とある喰種の日記   作:物書きB

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 ●月§日

 

 さて、拠点を手に入れたのはいいが、どうやらここでは俺はあまり歓迎されていないらしい。

 起き掛けには監視の喰種数名に舌打ちをかまされ、拠点内を歩いていれば視界に入るすべての喰種ににらみつけられる。

 一体俺が何をしたというのか。

 全く、疑問だ。

 

 だが、そんな中でも比較的友好的に開いて相手をしてくれる喰種もいる。

 

 最初に出会った少女の喰種がそうだ(ちなみに話してみると俺より1つ年上だった…)。

 あとは無口な仮面の喰種と、ガスマスクをつけた喰種。

 彼らはここでも立場はいい方らしく、そんな彼らに守らているらしいのが俺のようだ。

 なんか俺の赫子の偏食が問題らしい。

 

 …そういえば喰種の集団だったね、ここ。

 

 

 ●月Φ日

 

 霧島兄弟の捜索が思いのほか煮詰まっている。

 ここの喰種たちは俺がいることは許してくれたようだけど、協力的な負けではないから頼りにはできない。

 したがって1人で地道に聞き込みや、パトロールをしているわけだが一向に成果は上がらない。

 

 さすがに喰種間で噂すらないというのはおかしいと思い、喰種少女たちに話を聞きに行った。

 その結果わかったのは衝撃の事実である。

 

 なんとここは11区にはまともな喰種や力のない喰種は来ないらしい。

 

 なんだそれ?といった感じだが、周りの反応からすると本当のようだ。

 昔はそうでもなかったらしいが、最近結構危ない場所になったんだと。

 

 じゃあ、子供たちなんて絶対来ないじゃん。

 

 

 ●月Γ日

 

 ということで今日でこの拠点ともお別れすることになりました。

 仲良くなった少女たちには少し悲しがられたが、仕方がない。

 今は子供たちのほうが心配だ。

 襲われて行方不明ということで安否すら分かたらないという状況。

 せめて生死の確認だけでもしておきたい。もちろん死んでいてほしくはないが。

 

 ということで荷物をまとめて拠点を出たのだが、案の定、襲われた。

 少女たちから離れたことでチャンスだと思われたのだろう。

 

 襲いかかってきたのは、日ごろから不穏な目を向けてきていたメンバーたちだ。

 人数にして5人。

 少女たちの貴重な戦力を奪うことに申し訳なさを感じはしたが、正当防衛だとして全員いただいた。

 

 最近俺の赫子の補充ができていなかったためそれはもう目にも留まらぬ速さで消えちゃいましたとさ。

 

 

 Ⅴ月Θ日

 

 ところ変わって、年月も経って、俺は20区にいた。

 探し人は見つからず、同胞を襲っては金を稼ぎ、渡り歩く日々。

 正直、何をやっているんだと思わなくもない生活が続く毎日だ。

 

 だが、幸運なことに不自由を感じる生活ではない。

 なぜなら、俺の正体が世間にばれた様子がないからだ。

 あの俺の家の火災を見た際は、『終わった…』と思っていた俺だったが、あれは勘違いの可能性がある。

 ならあれは何だと言われると困るのだが…。

 

 まあとにかく!

 素性が割れていないおかげで買い物は簡単にできるし、ネカフェにも泊まれた。

 唯一赫子の捕食時にだけは気を付けていなければならないが、逆に言えばそこさえ見られなければ問題ない。

 

 そして俺は自由な捜索生活を過ごしていたというわけだ。

 

 しかし、捜索に進展はない。

 一番大事なことのみがうまくいっていない。

 

 はー、もうやめようかな。

 子供二人組なんてどこかの人間の施設に保護されて当然かー。

 

 …今日仕入れた二人組の子供の情報だけ確かめてから考えることにしよう。あとは、喰種の喫茶店か。

 迷子って感じの情報じゃなかったから怪しいもんだけど。

 

 

 Ⅴ月Ж日

 

 見つけた。やっと見つけたぞ。

 2人組の子供、間違いなく霧島兄弟だった。

 いやしかし、あの子たちが喰種だとは思いもしなかったな。

 

 俺が見つけた現場は人間を襲っている最中だった。

 高校生くらいの年若い女の人間だったが、死にそうな状況の割には元気にしていたな。

 

 人間がいるので顔を隠しての再開となってしまったせいで、俺のことには気が付かなかったようだ。

 こちらを確認するとすぐに攻撃を仕掛けてきた。

 2人ともが羽赫の超高速攻撃。

 だが、俺の赫子は人より多いから、半分が防御、半分が攻撃をすることであの子たちに対応していた。

 正直赫子の制御はうまくないのでやりすぎることが無いようにだけ気を付けて戦闘が終わるのを待っていた。

 

 すると、5分も経たないうちにあの子たちは引いていってくれた。

 羽赫はスタミナがないらしいのでそのおかげだろう。

 

 戦闘音を聞いた他の人間が来ないうちに、襲われた女性の手当を手早く行い、その場を離れた。

 

 さて、ここにいることの確認がやっと取れた。

 明日からはひたすら探すだけだ。

 

 あれだけちゃんとした格好をしていたのだ。

 きっと子供たちでは生活してはいまい。

 

 まずは、噂の喰種が集まるという喫茶店にでも顔を出してみるとするかな。

 

 

 Ⅴ月Σ日

 

 いた。普通に。

 噂の喰種の喫茶店。

 

 マスターはそれなりに年を召した男性の喰種だ。

 芳村と名乗ったその男に話をすると、喫茶店の二階にいたらしい董香を呼んできてくれた。(絢都は今はいないようだった)

 董香はたいそう驚いたようだったが、次第に顔は真っ赤に染まり憤怒の形相で俺に怒鳴り散らし始めた。

 俺が心配する以上に俺のことを心配してくれていたらしい。

 

 怒りが冷めた董香は次第に涙ぐみながら、あの日とそれからのことを話してくれた。

 

 董香たちが捜査官に見つかったこと、最低限の荷物を勝手に持って行ったこと、危険を知らせようと家を荒らして火をつけたこと。

 2人で隠れながら暮らしていたこと、ここに拾われたこと、実は自分たちの顔も割れてしまったわけではなかったこと、今は強くなったということ。

 

 つまり、俺が喰種だということは発覚しておらず、なのに姿を消していた俺が死んでしまったのでないかとこの子たちは思っていたらしい。

 

 まあ、なんだ。

 俺が家を失った以外は何も悪いことは起きていないということらしかった。

 いや~良かった良かった。

 

 それからはマスターの厚意によって二階を貸してもらい今までのことをお互いに語り合った。

 昔を思い出しながらの会話は何とも楽しく、11区を出てから会話に飢えていた俺はそれはよく話しこんだもんだ。

 お前らに昨日襲われて死ぬかと思った、といえばぎょっとした顔になって面白った。

 

 

 Д月Ь日

 

 最近知ったが、絢都はしばらく帰ってこないらしい。

 寂しそうな顔をしながら話すもんだから詳しくは聞けなかったが、この子らは仲が良かったから、離れるのは…な。

 

 だが、ここ20区は素晴らしく安静な場所だった(・・・)

 

 喰種は芳村さんが治めてくれているし、喰種が暴れないおかげで捜査官も少ない。

 喰種からすれば人間社会に溶け込みやすく、人間からすれば喰種を恐れる必要は少ない。

 

 それが、ここ20区のはずだった。

 この女性が来るまでの話だったが。

 

 神代利世、と名乗った女性は、一見すると清楚でお淑やかな雰囲気を醸しているが、その実大食らいの化け物だ。

 女性に化け物とは失礼かもしれないが、そう表すしかない。

 

 俺の赫子も大食らいだという自負があるが、それ以上の頻度で食事を行うというのだから驚きだ。

 

 彼女が来たせいで20区の喰種たちはざわついている。

 数少ない自分の狩場がとられるかもしれない、彼女について捜査官が増えてしまうかもしれない、などの不安があるのだろう。

 

 現に喫茶店に顔を出す喰種たちも数が減ってきていた。

 

 何度か話をしてみたが、神代利世は結構強情だった。

 口調こそ穏やかなものの、食べたいから食べるという主張を曲げる気は無いだろうと思う。

 

 幸運なことに俺に狩場はないため、そっちの方の問題はないが、捜査官が増えるのはよろしくない。

 俺が襲われる分には、まあ、許せる。

 だが、学校にも通い始めた董香にとっては迷惑な話だ。

 少し前には友達ができたと楽しそうに話していたし、今更学校を辞めさせるのは酷なことだろう。

 

 だから、少しは自嘲というものを神代利世に覚えてほしいが…。

 

 

 Д月&日

 

 とか言ってたら、神代利世が死んだという報せが届きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・経過報告

 

 前報告より特筆に値する変化なし。

 経過良好。異状なし。

 

 長期間の断食による飢餓状態への移行は見られない。

 赫子の攻撃性能には僅かな影響あり。

 

 11区からの移動時、戦闘データ入手。

 赫子による捕食を確認。同時に、赫者である確証を入手。

 

 

 

 


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