『異世界の魔法少女』   作:不可思議可思議

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第二話『魔女と魔法少女』


 

 

 

 CDショップから飛び出していった親友を追いかけて辿り着いたのは、改装中なのか鉄筋コンクリートの剥き出しな建物。霊感とかそういうのがある人なら、それこそ飛び出していきそうな、不気味な雰囲気が漂っている。ここでなら幽霊とかゾンビがいても、怖くても不思議ではない。

 

「まどかー、どこー」

 

 ここに入っていくのは見たわけだから、出ていなければ声の届くところにはいるはず。なんか、危機感? みたいなのに駆られてる感じだったし、冷静じゃなかったから、聞こえても返事してくれるかはわからない。

 

「まど……、……は?」

 

 爪先で何かを蹴ったと思って見下ろしたのは、一本の鉄パイプ。なかなかに振り回しやすそう……じゃ無くて。

 

「なに、これ……」

 

 コンクリートなんて無かった。鉄筋なんて無かった。木も、石も、プラスチックも無い。まるで、絵画の世界。あるいは絵の具の世界。世界が正気じゃないのか、私が狂ったのか。もしここに暮らす人がいるのなら、その人達はきっと漏れなく狂っているに違いない。

 

「はは……。まどか、マジどこ……?」

 

 


 

 

 魔力の発生地点へと転移すべく、オレ様は右手を指鉄砲の形にして、こめかみに人差し指を当てる。

 

名無しの弾丸(クリアバレッド)

 

 髪をかき分けるように弾丸が精製され、直後、オレ様の頭部を爆散させた。

 俗に死後の世界、あの世とか煉獄とか言われる場所を経由して、直接目的地へと跳んだ。

 一見、異世界の魔法少女と同じテレポートだけれど、実際のところ、これは魔法でもなんでもない。

 オレ様が生まれ持った、魔女になる前からある、転生という体質。それは異世界であろうとも、正常に作用した。

 

「……ここは、これは、結界ですの?」

 

 私が生まれ変わった先は、科学なんて一欠片も見られない、また別の異世界に転移したかと思うほど異なる世界、空間。

 でも異世界では無く、ちゃんとここが地球に根をはった結界であることをオレ様の脳はしっかりと理解している。

 

 奇怪な風景のほかに、この結界の原因なのか、小さな何かが群れをなしてオレ様の方へと駆け込んでくる。白い球体に髭と手足を生やした、謎の生命体。見た感じ、言葉のような鳴き声こそ発しているものの、知性の類は見られない。

 

「アク、とも違うし、アク擬きとでも仮称しましょうか」

 

 百か、二百か。野獣やアクでもこの量の群れをなすことなんて珍しい。大量というより、いっそ無数と表現した方が適切か。

 

「無数なんて、オレ様の前では数のうちに入りませんわっ! ――多重転生・同一人物(ドッペルゲンガー)

 

 ここまで転移したときと同じ方法で自殺し、オレ様は今日まで死んできた無数のオレ様を同時に転生させる。結界内でも肉体の材料は足りたようで、十歳から三十歳近くまで幅広いオレ様達が同時に指鉄砲の二丁拳銃を構えた。

 

「全員まとめて、やり直し(コンティニュー)なさいなっ!」

 

 そこらの生命体であれば必殺の威力を誇る名無しの弾丸(クリアバレッド)の集団掃射。扇状に広がった弾幕は、肉片一つも残さず蹴散らした。

 

「他の魔道士は、足で探した方が早そうですわね」

 

 オレ様以外のオレ様達は、俺様の言葉を聞くと、躊躇いなく自身の頭部を打ち抜き自殺した。あちこちに、薔薇のように血を吹き出す首無し死体が立ち、ゆっくりと脱力するように倒れていく。

 

 


 

 

 逃げ回っていたら、偶然にもまどかと合流できた。その腕には、猫なのか犬なのか兎なのか、よくわからない小動物が抱き抱えられていて、見た感じ怪我をしてるらしい。優しい、優しいまどかのことだから、まどかが何かしたっていう訳ではないんだろうけれど、今はなにもかもが緊急すぎる。

 

「さやかちゃん! なにこれ! どこなの!?」

 

「分かっててここに来たんじゃないの!?」

 

 あたしも、まどかも、別にヒーローでもなんでもない。こういうとなんか小説の主人公みたいになって、逆になんとかなりそうな気がするけど、マジでただの、普通の女子中学生でしかない。

 

「これ、どっかに出口とかないの!?」

 

「わかんないよ!」

 

 思わず声を荒げてしまうも、まどかに八つ当たりをしたところでどうしようもない。頼れるものなんて、思わず拾ってきた鉄パイプと、まどかがもってきた不思議生物だけ。そいつがアニメみたいにでっかい化け物に変身するとか、超能力みたいなことが出来たりでもしないと、……あたしたち、多分死ぬんじゃないかなー。

 

 頼れるものはお互いに拾ってきたものだけ。変な化け物を殴ろうにも、鉄パイプは思いの外重たくて、そうそうアニメ見たく戦えたりなんてしなかった。一体ずつなら思いっきり振り下ろして倒せたけれど、その化け物の数からしてみれば焼け石に水。ゲームならきっと、踏めば倒せる雑魚キャラでしかない。

 

 不幸中の幸いか。敵が雑魚キャラなら、そいつらを雑魚とするキャラクターもいるのは、夢見すぎかとも思ったけれど、やっぱりいるもの。

 

「危ないところだったわね」

 

 なんて言いながら、あたしたちみたいに慌てることもなく、店に買い物に来た主婦くらい落ち着いた態度で、その人は私たちを助けてくれた。金髪の縦ロールを二つぶら下げて、黄色の宝石みたいなのを片手にもっている。

 

「あら、キュウべえを助けてくれたのね。ありがとう。その子は私の大事な友達なの」

 

 その人の目は、まどかの腕にいる白いのに向けられていて、その目の色は優しい。

 

「あの、私呼ばれたんです。この子の声が頭の中に聞こえてきて……」

 

 なんて、まどかが突拍子のない、ファンタジーなことを言い出してもその人は疑わないで、「ふーん、なるほどねぇ」なんて言ってのけた。

 

「その制服、あなた達も見滝原の生徒みたいね」

 

「あなたは……」

 

 呟くようにあたしが尋ねると、その人は応えてくれた。

 

「そうそう、自己紹介しないとね。でも、その前にっ!」

 

 格好いい笑みを浮かべて、その人は変身した。黄色を基調とした、いかにもな魔法少女って感じの格好。

 なんかもう、見るものにいちいち驚いてキャーキャー言う気力なんて、あたしにもまどかにも無かった。

 

「ちょっとその前に一仕事、片付けちゃっていいかしら」

 

 たくさんの銀色の銃を魔法かなんかで出して、化け物達をさらっと片付けてしまった。あたし達には勝ち目のないボスイベントでも、その人には無双ゲームのチュートリアルってくらいに、一網打尽。倒し切ると、この変な世界も元通りに戻った。

 

「あ、戻ったぁ!」

 

 まどかが嬉しそうにそう言って、やっと一安心かと肩の力が抜けたとき。

 あたし達の前には、転校生、暁美ほむらが立っていた。なんでこんなところに、とも思ったけれど、よく見れば、地味だけどそいつも魔法少女っぽい格好をしている。

 

「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる」

 

 あたし達を助けてくれた方の魔法少女っぽい人がそう言う。

 

「私が用があるのは……」

 

「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの」

 

 この人もこの人で、完全無欠に善人って訳でもないのか、転校生に向かっては挑発的っていうか、なんか敵っぽい笑みを見せた。

 

「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 

 暫く、無言が続いて。転校生の方が引き下がり、去ろうとしたその時。

 

 もう一人、なんかそれっぽい人がやってきた。

 

「双方矛を納めなさいな。オレ様を前にして、十六歳でもない魔法少女に死亡は許しませんわ」

 

 魔法少女っていうより、シスターさんって言った方が正しい感じの人。フードみたいなのは被っていなくて、長い金髪を一本の三つ編みにしていて、歳は二十か三十か。背も高くて、胸も大きい。

 

「……あなたも魔法少女?」

 

 同じ金髪で巨乳と、キャラの被ってる恩人が尋ねると、その人は笑いながら首を横に振った。

 

「オレ様は転生の魔女。名は捨てているので、名無しの権平、あるいはジェーン・ドゥと呼んで下されば幸いですわ」

 

 転生の魔女。その人がそう名乗った途端、二人の魔法少女はほとんど同時に銃を取り出して構えた。もう勘弁してよ……。

 

「あなた、何者?」

 

 転校生が尋ねる。

 

「殺し合いでもないのに、二度も同じ名乗りをあげたりはしませんわ。――魔法少女と魔法使い専門の処刑人――なんて、そう名乗ったらオレ様を撃ち殺すことくらい、目に見えていますわ」

 

「っ――!!」

 

 二丁の引き金が引かれると同時に、オレ様シスターさんは指鉄砲を自分の頭に向け、何かを発射。それは見るからに、自殺だった。あたしもまどかも、胃が裏返ったような気持ち悪さを感じ、思わず吐き出した。

 

「オレ様、今日だけでもう何度死んだことか。数えるのもうんざりですわね」

 

 放課後の寄り道で食べたものを吐き切って、まどかの背をさすりながら見上げると、自殺したはずのシスターさんは自分の死体を持って、うんざりしていた。魔法少女の二人も、困惑している。

 

「命の価値は死人にしかわからないというのに、酷いことをしますわ」

 

 よく見れば、シスターさんの死体は頭が無い以外にも、胸とお腹から血が滲んでいる。

 

「オレ様はなるべく多くの魔道士から話を聞きたいのですが、その前に命の価値をお教えしたほうがいいのかしら? まだ子供の魔法少女の命を散らすのには些か抵抗がありますが、仕事の内と割り切ることは、オレ様には容易なことですわ」

 

 自分の死体をゴミみたいに捨てると、さっき自分の頭を吹き飛ばした指鉄砲を今度はあたし達に向けた。二人が銃を下ろし、ついでにあたしも鉄パイプを落とすように離すと、シスターさんも手を下ろす。

 

「……一般人の子を巻き込むのは私も趣味じゃないわ。それに、ただの魔女という訳でも無いみたいだし。あなたはどうかしら?」

 

「未知の存在なのは私も同じ。聞けるものなら、彼女の話を聞いておきたい」

 

 


 

 

 彼女達、この世界の魔法少女である二人は、それぞれ巴マミ、暁美ほむらというらしい。オレ様と被ってる方がマミで、黒髪がほむら。ついでに、桃髪というレアな人種がまどかで、水色の髪をしているのが、さやか。マミの魔法で治療された白い謎の生物がキュウべえ。

 

 オレ様は、一人暮らしらしいマミの家に招かれることになった。そこで、二人の魔法少女と情報交換が行われる。

 

 まずは基礎知識ということで、この世界での魔法少女について説明された。

 

 キュウべえと契約した少女が、魔法少女。

 その契約とは、どんな願いも一つ叶える代わりに、魔女と戦わなければならない。その戦いは命がけだと、二人揃って熱弁された。その真意は真逆のようだけど。

 魔法を使うと、ソウルジェム、という宝石のようなものが濁り、魔女を倒したときの戦利品、グリーフシードで濁りを除去できる。

 

 続いて、私が異世界から来たという前提を告げた後、こっちでの魔法少女について説明する。

 

 戦うために魔法を使うのが魔法少女。契約なんてものはなく、素質、才能なんて呼ばれるものがある少女が、危機(きっかけ)に出会ってしまうと魔法少女となり、戦う力を手に入れる。

 中には、オレ様と同じ、特異な体質を持つ魔法少女もいて、体内に歯車箱を持つ魔法少女や、核融合炉を持つ魔法少女もいる。

 数名の魔女を中心に立ち上げられた治安維持組織『魔女の館』に所属、保護された魔法少女、つまりはオレ様に殺された魔法少女以外は、十六歳になるまで、人間の所有する兵器として扱われる。

 十六歳になると、その日、魔法少女は出頭、即日死刑。逃げ出すと、処刑人が出動、見つけ次第処刑される。

 

 オレ様が処刑人をやっているのは、殺した相手を、あるいは条件をクリアした人間を、生まれ変わらせることができるため。殺した魔法少女には、転生の前に十歳程度まで若返らせ、死の魔法使いとオレ様で共同開発した不老魔法を掛けることになっている。その後は魔女の館で保護し、他の魔法少女や魔女、ごく少数ながら魔法使いと協力して魔族やアクと戦うことになる。

 

 オレ様も一応専門家ということで、どうしても長くなる説明を聞いた後、ほむらが小さく挙手して問う。

 

「……あなたの話を全て真実だとして。その世界では、魔女は職業のようなもの。こっちでは魔法少女の亜種、という認識でいいのかしら」

 

「職業、と言うより種族と言った方が正確ですわ」

 

 人間の味方をする魔女もいれば、敵になる魔女もいる。そもそも、人間は魔女を人間だとは思っていない。協力的であれば生かし、敵対的であれば指名手配、即射殺が常。

 

「なら、魔法少女は魔女ではなく、なにを相手に戦ってグリーフシードを得るのかしら?」

 

 続いて、マミが問うてきた。

 

「こっちの魔法少女はグリーフシードやそれに近いもの、戦利品を求めてなんていないし、ソウルジェムを持ってもいませんわ。そして、魔法少女の敵に当たるのは、アクと呼ばれる何かと、人類の敵であり、魔法使いや魔女の成れの果てである魔族と呼ばれる存在ですわ」

 

 アク。

 悪、空、灰汁。どんな漢字が当てられるのかは未だに明確では無い。魔法少女によって強引に解消されてしまった人間の負の感情が、大気中で集まり、小動物から山のように巨大な化け物まで、多種多様な何かとなる。……と、人間の学者に言われている。

 野生動物に近い生態をもっているけれど、魔道士を目視すると、形振り構わず襲いかかってくる。

 

 魔族。

 人類を絶滅させうる、元魔道士の化け物。

 長年の研究の末に人類を絶滅させるべきだと判断した魔法使い。

 十六歳までの戦いの末に、人類を信用できなくなった魔法少女。

 三十歳で暇を持て余した魔女。

 

 それらがもっぱら、魔族と呼ばれ、名乗るようになる。

 

「オレ様をこの世界に飛ばしたのは、異世界の魔法少女を名乗った魔法少女でしたわ。この世界の宇宙、太陽の近くと空間を繋げ、オレ様諸共焼身心中を試みたんですの」

 

「……それで生きてるあんたってなんなの?」

 

「転生の魔女ですわ」

 

 さやかが、出されたケーキを突きながら、問うというより、突っ込んできた。

 

「死ぬと蘇る、という魔法のような体質を持って生まれた元人間。天聖の魔女の弟子。それがオレ様ですわ」

 

 オレ様もケーキにフォークを刺し、切り分けて口に運ぶ。次はこちらをジッと見ていたまどかが、小さく挙手して問う。

 

「その、ジェーンさん。自分のことをオレ様って言うのは、……やっぱり魔女だからですか?」

 

「ただのキャラ作りですわ」

 

 答えた途端、まどか以外の三人が同時に紅茶を吹き出した。





『多分本編中に解説しない用語の解説』

 天聖の魔女

 転生の魔女、ジェーン・ドゥの師匠に当たる。
 天聖の名に恥じぬ、清廉潔白や聖人君子なんて言葉の似合う偉大な魔女。
 知り合いや友人の魔女仲間からは、聖女様のあだ名で呼ばれ、揶揄われていた。

 三十歳になったとき、ジェーンを死の魔法使いへと預け、出頭。その日のうちに、人間の処刑人に首を落とされた。

 事故で自分以外の全てを失った孤児、ジェーンにとって、師であり、同時に母親代わりでもあった。
 死んでも蘇り、魔女となってからは、殺した相手も蘇らせることのできてしまうジェーンの道徳教育の様は、まるで鬼のようだったと友人、最端の魔女は語る。

 お嬢様のような口調は母から子へと受け継がれたもので、転生の魔女の『オレ様』は生前から染み付いていたもの。矯正はもちろん試みられたけれど、為す術は無かった。
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