「雪ちゃーん、ちょっといいかな?」
「はい? なんでしょうか」
迅さんがボーダー隊員たちを基地に返した後、声をかけてくる。摩擦が大きくなりすぎず、丸く収まったのは迅さんの登場のおかげである。迅さんのおかげではあるのだが、黒トリガーのことを言ってしまったことは非常にマズイ。
黒トリガーなんてものは一つあるだけでも大騒ぎなのに、二つともなると強引に奪取しようとすることも有り得る。何がなんでも対処するだろう。
三雲くんや千佳ちゃんと一緒に遊真が帰ったため、今は私と迅さん二人だけだ。
「お願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
「お願いの内容次第ですが、迅さんには助けられてますから極力聞きますよ。それよりも、どうして黒トリガーのことを彼らに話したんです?」
つい疑問の形をした文句が漏れてしまう。
「あー、ごめんね。確かに遊真や雪ちゃんのことだけを考えると言わない方が良いんだけど、秀次たちは意見が違うだけで敵ってわけじゃないんだ。秀次たちには秀次たちの立場や面子があるからね」
「あ……いえ、すみません。迅さんの事情のことをすっかり忘れてました。普通に考えればそうでしたね。焦っていたのかもしれません」
「いいのいいの。雪ちゃんたちには一番重要な事だからね。それよりも頼みたいことについてなんだけど……」
その頼み事の内容を聞いてみると、もはや断る選択肢がないことがわかった。退路を絶たれたように感じると共に、ここまで協力してくれる迅さんへの感謝の気持ちも湧いてくる。
そして玉狛支部のみんなの手伝いもあって私と遊真、そして千佳ちゃんのボーダー加入の手続きを進めていく。
千佳ちゃんは自分でも戦えるようになりたいと思ったようだ。その我慢強い性格からスナイパーになる。そして師匠に木崎レイジさん、近距離から遠距離まで、全距離で戦える超人マッチョなナイスガイがついた。
遊真は近界にいた頃と同じく近接武器を用いたアタッカーになる。師匠には小南さん。騙されやすい可愛い人だがこの人の攻撃は非常に苛烈でめちゃくちゃ強い。
三雲くんには烏丸さんがつく。消去法で決まったようだが、レイジさんや小南さんたちの反応を見るに問題なさそうだし、使う武器の扱いというよりは戦闘の基礎を固める方針のようだ。
私の師匠は小南さんである。
私は盾モードと剣モードを切り替えられる重ためのレイガスト、小南さんと遊真は刃の形状を変化させられるスコーピオンを使っている。C級隊員からスタートであり、C級隊員は武器一本で戦うという理由で武器一本で戦ったのだが、遊真は一勝、私は二勝だった。十回勝負で。うん、強い。すごく強い。小南さんはショックを受けているようだが、私も遊真も小南さんの強さに驚いている。
小南さんは見て教えることはあまり得意ではないらしく、基本的に教えて貰っている間は模擬戦をして気になったところをアドバイスしてもらっている。
ちなみに私がレイガストを使う理由は単純に重いからだ。無理なく振り回せるような、黒トリガーの大剣の重量と同じくらいに感じるまで大きくしたレイガストは2メートル以上あるような人が扱う大きさのレイガストになった。私の身長と同じくらいのサイズだ。
すると遊真にアドバイスをしていた小南さんが座ってる私を手招きしているのが見えた。
「次は私ですか?」
「そうね。今度はけちょんけちょんにしてやるわ!」
「じゃあおれは休憩だな」
遊真が手から出ているスコーピオンをうにょうにょさせながら言う。
よし、やってやろう。
訓練室に再現された町の中央へと向かう。
15メートル程離れた位置で私と小南さんが対峙して遊真のスタートの合図が送られる。
私はレイガストの刃を展開することなく柄だけを持って走る。小南さんは私の行動に少し驚いた表情を見せつつも正面から突っ込んで来る。
「どういうつもりかは分からないけど、面白いじゃない!」
一発目の攻撃だ。それを躱すことだけに集中する。
スコーピオンの刃が右下から迫ってくる。何もしなければ右脇腹から左肩まで斬られて真っ二つだ。だからスライディングするように体を地面に滑らせ、小南さんの足を絡めるようにする。
そうすると小南さんが軽く跳びながら踏みつけるように脚を落とす。刃が付いた踏みつけをレイガストの柄を地面に向けて起動することで緊急脱出。
躱して起動して一撃必殺作戦は失敗したようだ。直前に思いついた行き当たりばったりの作戦だが、上に跳んでたらもしかしたら……いや、今は戦いに集中しないと。
小南さんから少し離れた場所に着地し、両手を使ってレイガストを剣モードで構える。
今度は私から突っ込む。ついさっきの小南さんとは真逆で振り下ろすが、横に軽く跳ぶことで躱される。勢いで浮いた体を狙って刃が迫るがそれは想定内。地面にめり込んだレイガストを支点に体を回転させてそのままレイガストを抜く。
「やばっ……!」
隙ありと見て飛び込んできた小南さんはそのまま回転して上がってきたレイガストに斬られて真っ二つになった。
「やった! 早速一勝ですね!」
「ぐが──! 次は通用しないわよ! ていうかそんな重い武器でよく私にについて来られるわね」
「目はいいので! それに、大剣の扱いには慣れてますから!」
「確かに雪の目があるとついて来られるのかしら? でもせっかくレイガストなんだから盾モードも使った方がいいわよ。トリオン量も多いんだし、雪の目があるからめちゃくちゃ堅いタンク役になれるんじゃない?」
「うっ、確かにそうですね……攻める方が気性に合ってるからか、攻めに偏ってしまうんですよね」
「あっ! その気持ちはすっっごいわかる! だけど雪が盾モードと剣モードを上手く切り替えて戦われる方が嫌な感じするから、盾モード使うのはアリよ、アリ」
「練習してみます!」
そんなことを数日繰り返した後、迅さんから作戦決行を知らせるメールが届いた。
「迅さん、お待たせしました」
「ありがとう。雪ちゃん。雪ちゃんはやられないこと優先で出来るだけ多くの人を引っ張っていって貰えると助かる。分断される未来は見えてるんだけどね」
本部と玉狛支部の中間地点で話していると、前方から複数の人影が近づいてくるのが見えた。
「来ましたよ……トリガー起動」
「さすが、目がいいね。ちょっと気が早い気もするけど、見た目が変わらないし、それでもいいか」
おや、先日駅の線路で戦った覚えがある、見覚えのある顔が二つ。
「おー、見えてきたよ。十中八九戦闘にはなるんだけど、ひとまず話し合うからちょっと待っててね」
「はい。わかりました」
するとかなりの人数が迅さんと私の前で止まった。
腰に孤月を携えている黒いコートの男、同じ黒コートを着てる笑みを浮かべる男。青と黒の隊服を着た男が三人。小さな男と髪の長い男、髪をオールバックにしてる少し大柄な男。少し前にあった槍使いと銃使い。スーツの格好をした男が三人。無手の男と銃を持った男、孤月を持った男。
全員が並の使い手ではないことがわかる。
「やあやあ皆さんお揃いでどちらまで?」
「……迅!」
良いお年を!