隣の近界民さん   作:りっぽーたい

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第2話

 疲労からか見ると思われた悪夢は無く、久しぶりの熟睡になった。窓は割れ、扉は壊れ、絨毯はボロボロで床の破損も目立っているにも関わらず、床に倒れ伏したまま熟睡できたのはおそらくトリオン体であるということが大きいのだろう。

 今となっては苦い記憶を呼び起こす引き金にもなるが、授業中の余談で耳にしたトリガーや国について思い出す。

 これからどうするかは何一つ決まっていないが、とにかくこの星を出たい。私が拾って使ったままのトリガーもどの様なものであるかはわからない上、星の渡り方やこの星の位置、危険の少ない星の場所を知る必要がある。

 

 ふと腰に引っ掛けられているトリガー、黒く円柱状の形をしているものを手に取ってみる。前に見たものと形状は同じだが色は少し違うような気がする。先生曰く、トリガーは戦闘を主たる目的としているもののはず。

 何かしら武器は出てこないのだろうか。

 

 棒を叩いたり、棒で叩いたり、咥えてみたり噛んでみたり、振ってみたりするが、うんともすんとも言わない。

 

「ふんっ!」

 

 何かしら出ろよと思いながら強めに振ると、棒がみるみるうちに伸びる。

 

「えっあっ……」

 

 突然の変化に驚きつつ目を閉じて持っている手と距離を取るように目いっぱい伸ばす。すると手に持っている棒が急速に重くなっていく感覚があり、力を全く入れていなかったためにガキン、という音と共に凄まじい重さを持つ物体が床に刺さった感覚が手に伝わる。

 

 

 そこからしばらくしてから恐る恐るゆっくりと目を開けて見る。すると手には私の身長と同じか、それ以上の大きさを持つ大剣があった。

 黒い柄部分は十分に大きく、両手でも十分に持てる様な大きさまで伸びており、刃がある方向の逆側には柄頭から引っ掛けるような形状をした短剣が伸びている。そして鍔はとてもシンプルな十字状に伸びており、光る刃が続いてている。

 

 そもそも武器を持ったことのない私にとって、使うことなど出来るはずもないものが出てきてしまった。

 恐る恐る左手で柄頭の後ろ側を持って持ち上げようとすると、ガコンという音がして短剣部分が分離した。

 

「えっ?」

 

 壊してしまったのかと焦りながらもう一度強く打つように取り付けると、再びガコンという音がなって元の形に戻った。

 

「よかった……」

 

 どうやら元々の機能のようだ。それにしても変わった武器だ。短剣と大剣の二刀流や、大剣の下に短剣がくっ付いた武器などとても使いづらそうだ。

 そもそも大剣を片手で扱うことなど出来るのだろうか? 

 

「ほい……ぃよっと!」

 

 短剣を外してから力を込めて持ち上げると、トリオン体になって力が上がっているため相当な重さは感じるが疲れるようなことは無い。肩に担ぐように持とうとすると刃部分が勢いよく肩にぶつかり、衝撃が体を突き抜ける。

 

「痛っ……くはないか。これ自分は斬れないようになってんだ。良い便利機能だ」

 

 想定外の便利な機能に満足だ。取り敢えずは武器の練習をしつつ食糧を探そう。

 

 家の中にあった食糧のほとんどは既に食べられない状態であったが、干し肉といった保存食をいくらか発見し、家から拝借した大きなカバンに乱雑に入れて持っていく。そしてその近くの家や酒場を漁って辛うじて飲めそうな水や保存食を詰め込んで、遠くに見える忌まわしい建造物から逃げるように歩き出す。とにかくアレが見えなくなる場所に行きたかったのだ。

 アレが見える度に沈んでいく心を誤魔化すように大剣をぶんぶんと振り回しながら道を、目指す場所もわからないまま歩く。

 

 パンパンのカバンを持って街を抜けると、疎らに短な草が生え、岩があちこちに転がっている荒野だった。大小様々な岩山も複数見えるが、地平線間際に森のような緑が見える。あそこまで行けば水も補充出来るだろうと思い、大剣を振りつつ森に向かって進む。

 

 道を塞ぐ岩や、岩山を練習台にしながら進む。そして夜になったり小腹が空いたら武器を仕舞って干し肉を噛む。ちなみに武器は邪魔だな、と思うとすぐに元の短い棒になり、それと同様に大剣出てこいと念じると武器が出てきた。流石トリガーといったところか。

 大剣や短剣の扱いを練習しながら干し肉を食べて水を飲む。それを繰り返しているうちに片手で大剣を振ることになれた。そして短剣を岩や地面に引っ掛けて勢いをつけ、その勢いのまま大剣を叩きつけるといった小技も習得した。短剣を利用することに慣れたような気はするが、短剣で攻撃することは一切出来ていない。

 それにしても短剣を使ったアクロバティックな動きはかなり楽しい。岩場でも壁に刺して引っ掛けることによって登ることが出来るし、地面に引っ掛けて滑るようにして短剣を中心に回りながら大剣で攻撃することも出来る。それが有効なのかどうかはわからないが、変わった動きで混乱させることは出来る気がする。こういった生身では到底できない動きをしていると、トリオン体の身体能力の強さがよくわかる。

 

 

 

 そんな日々をしばらく過ごしていつものように干し肉を食べているとその夜、遠くに光るものを見つけた。

 

 

 ……焚き火だ。その近くに人影が2つある。

 

 

 白く発光する武器を解除して岩伝いに近づく。

 岩を一つ、また一つと近づくにつれてその人物の影が大きくなってくる。見えない角度を何度も確認しながら、移動は体勢を低く、素早く。

 どれだけ努力したところで素人目から見てもお粗末な隠密だが、前にある人影が気づいている様子は無く、遂には顔や服装が確認できる位置まで辿り着いた。

 

 ……一人は子どものようだ。顔立ちから見ても私と同じくらいだろうか。黒髪でマントを着ており、いかにも旅装束といった風体だ。もう一人は背格好から見て大人だ。詳しい年齢は背を向けているためよく分からない。子どもと同じ格好をしているため、手元はよく確認できない。

 しかし、子どもが温かい飲み物を飲んでいるところを見るに、きっと油断している。近くにフワフワ浮いてる黒いのが居るが戦闘力があるようには見えないし、誰も操作しているようには見えないため、脅威にはならないだろう。

 

 理想は子どもの方を人質にすることだが、位置取り的に大人が邪魔になってしまう。大人を人質にするのもいいが、戦闘経験が無い私としては戦闘はできるだけ避けたい。それに、大人に対しては少し苦手意識がある。ゴーグルやマスク、白衣を着ているとアウトだが、彼なら苦手程度で済む。

 幸いバレていないようだし、慎重に回り込むべきだろうか。

 いや、位置取りが悪いと考えていたが、大人が背中を向けているのはチャンスなのではないだろうか。子どもが先に気づくだろうが、大人が気づくのを遅らせることが出来るという点で見ると、大人の不意をついて子どもを襲うことが出来る。

 彼らがどうやってここまで来たかや、別の星への渡り方を聞く必要があるため殺しはナシ。彼らに別の星まで連れて行って貰うことが理想だが、彼らがどのような人物で、どのような目的でこの星にいて、何を求めているかがわからない現状では友好的に事が進むと考えるのは楽観的が過ぎるだろう。

 やはり大人の不意をついて子どもを人質にする。そして人質を盾に聞きたいことを聞いて、場合によっては同行させてもらう。

 

 

 よし、それでいこう。

 

 

 ふぅ、と息をゆっくり吐き、緊張で震える体を誤魔化すように気合を入れて、彼らに向かって走り出した。

 




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