仮面ライダーロード   作:剣舘脇

9 / 10
( ˙꒳˙ ).。oO(忘れ去られて無いかめっちゃ不安)


episode8 暴風の弓師

 ロードの基本形態とも言えるプリミティブロードへの変身を遂げた燈真と真っ向からぶつかるのは、沙耶の同期である多賀野が土の精霊ノームと契約して堕ちた姿であるノームフォルズ。

 見た目の割に意外と素早く、プリミティブロードの機動力を活かした素早い攻撃もそれを予知していたかのような土の防壁で難なく防がれる。

 

「っんのやろ…!」

 

 龍の力を込めた拳は後一歩の所で土壁に阻まれ、土壁が砕け散る。その一瞬の隙を突いてロードは更なる追撃を仕掛けるが、土を司る精霊ノームの力を振るうノームフォルズの体表は元から異様に硬かった。

 ロードの拳とノームフォルズの体表がぶつかり合うと、まるで金属のような甲高い音が辺りに響き、鎧越しから伝わる鋭い痛みが燈真の拳を襲う。

 

「───い"っ!? かってぇなぁ、おい…っ!」

 

『ひとまず落ち着くがよい、燈真……! 冷静さを欠いたら我らの負けだぞ?』

 

「分かってるんだけどよ……なんかどうもイライラするっつーか、なんつーかなぁ…ったく、イマイチ調子が出ねぇ……」

 

 半ば暴走しているような状態に陥っていた燈真を宥めるビートル。沙耶と再会するまで募りに募っていた自分の想いに蓋をし続けていた燈真だったが、フォルズによって沙耶が拐われた挙げ句、傷物にされかけたという至極最悪な形で爆発してしまったのだ。

 今まで抑え込んで来ていた想いは、止まる事を知らない。それが今、燈真が冷静さを欠いている原因だった。斬撃、掌打、蹴撃。感情のまま、想いのままに振るうそれら全てを難なく防ぎ切るノームフォルズ。その変身者である多賀野は土で出来た顔の奥でロードを、燈真を嘲笑う。

 

『なんだ、騎士みたいな大層れた見た目の割には大した事無いな。お前』

 

「うっせ、その口閉じて黙ってろよ。誘拐犯が」

 

『誘拐犯とは心外だなぁ? 僕はただ、彼女を僕以外の野郎共から守る為にこの力を使ってるだけだよ』

 

「はっ……ざけんな。そんなちんけな理由で、他人を巻き込んで良い理由にはならねぇだろうが! 沙耶を拐う前にどれだけの罪なき人々を巻き込んだと思ってる!?」

 

『そうだね……ざっと20人ほど。御劔さんを入れれば21人かな』

 

「20……か。よぉし、良く分かった。やっぱてめぇはぶっ飛ばす。何が何でもこの手で思いっきりぶっ飛ばす!」

 

 募りに募った沙耶への想いに加え、ふつふつと湧き上がる目の前で自分を嘲笑うノームフォルズへの怒り。双方がごちゃごちゃと混ざり合い、燈真は普段の調子を出せずにいた。

 強引に冷静さを取り戻そうとノームフォルズに問いかける燈真だが、燈真の問いに悪びれる事なくサラッと答えるノームフォルズ。あっけらかんとした答えに、燈真の何かが切れた。逆にそれが冷静さを取り戻すきっかけとなったのは、言うまでもない。

 

「すまん……ビートル、良いか?」

 

『うむ、分かっておる。フィンに交代であろう?』

 

「おう。奴には風が効くんだよな? だったら、そっちで行く。このまま怒りに任せてたら、この手で……この力で守れる物も守れなくなるって考えたら何かが切れてさ、一気に頭が冷えた。心配かけて悪ぃな、ビートル」

 

『冷静を取り戻したようだな、燈真よ。今はそれで良い。反省会は奴を倒してからだ。そうと決まればフィン、お主の出番だぞ!』

 

『はいはーい♪ じゃあ、その子はよろしくね。エルモス』

 

『嗚呼、こっちは俺とビートルに任せとけよ。存分に暴れてこい』

 

 そう言い、シルフィードのフィンを呼ぶビートル。それに応えたフィンは沙耶の安否をエルモスに任せ、暴風を巻き起こしながらロードの元へ一直線に飛んできた。

 暴風によってノームフォルズの攻撃は弾かれ、大きく後退させられる。それを他所目にロードセイバーを納刀し、プリミティブライズキーを外したロードの前に、フィンが佇んでいる。既に準備は完了している、そう言いたげに。

 

『彼奴を懲らしめたいんだよね、トウマ』

 

「嗚呼、自分の欲望を満たす為に沙耶を、他の人達を危険な目に合わせた彼奴を許しちゃおけない。これ以上被害を出させない為にも……頼む、俺に力を貸してくれ、フィン」

 

『勿論だよ、トウマ。命の恩人に力を貸すのは当然だしね♪』

 

「───ありがとう。御礼に後で美味いもん食わせてやるよ」

 

『燈真よ、沙耶……であったか? その子の事は我もエルモスと共に守る故、此方は気にせずに安心して戦うがよい!』

 

「嗚呼、沙耶の事は任せた! さぁ、共に行くぞっ!」

 

 プリミティブライズキーから元の姿に戻ったビートルは沙耶を守る為にエルモスの元へ向かう。それを見送った燈真とフィンは、改めてノームフォルズの方へ向き直った。

 一体何をする気なのか、とでも言いたげなノームフォルズを他所目に、フィンがその身をロードに新たな力を与えるライズキー、風を纏った乙女を模した翡翠の鍵……『ストームライズキー』へと姿を変える。

 それを手にしたロードは躊躇う事なく起動させ、待機状態から起動状態へと変える。収納されていたブレード部分が展開し、起動音が鳴り響く。

 

《loading storm!!》

 

『ん、ストームだって? お前が何をする気かは知らないが……今更何をやったって無駄な足掻きだと言うのが分からないのかな?』

 

「あ? 無駄な足掻き? てめぇがそう思うんだったらよ……それが本当かどうか、これからやってみようぜ。それに悪いが、ここからは俺達の歩む覇道だ。てめぇには指一本邪魔させやしねぇよ」

 

 ロードが何をしようとも此方が完全に勝てる気でいると、如何にも慢心しているといった様子のノームフォルズ、多賀野の挑発にも乗る事なくロードは起動状態となったストームライズキーをロードセイバーへ差し込んで回す。

 

《setup!! storm road!!》

 

 すると、音声が流れてストームライズキーの持ち手部分がロードドライバーの中心となるように折れ、ロードセイバーの鍵穴を埋める形でエムブレムとなる。その途端、風を纏う乙女がロードの背後から現れ、ロードを中心として暴風が巻き起こった。

 生身で触れたらその身を切り刻まれそうな勢いの暴風に乗って讃美歌が聞こえてくる中、ロードは風の力を宿したロードセイバーのトリガーを引いて抜刀する。あの一言を声高らかに叫びながら。

 

『私の風で彼奴の攻撃は防ぐから、今の内にやっちゃってトウマ!』

 

「───嗚呼! ロードチェンジッ!!

 

《我の行く道は豪風の道───ストームロード!!》

 

 音声と共に、ロードの身に変化が起きる。西洋の騎士を思わせるアーマーはそのままに、黒のアンダースーツに風のファイヤーパターンが刻まれていく。

 龍の意匠が刻まれたアーマーの一部は風を纏いし乙女を模したものへと変化していき、龍の翼を思わせるマントは黒と翡翠の二色に色づく。

 最後に龍騎士を思わせる仮面の複眼が赤から緑へ変わり、銀色に輝くアーマーが風を連想させる翡翠へ染まり、変身は完了した。

 

 ───仮面ライダーロードがその身に暴風を纏った鋭き姿、その名もストームロード。今此処に爆誕した瞬間である。

 

「───まずは、一発」

 

 荒れ狂う暴風、その中心に居るロードは宙に浮きながら左手に持つ身の丈以上の大弓「フィン・ストームアロー」を構え、暴風を矢に変えて弓に(つが)えて放つ。

 ロードを守る暴風の壁に攻撃を弾かれ、なんとかして破ろうと四苦八苦しているノームフォルズの隙だらけな腹部に重く鋭い一撃が突き刺さる。余りの威力にノームフォルズはそのまま後方へと叩きつけられた。

 痛みに耐えながら体勢を立て直すノームフォルズの眼前に、ロードが放つ矢の嵐が襲い掛かる。何発か受けたものの、手にした大槌で土壁を創り上げて残りの矢を防いだ。

 その場凌ぎとも言える土壁の後ろでノームフォルズは腹部に走る鋭い痛みを堪えられずに苦悶の叫びを上げつつロードが居る方向を睨む。それと同時に暴風は止み、風の精霊の協力を得て新たな力と姿を得たロードが降り立つ。

 

『お、お前……その姿はなんなんだ?! この僕に一体何をしたぁ?!』

 

「ん? 嗚呼、名乗りたくはないが……まぁいい。これが俺の……いや、俺達の新たな力。またの名を仮面ライダーロード。まぁ、これから倒されるお前は、俺達の名を覚えなくていい」

 

『新たな、力? 仮面ライダーだと? はっ、さっきまで僕の力に敵わないお前如きが新たに力を得た所で何になるんだ? 所詮姿が変わっただけの虚仮威(こけおど)しだろう!』

 

 先程まで血が昇っていた時とは裏腹に至極冷静な口調で語るロード。まるで別人のような雰囲気を醸し出すロードに違和感を抱くノームフォルズだが、姿が変わった所で負ける要素は無いと力任せに大槌を地面に叩きつける。

 大槌によって巻き上げられた土が人の型を得て、それぞれ剣や斧といった多彩な武器を持った兵となる。ノームフォルズが命じ、ロードに向けて襲い掛かるが……

 

「お前の使うその戦術こそ虚仮威しに過ぎない。自分の手を直接汚さず、有象無象を揃えた所で俺達に勝てると思ったら大間違いだと言う事を……今、その身を以て教えてやる」

 

 一対多の状況に陥っても尚、冷静さを失わないロードは再度暴風を多数の矢に変え、大弓に全て番えて放つ。放たれた矢は一本一本正確無比にノームフォルズが創り上げた土の兵を射抜き、射抜かれた跡から巻き起こる暴風によって塵一つ残さず砕かれていく。

 それでも全員は仕留めきれず、接近を許した土の兵に対しては風の力を得たロードセイバー「ロードセイバー ストーム」とフィン・ストームアローの二刀流による斬撃で斬り伏せていく。先程とは打って変わり、風の力を手にしたロードの前にはノームフォルズが使う戦術は全て無に帰す結果となった。

 ノームフォルズに差し向けられた土の兵を手こずる事無く全て片付けたロードはロードセイバーの切先をノームフォルズに向け、問いかける。切先の先に居るノームフォルズは顔に当たる部位を悔しげに醜く歪ませていた。

 

「……どうした。お得意の人海戦術はこれで仕舞いか? この力を手にする前の俺を追い込んだお前の実力は、まだまだこんなものじゃないだろう」

 

『───嗚呼そうだ。僕はまだ負けた訳じゃない!』

 

 自分が圧倒的に有利だった筈が、一瞬にして不利に陥っている事を知ったノームフォルズはこんな所で負けてたまるか、と接近戦に持ち込むべく覚悟を決めて突進してくる。見た目に似合わず、スピードはあるようだ。

 もう後が無いと思い、玉砕覚悟の火事場の馬鹿力を発揮していると思われるノームフォルズ。それを仮面の奥の瞳で見据えていたロード、燈真は剣と弓の二刀流を構え直し、真正面から迎え撃つ。

 

『凡人には到底手にする事の出来ない、誰にも負けない力を得た僕が……お前なんかに、仮面ライダー如きに負ける筈は無いんだぁぁぁぁぁ!』

 

「……そう言っている時点でお前は所詮、その程度という事だ。大切な人を守る為にこの力を振るう俺は、守るべきものを持たないお前より……遥かに強い!」

 

 大槌とロードセイバー、ストームアローの双方がぶつかり合う音が辺りに響く。そのまま鍔迫り合いに持ち込まれるが、常に風の後押しを受けているロードが力任せに大槌を振るうノームフォルズより有利だった。

 力で強引に押し返すのではなく、受け流す。風を味方に付け、風の流れを読み切り、相手の力を其方側に流す事で空振りに終わらせる。それにより、力任せに押し込んでいたノームフォルズの大槌は大きな音を立てて地面にめり込む。

 受け流された事に驚きを隠せないノームフォルズだが、たかが一度受け流されたからなんだ、と懲りずに大槌を構えて再度突進してくるノームフォルズ。しかし、ロードの手により矢の残りの本数など考えずに矢継ぎ早に放たれる矢の一撃に怯み、少しづつ後退していく。

 ロードが手にした新たな力、ストームロードによって先程までの力関係を簡単に覆されたノームフォルズ、その変身者たる多賀野は内心焦りを覚えていた。

 

(どうして、どうしてだよ……! 自らを精霊と呼ぶ変な生き物と契約して誰にも負けない力を得たこの僕が、なんであんな奴……仮面ライダー如きに負けそうになってんだよ……!)

 

 沙耶に対する歪みきった愛の影響で偶然精霊の姿を見れた多賀野は知る由もない。ノームフォルズの振るう大槌による土の衝撃波や土の兵達は確かに強力な力や術に変わりはないのだが、それは対峙する相手に大軍を薙ぎ払う力を持たない、もしくは抗う力や術を持たない場合に限る。特に、風の力は属性相性の関係上圧倒的に不利なのだ。

 その証拠に、ノームフォルズの繰り出す土の衝撃波はロードの持つロードセイバーとストームアローの双方で繰り出す、荒れ狂う暴風に呆気なく押し負ける。それならば、とノームフォルズは懲りずに土の兵を創り上げてロードへ差し向けるが、土の兵達はロードの放つ正確無比な矢の一撃に一人残らず砕け散っていく。

 自分の持つ戦術がことごとく通用せず、どうやっても自分が勝つ未来が見えない。否応なしに突きつけられる現実に、ノームフォルズの変身者たる多賀野は何度も絶望の二文字が頭を過ぎるようになっていく。

 

『くそ……っ! こんな、こんな馬鹿な事が有り得てたまるかぁ! 僕は、この力で御劔さんを守る為に……!』

 

「───守る、だと? 他者を傷つけ、人を不幸にする存在であるお前如きが、俺の大切な人の名を……沙耶の名を口にするな。法で裁けぬ異形たるお前の行く道は……俺が決める」

 

 自分の持つ術が通用しないと分かり、悔し紛れの一言を告げるノームフォルズ。その一言が癪に障ったロードは静かな怒りを込めてロードセイバーをバックルに納刀し、トリガーを引いて再度押し込む。

 それによってライズキーに内包されていた精霊の力が解放され、荒れ狂う暴風を巨大な矢に変える。それを手にしたロードはストームアローに番えて力の限り引き絞ると、鏃の先端を中心に風と風を使役する精霊の力が矢に集約していく。

 

「これで、終わりだ……っ!」

《storm!! load finish!!》

 

 最大まで力が集約した所を見切ったロードは、トドメの一撃をノームフォルズに向けて放つ。精霊の力のブーストを受けた暴風を纏った矢は音速の域を超え、刹那の合間にノームフォルズを貫いた。

 貫いた跡から襲い来る暴風のエネルギーが金属のように硬いノームフォルズの体表を根こそぎ崩していき、そして大爆発を引き起こす。そうして、ノームフォルズは力無くその場に崩れ落ちた。

 最期はやけに呆気なかったな、とロード元い燈真は思い、倒れ伏したノームフォルズの元へと向かう。戦いが終わった事を確認したビートルとエルモスの二体は気を失っている沙耶を連れて燈真の元へ向かっていった。

 

「終わった、のか……嗚呼、そうだ。まだまだ未熟者の俺に力を貸してくれてありがとな、フィン」

 

『どういたしまして、トウマ。約束、忘れないでね?』

 

「勿論だ。男に二言は無い……ってな? さぁて、もう一仕事やらなきゃな」

 

 ようやく落ち着きを取り戻したのか、燈真は不気味な程に冷静だった変身時の口調からいつもの口調に戻っており、笑みを浮かべる。それを聞いたフィンもまた、笑みを零す。

 ノームフォルズの変身者であり、沙耶を含めた女性達の行方不明事件を引き起こした犯人であろう多賀野が一体どういった人物なのか、それを知るべく燈真は崩れ落ちてからピクリとも動かないノームフォルズの顔を見やる。

 ロードセイバーの刃すら簡単に弾き返す体表は風の矢によってものの見事に崩れ落ちており、容易に人の顔が覗き見える。その人物を見た燈真の第一印象は、フレームの無い丸眼鏡を掛けている太り気味の男性。沙耶の同期の一人、多賀野本人だ。

 

(此奴が、沙耶や他の女性達を誘拐していった首謀者の多賀野……か)

 

 気を失っているのかは不明だが、ピクリとも動かない多賀野を見下ろす燈真の心には、沙耶を攫われ、挙句の果てに傷物にされかけた事に対する途方もない怒りがフツフツと蘇ってくるのを感じていた。

 今ならその怒りを遺憾無く発散出来るが、無抵抗の人間を殴るのは外道がやる事と相違ない。フツフツと蘇ってくる強い怒りに任せては人の道を外れる事になる、と怒りを必死に抑えながら、燈真はビートルを呼ぶ。

 

本当は此奴の事を微塵も助けたくねぇが……まぁ、仕方ねぇか。約束は約束だし、何より今の此奴を裁くのは俺の役目じゃねぇしな。ビートル、此奴と契約しているノームの鍵が何処に差し込まれているか分かるか?」

 

「うむ。ノームの鍵は奴の首筋付近に差し込まれておる。いつものように頼むぞ、燈真」

 

「嗚呼、任せとけ」

 

 エルモス、フィンと続いて三度目となる鍵の破壊。もはや手馴れた様子でロードセイバーを振るい、禍々しい何かが織り交ざった土の鍵を鍵を守っている装甲ごと破壊する。破壊された鍵は粒子となり、ロードセイバーの中心にある鍵穴に吸い込まれていく。

 鍵の破壊は契約者と交わした契約の破棄と同義。鍵という契約の要を喪ったノームフォルズの身体は揺らぎ始め、間もなくしてノームフォルズから太り気味の男性、多賀野に戻る。それを確認したロードは変身を解除し、燈真に戻った。

 

「これでやっと終わり、だな。あー……疲れた」

 

「お疲れ様だ、燈真。帰ったらまずは此度の反省会であるな」

 

「あ、そういやそうだったか。奴の挑発にまんまと乗っちまって一時の感情に身を任せそうになっちまったし、仕方ないとはいえ……それを踏まえての反省会かぁ…」

 

「うむ。何はともあれ、また一人同胞を救ってくれて感謝するぞ、燈真よ」

 

「おう。精霊達を助けるのはお前との約束だし、エルモスと共に沙耶の事をしっかり守ってくれてたからな」

 

 ビートルと会話を交わしつつ、沙耶の安否を確認する燈真。沙耶はノームフォルズ……多賀野によって傷物にされかけたのだが、肉体的には傷一つ無い事に安堵する。ただ、精神的に苦痛を受けた事には変わりない。

 肉体の傷は時間が経てば自然と治るものだが、心の傷はかなり厄介で回復するのが至極遅い。ふとした事でフラッシュバックする事も多々ある程に。

 得体の知れない化物に襲われたという事実を完璧に忘れる事は無理だとしても、過去の嫌な記憶として封印し、二度と思い出す事が無いように、自分は勿論周りの人達も細心の注意を払うべきだろう。

 一先ず沙耶の無事を確認した所で、燈真は再び多賀野の元へ歩く。気を失っているのを改めて確認してから、未だに湧いてくる怒りを抑えつつ警察へ連絡。犯人の名前や今居る場所などの詳細な情報を教えた後に沙耶を連れてその場を後にした。

 

(……仮に奴が責任逃れをしようとも、証言なんざ後からいくらでも出てくる。奴の目撃情報や目的は奴が拐っていった女性達から聞けるし、俺が見つけられなかった女性達の居場所は警察が多賀野本人から直接聞き出すだろうしな)

 

 そう思いつつ、沙耶以外に奴の手によって拐われていった女性達の安否を心の中で気遣いながら、沙耶を連れて帰路へつく。因みに、沙耶を探す傍ら同時進行でノームフォルズこと多賀野が拐っていった女性達の捜索も行っていた。

 多賀野が言っていた20人全員、とまでは流石に行かなかったが、ビートル達と力を合わせて捜索し、ある程度の人数は見つける事が出来たのは上々だと考えている。後は警察の管轄下であり、これ以上一個人が首を突っ込む事ではない。

 それはそれとして、此度の事件の犯人である多賀野が変身したノームフォルズを倒し、無事に沙耶を助ける事が出来た燈真はもう二度と怖い目に遭わせない事を心に誓い、改めて帰路に着く。燈真を追いかけるように、燈真の背後では精霊達が次々と付いて行く。

 

 ───その光景を、眺めている者が居るとも知らずに。

 

 

 »»»»»»»»»»

 

 

 それからしばらく時が流れ、燈真の通報によって、連続行方不明事件の首謀者である多賀野が居る五階建ての廃ビルの前には警察が立ち並んでいた。警察の先行部隊がビルの敷地内に突入し、後から何人かの警察が侵入していく。

 その光景を遠目で眺めていた何者かは翼をはためかせてビルの敷地内へ入る。普通なら誰かしら気づく筈なのだが、不思議な事に翼の生えた人物の存在には誰も気づく様子は無い。

 

「さぁて……? ここまで人間達が騒がしくしてるって事は、やっぱやられたか。彼奴も。これで三度目か、俺らの敵ながら中々やるな、仮面ライダーも」

 

 謎の人物はぶつぶつ呟きつつ空を飛び、制服を着た人間数名が太り気味の男性を取り囲んでいる光景を他所目に一際破壊の跡が目立つ場所へと向かっていく。

 ロードの必殺技の影響を大きく受け、もはや何の役にも立たない瓦礫の山と化している壁の元へ向かった謎の人物は、何か無いかをおもむろに探し始める。そうして、数分も経たない内にお目当ての物を見つけた。

 

「お、あったあった。例の仮面ライダーとやらは精霊の鍵は破壊出来ても流石に()()()()()()完全に破壊は出来ないみたいだな。()()()()から渡されてる力の一端だからもしやとは思ってるが、んな事は杞憂だったな」

 

 そう言いながら、謎の人物は手にしたものを眺めていた。前回暴れていたシルフィードフォルズ、フィンの暴走のきっかけとなっていたものと同様のドス黒く形容し難い何かで縁取られた鍵のようなもの。

 ただ、それも前に見つけたものと同じようにブレード部分のみが破壊されていた。持ち手部分のみ残されたそれを慣れた手つきで飲み込もうとした直後、何者かに呼び止められる。謎の人物を呼び止めたのは、見た目は二十歳くらいの女性らしき人物だった。

 ただ、女性らしき人物もまた、鍵だったものを飲み込もうとしていた謎の人物と同様に翼を持ち、額からは二対の角を生やしている。その女性らしき人物を見た謎の人物は嫌そうに顔を顰めた後に悪態を付く。

 

「んだよ……って、お前か。一体何の用だ? あのお方の力の一端であるコレの回収は俺の役目だし、お前の役目じゃねぇだろ? なぁ、()()()()さんよぉ」

 

「あら? その様子だとまた失敗のようね、()()()。精霊界に住む精霊達を利用し、人間達と強引に契約させて暴れさせるのは良いんだけどねぇ」

 

「ったく、文句なら俺じゃなく奴に言えよ。我らがオーディー様を討ち取った憎き覇王とやらに似た奴によぉ」

 

「覇王……嗚呼、前に貴方が言っていた彼奴の事? 確か、仮面ライダーとかなんとか」

 

「嗚呼そうだよ。彼奴が現れたせいで俺が目を付けた精霊共はあのお方の力から解放されてやがる。オマケに奴の力になってやがるしよ……コレで三度目だ、正直嫌になるぜ」

 

 そう言いながら姿を現した、角と翼を生やした女性らしき人物……バルバラにベノムと呼ばれた人物は持ち手部分のみになった禍々しい鍵を飲み込む。そうして、今回得られた情報を反芻していった。

 

「……ある程度予想はしてたが、今度は風の力を得やがったか、彼奴。風の力という事は、前に倒された風の精霊だな。ったく、着々と力を物にしてやがる」

 

「これで、無、火、風の三つの姿を得た感じかしら、仮面ライダーは」

 

「そのようだ。流れ的には……次はおそらく土の精霊が奴に力を貸すだろうよ。そうなりゃまた面倒な事になりやがる。いい加減、奴を仕留めなきゃな」

 

「ま、それはそれとして。ベノム、次の精霊に目星は付けているんでしょう? その時にやっちゃえばいいのよ。いくら仮面ライダーが強くても、隙は絶対にある。無防備な所を狙えば呆気なく事切れると思うけど?」

 

「んまぁ、それもそうか。俺達()()が仮面ライダーだかなんだか知らねぇ奴に怯えてコソコソ隠れて鍵を回収するみっともねぇ真似はこれ以上したくねぇしよ」

 

 互いに駄べりながら、悪魔の二人……ベノムとバルバラはその場を後にするべくお互いに翼をはためかせて空へ舞う。その真下では、事情聴取という名目で警察に連行されて行く多賀野の姿があった……。

 そうして、バルバラとベノムはノームフォルズとロードの戦闘区域だった廃ビルの敷地内を出る。その後、バルバラはベノムと別れて一人、単独で行動を開始。その道中で、ある事を反芻していた。

 

(ベノムには言ってなかったけど、精霊を連れた人間を見かけたのよね。もしかして、あの人間が私達の邪魔をしている仮面ライダーの正体……は流石に無いか。この世界に生きる人間は精霊は勿論、私達悪魔の存在すら認識していないようだし? ま、個人的に接触してみましょうか)

 

 実はベノムと合流する前のバルバラは精霊を連れた人間……剣淵燈真の事を遠目から認識していた。明らかに精霊の存在を認知しているような、そんな素振りを見せていた燈真の事が気になっている。

 しかし、バルバラはその事を()()()ベノムには伝えなかった。個人的に燈真と接触を図り、上手い事始末しようと考えている為だ。

 バルバラとベノムを含む悪魔達が望むのは、悪魔達があの方と呼ぶ者の完全なる復活。それがかつて精霊界を統べる覇王に葬られたオーディーの復活なのかは……現状定かではない。

 燈真達が暴走した精霊、フォルズとの戦いの裏では悪魔達の陰謀が一つ一つ進んでいる。その事を燈真達が知る事になるのは、まだ先の話である。




やっと書ききれた……めっちゃ時間かかった……
個人的に、二話目辺り(だった筈)から出していた謎の人物+今回出した新たな人物両名に名前を付けられた事に安堵してます(いつまでも謎の人物のままはちょっと無理があった←)

それでは、今回もお読み下さりありがとうございました。
また次回(・ω・)ノシ
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