さようなら、いつかまた……   作:赤いUFO

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「で? どうするつもり?」

 

「どうするって?」

 

 アンナの質問にまん太は首を傾げた。

 鈍いまん太にアンナが呆れた様子を見せる。

 

「もしもその葉山ってヤツが、邪な未練を残していたらってことよ。例えば、自分を轢いた相手に復讐したい、とかね」

 

 死んだ人間が恨み辛みの残さず、何て言うのは希だ。

 むしろその方が多い。

 そうでなければ地縛霊になど成りはしない。

 

「いや、それは……」

 

 口ごもるまん太。

 彼とてその事をまったく考えてなかった訳ではない。

 ただ、昔のクラスメイトを信じたかったのだ。

 返答出来ないまん太に葉が伸びをして笑う。

 

「そんなこと今から心配してもしょうがねぇさ」

 

「葉くん……」

 

「取り敢えず会って話を聞いてみようぜ? それから決めても遅くはねぇさ」

 

 楽観的な葉の発言にアンナは息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葉山さん……」

 

 まん太に話しかけられて葉山葉月は寝惚けた目が覚醒するように焦点が定まる。

 

「小山田くん……? あぁ、小山田くんだ……」

 

 現実を結び付けるようにまん太を呼ぶ葉月。

 そうすると、意識もハッキリしてきた。

 

「私、どうしてここに……」

 

「覚えてねぇんか? オメェ、ここで車に轢かれたらしいぞ」

 

「葉くん!?」

 

 まるで昨夜の食べた物でも訊くような気安さの葉にまん太が声を上げる。

 しかし、葉月は思いの外平静だった。

 

「あの日、確かテストがあって……だから参考書を見ながら歩いてて……それから……それから……そこからよく思い出せないの」

 

 心ここに在らずと言った様子を見せる葉月。

 それを聞いた葉は更に会話を続ける。

 

「そっか。なら何か心残りとかねぇんか? 出来る限りの協力はするぞ?」

 

「心残り……」

 

 ぼんやりと周囲を見回して考える。

 すると葉月はまん太を見た。

 

「よく分からないけど、小山田くんを見てたら何かこう、沸々と

 沸き上がってくるモノが……」

 

 葉月の中でまん太に対しては何らかの強い感情を残しているらしい。

 

「アンタ、なんかしたの?」

 

「してない!? してないよ!!」

 

 アンナの視線に両手と首を振ってジェスチャーするまん太。

 そもそも殆んど話したこともないのだからまん太の反応も当然である。

 

「うーん。まん太が何かするとは思えんけどなー。まぁでも、他には何かないんか?」

 

 葉の質問に葉月は再び考え始める。

 

「お母さん……」

 

「ん?」

 

「そうだ。お母さんが心配……」

 

 葉月にとっての唯一の身内。

 残された母がどうしているのか、不安でならない。

 それを聞いた葉はそっか、と笑う。

 

「なら、オメェさんのかーちゃんの所に行かんとな」

 

 極めてゆるい声で葉はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉山葉月の家は事故現場からそう離れてない小さなアパートだった。

 まだ葉山の名札がかかっており、インターフォンを鳴らす。

 すると中から三十代後半くらいの女性が出て来てた。

 その容姿も葉月にそっくりであり、一目で母親だと分かる。

 

「どちら様?」

 

 不思議そうな顔をする葉月の母にまん太はどうにか言葉を吐き出す。

 

「あの! ぼく達、葉山さんの友達で……えーと、お線香を上げに来たんです!」

 

 まん太の言葉に葉月の母は驚いた様子でパチパチと瞬きをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉月の母は嬉しそうにまん太達を招き入れて麦茶を出してくれた。

 

「ごめんなさいね、何にも無くて。あの子にお線香を上げに来てくれる友達が来るとは思わなかったから」

 

「いえ……」

 

 もう葉山葉月が亡くなって数ヶ月経ち、疑いもせずにまん太達を招き入れたのはそれだけ嬉しかったからか。

 葉月の遺影に手を合わせると、葉月の母が話始める。

 

「あの子、勉強ばかりだったでしょう? 恥ずかしながら、葉月に友達が居たことすら知らなくて……」

 

 一息ついて葉月の母は話しを始める。

 

「小さい頃に私が夫と離婚してね。それから幾つかのパートを掛け持ちして生活してたんだけど、それが良くなかったのかしら。あの子は遊ぶこともせずに勉強ばかりするようになって。"良い学校を出て。将来良い会社に就職して、お母さんをうんと楽させてあげるから"それがあの子の口癖だったの」

 

 まん太が隣に立っている幽霊の葉月を見る。

 彼女はただ、無表情で母の話を聞いていた。

 

「あの日もね。テストがあるからって夜中まで勉強して、眠そうに家を出て。そのまま……」

 

 事故に遭ったのだと俯く。

 テスト、という言葉に葉月が少し反応したがそれに気付いたのはアンナだけだった。

 

「テストで良い点を取るよりも。将来良い会社に入るよりも。元気で生きていてくれれば……親はそれだけで幸せなのに……」

 

 目を閉じている葉月の母。

 泣くのを堪えているのは娘の友達の前だからか。それとも悲しみに慣れてしまったのか。

 顔を上げるとフッと笑う。

 

「でも最期に貴方達が来てくれてよかった」

 

「それはどういう……」

 

「実は来週……ここを引き払って実家に戻ることにしたの。葉月を亡くしてから最近ようやく色々と考えられるようになったから。本当にありがとう。葉月に手を合わせに来てくれて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉山家のアパートを出て少し歩き、まん太は葉月に話しかける。

 

「それで葉山さん……これで心残りは……」

 

「ごめん。お母さんを見て安心したけど、まだ未練があるみたい」

 

「そっか……」

 

 母親の現状を知れば未練が無くなると思ったが、そうではないらしい。

 しかし葉月は続ける。

 

「うん。でも思い出したよ。私の未練……やり残したこと」

 

「え?」

 

 葉月はまん太に向き合うと、小さく笑ってお願いをした。

 

「小山田くん。私と、テストで勝負してくれないかな?」

 

 

 

 

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