パクパクですわ!のキャラに転生したんだけど、何か違いますわ…… 作:クレナイハルハ
パクパクですわ!!(挨拶)
お待たせしました、それでは本編へどうぞ。
アーリースタイルとシンボリルドルフ、この二人が競バ場で相見える数時間前の事だった。
アーリースタイルがアグネスルクシオン、ナナシノテイオー、ワイドネイチャと暮らすアパートにて。
「おはよう……おや?今日はアーリの当番だったはずだがワイド、何故君が朝食を?」
「あ、シオンさん。なんか、昨日アーリに頼まれちゃいまして。何でも朝早くから用事があるみたいなのでご飯を食べたらすぐに出掛けるらしいんですよ」
「ふぅん?珍しきこともあるものだねぇ」
基本的にアーリースタイルは平日の朝は一定の時間と時間の間に必ず起きていた。だが昨日ワイドにそのように告げてもなお、いつもより寝坊しているらしきアーリースタイルにシオンはそんな日もあるのかと驚きの声を漏らしつつ、ワイドの作る朝食を覗き見る。
アーリースタイルの家での家事は基本的にアーリースタイルかワイドネイチャが行っている。
ちなみにだがナナは既に朝ごはんを食べるため、リビングに集まっている。ワイドが朝食を作り終え、リビングのテーブルに並べるが未だに起きてこないアーリースタイルに三人は流石に違和感を感じた。
「アーリ、まだ起きてこないの珍しいね」
「そうだねぇ、夜更かしはしてなかったはずだが」
「むしろ、いつもより早く寝てましたよね?それに朝から出掛けるって言ってましたし流石に起こした方が……」
「ふむ、なら私が起こしてこよう。ちょっと待っていてくれ」
そう言いながらアグネスルクシオンは立ち上がり、アーリースタイルの部屋へと向かう。
アーリースタイルの部屋に入る、棚には沢山のロボットのプラモデルやフィギュアが飾られており彼女らしいと感じる。
そんな部屋で布団を敷いて寝ている彼女の近くには、膨らんだリュックサックが置いてある。恐らくはあの荷物を持って出掛けるのだろう。
そう思いながらアーリースタイルの元に近寄る、彼女はいつものように静かに呼吸して眠っている。
体を揺すろうとアグネスルクシオンが手を伸ばした時だった、アーリースタイルがゆっくりとその目蓋を開けた……次の瞬間、アグネスルクシオンはとてつもないプレッシャーを感じ体がブルリと震えた。
同時刻、リビングに座っていたナナシノテイオーは即座にアーリースタイルの部屋の方向を睨み付ける。そして立っていたワイドネイチャは体を震えさせながら座り込んだ。
「この、プレッシャーは……」
「なに、これッ……!?こんなの感じたことないよ……」
恐れた様子で体の震えを押さえるワイドネイチャと、僅かに冷や汗を浮かべるナナシノテイオー。
彼女達は一瞬だが感じたプレッシャーに恐れた、ナナシノテイオーは常にレースに勝ってきた。
どのようなコンディションであろうとも、だが今感じたそのプレッシャーを持つウマ娘とレースをすれば、自分のコンディションが例え万全でも勝てるだろうか?そんな考えが脳裏に過る。
まるで金縛りにあったかのように動かないアグネスルクシオン、彼女はアーリースタイルから発せられたプレッシャーに疑問を浮かべていた。
彼女は今日、用事があると話していた。
だが、用事としか自分達は聞かされていない。
ふと近くに置かれているリュックから以前にみた彼女の勝負服らしき物が少しはみ出ていた。
恐らくは、いやまさか……彼女は何らかのレースをするつもりなのだろうか。
だとするなら勝負服を?何故私達にレースを行うことを誤魔化す必要があった?
そんな事を考えていると、アーリースタイルはゆっくりと体を起こすと、口を開いた。
「おはようございますシオン、どうかされましたか?」
「あ、あぁ。おはようアーリ、君が朝に出掛けると言っていたのに起きてこないから起こそうと思ってね……」
「すみません、どうやら長い夢を見ていたようですわ」
そう話しながら彼女は何処か遠くを見つめながら笑っていた。
その後、先程のプレッシャーが嘘のようにいつも通りの姿を見せていた。
さすがに、今回のアーリースタイルの様子を見逃すわけにはいかない。
朝食を食べ終え、出掛ける準備をすると言い席を外した時、即座にアグネスルクシオンはナナシノテイオーとワイドネイチャの二人に今日の彼女は何処か変だと話し、アーリースタイルが出掛けたのを確認して後を追うこと提案した。
アグネスルクシオンの発言にワイドネイチャとナナシノテイオーの二人は頷き、即座に彼女の後を追い始めた。
一方で、メジロ家のメジロアサマの元に一通の手紙が届けられた。
手紙の差出人にはヤミノビジンと書かれており、内容はこの時間に○○○競バ場の観客席へと来るよう書かれていた。それと同じ内容の手紙がメジロマックイーンの元にも届けられており、メジロ家の二人は共にレース場へと足を運ぶこととなっていた。
メジロマックイーンとメジロアサマその二人が競バ場へとたどり着いた時、競バ場からは酷くピリピリとした空気が漂っており、ただ事ではないことが察せられた。二人が恐る恐る競バ場の観客席へと出た時だった、時を同じくしてアグネスルクシオン、ナナシノテイオー、ワイドネイチャも観客席へとたどり着きアグネスルクシオン達とメジロマックイーンはお互いがこの場に居合わせたことに驚く中、ガコンッと聞きなれた出走を示すゲートの開く音が聞こえた。観客席へとたどり着いた五人のウマ娘達が見たのは、競バ場を駆ける二人のウマ娘の姿だった。
「ふへへ、これで頼まれたことはやったべよ三女神さま。これで例の光景を見せてもらえるんだべか?」
「もちろんさ、さて取りあえずこの世界線のゴールドシチーちゃんの映像でいいかな」
「やっぱり曇らせは最高だべ……曇ったシチーさんは最高に美しいべ……」
ガコンという音と目の前のゲートが開いた瞬間、踏み出した足に全体重をかけて芝を踏み込み地面を蹴り飛ばす要領でレース場を駆ける。
呼吸を整え走るテンポを一定にし、自分のペースをキープする、これはウマ娘として長距離を走る上で大切だと教えられた。
私がまだ人間であった頃、苦手であった長距離を走る際にリズムを一定にすることが大切だと聞いたことがある。そして三女神様の呼んだウマ娘達とのレースの中で経験したレースの中で自分の走り方に落とし込めたのが今の私の走り方だ。
脚質差しのシンボリルドルフに対して私の脚質は先行、逃げの適性があるらしく今のところは私が彼女の前を走っていることは間違いない。
後はこのペースを守って、最後の一周で一気に突き放すだけ。三女神さまのいう私の走り方は前半は先行し、最後に全力で差すというものらしい。
そんなことを考えていると、私のすぐ背後にシンボリルドルフさんがついた。
少し不味い、今シンボリルドルフさんは私を前にすることでスリップストリームを使おうとしている、スリップストリームとは直前を走行する人物、物体を抜き去る際に用いられる技術のことだ。
夢ではスペシャルウィークさんやハルウララさん、ブリッジコンプさんやライスシャワーさんが行っていたのを覚えている。
特にライスシャワーさんのはヤバい、急に語彙が失くなってしまいましたがそれほどにヤバい。
音もなく静かに走る彼女は、気がつけば背後で私やそのレースで前を走るウマ娘の背後を走りスリップストリームを使っており最終直線で一気に差してくる。
三女神の話していた彼女の二つ名が、アサシンと呼ばれていたのも納得だった……いや納得しかなかった。彼女が後ろを走っている時に聞こえてくるのだ。
楽しそうな声で「ついてく、ついてく♪」「レコード、レコード♪」と呟く声が。
もう絶望しかないのである、さながら有名な魔王の歌がきこえてくるよう、引き離したとしても最終コーナーで別のウマ娘の後ろにピッタリとついてスリップストリーム使って体力を消費せずに追い付いて来て差しきってくるのだから。
三女神様のフィールドのレコードを何度更新したことか、アドマイヤデネブさんスンとしながら走ってましたわよ?後半は対抗心を燃やしたのか、ライスさんをマークして走ってたけど。
そんな経験からこのまま、後半に持っていかれたら不味いと判断した私は、あえて左右に大きく動きながら走ることでシンボリルドルフさんにスリップストリームを使わせないよう動く。
だが、即座にシンボリルドルフさんは私に対応して私の背後を取る。
この状態を維持して最後に持っていくのは不味い、ならここで大きく突き放せばいい。
競バ場の三周目に入ろうとした瞬間、私はそれを発動させた。
胸のリミットドロップがドクンと鼓動し、気付けば私は一本の道を歩いており私の背後にはシンボリルドルフはいなかった。
これは誰にも真似できない、させたくない私だけの道。
沢山のウマ娘達の歩む道をウマ娘達を追い抜き前を歩いていく、ゆっくりと彼女達の一番前を優雅に歩む。
『生きること、それは奪うこと…さぁ、蹂躙の時間ですわ』
歩きながらゆっくりと瞳を閉じ、スイッチを切り替えるように私は瞼を開く。瞳には先程まであったはずの温かなもソレは無くなり、冷たく変わっていた。
冬の氷のように冷たく脆い、夜のように暗い瞳で堂々と目の前の道を進みながら後ろ髪を手でさらりと靡かせる、私の口は獲物を前にした肉食獣のように笑っている。
外は冷たく冷静、だが内に秘めるのは静かに強く、激しく青い炎が、勝ちたいという思いが燃え上がっている。
『さぁ、全てを奪いに行くとしましょう。覚悟はよろしくて?』
【
景色が競バ場へと戻る、次の一歩を踏み込む私の足が先程より強く大地を蹴り加速する。
さぁ、どう対処してきますか皇帝さま?
ガコンとゲートが開いた瞬間、即座にゲートから飛び出す、だがそれは彼女も同じだ。
私より僅かに先にいくウマ娘、彼女は別世界のメジロマックイーン。故にこの世界でテイオーとのレースでみたような先行策を講じてくる事は予測済みだ。
以前に映像で見たレース、それこそ彼女の体調が万全ではないときの走りも先行よりのものだったことを覚えている。
故に私は何度も彼女の走りを思いだし、鍛練を積んできた。
彼女は異世界とは言え数々のG1レースや重賞レースを無敗で制してきたと言う。
私とて、7冠ウマ娘。
それがどれ程の偉業か理解している、こんな私でも敗北はあった。
だが、彼女にはそれがない。
私は走りながらアーリースタイルのすぐ後ろにつく、さてアーリースタイル。
君はこれをどう対処する?そう思っていると即座に私が行っている策、スリップストリームを使おうとしていることに気付いたのか、左へと大きく動く。それに合わせて私も左へと動き、彼女の後ろを取る。
それを幾度が繰り返した後に、アーリースタイルは左右へと動くのをやめた。
彼女の走るリズムを崩すのは失敗した、恐らくは幾度もレースに出走した事で身に付いた感覚でリズムを守っていたのだろう。
だが、レース中に左右に動くのは体力を消費する、故に私は彼女のリズムではなく体力を削らせた、これが最終コーナーでどうなるのか。
そう考えていた時だった、目の前の景色が変化する。
それは一本の道を歩む彼女の姿、道を歩むウマ娘達を追い抜き一番前を走る彼女は優雅でありラモーヌを彷彿とさせる。
そんな中で彼女は一瞬で変化する、先程までの優雅さが嘘のように冷たい瞳で口は猛禽類のように荒々しく笑う彼女はレースに勝ちたいと言う思いで背後に青い炎を燃やす。
ゼロ度の炎、そう表現するのが相応しいだろう。
これが、彼女の領域……
加速する彼女には追随する形で走る、領域は発動させたら大きく体力と精神力を消費する。
例え今を乗り切るために切り札とも言えるそれを切ったのならば、このまま私から逃げきる策があるのか?まさか彼女は掛かっているのか?だがもしそうなのであれば好機だ。
彼女の後ろに追従して3周目の中盤に入ろうとした瞬間、私は一息入れて足に力を込める。
……差しきらせて貰う。
タイミングを見て彼女の横にずれ、一気に加速して彼女を追い抜き彼女の前へと出た次の瞬間、天から雷が落ちる。
それは事実ではなく、比喩であり私が領域を発動した証である。
彼女の領域を塗り替える、私の領域で。
それはすべてのウマ娘の幸福を願う私を支えてくれた杖、トレーナーくんと共に歩んだ私達の勝ち取った偉業、栄光の7冠への道のり。
道がないのであれば自ら切り開く、前例がないのであれば私が作る。
『故に我が前に道はなし、なればこそ…
勇往邁進ッ!道は自ら切り拓くッ!』
【汝、皇帝の神威を見よ】
雷轟電撃……さぁ、勝負の時だ。
アーリースタイル。
目の前のレース場を走る二人のウマ娘、皇帝シンボリルドルフとアーリースタイル、彼女達の模擬レースは見ていてまるでG1レースを目にしているような感覚に襲われる。
「なんで、なんでアーリはあの人とレースを……」
ナナシノテイオーの言葉にその場にいたメジロマックイーンは驚いた様子で口を開いた。
「あ、あなた達はなんでここに?それに、彼女が今日レースすること知らないんですのね……」
「今回ばかりは私たちも何も聞いていない、朝のアーリの様子が変だからここまで着けてきたんだが……まさか彼女とレースをしているとわね」
「私は、お婆様と私宛に手紙が届いたのです。この時間にこの競バ場へと来るように、と」
「じゃあ、お二人にその手紙を出した差出人は一体……」
メジロマックイーン、メジロアサマへと手紙を出したであろう人物への謎が深まるなか、追い抜こうとするシンボリルドルフ、抜かせまいと加速するアーリースタイルをじっと眺めていたメジロアサマはレースする二人から目を離さず口を開いた。
「彼女と、あなた達が報告に上がっていた異なる世界のウマ娘なのですね……ところでマックイーン」
「は、はいお婆様……」
「このレース、良く見ておきなさい」
「え?」
「あなたからの報告で彼女の過去について読みました、ありえないと考える気持ちはありますが、あの走りをみれば嫌でも分かります。あの子が話すことを信じるならばあの子の世界でメジロ家が没落したのは恐らく事実なのでしょう……」
「お婆様……」
「そして今あの場で走るあの子は、没落したメジロ家を後ろ楯すらない状況で復興させた……全てを失くし無理を重ね、レースを勝利してもなお何度も己の無力感に苛まれた先に一人で。」
彼女はどれ程に苦しみ、自身の無力感に苛まれて悲しんだのか、メジロマックイーンには分からない。メジロアサマの話を聞くメジロマックイーン、同じく話を聞いたナナシノテイオー、ワイドネイチャは顔を僅かに曇らせる。
一方で何故かアグネスルクシオンは僅かに目をそらしながら話を聞いていた。
「彼女は謂わばあなたが辿るやもしれなかった未来の姿……今後、あなたが走るであろう長い道のりの先にいるのです。あなたの走りに活かせる何かがあるやもしれません、しっかり目に焼き付けなさい」
レースする二人の攻防がついに決着を迎えようとしていた。最後の一周へと入ったとき、アーリースタイルが強く芝に足を踏み込んだ瞬間、彼女の領域が顕現する。
誰よりも
たった一人で背負った一族の未来。
そんな彼女が得た答えと走り、氷のように冷たい瞳の奥底には、熱く燃え盛る青い炎が見える。
多くのレースから得た経験から予測される動きへと冷静な判断と足運びの裏腹に、踏み込まれる足は力強く口はまるで獲物を前にした獣の様に笑っている。
生きるためには
『名誉』も、『勝利』も、『栄光』も
『全てを奪いに行くとしましょう。覚悟はよろしくて?』
「すごい、あれが……」
「…………」
加速するがそんなアーリースタイルの姿に、メジロマックイーンは初めて彼女の万全の姿でのレースを見た故に、あの動画とは格段に違う足運びや速さに感嘆の声を漏らしつつその走りから得られる学びを探す。
まるで彼女の生きてきた全てを表したような領域に、メジロアサマは隣にいる孫を彼女と重ねると同時に感じた。彼女の領域での言葉『覚悟はよろしくて?』、それは他者ではなく自分自身への問いかけのようにも感じられた。
同じ道を歩んでいた筈の彼女がここまで背負い込む事になった事実に、向こうの私は一体何をしていたのだと怒りが湧く、それでも尚レースからは目を離さない。
その時だった、雷が落ちる音が聞こえた。シンボリルドルフの領域がアーリースタイルより先へと駆けさせる。彼女より前へとシンボリルドルフが走り出た、何故か先程より僅かにアーリースタイルの速度が落ちた。
アーリースタイルが恐らくは領域、ゾーンを使ったのは早かった、故に体力が削られ苦しそうだと感じる。まさか、先程まで掛かっていた状態で走っていたのか?
アグネスルクシオンはそう考えていると、だんだんアーリースタイルの顔が焦ったような、驚いているような表情で走っていることに気付いた。
アーリー?一体どうし……ッ!?
レースを見守っていたアグネスルクシオンの瞳にアーリースタイルの胸に灯る宝玉……リミットドロップが映る。
ソレが、見えた瞬間にアグネスルクシオンは自分の体温が下がるのを感じた。
「何故だ、そんな………」
「シオン?」
「どうしたんですシオンさん、顔色が……」
気がつけば、その場にいた全員を他所にアグネスルクシオンは観客席の一番前へと走っていた。
「何故だ、何故彼女のリミットドロップは点滅している!」
アグネスルクシオンは目の前の手すりから身を乗り出す勢いでそう叫ぶ。ダーレーアラビアンと名乗ったウマ娘の話したことが事実なのであれば、アーリースタイルに与えられた領域の制限は1分間。
それを越えて領域を使ったならば、骨折の恐れがある。それ故に彼女に与えられたそれを阻止するための安全装置。
だが、目の前で走っているアーリースタイルは領域を発動してから、どう考えても30秒も経っていない筈だ。
なのにリミットドロップは
危険を知らせると同時に、骨折する事を示すカウントダウンを。
「まだ、彼女のまだ領域を使って30秒すらたっていないというのに何故だ?!」
「シオン、一体どうし……ッ」
「そんなっ!?まだアーリが領域を発動したばかりなのに、もう……」
アグネスルクシオンを追いかけてきたナナシノテイオーは、アーリースタイルの胸元で点滅するリミットドロップに声を失い、ワイドネイチャは目を見開き驚愕する。
「くッ……アーリッ!今すぐ走るのを止めるんだッ!!」
だが、レースに集中する二人の耳にその言葉は届かない。そんな彼女達の必死の行動を嘲笑うかのようにリミットドロップの点滅は加速する。
確かに、アーリースタイルの領域は三女神の一人であるダーレーアラビアンによって1分間と限定され、それ以上走り続ければ骨折すると忠告されている。
ならば何故、彼女のリミットドロップがこれ程に早く点滅を始めたのか。
その答えは、簡単である。
彼女が
彼女は三女神との特訓で何度も領域へと踏み込み、自身で制御するまでに成長した。
そして三女神が様々な世界線より呼び寄せた強者とのレースを経験、勝利するまでに彼女は1日では考えられない程の時間、領域を発動していた。
三女神との特訓では一週間が経過しても現実時間では1時間である。
アーリースタイルは今日起床するギリギリまで走り続けていた、果たして彼女はどれ程の時間領域を発動し続けたことになるのか。
三女神達はそれぞれが圧縮した彼女の領域を発動した時間をそれぞれ10秒負担することで、何とかアーリースタイルが今日30秒間、領域を発動させられるようにしていた。
「一体、どうしたんですの!?」
突然血相を変えて観客席の最前列へと向かったかと思えば、アーリースタイルへと走るのを止めようを叫ぶアグネスルクシオンに追いかけてきたメジロマックイーンとメジロアサマは困惑した様子を見せる。
「このままじゃ、早くレースを止めなければッ!?」
「ほ、本当になんなんですの?」
焦った様子で髪をグシャグシャとかきながら考えるアグネスルクシオンは話せないと感じたのかワイドネイチャがメジロマックイーン達に説明する。
「あの……そのアーリは領域を一分間使い続けたら骨折するかもしれないって言われてるんです。アーリの胸についてる奴、点滅してますよね。あれはアーリさんが領域を使っていて、残り30秒で危なくなった時に点滅するんです……」
「そんなッ!?」
ワイドネイチャの説明にメジロアサマ、メジロマックイーンは即座にシンボリルドルフの後を追いかけるアーリースタイルの勝負服についたリミットドロップを見る。
先程から点滅する速度がどんどんと加速していく、それと示すようにアーリースタイルとシンボリルドルフの差が開いている。
このままじゃ、そう考えていればアーリースタイルとシンボリルドルフは最後の直線へと入ろうとした時だった。
アーリースタイルのリミットドロップの点滅が消え、宝玉の光が消える。
その瞬間、まるで時が止まったかのように静かになったのを感じた。
「アーリッ!」
アグネスルクシオン、ナナシノテイオー、ワイドネイチャの悲壮な叫びが競バ場に木霊する。
先程まで、後ろを走っていた筈のシンボリルドルフが私の先を走っている。
追いかけようと、追い抜こうと足に力を入れる、酸素を取り入れようと大きく息を吸う。
足が重くて呼吸が乱れて、うまく息が吸えなくて苦しい。
まるで彼女と私は天と地なのだと感じられる。
これが最初から
墜ちていく……空へと昇る資格のない人間であった私と、翼を持つウマ娘である貴方。
胸元のリミットドロップの点滅が早くなっていく、でもこれを維持しなければシンボリルドルフには勝てない。
でも目の前の彼女との差は広がるばかり……これが、限界って奴ですわね。
諦めが胸の内を支配し体から力が抜けていく。
リミットドロップから光が消える、何故か目の前も周りも全部が真っ暗に見えて、気付けば私は、走る足を止めていた。
「まぁ、元人間にしては良くやった方…ですわよね」
俯き、自身の足を見つめていると、ふと言い訳のように口から諦めの言葉が溢れた、その時だった。
『何いってるんですか、私達に勝ったんですから勝たないと許しません』
「スペシャルウィークさん?」
聞こえてきた声に思わず夢で出会い競った彼女の名前を呟いた。
『そうだよ!ここで諦めるなんて事、姉弟子である私が絶対に認めないんだからね!』
『そこで諦めたら後悔しかないと、ライスはそう思うな?』
『アーリーちゃん!最後まであきらめないで!がんばって、がんばって、がんばったら…キセキは起こせるんだから!』
「デネブさんにライスさんにウララさんまで……」
『最後の最後まで、レースは分からないから楽しいんだよ?』
『モブの私ですら諦めずに今も頑張ってるんですよ!?貴方も頑張ってくださいよ!!』
「ボーイさんにコンプちゃんまで……ですがこれ以上は私の足が」
─ドクン─
私の中の魂が、レースで走るのを諦めるな、敗北や負ける未来に…決められた運命に抗え。
定められた限界など壊してしまえと強く叫んでいる。
限界って、何だろうか。
ふと、そんなことを考えた。
私の知る限界、それは定められたもの?違う、限界は自分が作るもの。
心臓が鼓動する、息を吸い肺へと送られた酸素が身体中を巡り先程まで重く感じた足を動かす力になる。
限界、それは
そうだ、弱気になってしまったらダメだ。
ここで負けたら、ここまで私を鍛えてくれたダーレーアラビアンさん達に、並走に付き合ってくれたシオン達に共に申し訳ない。
体力が残り僅かな体に少しだけ、力が宿る。
もうこれ以上領域を展開するのは危険だと分かっている、それでも私は勝ちたい、シンボリルドルフに勝ちたい……このレースに勝ちたい。
なぜそう思い、抗うの?望まれたから?
違う、
運命に、定められたその宿命に抗い、反逆する。
自分の望む未来を掴むために、いつか全てを奪われ消える運命だとしても、ここで心折れてなるものか。足が折れることは想像するだけで恐ろしくて、怖いけれど………。
『いけるいける!がんばれー!』
『ここがけっぱり所です、勝たないと夢に出ますから』
『アーリちゃん、限界は越えないと…だよ?』
『アーリちゃんのカッコいいところ見ってみったいー?』
『あの、デネブさんそれ飲み会のコールでは?ともかく頑張ってくださいね!』
『最後の末脚、むしろここからが本番!さぁさぁ、アーリちゃんの真剣勝負だ!』
夢で出会ったばかりのみんなだけじゃない、きっとシオンやナナ、ワイドもきっと応援してくれている。
ここから一歩を踏み出すのは怖いけど、私の魂が、みんなの応援が私の背中を支えてくれているのなら。
前に進める気がした、頑張れる気がした。
やめない勇気と進む勇気、最後まで走りきる勇気を与えてくれた。
今…この一瞬だけは諦めたくない、絶対に負けたくない。
だからこそ今、限界を越えてみせる。
みんなが私を思い、応援してくれているのならば、支えてくれているのなら、私は────。
リミットドロップが光輝くと、真っ暗な周りの風景は嘘のように消え去り私の目の前には綺麗な青空が広がっていた。
そして、後ろに気配を感じて振り返ろうとした瞬間に私の横を一人のウマ娘が通りすぎた。
そして見覚えのあるそのウマ娘は、私の少し先へと歩みを進めると振り返る。
「あなたは……」
そのウマ娘は何度も見た事があった、長く腰まで伸びた芦毛でキリッとした顔。
彼女の瞳が私を捉える、そして彼女は口を開いた。
『ついて、これますか?私と一心同体になる覚悟は、おありですか?』
彼女が何といっているのか分からない、まるで彼女の声だけが消されたよう。
聞こえないけれど、私は彼女の差し出した手に自分の手を重ねた。すると彼女は微笑むと私の手を引いて、背中の純白の翼をはためかせ、共に空へと上っていく。
遥か遠い空へと上っていく彼女と私の目が合い口を開いた。
『「さぁ、共に全てを奪いに行くとしましょう、覚悟はよろしくて?」』
みんなが私を思い、応援してくれているのならば、支えてくれているのなら、私は─────。
最後の直線へと入ったシンボリルドルフは確かに聞いた、背後でまるで何かが爆発したかのような音を。
それはアーリースタイルが足を芝へと踏み込んだ音、先程までの速度の低下が嘘のようにシンボリルドルフとの間に開いていた差が小さくなっていく。
先程までの焦った様子から一転、獣のように口元で笑顔を浮かべた彼女が自身のすぐ後ろへと迫ってくる。
その足音に、シンボリルドルフは気が付けば道を開けるように横へ避ける。
その隙を逃さずアーリースタイルはシンボリルドルフへと並び始める。
バカな……彼女は先程までの掛かっていたと考えてもおかしくないほどの加速と領域で減速していた。だが今は私の横に並ぶほど、いや追い抜こうとするほどに加速している!?無理をしているのなら足を潰す可能性だってあるというのに。
いや、これまでいくつものレースでこのような状況を見たことがある、そして経験も。
今この瞬間に、今後の選手生命全てを賭けてでも、ライバルに勝ちたいという強い思い。
それが、彼女の背中を押しているのか?
面白い、こんな心から燃え上がるようなレースは本当に久しぶりだ。
封じていた私の奥底の何かが牙を見せる、気が付けば私も彼女のように笑っていた。
私とて負けられない!
恐らくは今後、私はこのレースを忘れないだろう。さぁ、アーリースタイル!最後の瞬間まで、君と最高に楽しいレースを。
力戦奮闘、さぁ決着の時だ。
観客席に立っていたアグネスルクシオンは、目の前の光景に驚愕していた。
何故なら先程まで失速していたアーリースタイルが、今もなお領域を維持しシンボリルドルフと接戦を繰り広げているからだ。
見れば、光の消えた筈のリミットドロップは以前に見た時より強く光輝いてる。
彼女の足は大丈夫なのか、何故リミットドロップが再び光を灯しているのかも分からない。
だが、一つだけ分かっていることがある。
私は今、ウマ娘の可能性を見ているッ!
あと少しだ、そのまま勝ってくれアーリっ。
「頑張って、アーリっ!」
「頑張れ、あと少しっ!」
気が付けば、ワイドネイチャとナナシノテイオーは観客席から身を乗り出してそう応援の言葉を口にしていた。
横目に見ればメジロアサマは手を握りこみ、このレースの決着を見据える。
互いに先にいくことを許さない、並走となり互いに速度を落とすことなくすぐ側まで迫って来ているゴールへと駆けていく。
そして、最後。
アーリースタイルが最初にゴールを走り抜けた。
ゴールを駆け抜けた私は、ゆっくりとペースを落として足を止める。
肩で息をしながら、全力で駆けシンボリルドルフに勝ったという事実を飲み込む。
観客席にいるシオン達の姿が見える、応援の声が聞こえたのは近くに来てくれていたからなのだろう。彼女達に手を振るとどこかホッとした様子でこちらを見つめてくる三人に首をかしげる。
そういえば、何故かは分からないが足には全く不調を感じないことを不思議に感じているとシンボリルドルフが私の元へと歩み寄ると手を差し出してきた。
「おめでとう、アーリースタイル。君の、勝ちだ」
「ふふ、模擬レースありがとうございました」
そう答えながら彼女の差し出してきた手を握り握手する。
「ふふ、君に初の敗北をプレゼントすると大口を叩いていながら負けてしまったな。もっと精進せねば」
「頑張りすぎもダメですわよ?たまには息抜きをしなければ体が持ちませんわ」
「息抜きか……そうだな。ところでアーリースタイル。この後、予定はあるか?」
「はい?まぁ、無いですが」
「良ければ、共に銭湯に行くのはどうだろう?あれ以来、君とは話す機会が無かったし私は君や彼女達と交流を深めたいと思っているんだ」
「ふふ、私は良いですが果たしてあの子達がついてきてくれるでしょうか?」
「そうか!……彼女達も、来てくれたら良いのだが」
その後、詳しい話は競バ場を出てから行うことにして私とシンボリルドルフさんは勝負服から着替えるためそれぞれの使用した更衣室へと移動した。
「待っていましたよ」
何故か観客席にいたメジロマックイーンと共にいた銀髪の髪に帽子を被ったウマ娘のお婆さんが、私の使っていた更衣室のベンチに一人座っていた。
「あの……なんでここに?」
「少し貴方に用がありましてね」
そう言うと、お婆さんは自分の座っている場所の隣をポンポンと叩く。隣に座れと言う意味なのだろうか?私は恐る恐る彼女の隣に座る。
すると、お婆さんはゆっくりと私を抱き寄せた。
「な、何を……」
「本当によく、頑張りましたね」
何故か、まるで孫に話しかけるような優しい口調でそう話しながら私の頭を撫でてきたお婆さんの様子に頭の中で?が増殖する。
頭の中で何処かで見たような様々な画像が流れるミームが流れる。
これ、一体どう乗り切れば良いのでしょうか?
そう考えていると思わずあくびが出てしまいそうになるのを感じて、もしあくびなんてしたらとんでもなく、失礼になりそうなので目を瞑って耐える。
少し体が震えたがあくびは押さえられた、でも我慢した分が目元に向かったのか涙が出た。
「本当に、一人でよく……頑張りましたね」
あの、本当に泣いてるんでなくあくびを耐えて出てきた涙なんです。だからそんなギュッと強く抱き締めないで下さい罪悪感で死にそうになりますのぉォオオオオオ!?
その後、暫くしてお婆さんから解放された。
部屋から帰るのであろうお婆さんから今度お茶会を開くので貴方も来るようにと告げられ、私は暫く呆然としていたのだった。
ご愛読ありがとうございます
感想、お気にいり登録、高評価
お待ちしています。
ちなみに、ガンダムSEEDFREEDOM見てきましたわ。
泣きましたわ。
あと某動画サイトにて『Haruhaの遊び部屋』というアカウントを作りウマ娘のウイニングライブを繋げたメドレー的な物を作り投稿したので興味のあり方はどうぞ。
みんなはどのウマ娘が好き?
-
雑穀精神!?ライスシャワー
-
鹿毛嫌い!?スペシャルウィーク
-
妹現る?アドマイヤデネブ
-
闇の化身?ヤミノビジン
-
元モブ娘?ブリッチコンプ