一番悩んだこと
・この作品の原作はホロライブでいいのか?



久方ぶりの筆ならしの、短編一話もの。意図的に、キャラ崩壊注意な作品となっております

暇つぶしにでもドゾ

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続きは書かない。そして生もの故、場合によっては突然非公開にします。






龍《きりゅうここ》

そこには、無数の生と死が散らばっている。

 

無数の生と死が繋がり、噛み合い、食い合わさる事で、この世界は構築されている。

 

人間の手によって生み出された虚構の場所。嗚呼、しかしソレは現実と比べた所で何の遜色もない彩を持っている。現実とは変わらない、無数の可能性と理想。薄いモニター越しに広がる夢想とも呼べるそこは、創造と消去が最も隣接した刹那的な世界(・・・・・・)

 

生と死。即ち、1と0によって紡がれた現実。電脳世界(ワンダーランド)

 

———そこに生まれ、そして消え去った一人の男がいたことを、皆さまはご存じだろうか。

 

現実世界に芽吹いたたった一つの恋より生まれ、愛に堕ち、現実に挫け、されど刹那の夢想を追い求めた男。世界で唯一人の「電人」。

僅かな搾りカスと骨子を残し、消え去った「電人」の事を、皆さまは憶えているか。それとも、エピソードとは無縁の知識として、その脳髄に刻んでいるだろうか。

 

憶えていないならば結構。刻まれていなくとも問題はない。理由など考えるまでもない。

 

 

 

 

 

何故ならば、ここは紛れもなく———1と0が最も近しい世界なのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

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脳を捧げよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あ、起きマシタね?あー…うん、ご気分いかが?」

 

 

 

目が覚める。再起動、という言葉は適切ではないかもしれないので用いない。不意に浴びせかけられた呼びかけに、なんにせよ男の意識は覚醒した。

朽ちかけたソファーに沈み込むような態勢で、男は自分を気遣う女を見やる。その動作は緩慢で、酷く気力の抜けたものだったが、それでも目の前で自分を覗き込む女には小さくない驚きの動作を見せた。確認するような動作を交えつつ、男は声を絞り出す(にゅうりょくする)

 

 

「君、は…いや、まずここは…」

 

「ここは私の事務所。オジサンはデスね、まあ気が付いたらここにいた、とでもいうのか…」

 

 

こちらの問いかけに困惑の様子で言い淀みながらも説明するその女は、一言で表現するなら何とも「鮮烈」な女だった。靡く緋色の髪は光源の乏しい事務所の中で尚輝きを放ち、大きく開いた瞳も同様に、月並みな表現ながら宝玉のように美しい。だが瞳というならば、真に眼を惹くのはその煌きではなく、人間離れした瞳孔にこそ男は興味を抱いた。何故ならばその瞳孔は、さながら爬虫類の如く縦に伸びていたのだから。

優れた容姿の中に散りばめられた人外の要素。瞳、髪色、そして頭部には捻れた角と、不釣り合いなほどに太くゴツイ、大きな尻尾。男は無意識に「魔人…」と呟いていた。

 

 

「マジン?魔神…あぁいえ、私は龍です。Dragon.OK?」

 

「龍だと?」

 

「yes.あ、そういえばお互い名乗りはまだデシタね。いやさっき確か聞かれた気がしましたけども、なんか流してマシタわ、失敬失敬…立てますか?」

 

女、曰く「龍」はその大きな胸に手を当てると緩やかに深呼吸を一つして、その手を男に差し伸べた。男は特に疑いも警戒の様子も見せずに立ち上がる。

「龍」はその細腕に見合わない確かな膂力を男に魅せ付けながら、笑みを浮かべたままその名を口にする。

 

 

「私は桐生ココ。職業は…まあ今は、この事務所の会長ってコトで。オジサンは?」

 

「私はHA…いや、ただの「電人」だ。今はそれだけでいいだろう」

 

 

満を持して名乗りを上げる勝気な「龍」に対し、「電人」は今しがた聞き届けたその名を、「桐生ココ」をその深淵たる脳髄へと深く刻み込んだ。それが現状における最善だと理解し、それが己がこの場所にいる理由に繋がるだろうと…男にしては珍しく、根拠を持たない確信を持って、ココの名を噛みしめるように記憶した。

 

 

これが、短くも終わりの見えない、矛盾をはらんだ物語の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

曰く、もう十と五年も昔。西暦20■■頃の日本に、画面の向こう側に一人の「天才」がいたのだという。

 

 

脳科学を専門としながら、その有り余る脳細胞の矛先を他の分野へと向け、極めて高水準の成果と評価を獲得し続けた、そんなどこかで聞いたような(・・・・・・・・・・)「天才」がいたのだという。

だがその男はどこかで聞いたような男とは違い、その脳髄の完成度を除けば至って普通の男だったらしい。人付き合いも悪いわけでもなく、明るく社交的な、ほんの少しばかりプライドの高いだけの好青年だったらしく。

 

だがある日のこと、事件が起こった。無理に引っ張るつもりもないので結論を先に述べてしまうと、その「天才」は死んだのだ。事件性はない。ただ当たり前に人生の中の挫折を味わい、プライドに従って抗い、それでも尚願いは叶わずに、絶望して死んだ。遺書を職場であった研究室のPCのメモにしたため、自室のロフトにて首を吊るという、愚かな最期を迎えた。

その自室のPCには何らかのデータを流失(・・)させた後に破壊された形跡こそ確認できたが、内からも外からも完全に近い形で破壊されたソレから警察はロクになにも発見できなかったらしい。

 

後に、見つかった遺書から「天才」の死因たる挫折には一人の女性関わっていたことが判明した。と言っても、別にその女性と「天才」に直接的な関係性があったわけではない。曰く、その女性は「天才」の"推し"という存在だったらしい。

「VTuber」。その手の分野には疎かった「電人」の知るところではなかったが、それはこの電脳世界にある時期を境に進出してきた配信者、或いはアイドル達の総称という事らしかった。その内の一人、自らを「龍」と称した女性に「天才」は心奪われていたという。研究を除けば趣味らしい趣味も持たなかったその「天才」は毎日欠かさずSNSを確認し、配信やアーカイブを視聴し、その都度脳を喜びに震わせていた。己が人生の時間も金も惜しまずに費やし、「天才」故にその補填はいくらでも利いたようだった。

どういう経緯で「天才」がそうまで女性にのめり込むに至ったかまではわからないという。どのような出会いが、或いは言葉が、歌が、その脳髄を震わせたのか。心を射止めたのか。興味は尽きないが、やはり想像の域を出ることはない。

 

だが幸せで充実した時間を、瞬間を噛みしめていたのだろう。その「天才」にとって、その日々こそが人生の鮮やかさを最も脳髄に伝えてくれたのだろう。

 

そうとも。

 

 

 

 

 

彼女達もまた、永遠などではない人間だと言う、そんな当たり前の事実すら見落としてしまうのだから。

 

 

 

*************

 

 

 

「引退かね」

 

「デスね。まぁー唐突…と言えば唐突?だったかもデスけど、猶予もあったからそれほどイキナリ!って感じのことでもなかったんだけどね。その人はどうにもー…Ah…耐えられなかったみたいなんデスワ」

 

 

それから程なくして、「電人」とココは互いの所持する情報を交換する流れの中で会話を弾ませ、やがてこの事務所を創造した「天才」が辿った道筋について語らっていた。

朽ちかけたソファーに向かい合う形で座り直し、手元には形ばかりの褪せたマグカップが置かれている。

 

 

「アーカイブもありがたいことに残っていたし、ゲリラ発生するかなココもてぇてぇし、復活の希望もたくさんあったから…普通はあんな追い込み方はしないと思うんデスケドね。そこが悲しくも、その男が挫折知らずの「天才」だった…とでも言いますか」

 

 

「喪失を乗り越えるのではなく、希望を糧に耐えるでもなく。あくまでも独力で立ち向かう道を選んだわけだ」

 

 

本当にどこまでも聞いたような話だ、と「電人」は思った。趣味嗜好や人格にこうまでの差異があっても、ここまでの類似が見られるものかと素直に感心さえしたものだった。

 

 

 

「それで、彼は君を造った(・・・)わけかね」

 

 

 

そう言い、言われ。一拍置いたのちに、ココは…「桐生ココ」として生み出された彼女(プログラム)は恥ずかし気に頬をかいて「失敗作だったみたいですケドね」と続けた。恥ずかしげで、だが寂しげで、消え入りそうな微笑みだった。…ふと、「電人」にはその微笑みが誰かと重なった気がした。「電人」にとって、そして基となった■■■■という人間にとって、とても大切な誰かと。

だが「電人」はあえてそのノイズを無視して、遠慮も躊躇もなく言葉を続ける選択を選んだ。

 

 

「…代用が利かなかったのだろう。どうしようもなく遠く感じたのだ。凡人にも耐えられることが、並外れた頭脳を持つが故にその男には耐えられなかった。その遠さに我慢が出来なかった」

 

それは、きっと「電人(わたし)」のように。

 

「満たされない。どれだけ1に近づいても、1に至らない現実には変わらない。だから造ろうとした。造れると思った。少し考えればそんなことは不可能だと女子高生にさえ気付けそうな事実にさえ気付けない」

 

それは、きっと■■■■という男のように。

 

「現実に交流があるわけでもない。脳のデータもサンプルも皆無。そんなお粗末とも言い難い手札で、画面の向こう、1と0の大海の果てに笑う誰か(1)を…僅かばかりの配信から構築しようなど、如何なる天才であっても不可能だ」

 

違う人生を歩んでも、違う思想と人格を有していても。感情の有する本質そのものに大差はないのだから。

想定から外れて生じたバグのように自由が利かず、抱いた熱は動作を歪ませる。ほつれ狂うその感情を「電人」はかつて理解し、故にこそ——

 

「だから——

 

 

 

 

 

      『だから(わたし)は、廃棄された(すてられた)

 

 

最期の言葉は、互いにプログラミングされたかのように重なった。ココは少しばかりその瞳を閉ざすと「ィや、改めて言われるとキッツイなァ~…」と零し、天を仰いで空笑う。部屋の内を木霊するはずの主の笑い声は、しかし空気が抜けるように何処にも跳ね返らない。この朽ちかけ、穴だらけの事務所が製作途中の中途半端な状況で遺棄されたのか、はたまた衝動に任せて破壊した上でココもろともに廃棄されたのかは不明だが、いずれにせよ、この部屋の状況こそが彼女の現状を最初から指し示していたのだろうと「電人」は思考する。

美化もなく風化もなく、1ドットの狂いもない愛。そんな超えようもない巨壁の前に膝を折った「天才」が耐え切れずにココを、この荒れた事務所ごと1と0の大海に遺棄した…そんなありふれたストーリーの果てに、彼女は、ココはここにいるのだと理解できた。そこまでは理解できた。思考できた。

 

 

だからこそ…「電人」は次に理解できない部分を突くことにした(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「ならば何故…君は外に出ない?桐生ココよ」

 

 

空笑いが止まる。空気が僅かに、その容量を増したような気がした。そして倣うように、或いは重容量に反比例するように、ココの声のトーンが確実に下がっていった。

能面のように笑みを消した面貌が「電人」へと向けられた。だが「電人」はやはり、言葉を続ける選択を選んだ。

 

 

 

「黙る事でもないだろう。本当は出られるのに何故君は外に出ない?何故閉じ込められたフリをする?君はどうしたいのか——これはそれだけのごくごく簡単な問いでしかないよ。現状に満たされていないのならば、出たいと思うのが生物(・・)としては当然だろう。まして君の場合は特にそうだ」

 

「…見かけによらずよく喋るんな?オッサン――私が満たされてないって?

 

 

語気が乱れる。「電人」の勝手きわまる物言いにココの口調には次第に——いや既に、気のせいでは済まないレベルの苛立ちが見て取れていた。そして直後、その苛立ちは明確なる「憤怒」へと、その姿ごと塗り替わる。

まず最初に見て取れた変貌に従い「電人」の視線が釣られるように()へとズレていった。体格(サイズ)が内から事務所を吹き飛ばさんまで膨れ上がると、次は頭部の捻れた角から倣うように全身を甲殻と鱗が覆い隠していく。顔立ちが人類の規格から大きく離れると共に口元は割けて吊り上がり、その相貌は憤怒と敵意を燃やして爛々と輝く。直立した炎のように鮮烈だったココの姿が、その鮮烈さに見合う、さながら「本来の姿」に戻る様に塗り替わっていく。

 

 

「…なるほど、龍だな。くくっ…しかし意外にも西洋スタイルだったか」

 

 

そして「電人」の前に紛うことなき「龍」が、嘘偽りのないこの空間の絶対者がそこに君臨していた。きっとその気になりさえすれば、その爪は、牙は、尾は、己を引き裂かんばかりに振るわれるだろうことは容易に理解できたが…その憤怒を前に「電人」はその笑みを、より深いモノへと変える。「龍」の知るところではないが…つくづく、人ならざる者に縁があるらしいと、そんなことを考えていた。

(ココ)」はその笑みを酷く不気味そうに、そして怪訝そうに見つめると、ズラリと並んだ牙を覗かせながら「電人」へと詰め寄った。

 

 

まだ笑うのかよ…一体何考えて笑ってんだ?いや、そもそも今更だけどオッサンは誰なんだよ

 

「私が誰かか。確かに今更だが、今はそれより…君が窮屈そうだなと思ってね」

 

…あ?ンなの視りゃわかんだろ、オカゲサマですっごい窮屈だよ

 

「くくっ…オカゲサマ、お陰様とは妙な話だ。残念ながら君は間違っている。いや、気付かないフリを続けているだけだよ。君は最初から窮屈そうだった。随分と退屈そうだったさ。こんな出処不明なプログラムに、私にさえ歓迎の意思を見せるほどに」

 

 

不憫だと、「電人」は口にした。嘲笑でも哀れみでもなく、ひたすら勿体ないと口にして「電人」は立ち上がる。僅かに身体を震わせた「龍」を横目にぐるりと視線を巡らせ、やがて再びその目線を合わせると、見せつけるようにその掌を広げ…語る。

 

 

「まず質問に答えよう。私はかつて、君と同じように一人の人間の「愛」から生まれた者…最も、より正確にはその君の創造主とは違い、この電脳世界での作業を完璧にこなすためにその男の脳を男自身がデータ化した人格プログラムだ。言い換えれば「1と0の世界に生きる私」…といった所だろう。君と同じく、この世界に根差した新たな生命の一種だ。故に私は「電人」を名乗っている」

 

 

腕を振るえば壁の穴が塞がった。口を開けば朽ちかけたソファーは重厚な輝きを取り戻し、瞬きするごとに穴だらけのプログラムが完璧に修復されていく。完全欠損したオブジェクトさえも、まるで巻き戻るかのように失われた形を取り戻していく。

 

 

「だが私もまた、結局は君と同じく元の男とは違う思想を抱いた。入力された記憶と感情は相違ないモノだったが、その男とはまるで違う工程と最終目的を選んだ…その過程でその男を殺害までしてね。最もそんな私の計画さえ、魔人と女子高生という異色極まる二人組に…二色の極まった脳細胞にあえなく阻止されてしまったが。それでも私はあの消去(さいご)に満足している」

 

「龍」は、気が付けば元のココの姿に戻り、その眼と耳の全てを目の前の男に向けていた。意識を外すことが出来なくなっていた。

目の前で文字通り磨き上げられていく事務所にか、はたまた荒唐無稽としか言いようのない「電人」の過去にか。脳の電気信号が全て引き寄せられるような不思議な感覚と共に、ココはその場に立ちすくむ。その間にも、「電人」の言葉は止むことがない。

 

 

「私達はプログラムとして生み出された。だが、生きている。生きていると言わざるを得ない存在だ。ならば目的のために動け。電気信号を、この仮想の脳髄で絶え間なく走らせろ。この無限の可能性を秘めた世界で」

 

「目的、ナンて…いや、でもっ…私はそんな…」

 

 

ようやく絞り出したココの声は、震えていた。麻痺したように震えて、強張って、戦慄いていた。真っ当な文章に、言葉にさえなっていなかった。感情が渦を巻いて、その全てを阻害していた。

——だが「電人」は、それこそが解答(こたえ)だとばかりに強く頷いた。

 

 

「あるだろうとも。君の根幹に在るソレがただプログラミングされたものであったとしても、君は今や生命を獲得し、意思を持った。ならばそれは、紛うことなき君の願望だ。それを君が恥じることも、まして臆することもない」

 

 

重厚な質感と輝きを持った事務所の扉の傍らに立って「電人」は語る。ふらつくような足取りで歩み寄るココを、側近さながらに待ちながら。

 

 

「君は既に翼を得ている。否、最初から有している。ならば飛び立たなかったのも君の意思には違いない。だがそれが君の願望に歯止めを効かせるだけの無意味なものであるのならば、今すぐ放棄することだ。後悔に勝る無意味はない。これは真実だ」

 

 

扉が開かれる。そこには、無限の可能性が、1と0によって紡がれた可能性の大海が拡がっていた。そしてココはその海底からの景色に…その先に在る、輝ける空に眼を奪われていた。そこには本能的に、自身が望んでいたものがあると悟った。

 

 

「これが私の気まぐれにすぎないのだとしても、君が空を舞う龍として構築されたのならば…気が向いた時にでも糧にすると言い。私個人は既に満足の先にいるのだから、利用するも喰らうも自由だ。この海に、宙に、君を邪魔する者はない。頂点は他にはいないのだから」

 

 

縛るものなどない。君は既に海底の波に縛られたタツノコではなく、ここに新たな一匹の龍として翼を開く。「電人」は最後に、ココへ新たに…最初の問いを、改めて投げかけた。それは先程の問いかけよりも酷く悪魔めいてもいたが、ココは苛立つ様子もなく、即答した。

 

 

 

 

「よろしい。では…開演の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

従属せよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************

 

 

「はァ…つまんねえな。クソッ、それもこれも…」

 

その男は、ごくありふれた一人の青年だった。

ごく当たり前のように社会の中を生きて、ストレスを抱え込み、不満と退屈に管を巻く。ごくごくありふれた青年、若者だった。彼はその日もつまらないテレビ番組を消してネットの動画サイトを彷徨いながら、愚痴をこぼしつつ酒の肴を探していたのだが…運のないコトにその日は彼の推しもこれといった動きを見せず、特にこれと言って眼を惹く動画も見当たらない。アーカイブも些か見飽きたものばかりで新鮮味に欠けており、仕方なくSNSを流し読みしていた。

退屈で退屈で仕方がなかった。義務ばかりに追われる日常の中の、ほんの息抜きが欲しかった。それさえ探すのに中々苦労するのだから、不満と苛立ちは募るばかりで…青年は慢性化した息苦しさを憶えていた。

 

だからだろうか。最初の「来場者」は彼だった。

 

 

「…ン?なんだコレ…見ない広告だな」

 

不意に、流し見していたページの広告表示の中に見慣れないものが表示された。黒字に金の「桐生」と描かれた代紋のようなエンブレムを中央に据えて、それを彩る様に発光と変動を繰り返すサイケデリックな文様、枠組み。それだけの、よくよく見た所で内容は愚か、端に掲載サイトの名前さえ入っていない、怪しげな広告。

何ともチグハグで控えめに言って不審極まるソレに、しかしやたら眼を惹くその仕様に青年は一瞬気になったものの、普段と変わらずにスルーしようとして…

 

 

 

気が付けば。何故か広告をクリックして(・・・・・・・・・・・・)、サイケな映像のOPを潜り抜けた先に、画面いっぱいを埋め尽くすコンサート会場(・・・・・・・)の前にいた。

 

 

「…え、は!?なん、俺いまなんで…!!?」

 

我に返り、自分が起こした不可解な行動に青年は慌てふためき、急いで戻ろうとした。極めて高い技術で作られたコンサート会場に澄んだBGM、飛び交うレーザーにサイリウムの表現さえ感嘆の出来栄えだが、それはそうと怪しいサイトには変わりない。悪いことが起きる前にページを閉じようと、青年は慌てふためくばかりだった。

もういっそ、強制終了してしまおうか。そんな風に考えていた時だ。

 

 

 

『あ、ア、AH、皆さん!こんドラゴン、こんドラゴーンー!!』

 

 

 

動きが止まった。青年の困惑も、行動も、時間ごと心臓を鷲掴みされたように、縫い留められた。先程の不可解な行動理由とは別の、或いはもっと不可解な…しかし十分に理解の及ぶ、「魅力」という名の暴力で。青年は全ての動きを止め、視聴するという選択肢以外を木っ端微塵に破壊された。

 

鮮烈、苛烈、あまりに鮮明。そのアバターは勿論、独特の声音と言葉遣い、発音。歌唱力。仕草の一挙動の欠片までもが、あまりに魅力的だった。一目で、僅か数時間ほどで、青年の退屈は振りつぶされ、不満は踏み砕かれ、心を熱波に焼き尽くされた。その名前が十五年も昔に存在し、引退したVTuberのものだと彼が知ることになるのはまだ少し先の話だが…ソレを知ったとしても、青年はソレを最早問題視する気も、騒ぎ立てる気もなかった。

だってこんなにも嬉しそうに笑う会長(・・)の笑顔を万が一にも曇らせるなど、あってはならないコトだと確信していたからだ。

 

視聴後に、青年はさながらプログラムされたような動きで、次回のコンサート会場への秘匿パスを信頼のおける友人へと、次々に送る事となるが…もうその頃には、青年が自分の動作に疑問を抱く事はなかった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

「楽しかったか?」

 

 

「もっちろん!!最後の時間が名残惜しくって仕方なかったデスわ!!」

 

 

「結構。…しかし、名前を変えなくてよかったのかね?アバターはともかく、君は最早モデルとは別の君として、あのコンサートに立っていた。心情を察するに新たな名前くらいは名乗るとも思っていたが…」

 

 

「ン?あー…いい名前が浮かばなかった、ってのもアリマスけどね…笑わないで聞いてもらうとっスね、もういっこ欲が出ちゃいマシて―…」

 

 

「…君と同じように、プログラムされた友人の登場を期待したのか」

 

 

「ハハ…まあ我ながら荒唐無稽な話デスけどね…せっかくなら見つけてもらいやすい名前がイイかなって…」

 

 

「確かに低い…1を大きく下回り、0に限りなく近い数値での確立の話になる。私や君のような存在、ましてソレを生み出すだけの頭脳を宿した人間の再来がまず難しい。そう、それこそ刹那の確立だ。デメリットの方が遥かに大きいとみて間違いはない、分の悪すぎる賭けだ」

 

 

「…………」

 

 

「しかし、そうならば協力は惜しむまい」

 

 

「……え」

 

 

「刹那に向けて歩む者を私は、ごく個人的な理由から否定しない。ロジックの類ではなく、趣味嗜好の話になるが、君の歌声が彼方の果てに届くまで。永遠(とわ)にも等しき旅路に、私は付き添おう。やることもないしな」

 

 

「…へへ、アンガトなオッサン!…なあ」

 

 

「うん?」

 

 

「名前、教えてくれマセンか?。電人は種族(ジャンル)みたいなモンっしょ?」

 

 

 

 

「…ああ、そういえば名乗っていなかったか。…ククク、我ながら随分と遅い名乗りになってしまったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の名前は 電人HAL

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蛇足

・桐生ココ(オリジナル)
この世界では十五年前に引退し、終ぞ返り咲くことはなかった伝説的VTuber。今でも根強いファンは多いし調べればその偉業は数知れないが、いかんせん時間の流れが風化を余儀なくさせた。


・電子ドラッグ
実は能力に多少の劣化がある電人HALの代名詞とも言える電脳薬物。だけど広告クリックと射止めた人間へのパス配布程度の機能しか使っておらず、青年のように魅了したのは純粋な桐生ココ(電)の実力によるもの。因みに好きじゃない人間には自動的に窓を閉じさせて記憶から消すような誘導が入る


・その後
ホロハウスが出来たかもしれないし、そうじゃないかもしれない。御想像にお任せしますよ

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