今回の話からヒロインが登場します。お楽しみ頂けたら幸いです。
それではどうぞ!
風のフォルズとの激闘を終えた翌日の朝。その日もいつもより早く起きた燈真は自分の仕事場でもある机の方を見やると、ビートルが寝ている事に気づく。その隣ではおとぎ話に出てくる乙女の妖精のような見た目の生き物がうなされながら寝ている。
その生き物をよく見れば、僅かに風を纏っている事に気づかされる。おそらく、昨日フォルズとして暴れていた学生に力を貸していた精霊だと思われる。それを見た燈真は、その精霊を含めた三匹を無理に起こす必要は無いなと思いながら、一先ず朝食にしようとキッチンへと向かう。
(……あ、そうだ。そろそろ作り置きしとかなきゃ駄目だろ。また一人……いや、匹? まぁいいや、どっちにしろ彼奴等のように此処の住人が増える事になるだろうし……)
そんな事を考えながら、買い溜めしておいた食材から何を作ろうか考えつつ台所に立つ。いつでも確認できるように台所に常備している、今まで自分が作ってきた料理のレシピをまとめたノートを手に取り、どれを作るか考えながら台所に食材を並べていく。
そうして、ノートを眺め終えて作るものを粗方決め終えた燈真がいざ料理を始めようとした時。水に濡れないように台所の端に置いておいた愛用のスマホが一定のリズムを刻む振動と共に着信音を鳴り響かせる。
燈真はスマートフォンの着信音を仕事用とプライベート用の二種類に分けており、今回鳴ったのはプライベート用の着信音だった。
「ん? この音……嗚呼、彼奴からか? ったく、いっつも唐突に連絡寄越すんだよな。彼奴」
着信音を聞いた燈真はため息をつき、調理しようとしていた手を一旦止めて渋々スマホを手に取り、画面を点ける。燈真の予想通り、通知欄には『悪友』と書かれた名前の人からの着信通知だった。通知をタップしてそのまま通話を繋げると、スマホの向こう側からやたらと元気な声が聞こえてくる。
『やっほ、まちけん。元気にしてるかな?』
「……あ? んだよお前か、
『むっ、凄く心外。私だって暇じゃないのに。あっ、そうそう。まちけんが書いてる漫画、いつも読んでるよ。凄く面白くて毎週の楽しみなんだ、《ナイツ・シンフォニア》。でもさ、まちけん。そうは言うけど今は大丈夫なの?』
「あーはいはい、そりゃどーも。電話越しとはいえこうして読者の生の感想が聞けるとは思ってなかったけどな。まぁ、朝飯作ろうとしてた所だし今は大丈夫だ。今は」
『そうなんだ。まぁでも、元気そうで良かったよ。まちけん』
「……お前もな、沙耶」
燈真がスマホ越しに話しているのは燈真の幼馴染みであり、それなりに付き合いの長い悪友こと
漫画家の道を進んだ燈真とは違って沙耶の方は有名な大企業に勤めており、今日は休日というのもあって暇を持て余し気味だった為、燈真の携帯に電話を掛けてきたとの事。休日と言われて壁に掛けてあるカレンダーに視線をずらした燈真が今日の日付の所を見れば、確かに休日を指している。
いい加減日付感覚戻さなきゃ駄目か、と思いながら昔話に花を咲かせつつ沙耶と話していれば、唐突に会えるかどうかを聞いてきた。
燈真としては昨日の戦いの疲れも抜け切っていない為断ろうとしたのだが、燈真が断りを入れるよりも先に沙耶は半ば強引に約束を取り付けて通話を終えてしまう。耳元に響く通話終了を報せる音が鳴り響くスマホ片手に、燈真はため息をつく事しか出来なかった。
「……チッ、沙耶の野郎。また一方的に切りやがったな? ったく、こっちの都合も聞いてから通話切れっての」
半ば強引とはいえ取り付けられた約束を破る訳にも行かず、久々の息抜きにもなるかと考えを変えた燈真は悪態をついた後にスマホの通話ボタンをタップして画面を消し、改めて朝食作りに取り掛かる。そうして、一人分の朝食が完成した頃。ビートルとエルモスの二匹が起きてきた。
調理しながら風の精霊と思われる生き物を昨日まで看病していたビートルに昨日の奴はまだ起きて来ないのかどうかを尋ねれば、まだうなされていたから起こさないでおいたとの事。燈真が起きた時にもまだうなされていた事を踏まえれば、ビートルの判断は妥当だろう。
それに、風の精霊と思われる生き物の事は自分は管轄外であり、二匹に任せた方が良いと考えながら自分の分は作り終えているが、折角起きてきたのだから続けて二匹の分も作ろうと調理を続けていた燈真に、エルモスがある事を尋ねてきた。
「嗚呼、そうだ燈真。俺達が起きてくる前に誰かと話していたのか? 何やらわちゃわちゃしてたようだが」
「ん? 嗚呼、お前達の所まで話し声が聞こえてたのか。悪いな」
「いいや、それは構わないんだよ。何やら楽し気に話していたようだったからな、気になっただけにすぎねぇよ」
「楽し気に、か。まぁ、ガキの頃からの腐れ縁である奴からの久々の電話だったしな。そりゃ昔話にも花が咲くってもんだ」
そう言いながらビートルとエルモスの分も作り終え、一人と二匹揃って朝食にする。相変わらずテーブルの上に龍と蜥蜴の姿をした生き物が座っている光景に慣れている自分に苦笑いしながら手早く済ませる。そうして、朝食を食べ終えた燈真は片付けた後に身支度を済ませた。
とある有名ブランドのロゴが刺繍されたお気に入りのパーカーとジーパンは洗濯機に突っ込んである為、別の衣服とズボンに着替える。普段とは違う、何処か気合いの入った衣服に着替えた燈真を見たビートルは疑問符を浮かべ、燈真に問いかけた。
「む、こんな朝早くから出かけるのか? 燈真」
「ん? まぁな。ちょっとした用事だし、すぐに済ませてくる」
「……そうなのか。燈真が居ない間の留守は我とエルモスに任せるがよい。昨日助けた奴の事もある故、我もエルモスもおいそれと此処を離れる訳にも行かぬからな」
「そっか。俺もそいつの事は気になるからさ、なるべく早く帰って来るよ」
二匹に見送られながら、燈真は自宅を後にする。スマホのマップ機能を使って沙耶が提示した目的地までのナビを任せ、自転車でそこまで向かう。風のフォルズとの戦場となり、現場収拾の為に警察以外立ち入る事が出来ないようになっている高校の前を通り抜け、先を急ぐ。
そうして、自転車で走る事五十分。沙耶の提示した目的地であるデパートの前に辿り着いた。スマホから聞こえてくる目的地に到着した事を報せる機械音声を切り、近場の自転車停めに自転車を停める。後は沙耶を待つだけである。
「さてと、彼奴より先に着いた訳なんだが……一応、メールだけは送っておくか」
そう呟きながら沙耶宛にメールを送ろうとした燈真がスマホを取り出した時。燈真は自身の背後から近づいて来る何者かの気配を感じて振り返る。
しかし、感じた気配は一般の通行人だった。さっきのは気のせいか、と向き直った燈真に遠くから声を掛ける人物が居た。その声に気がつき、前を向いた燈真の前に一人の女性が走り寄って来た。
黒髪のロングヘアを靡かせ、落ち着いた配色のシャツとブラウス、スカートを着こなし、動きやすい靴で燈真の元に走って来たその女性を見た燈真は驚きの表情を浮かべながら、恐る恐る彼女の名前を呼んでみる事に。
「……えと、もしかして、お前なのか? 沙耶」
「うん、そうだよ。久しぶりだね、まちけん」
「久しぶりって、あのなぁ……お互いさっきまで電話で話してただろうが」
「まぁ、それはそうだけどさ。こうして顔を合わせるのは久しぶりじゃない?」
「……そうだけど」
燈真と沙耶の二人は高校を卒業した後、自分の夢を叶える為に燈真は美術系の大学へ、沙耶は倍率が高い名門大学へとそれぞれ別の大学へ進学していた。こうして再び顔を合わせるのは実に高校以来となり、その間は顔を合わせていない為、こうして会うのは久々となる。
無事に大学を卒業し、それぞれの持つ夢を叶える事に成功した二人だが、最後に見たお互いの姿は高校時代の姿が最後。当然、高校の時の姿と今の姿は大きく変わっている。故に燈真は高校の時の沙耶と今の沙耶の姿が大きく違う事に驚きの表情を浮かべていたという訳である。
「んで、沙耶。こうして久しぶりに会った訳だが……何をしたいんだ?」
「んー……無難に買い物とか、お昼とかを一緒に?」
「ん? なんだ、それだけで良いのか。まぁ、そのくらいなら付き合ってやるよ。良い気分転換にはなりそうだ」
「やった♪ そうと決まれば早速行こうよまちけん!」
子供みたいに喜び、燈真の手を取ってデパートの中へ向かう沙耶。承諾したとはいえ沙耶に強引に連行されていく燈真はため息をつきながらもされるがままの状態で沙耶について行く。そうして、沙耶と燈真は楽しいひと時を過ごした。
時刻もお昼に差し掛かった頃、思う存分ショッピングを楽しんだ沙耶は振り回されて疲労困憊の燈真を連れてフードコートにて昼食を摂っていた。普段から自炊し、進んでジャンクフードを食べる事をしない燈真にとってジャンクフードは何処か背徳感があったらしく、喜びを隠せていない。
そんな燈真を見ながら笑顔を向けていた沙耶は何か思いついたのかおもむろにスマホを取り出して操作し、とあるニュース記事を燈真に見せる。そのニュースとは、連日ニュースのトップを飾っていたあの連日行方不明事件の首謀者が自ら出頭したという物だった。
「あの連続事件の首謀者、自ら出頭したのか? しかも学生か……大人がやったって言うならまだ信憑性があるが、珍しい話もあるもんだな」
「そうみたい。でも、行方不明者の総数は十数人ほど。それだけの人数をたった一人で全てやったとは考えにくい、この人以外に何人か協力者が居たんじゃないのかっていうのが警察の見解らしいよ」
「まぁ、普通はそうだろうな。いくら首謀者といえども連日のように他の人にバレる事なく人を攫うなんて事、たった一人じゃ出来ない芸当だし、そう疑うのが普通だ」
「それに、首謀者の学生が言うには『自分にしか見えない不思議な生き物の力を借りて今回の連日に渡る犯行を行った』って言ってるけど……そんな夢みたいな出来事ってあるのかな?」
「……無いだろ。おそらくそいつは眉唾な事を言い、この事件に関わった他の協力者を匿ってると見ていい。ま、その内ボロを出すだろうよ。事件の首謀者が自ら出頭したって事はあの事件は解決したようなもんだしな」
そうだよねー、と笑みを零しながら炭酸飲料を飲む沙耶を他所目に、燈真は心当たりが多すぎた為、それを隠すので精一杯だった。
今回の事件を引き起こしていた首謀者は空想上の生き物である精霊の力を借りてフォルズという化物になっていた。通常ならあり得ない力を行使出来る為、今回の事件を引き起こすのも容易い。更に言えば、首謀者である学生と燈真は一度顔合わせしているのだ。
あの学生が警察に燈真の事を話すというのは考えにくいが、自身が変身する仮面ライダーロードもまた、知らない人が見ればフォルズと同じ存在と言えるだろう。故に今まで以上に他者を巻き込む事が無いように気を付けながらフォルズとの戦いを制していく必要がある。
そんな風に燈真が色々と考え事をしていると、飲み物を飲み終えた沙耶がまたスマホを弄り、先程とは違う画像を燈真に見せる。画質が荒くてハッキリと見えないが、翼の生えた人型のようなものが空を飛んでいる様子を捉えた画像だった。それを見た燈真は何処か心当たりがある事がバレないように気を付けつつ、沙耶に問いかけた。
「……ん? 沙耶、コレはなんだ?」
「私の同期が撮った写真。昨日……だったかな。首謀者の学生が通ってる高校の上空に鳥にしては大きすぎる何かが飛んでたみたいでさ、慌ててスマホのカメラで撮ったんだって。でも、燈真も見ての通り画質が荒くてコレの正体が何なのか分からないって嘆いてたの」
「そう、なのか……(あの時は気づかなかったが、ロードとなった俺の姿を撮られてたのか!? まぁでも、幸いにもぼやけてるのが唯一の救いか…)それで、俺なら何か分かるのかって思ったのか。生憎だがこんなに画質が荒いんじゃあ、俺が見ても何も分かんねぇよ」
「んー、やっぱりそうだよねぇ……コレを撮った同期が『コレってもしかして、未確認飛行物体かも!?』ってはしゃいでたからなぁ…残念」
分かりやすく落胆する沙耶。対する燈真は冷静を装っていたが、内心は冷や汗ダラダラである。それを勘づかれる事が無いように細心の注意を払いつつ、その後も昔話に花を咲かせつつ駄弁っていた。そうして、時間はあっという間に過ぎていく。
燈真と沙耶がデパートを後にした時には、夕暮れ時に差し掛かろうとしていた。振り回される一日となったが楽しくもあり、良い息抜きになったようで、燈真は勿論、沙耶も同じ気持ちだった。
そうして、そろそろ帰ろうと別れようとした時。燈真は沙耶に呼び止められる。呼び止められた燈真は疑問符を浮かべながらも沙耶の方に向き直った。
「ん、まだなんかあるのか?」
「今日はありがと、燈真。久々に会えて昔みたいにバカ騒ぎ出来てさ、嬉しかった」
「なんだよ急に。まぁ、俺も同じ気持ちだよ。ありがとな」
互いにお礼を言い、この場は解散となった。沙耶はバスでここまで来たらしく、次のバスが来るまでバス停で待つとの事。燈真は自転車で来ている為、沙耶に見送られながらその場を後にしていく。そうして、何事もなく無事に自宅へと着いた燈真。
帰って来てすぐにビートルとエルモスの二匹に出迎えられ、風の精霊が目を覚ました事を知らされる。話を聞きたがったが燈真が帰ってくるまで律儀に待っていたという。そこまでしなくても良かったのに、と思いながらも燈真は風の精霊の元に向かった。
仕事場でもある自分の机の上には、大人しく座っている羽の生えた乙女の姿をした精霊の姿があった。その精霊は此方を認識するや否や小さな羽を忙しなく動かして宙を飛び、燈真の目の前にやって来る。その精霊は燈真の周りを飛び回り、何かを確認しているような素振りを見せていた。
「貴方が、私を助けてくれた……人間?」
「あ、嗚呼。そうだけど。そういうお前は? 名前、教えてくれよ」
「名を教えてほしいならまず自分から名乗るのが礼儀じゃない?」
「へいへい、精霊の癖にしっかりしてんな……俺は燈真、剣淵燈真だ。よろしくな」
「燈真……トウマね。私はフィン、シルフィードのフィンよ。よろしくね、トウマ」
「お、おう。よろしく」
連日行方不明事件を引き起こしていた件の学生と契約し、フォルズとして暴れていた風の精霊、シルフィードのフィン。燈真は早速何か知っている事をフィンに聞いたのだが、エルモスと同じように人間界に来たのはいいものの、覇王との契約が切れた影響で力が弱まっている状態のまま彷徨い、意識を失った。
それからどのくらい時間が過ぎたのかはフィンも分からなかったのだが、気絶している所に何者かの手により形容しがたいどす黒い力を流し込まれ、自我と関係なく暴走していたらしい。そこに件の事件の首謀者であるあの学生と出会い、契約を交わしてフォルズとなった……との事だった。
今度こそ何か得られるものがあるのでは、と思っていた燈真達は目に見えて分かるくらいに落胆する。人間界に逃れてきた精霊達を意図的に暴走させ、人間達と契約させてフォルズとし、無差別に暴れさせている黒幕。その手掛かりは未だ掴めていない。
「今回も収穫無し、か。色々聞いて悪かったな、フィン。辛かった事も思い出しちまったろ?」
「ううん、別に良いの。トウマは暴走した私を助けてくれたから、それ以上は何も言わないよ」
「そうか。なら良いんだが……」
辛い事も含めて全て話してくれたフィンに感謝し、そのお礼として料理を振る舞う事にした燈真。最初こそ別に大丈夫だと言っていたフィンだったが、ビートルとエルモスの後押しもあって渋々食べる事に。精霊界には何か禁忌でもあるのだろうかと疑問に思った燈真だが、今は気にしない事にした。
それから燈真の作る料理に舌鼓を打ったフィンを含めた一人と三匹で食卓を囲み、今後の事も考えて燈真は引き続き調理をしていた頃。不意にスマホが振動し、調理の手を止めた燈真はスマホの画面を点ける。通知欄には"悪友"……沙耶からのメッセージが表示されており、『今日はありがとう』の一言のみが書かれていた。
「……お礼を言うのはこっちだよ、沙耶」
小声で呟いた後、沙耶宛にメッセージの返信をしてスマホの画面を落とし、再び調理へと戻る。それから暫くして何日か分の料理を作り終えた燈真はそれらを小分けにして冷蔵庫に仕舞い、風呂の準備をしてから仕事に取り掛かる。
こうして、今日も何事もなく一日が過ぎていったのだが、燈真達が手掛かりを掴めていない黒幕の魔の手は着実に進行していた。その事に燈真達が気づくのは、まだまだ先の話である。
難産、でした。はい(´・ω・`)
長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。なんとか投稿ペースを上げられるよう、頑張ります。
それでは、お読みいただきありがとうございました。また次回(・ω・)ノシ