パクパクですわ!のキャラに転生したんだけど、何か違いますわ…… 作:クレナイハルハ
聞こえてきた聞き覚えのある声に俯いた顔を上げれば、話しかけてきた人。
夜に公園で話した男性が心配そうな顔を浮かべて私の目の前に立っていた。
「あな、たは……」
「えっと、昨日の夜にあったよね。もしかしてずっと公園にいたの?」
男性の問いに私は震えながら頷くと男性は目を見開き背負っていたリュックを地面に下ろす、そして着ていたコートを脱ぐと私の肩にかけた。
先ほど男性が着ていたからか、少し熱を持ったコートが私の体を包んだ。
「取りあえずこの季節にその格好は寒すぎるし震えてるからこのコート着て。おれの、というか見ず知らずの男性の着ていた服を着るのは抵抗あるかもしれないけど」
その言葉に普段ならばありがたいですがお断りしますという遠慮と断りの言葉を話せたのだろう。
いまの私に、それは出来なかった。
私の知る建物を探すために、ウマ娘の事を知る人を探すために走り回った為に服は汗を吸っており、時間が経過し冷たくなっていた。
寒い、早く体を温めたいという思いから私はかけられたコートの袖に恐る恐る手を通した。
コートの前を閉めれば、さっきまでりずっと温かく冷えた体が熱を少しだけ取り戻していくのを感じる。
「ありがとう、ございます」
コートを貸してくれた男性にそう感謝を伝える。
男性は私がコートを着たことを確認したのか地面にからリュックを持ち上げて軽く叩いて土を払うと、先程と同じように背負う。
すると、どこか迷った様子で昨日と同じように優しい声色で口を開いた。
「あー、その……訳ありな、感じ?」
「そう、ですわね」
俯きながらそう返事を返す。
走り回って分かった。
今私のいる、目の前に広がっているこの世界にはトレセン学園やウマ娘、私の買い戻したメジロ家の屋敷は存在しない。
今の私には帰る場所がない、頼れる人も居ない、知り合いも家族もいない。
それどころか存在するという事実すら怪しい。
これは、私への罰なのでしょうか。
メジロ家の復興という悲願を達成するため、様々なレースへと身を投じてきた。
沢山のウマ娘達の約束や夢を踏みにじり、勝利を収めてきた。
そんな、私へ3女神様が与えた罰。
私はもう、あの世界に存在してはいけない。
存在してはならなかった、だからこそこれは3女神様が私へ与えた罰なのだろう。
あの世界からの追放という形で。
アハハ、もう笑えてきますわね。
メジロ家が没落したとき、私は誓った。
こんな運命、認めない。
絶対にメジロ家の復興を成し遂げ、このような運命を決めつけた世界に反逆して見せようと。
でも、もうそんな気すら起きない。
私にはもう、何もないのだから。
きっと私はこのまま、誰に知られることもなく見られることもなく消えていくのだろう。
「その、うちに来る?」
「え?」
男性は頭をかきながらそう口を開いた、この人は今なんと言った?
「いや、他に頼れる人がいるなら大丈夫なんだけど昨日と同じ服装っぽいし、何より泣いてたから。少し放っておけないというか……アハハ」
そう笑いながら話す彼の言葉、私に自分の家に来るかと話す彼に戸惑いを隠せない。
「お世話に、なってもいいんですの?」
この寒いなかで凍えるのが恐ろしいのもあり、藁にもすがる思いで私はそう口にしていた。
「といっても独り暮らしだし、アパートだからそこまで広くはないけどね」
そう言いながら差し出された手を私は掴んでベンチから立ち上がった。
「取りあえず帰る途中にコンビニあるし、弁当でも買って帰ろうか。好きなの選んでいいからね」
手を離してそう振り返りながら話すと、歩きだした男性の後ろをついて歩く。
コンビニのお弁当、自分にとってはかなり高級な物という認識が未だに残っている。
それにしても、何故この人は私のような見ず知らずの存在に手を伸ばしてくれたのだろうか。
不思議に思いつつ男性と共にコンビニに入る、普通なら成人男性とコートを着ている私のようなコスプレと思われる服装をしている少女が共に入店したなら怪しまれるのが当然だろう。
だが、店員と思われる男性は興味無さそうにあくびを噛み殺しながら「いらっしゃいませ」と気の抜けた声を出しぼーっとしている。
「お、今日は結構残ってる。さっき言った通り好きなの選んでいいからね」
そう言う男性に少し戸惑いながらも頷いて夜ゆえに割引シールの張られているお弁当達から適当に焼きそば弁当を手に取る。自分でも、何故その弁当を手に取ったのか分からない。
何故か、学園に在籍していた時にトレーニングルームでトレーニングする私を遠巻きに、心配そうな表情を浮かべて見ていた芦毛のウマ娘の姿が脳裏に過った。
いつも、遠くから心配そうな、悲しそうな表情を浮かべていた彼女の名前を私は知らない。でも、話したことがあったような気もする不思議なウマ娘だった気がする。
「決まった?」
そう話仕掛けてきた声に意識が現実に浮上する、話しかけてきた男性を見れば買い物かごを持っておりその中には割引シールの貼られた弁当が入っていた。
「これを、お願いしますわ」
「………これだけで足りる?他にもおにぎりとか、デザートとか遠慮しないで」
そう言いながら男性が指差した方を見れば、割引シールが貼られた沢山のスイーツが置かれていた。目にしたコンビニスイーツから、何故か目が離せない。
すると、男性が様々なスイーツを二人分籠にどんどんいれていく。
「あの、大丈夫です。流石にそこまでして頂くのは……」
「おれ、スイーツに目がないんだ。割引されてたらすぐに買っちゃうくらい、いつも多く買いすぎちゃうんだよね。良ければ食べるの、手伝って貰えないかな?」
「え、あの」
そう明らかに嘘だと分かるような言葉を話す男性に呆気に取られていると、男性はレジに籠を持っていき会計を始めていた。
この人のことがよく分からない、ずっと私の機嫌を取るようにも感じられる行動ばかりしてくる。
なんで、なぜ?そんな考えばかりが浮かんでは消えていく。
レジ袋を持った男性と共にコンビニを出て、また歩き出す。
男性と共に歩く道は、何故か私がお世話になっていたあのアパートへの帰り道と似ているような気がした。そしてたどり着いたのは私の住んでいたアパートと何処か似た雰囲気の大きなアパートだった。
「ここは……」
「おれが住んでるアパート、こっち」
そう言いながら男性は借りている部屋と思われる場所の扉を開けて中にどうぞと促してくる。お邪魔しますわ、と話しながら玄関で靴を脱ぐ。
「あっちがリビング、座って待ってて。今お弁当を温めてくるから」
そう言いながら男性はレジ袋を持って冷蔵庫やコンロの設置されたキッチンらしき場所へと向かう。
恐る恐る指差された方向に向かう、部屋の壁には何かのアニメ作品と思われるキャラクターのタペストリーが飾られ、棚にはロボットやキャラクターのフィギュア?らしきものが多数飾られていた。
あの人は世間で言うところのオタク、なのでしょうか?
学園や小学生の頃のクラスメイトが話していたように気持ち悪いとは、私は思わない。強いて言うなら、少し贅沢だなと感じてしまう。
彼はどうやら椅子ではなく地面にしかれたカーペットに座って過ごしているらしい、取りあえずテーブルの近くに座って男性の事を待つ。
ふと、テーブルの近くに乱雑に置かれている沢山の分厚い本が目に入った。
『今の就職はパソコン必須!使いこなせ!プロから学ぶソフトの有効な使い方』
『読んで受かる!!ロジカルに学ぶファイナンシャルプランナー』
『合格の為の簿記問題集ExtraBoost』
『これで貴方も公認会計士!目指せ一撃資格取得』
『ビジネスマネジャー検定テキスト&問題集』
『バカでも分かる!?メンタルヘルス・マネジメントⅡ種検定テキスト』
どの本も様々な色の付箋が大量に挟まれており、何度も読み返されたのか所々が破れページが折られていたりと使い込まれている事が分かった。
おおよそ、このキャラクター達が並んでいる部屋にあるとは少し思えない本ですわね。
「お持たせ、温め終わったよ」
そんなことを考えていると男性がその手に先程コンビニで買ったお弁当をテーブルに置いた。近くにはコンビニで貰ったのであろう割り箸とおしぼりが置いてある。
「ありがとうございます」
「食べよっか」
テーブルの反対側に男性は座ると自身の分であるチキン南蛮弁当のふたを開ける、それを見て私も焼きそば弁当の蓋を開けた。
鼻腔をくすぐるソースの匂いに、お腹からきゅうという音が鳴ってしまい顔が熱くなる。チラリと横目で見れば男性は気にする様子もなく自身の弁当へと口をつけていた。
割り箸を割って焼きそばを口に含む、何も口にすることなくほぼ1日過ごしたからかこの焼きそばがとても美味しく感じられた。
それと同時に、自身が生きてこうして食事をする事が出来ていることに対する安堵からか目に少しだけ涙が溜まるのを感じた。
すると、音楽が鳴り『お風呂が沸きました』という音声な聞こえた。
「外は寒かっただろうし、食べたらお風呂に入っておいで」
弁当を食べるながら話す男性の言葉に、箸が止まる。確かに普通なら感謝するかもしれない、でもそれが普通のウマ娘ならだ。
……あぁ、そう言う事なのですか。
脳裏に沢山の人の姿が過る、私がいるという情報を売った教師。私の偽の情報を流した記者、偽の情報を流して孤独にしてきたクラスの女子。
あえて優しく接してきて、目的があったなんて人達も多くいた。
優しそうな顔をしていて無害そうに見せて、ということですか。
一気に思考が冷めていくのを感じた。
「わかり、ましたわ。」
そこからの食事の味は、正直覚えてない。
スイーツはお風呂のあとに食べたらと話す男性の言葉に頷き、着替えは男性のもつ服のなかで適当に選ばせて頂いたのを着させて貰う事になった。
あるのは、逃げ場がない恐怖でもなく虚無であり流れに身を任せる事しか出来ない、何も行動したくない。
私はウマ娘、ヒトより何倍も力があって抵抗することは簡単だ。でも、そんな気も起きない。
どうせ、私はもう何もないのだから。
もう何もかもを失って、何がしたいのか。何が好きなのか、どう行動したいのか分からない。
湯船で体を温めた私はタオルで髪を拭いて、ドライヤーで乾かしてから服を着て脱衣所から出る。
すると、男性はリビングのテーブルをずらし敷布団を敷いているのが目に入った。
やっぱりという思いと、善人なんていないのだという分かりきっていた答えに心が暗くなるのを感じた。
男性が公園で着せてくれたコートの温かさが、まるで嘘のように感じられる。
「お待たせ、しましたわ」
「ちゃんと体は温められた?」
「えぇ、お陰さまで」
何処か無機質にも感じられる私の声に男性は首をかしげながら立ち上がると、別の部屋から掛け布団と毛布をもってくると敷布団の上へと置いた。
「従兄弟がよく遊びに着てたから、家には布団の予備があるんだ。そんな所で立ってたら疲れるでしょ?適当に寛いでいいよ」
そう言うと男性はずらしたテーブルへと移動しテーブルの上に置かれたノートパソコンをいじりだした。
取りあえず、男性の近くに座る。
だが、男性は気にすることなくノートパソコンをいじる、パソコンの画面には何故か帽子を斜めに被ったセーラー服姿の少女が映っていた。
『響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ。』
「………へ?」
「ログインボーナスログインボーナス……ん?どうかした?」
『司令官、大丈夫かい?』
さっきまでの私の覚悟というか、何かがまるで意味がないような状況に思わず口から間の抜けた声が漏れた。
「あぁ!そういえばまだスイーツ食べてなかったね。今持ってくる、冷蔵庫で冷やしてたから美味しいよきっと」
そう言いながら何処かルンルンとした様子で台所へと歩いていく男性を呆然としたまま見送る。
なぜでしょうか……なんと言いますか。
花より団子な男性に何故か敗北感に似た何かを感じるのはなぜでしょうか?
『Хорошо、こいつは力を……っとと。フタサンマルマル、今日も一日お疲れさま司令官。』
男性が持ってきたスイーツはプリンとチョコバナナクレープ、メロンホイップクリーム入りシュークリーム。
どれもしっかり二人分用意されていた。
「お待たせ。さ、食べよ食べ──」
「何故」
気が付けば、そう口を開いていた。
「なんで、私は、あなたにとってただの他人の筈なのに……何か目的があるのかと思えばそんな様子が全くない。何か目的があるのなら納得できます、貴方は何故、何もない私になんでこんなに色々として下さるんですの?」
分からなかった、メジロでもない。ただのウマ娘となった私になんでここまでしてくれるのか。
私が目的ではない?過去に見てきたあの人たちのように私を見てこない、何故?なんで?そんな疑問ばかりが脳に溢れる。
ふと、自分が何を言ったのか今更ながら自覚して胸元に置いていた手が落ちる。
最悪、また寒い外を歩くことを覚悟して私は目の前の男性の言葉を待った。
「おれ、後悔したくないんだよね」
男性の口は想像より早く開いた、まるでそう答えるのが当然のように。
「おれ、君を公園で見たとき泣いてたから、放っておけなかった。放っといたら絶対後悔すると思ったからこうしてる」
俯いていた顔を上げれば、あった時と変わらず優しそうな顔の男性が私を見つめているのが分かった。
「おれ、やりたいことは絶対全力でやるって決めてるんだ。趣味は全力で楽しむし、その為ならどんな努力もする。だから、おれは君を放っておかないと決めたんだ」
あぁ、本当に、本心からこの人はそう話しているとそう、目で感じた。
優しい人、冷たくなった心の何かが温かくなっていくのと同時に張り詰めていた何かが和らいでいくような気がした。
「はい、真面目な話はおしまいおしまい」
男性はそう言いながら手をパチリと叩くと、テーブルからチョコバナナクレープを取り私の手へと握らせる。
「さ、食べよう」
そう言いながら男性は手に持ったチョコバナナクレープの袋を開けて食べ始める、私も同じように袋を開けてチョコバナナクレープを口に運んだ。
食べたそれは、入った小さな板チョコの固い感触がありバナナの果肉の柔らかい食感をより引き出しているように思えた。
そしてチョコやバナナ、クリームを包むクレープの生地がクレープ全体を丁度いい甘さへと整えている、摂取した糖分が体全体に伝っていくのを感じて何故かまた、胸が温かくて、高鳴るような気がした。
「あの」
「ん、どうしたの?」
「私は、メジロマックイーンと申しますわ。どうか、貴方の名前を教えて頂けないでしょうか?」
「そういえば自己紹介してなかったね」
男性は忘れてたと笑いながら口を開いた。
「おれは
Episode.0『差し伸べられた手』完
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