隣の近界民さん   作:りっぽーたい

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第6話

 

「さて、どいつが近界民だ?」

 

 

「トリガーを使用していたのはそこの女だ」

 

 

 ヘアバンドをつけた男は槍を、髪を下ろしてヘッドホンのような耳あてをつけた男は銃と剣を持つ。

 

 

「あ、近界民は私です。私私。特に害があるものじゃないですよ」

 

 

「お前が近界民なのか?」

 

 

「はい」

 

 

 遊真は有吾さんの息子だし、純度百パーセントの近界民は私だろう。ヘアバンド男子はともかく、目をギラつかせている耳当て男子は今にも攻撃を仕掛けそうだ。

 すると、耳当て男子が一切の躊躇を見せることなく左手に持った拳銃を三発撃った。

 弾が顔と胸、左肩に向かってくるのを見て、反射的に体を右側逸らして避ける。

 

 

「ビッッックリした……なんで突然撃つんですか! もうちょっと話し合いとか……」

 

 

「な、何をしているんですか……! いきなり撃つなんて!」

 

 

 三雲くんも躊躇なく生身の私に撃ったことに驚いている。躱したことにもかなり驚いている様子だが、顔を青くしているのはきっと私を心配してのことだ。今のを躱した私に引いてる訳では無い……はず。

 それにしてもギリギリだった。私の副作用は目の性能が上がるが、体感時間が上がる訳では無い。そのため高速の攻撃は見えるには見えるが反応速度といったものは凡人の域を出ない。つまり見てからほぼ反射で動くしかないのだ。

 

 

「話し合いなど必要ない。近界民は敵。お前が近界民ならば、排除するまでだ。陽介、二人で仕留めるぞ」

 

 

「あ、ウソついたな。二人じゃないだろ」

 

 

「お? ……じゃあ、全員でかかるか」

 

 

 遊真がウソというのなら嘘なのだろう。おそらく狙撃手や罠を仕掛けるような敵が数人いる。

 遊真の発言からそんなことを考察していると、レプリカ先生を通して遊真からオサムの立場を考えてやり過ぎるなと連絡が来た。確かに真っ二つにするよりはトリオン切れで撤退してもらう方がいいか。

 

 

「よし、じゃあやりますか! トリガー起動」

 

 

 起動すると右手から馴染みのあるずっしりとした重さを、左手からは持っているのか分からないほどの重さを感じる。服装は普段着からの変化はないが、トリオン体に変わったことによって濡れていないものになった。

 トリガーの具合を素早く確認して前を向くと、槍使いがこちらに向かい、拳銃使いが右側に回り込むところだった。

 

 槍使いは右足を強く踏み込み、矢を引き絞るような体勢から柄の端を長く持った槍を突き出した。

 その槍は凄まじい速度で正確に私の首を、伝達器官を的確に穿とうとしている。その身体全体を使った突きは速度と正確さから、尋常な使い手ではないことを表している。

 

 その槍を横目で見ながら体勢を少しだけ変えて躱し、突きを放った後の無防備な彼に攻撃を仕掛けようとする。

 しかし突然槍の穂先の形状が変化して横に刃が伸びる。突然のことに驚きながら咄嗟に少し傾いていた体をそのまま倒し、バク転することで攻撃を回避した。

 

 

「おー! 取れるとは思ってなかったけど、今のを完璧に躱すか。結構自信あったんだけどな」

 

 

「完璧ではありませんよ。少し肩を斬られてしまいましたし」

 

 

 軽くではあるが、確かにダメージを受けた。初見殺しのような攻撃ではあるが、一人でこれならこのまま戦うと油断どころか、私が落とされる事もあるだろう。

 

 

「陽介、無駄話をするな。邪魔が入る前にしとめる」

 

 

「了解」

 

 

「仕方ない……ここからはちょっとズルをしますよ」

 

 

 そう言って私は左手に持つ短剣を胸に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 ────三雲修視点────

 

 

「空閑、雪さんは大丈夫なのか?! 今から僕は迅さんに連絡を入れる。だがそれまで耐えられないようなら頼む……僕の実力だとなんの助けにもならない」

 

 

 怒涛の展開に思考が止まりかけるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。ボクはボクが出来ることをする。

 すると空閑が一切の心配の色を顔に出さず、先ほどのトリオン能力測定と変わらないほどリラックスした様子で声をかけてきた。

 

 

「ユキなら大丈夫だ。ユキのトリガーは特別だからな」

 

 

「特別……?」

 

 

「そうだ。だからあちらさんが使ってるヤツだとユキには敵わない。それに、もうキズ一つ付けられなくなった」

 

 

 空閑が指を指す。その先を見ると左手に持っている短剣を胸に突き刺すユキさんが目に入った。

 

 

「なっ……あれは一体?!」

 

 

「見とけよオサム。なかなか面白いものが見れるぞ」

 

 

 一瞬の間の後にユキさんは短剣を引き抜く。そこには傷跡ひとつないが、何か変わったかと言われると何も変わらない。

 いや、詳しく聞きたいところだが、ボクは迅さんに電話を入れないと! 

 携帯電話の連絡帳を開いて迅さんに電話をかける。すると、呼出音から五秒もしないうちに迅さんが電話に出た。

 

 

「迅さん、三雲です! A級隊員の人が……」

 

 

「あー、大丈夫。ここから見えてるよ」

 

 

「見えてるんですか?! じゃあなんで……」

 

 

「大丈夫だよ、メガネくん。ユキちゃんのトリガーは特別だ。確かに秀次……今戦ってる隊員たちも強いけど、それでもユキちゃんが勝つさ。それに、オレも動いてるから安心してよ。もうじきそこに行くから」

 

 

 そう言って迅さんは電話を切る。ちゃんと説明して欲しいという不満を抱えつつも、迅さんも動いているということは聞けた。

 そして携帯電話を仕舞って戦闘を見ると、今まで見たどんな戦闘よりも不可思議な光景が目に入ってきた。

 銃使いの人と槍使いの人が挟み撃ちにするように左右から斬撃を放ち、時には銃撃を放つ。槍の一撃を避けた先に置かれるように放たれている銃撃。どう見ても一人では対処しきれない、洗練された連携はすぐに雪さんを削り取るように思われた。

 しかしそんな光景が目に入ってくることはなく、まるで早送りになったかのような速さで動き、A級隊員の二人を翻弄する雪さんの姿が目に入ってきた。

 それだけでも十分混乱する光景であるのだが、何よりもわからないのが、二人の攻撃を避けず、シールドを張って防ぐこともせず、剣で受けることもなく、体で受けている事だ。傷を負うこともなく、シールドに当たったかのような金属質な音が鳴る。

 雪さんは大剣を脇に投げ捨てて短剣をサバイバルナイフのように持って速さを重視した戦い方をしているように見える。速さを重視しているように見える……のだが、それを受けている隊員二人は大剣を防ぐがごとく両手で、全力で防いでいる。

 

 そして二人で捌ききれずに傷が少しづつ増え、身体中の傷からのトリオン漏出の煙が目立ってきた頃、拳銃使いの隊員の拳銃から黒い銃弾が雪さんの腕に当たって着弾点に黒い重りが付いた。

 それを受けると流石の雪さんでも動きが少し鈍くなる。するとそれまでの苛烈な攻めを中断して少し後ろに下がり、豆腐でも切るように重りを斬って空閑の方に投げる。

 

 

「先生、これ遊真が使えそう」

 

 

「おっ、それはありがたい」

 

 

『承知した』

 

 

 軽い口調でそう告げて左手を軽く振る。重量の確認も兼ねているのだろう。

 するとそれを見て先程の黒い銃弾を交えながら二人が再び雪さんに襲いかかった。

 先程の相手の攻撃を意に介さずに攻める戦闘スタイルではなく、攻撃を躱すことに専念した、一切責めないスタイルに。

 

 

『解析完了。印は《射》と《錨》にした』

 

 

「了解」

 

 

「よし、あとは……ま、かせた!」

 

 

 レプリカが解析完了と告げると雪さんはニヤリと笑い、隊員二人を無理やり掴んで空閑の方に投げた。その突然の行動と動きの速さに反応しきれず、空中に投げ出される。

 

 

「ぐっ?!」

 

 

「《錨》印+《射》印四重」

 

 

 そして空閑のトリガーによる追撃が撃ち込まれた。先程の隊員の攻撃で見たような黒い銃弾が一発や二発ではなく、十数発、一度に発射された。

 それを隊員たちは為す術なく身体中に受け、重りを身体中に付けて倒れ伏した。

 

 

「ナイスです。遊真」

 

 

「おう」

 

 

 雪さんは一度周囲をくるりと見渡してからトリガーを解除すると、ボクや空閑、千佳がいる駅のホームの上に登ろうする……が、どうやら空閑より少し高いくらいの身長だからか手間取っている。手伝おうと駆け寄ると「だ、大丈夫です!」と言って体を上に乗せて転がるように登ってドヤ顔を決めた。その様子に何も言えずにいると、空閑や千佳が「おお〜」と言いながら拍手をしていた。

 

 

「ユキ、アレどうすんだ?」

 

 

「迅さんに電話をしたからもうじき来ると言っていた」

 

 

「おお、ありがとうございます。じゃあ迅さんが来るまで待ちましょう。多分そのうち来ますよ。私たちの言うことなんて聞く気が無さそうですし」

 

 

 こちらを殺すような目付きで睨みつけてくる隊員を見て、正直確かにと思ってしまう。

 

 

「いやー、オレは聞くよ? こうなっちゃどうにも出来ねぇし」

 

 

「黙れ陽介! 近界民の言い分など聞く必要はない」

 

 

 ヘアバンドをしている槍使いの人は軽い雰囲気で、銃使いの人は重く鋭い雰囲気で話す。

 槍使いの人一人ならともかく、銃使いの人がいるから無理だろう。

 すると、駅の改札の方から声がかかった。

 

 

「おっ、終わってるっぽい?」

 

 

「迅さん!」

 

 

「どもども、じゃあここからは任せてよ」

 

 

 そして千佳や空閑、雪さんと軽く挨拶を済ませると連れてきた隊員二人と共に線路の上に倒れている隊員に歩み寄って言った。




ちっちゃくてでっかい武器振り回す女の子ってロマンありますよね
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