死ななければならない。
そしてオレ様は処刑人。
天聖の魔女の弟子、転生の魔女、ジェーン・ドゥ。
年齢制限を設けた人間側ではなく、一度は死刑を承認してしまった魔道士側に、唯一魔道士殺しを許された、魔道士専門の処刑人にして、遺憾ながらも救世主。
死せるオレ様に生前の名は亡く、未だ師にして、そして母代わりであった魔女から受け継いだ高潔さを持って、オレ様は無慈悲に殺す。
作法、マナーとして、オレ様たちは戦闘前には必ず名乗りを上げるという伝統がある。それは伝統であり、そしてルーティーンとしても有用で、これがあるのと無いのとでは、メンタル面が大きく作用する魔法の作用に多大な差異が生まれる。
「わたしは異世界の魔法少女っ!
「オレ様は天聖の魔女の弟子、転生の魔女、ジェーン・ドゥ。名はとうに捨てていますわ」
その日が終わると同時に、死刑を恐れた彼女は人類から逃亡した。
昨日まで命をかけてでも守る対象だった人間達に牙を剥かれた彼女の心情は酷く傷ついていて、半ばやけくそ気味に、殺しにきたオレ様に向かって名乗りを上げた――宣戦布告した。
持ち前の魔法による探知不可のテレポートに、擬似空間転移を扱える希少な魔女であるオレ様は、ここにまんまと誘い込まれたようにも見える。
もう後数年も経てば、千年もの間誰も住んでいない、ゴーストタウンならぬ、ゴーストアースとでも呼ぶべき、ガラスの荒野。
地面は一枚の巨大で平坦なガラスでできているらしく、その強度は金槌で叩いても割れないらしい。
深夜なため、ただ滑りやすくて硬い地面だけど、昼間はまるで海のように青々しくて美しいのだとか。
彼女が何を企んでこんなところにオレ様を連れ込んだのか、なぜ急に逃げることを辞めたのか知らないけれど、互いに名を名乗った以上は詮索も推測も不要。オレ様はこの哀れな魔法少女を殺して連れ帰る。
「潔く処されてくださいな。
仕事仲間が言うにはオレ様の十八番に当たるらしい、不可視の弾丸を指鉄砲から発射する魔法。その威力は樹齢千年の大木に風穴を開ける。銃でいうところのバレルに当たる杖が無いため(というかオレ様は杖を所持も携帯もしていない)、命中精度は雪合戦程度。しかし連射すれば、その残念な命中精度も十分に補える。幸いにして、この魔法は燃費が良い。
「あなたには、もう誰も殺させない!!」
同じ魔道士と言えど、魔女と魔法少女に共通点なんてむしろ少ない。
魔法少女は魔力量が最低でも魔女の数百倍で(そもそも数値化できるものでは無いけど)、扱う魔法は少ないながらも、そのどれもが魔族と戦えるほどに強力。
本来、例外は居れども人間や魔女に殺されるような弱者では無い。
オレ様の撃った不可視の弾丸は、彼女にも、地面にも当たることはなく、消滅した。異世界だか、異次元だか知らないけれど、そういうところにでも転移したのだろう。
魔法少女が人間や魔女に殺されてしまうのは、要因として、その優しすぎる性格にある。それこそ、相手が魔族でも無い限り、言葉を交わせてしまえばもう攻撃ができなくなる。
「ここでなら、きっと誰も……」
その目に殺意の色はなく、あろうことか私にまでも罪悪感や謝意を向ける。
聖人君子に匹敵する善人の多い魔法少女ですら、初対面で殺し合いに発展すれば殺意や怒りを向けてくる。
「もう誰にも、死んで欲しく無いんです。ごめんなさい、魔女さん」
彼女の最後の言葉で、オレ様は彼女が何を企んでいるのかを理解した。
要するに、道連れ。
数多の魔法少女や魔法使いを殺してきたオレ様を生かしておくわけにはいかないと。無様にただ殺されたら、これからも他の魔法少女が殺されると、……彼女は哀れにそう思い込んだ。
母代わりであった魔女に見習わせたい、自己犠牲では無く自己完結的な善性。その巻き添えを、オレ様はまんまと食らった。
彼女の背に扉ほどの大きさで繋げられた先は、宇宙だった。
太陽が見切れるほど近く、流れ込んだ熱はオレ様も彼女も焼き尽くし、引力によって死体はその先へと引き釣り込まれた。
彼女は、オレ様のことを何も知らなかったのだと思う。
知っていれば、こんな手は使わなかったに違いない。
オレ様の行動を完全に止めるなら、死なせるなんてのは愚作も愚作。
例えそこが宇宙の果てであろうとも、オレ様は死ねば、生まれ変われば、地球へと種もしかけも無く帰還できる。
……ええ、ええ。地球には、帰還できたわね。
最近の寝不足が祟って荒れていた肌の手入れもかね、実年齢より二十歳ほど若返った肉体で生まれ変わったオレ様の目に映った風景には、魔学が一欠片も残ってはいなかった。
おそらく彼女が繋げた宇宙は、この地球が存在する、別の宇宙だった。
科学と数学だけで発展した文明があったら、なんて映画が十年か二十年くらい前に流行っていたけれど、それにどことなく似た街並み。
異様に角ばったビルの天辺から見下ろせば、視界いっぱいの街は窓から光を漏らし、さして変わらぬ星空よりも煌びやか。
とはいえ、街の作りがそうなっているというだけで、魔力や奇跡までもが無い、というわけでも無いらしい。一例として、オレ様はなんの滞りも無く生まれ変わることができているし、魔力も十全に扱える。希薄、というかムラがあるけれど、大気中にも魔力がある。
察するに、魔道士が極めて少ない街、あるいは国だと考えられる。
……それも体感でしかないし、これ以上考察を広げるなら、専用の機材か魔法が欲しいところ。
「せめて言葉だけでも通じれば助かるのですが……」
とりあえず向かう先は、戦闘中と思われる魔道士のところ。
異世界の魔法少女による最後の魔法は、しっかりとオレ様を異世界へと送り込み、オレ様の処刑を阻止することには成功した。……それが魔法少女の幸せに繋がるのなら吝かではないけれど、世の中そう甘くない。オレ様がいなくとも、いないからこそ、死ぬしか無くなるのだから。
『多分本編中に解説しない用語の解説』
魔族は四文字。
魔法少女は三文字。
魔女は二文字。
魔法使いは一文字。
それぞれ二つ名に漢字をもっていて、基本的に文字数が多い方が扱える魔法が強力で、意味が強い魔道士は強い。
また、魔女だけは師弟関係を誰もが持ち、師から読みを受け継ぐ。
以下、例。
『人類絶滅の魔族』
『日進月歩の魔族』
『百鬼夜行の魔族』
『天下無双の魔族』
『異世界の魔法少女』
『核融合の魔法少女』
『雪月花の魔法少女』
『殺風景の魔法少女』
『天聖の魔女』『転生の魔女』
『犬歯の魔女』『剣士の魔女』
『最端の魔女』『異端の魔女』
『放浪の魔女』『王狼の魔女』
『死の魔法使い』
『食の魔法使い』
『魔の魔法使い』
『人の魔法使い』