初うまぴょいまであと1時間-シーズン2-   作:初瀬川みそら

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君の知らない物語--アドマイヤベガの場合

 11月上旬。

 白い息を吐き、見上げる空に、星が瞬いている。

 山の澄んだ空気は、呼吸だけで心地よい。

 もこもこのコートを着込んでいて、風は山間にしては穏やかだった。

 加えて、大きめのポットに熱々の珈琲をいれてきた。

 座るテントの床面は防寒性に優れているおかげで、寒さはほとんどなかった。

 

「「……」」

 

 冬の山あいの空気を、沈黙を共有しながら過ごす。

 存在は呼吸の気配だけで感じていた。

 食事の時にはつけていたランタンはすでに消灯していて、辺りは真っ暗な闇だけれど。

 しっかりとした、生きた熱の気配がしていた。

 

「……っ」

 

 それが彼女……アドマイヤベガがそこにいる、という何よりの証だ。

 見上げていたアヤベが、ふと視線を落としたのを視界の端にみて、俺は口を開く。

 

「……なにか、考え事?」

「……うん。ミルクポーション、買ってくれば良かったって」

「あ、ごめん、苦かったか」

「いいえ。いい珈琲だったから、少し試したかっただけ」

 

 栗色の髪が夜の空気を揺らす。

 大きめの耳が、夜闇をかき回すように振るわれる。

 もこもこのコートを着込んだアヤベの頬は、冷たい空気にほんのりと赤く染まっている。

 彼女の目線は、真っ直ぐに、しかし吸い込まれるように夜空へと向かっていた。

 

「……珈琲、おいしかった」

「よかった」

「珈琲煎れるの、上手なのね」

「それほどでもないよ」

 

 お互いの手元に、ポットから注いだ珈琲が揺れていた。

 熱々だったから、珈琲の湯気が彼女の頬を優しく撫でるように香り立つ。

 彼女から手元の珈琲へと目線を向け、写る自分の顔がどこか浮き足立っているのに軽く苦笑してから、目線を上げた。

 改めてテントの床面に並んで体育座りの要領で座って、俺達は空を見上げる。

 

「今日は、空気も良く澄んでる」

「そうなんだ」

「ええ、だからきっと……たくさん綺麗に見られるし……きっと、お願い事もできると思う」

「ははっ……しっかり、お願い事考えておかないとな」

 

 廿六夜の月を微かに浮かべながら、満天の星空が広がっていた。

 見上げて真上に見えるのは一等星と二重星……ポルックスとカストルが額を寄せ合うように並ぶ双子座。

 その下には赤いベテルギウスから砂時計の形に瞬く四隅と、三連星が目立つオリオン座が控えて、プロキオン瞬くこいぬ座をなぞるように目線を東に向けていくと、まばゆいレグルスが見えてくる。

 レグルスを疑問符の根元にして、ちょうど疑問符のくびれを中心にするように俺は、俺達は、空へと視線を注ぐ。

 すると。

 

「……あっ」

 

 声が漏れた。

 星が一条、二条と流れた。

 

「……ふふっ」

 

 俺の声に、微かに、アヤベの吐息が楽しげに上向くのを耳が感じた。

 視線を逸らす間もなく、三条流れて、再び訪れた星海のしじまを見ていた。

 

「……すごい、な」

「……願い事、できた?」

 

 アヤベのからかうような声音が、ぴんと張り詰めた耳たぶに聞こえた。

 けれど心の内側に溢れた興奮は、詰まった吐息を吐出すことに夢中だった。

 

「……する暇ないぐらい、すごいよ」

「……うん。そうね」

 

 言葉はそっけなく言い切るよう。

 だが彼女の声音は穏やかだった。

 アヤベも、俺も、目線は空に向かったまま。

 

「「……」」

 

 流れる沈黙は、沈黙でなく。

 吐息は、互いの昂揚を語るのに、充分だった。

 

「ぁぁ……」

 

 ちらりと横目で見るアヤベが、吐息の中に声を混じらせた。

 先日のエリザベス女王杯を制したウマ娘、アドマイヤベガ。

 彼女と俺はトゥインクルシリーズ三年を経てから、定期的に行くようになった天体観測として、今日もしし座流星群を見に来ていた。

 山間にテントを張って、テントの縁に腰をかけながら並んで見上げる。

 彼女とともに、空に駆ける煌めきを満喫する、そんな穏やかな時間を過ごしていた。

 

 ――君の知らない物語

 ――初うまぴょいまであと1時間 

 

 

 ******

 

 ――1時25分 

 ――初うまぴょいまであと55分

 

「……っと」

 

 傾けたカップから液体の気配がなくなってようやく、飲みきっていたことに気がついた。

 俺は、冬の空気に乾燥した視界を潤すように大きく瞬きをしながら、ポットに手を伸ばす。

 思ったよりも乾いていた眼球にじんわりと浸透するのを感じながら、掴んだポットから、変わらず熱い珈琲を注ぐ。

 

「アヤベ、お代わりは?」

「……おねがい、します」

 

 尋ねる俺に、微かにビクンと反応したアヤベが、コップを差し出してくれる。

 少し目を瞬かせるようにしている様に身に覚えがあって、少しだけ、笑みが漏れてしまった。

 

「……なに?」

「いや、目、乾くよなって」

「……今日は、いつもより多く流れているもの」

「そうなんだ。ラッキーだな」

 

 俺はアヤベのコップに珈琲を注いで返す。

 受け取った彼女の唇に、ほんのりと自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

「この前勝ったご褒美、なのかも知れないわ」

「……そうだな。お母さんの悲願でもあったわけだし」

「あの子も、きっと喜んでくれたと思う」

 

 つい先日のエリザベス女王杯での勝利の喧騒は、まだ耳の奥にこびり付くように熱く残っている。

 アヤベが招待したアヤベのお母さんの感動の涙と、地下バ道で抱き合う二人の姿を思いだすだけで、目頭に潤むものを覚える程だ。

 世の中のファンもそれは同じだったようで、「アドマイヤベガ! 驚異的な末脚! ベガはベガでも、アドマイヤベガ!」というレース実況の名調子が、今なお世の中のメディアを賑わせていた。

 華麗なる覇王、鮮烈なる怒濤、羨望に煌めく頂点……それらをねじ伏せて煌めく、一等星。

 アドマイヤベガは、世代トップのウマ娘になっていた。

 

「……次は、どんなレースに出ようか、アヤベ」

 

 俺は、星を見上げながら言葉を放った。

 天体観測は俺とアヤベにとって、いつの間にか新しい目標を紡ぎ出すための、大切な時間になっていた。

 彼女も、この時間においては素直に……彼女曰く、あの子にも報告できるから、だそうだが……次なる目標を語ってくれている気がしていた。

 

「……そうね」

 

 俺の言葉に、アヤベは頷いてしかし、しばらく応えなかった。

 キラリとまた、獅子座流星群の星々が空を流れていく。

 数多の綺羅星の間を、駆け抜けるようにして鮮烈な輝きと共に星は流れる。

 デビューすれば、限られた時間の中でその身命を賭して走り続ける、ウマ娘達の煌めきのように。

 

「……流星の落ちゆく先に、行ってみたい」

「えっ……」

 

 だから、一瞬、言葉の意味を取り違えそうになる。

 煌めく星が落ちゆく先。

 その意味。

 しかしアヤベが伸した指先は、星が飛び、その光を受けて西の空に輝く、ペガスス座をなぞる。

 

「……あの星が行く先……西へ、西へ」

「ああ……なるほど……フランス、か……!」

 

 アドマイヤベガの瞳が、夜の中にこくんと頷いたように動いてみえた。

 ダービーを制した彼女には、フランス ヴェルメイユ賞への挑戦権がある。

 海外のレースともなれば、来年一年間をかけた大きなプロジェクトになる。

 現地での体勢や、レースに向けた準備……フランスのターフで駆けるアヤベを思うと、心が沸きたつ。

 

「……どう、だろう」

「うん、イイと思う。フランスへ、世界へいこう!」

「もう……なんでも受け入れちゃうんだから」

 

 少し呆れたようなアヤベの声は、いつもより楽しげだった。

 見上げた空に、また一つ、流星が瞬く。

 

(……アヤベが、無事、フランスで……一等星になれますように!!)

 

 瞬いた瞬間に念じた気持ちが、空に向かって溶け行くように、吐いた息が白く、熱く広がっていた。

 

 

 ******

 

 ――1時55分 

 ――初うまぴょいまであと20分

 

「……そうしたら、来年は……また宝塚記念に挑戦しましょう」

「ああ。向こうのターフに合わせて、トレーニングを変えてゆっくりと合わせていこう」

 

 流星を眺めながら、簡単に来年のことをポツポツと語った。

 言葉を告げる度、アヤベは頷いて、俺のプランに意見をくれた。

 星の光が陰るから、スマホは出さず、頭の中にだけプランを練っていく。

 おおよその方向性を合わせて、あとの詳細を詰めていくのは俺の仕事だ。

 頭の中に描いたプランに、うん、と一つ呟くと、呟いた声を吸い込むように、あくびが喉の奥から溢れ出た。

 

「……もう眠った方が良いわ。今日の準備のために、いろいろ動いてくれたでしょ」

 

 アヤベがそっと肩を擦ってくれる。

 もこもこのコートが、彼女の手の形に形を変えていく。

 

「でも……」

 

 見上げた星空に一条流星が流れていく。

 しかし、その目線が、ぐっと引っ張られるように移動させられた。

 頬がアヤベのひんやりとした手で包まれ、顔を、視線を、向けさせられていた。

 じとっと、夜闇の中でも分かるほど、彼女の表情は冷たく俺を打つ。

 その表情の中に、温かいものがある、冷たさだ。

 

「でも、じゃない。ここに来たせいで体調を崩される方が嫌よ」

「……わかったよ。アヤベ」

 

 彼女の優しい心配を受けて、俺は寝袋のスペースに腰を上げて移動する。

 広めのテントの中、並べたもこもこの寝袋……これは、アヤベが選んでくれた、かなり肌触りの良いもの……の中に一旦手を突っ込む。

 中には、寒くならないように予め入れておいた湯たんぽが……。

 と、突っ込んだ手に、冷たい感触がした。

 

「あっ!? しまった……」

 

 声が思わず出て、湯たんぽを引っ張り上げた瞬間、

 湯たんぽに残っていた水の残りが、びちゃっと寝袋を濡らしてしまっていた。

 

「あっちゃあ……」

「どうかしたの?」

 

 俺が声を上げたことで、アヤベが近づいてくる。

 俺はテントの他の処に浸水しないよう、大きくため息をついて、引っ張り上げた湯たんぽを自分の濡れた寝袋に戻した。

 

「湯たんぽのパッキンが壊れてたみたいで、寝袋が水浸しになってしまってな……」

「……服は濡れてない?」

「え、ま、まぁ」

 

 眠るには少々寒いが、幸いにしてテントには防寒用にと毛布もいくつか持ち込んでいる。

 

「……防寒用のブランケットでミノムシ状態になって、眠ることにするさ」

 

 俺は用を成すには少々残念になってしまった自分の寝袋をたたみながら、アヤベに苦笑を見せる。

 

「すまない、騒がしくて、俺は、お言葉に甘えて寝るから、アヤベは好きなだけ」

 

 だが、アヤベはそんな俺を真っ直ぐに見つめながら、告げてきた。

 

「なら一緒に、寝ましょう」

 

 言葉を切られたこと、そして、アヤベの言葉に、耳を疑って、俺は声を失っていた。

 

「……なに?」

「明日からは、新たな目標にむかって走っていくのでしょう? それなのに、初日から体調不良でこけられたら、うまくいくものもいかない。違う?」

「違わない、けれど……で、でも」

「……気にしないで。私も気にしないようにしますから。……その、だから」

 

 アヤベがするりと、コートを脱いで、自分の寝袋に身を滑らせた。

 ターコイズブルーのセーターを着込んだアヤベが、寝袋にすっぽりと入る。

 もこもこの寝袋は、確かに、密着すればなんとか二人で入れる。

 というより、アヤベの体に対しては些か大きいから、きっと俺が入ることできちんと満たされるだろうぐらいの大きなサイズだった。

 そんな寝袋の縁で、そっと襟元を開くように、アヤベは言った。

 

「……おいで、トレーナーさん」

 

 驚きで喉が鳴る。

 それほどに温かな、端的な言葉を告げたアヤベの頬は、夜闇の中でもほんの少し、赤く見えた。

 

 

 ******

 

 ――2時05分

 ――初うまぴょいまであと10分

 

「寒くない?」

「大丈夫。むしろ……熱くないか」

「今日はすこし、底冷えするから、ちょうど良い」

 

 一つの寝袋の中で、俺とアヤベは背中を合わせて横たわっていた。

 もこもこのコートを着込んでは入れないので、コートは脱いだが、温かいふわふわ起毛のセーターの姿で、アヤベの寝袋にお邪魔する。

 肌触りの良い内側の生地は、俺の寝袋と同じタイプのものだが、俺のものとは違ってふわりと甘い、アヤベの匂いがしていた。

 伸した太股辺りにするりと絡むアヤベの尻尾の感覚がする。

 そして足の指先に、微かにアヤベの足の気配が感じられていた。

 背中合わせだけれどアヤベと密着した空間にあって、体の感覚が鋭敏になっている。

 

「……アヤベ」

「……なに」

 

 俺の呟きに、アヤベが答える。

 身じろぐ感覚が、近く感じられる。

 体の疲れに、緊張が合わさる。

 先ほどまで問題なかった沈黙にも耐えきれなくなる。

 俺は、見切り発車で言葉を紡いでいた。

 

「アヤベは、できたのか? お願い事」

「……なんのこと」

「いや、ほらさっき、流れ星を見た瞬間に、願い事はできた? って聞いてくれたから。もしかして、アヤベもなにかお願い事したのかな、って」

「それ、今聞くの?」

 

 アヤベが息を吐く。

 しばらくの沈黙があったけれど、それがアヤベがきちんと言葉を選んでいる時間だとわかる。

 じっと待つ太股から、アヤベの尻尾が離れた。

 足先が触れて、ぐっと、背中に掛かる感触が柔らかく広がった(・・・・)

 

「えっ」

「……したわ。願い事」

 

 耳元で、アヤベの声がした。

 

「……あなたに、なにかを返せますように、って」

 

 アヤベが、背中によりそってくれている。

 淡いターコイズブルーの布地の向こうに、張りのある柔らかさが背中に感じられていた。

 

「なにか、って……」

「今日の珈琲のお礼、今日の手配のお礼、私のこれからの道をまた考えてくれようとしている、お礼。……いつも、あなたは勝手に、私にいろんなものをあげようとするでしょう」

「……俺がそうしたい、だけだから」

「そうね、あなたはずっといつもそうやって勝手に、自分がやりたいから、って私にたくさんのことをくれる」

「それは……アヤベが、それらをきちんと受け取ってくれるからだよ」

 

 するりと、アヤベの手が肩口に触れてくる。

 着込んだふわふわのセーター、その肩の辺りに、もう一つ、柔らかいものが押しつけられる感触がしていた。

 

「だとしたらそれは……ずっとあなたのそばにいた所為よ」

「……えっ」

「あなたがいつも勝手だから……せめて、受け取らないとって、思うようになった。でもあなたに、私は、いつも返しそびれる」

 

 アヤベの指が、肩口に絡まってくる。

 

「だから願って……今日は、勝手に返すことにしたの」

「それが、えっと」

「……寝袋を貸してあげるのも、そう」

 

 すりすりと肩の辺りに柔らかく、ふにふにとした感触が押しつけられる

 背中の中頃にある弾力のある感覚も含めて、強張った体が、柔らかい感触に浸食されていく。

 

「……寒くない、でしょう?」

「寒くない。むしろ……熱い」

 

 頬に伝う汗は、緊張が溢れた証のようだった。

 アヤベに後ろから抱きつかれている、その柔らかさとぬくもり。

 なにより、アヤベに触れてもらえている、という実感に、心が跳ね上がっていた。

 

(……うれし、すぎる)

「……ごめんなさい」

「い、いや、ち、違う」

 

 だから、アヤベが少し残念そうに呟いて体を離そうとしたから、俺は、もはや本能のままに、アヤベの方に身体を寝返らせていた

 夜闇でも、目と鼻の先にあれば、明かりはいらない。

 そうわかるほどに、近く、アヤベと向き合う。

 

「「あっ……」」

 

 肩から離れたアヤベの手を取り、向かいあう。

 ぎゅっと見開かれたアヤベの瞳孔の中に、俺が写る。

 キラキラと澄んだ夜空のように、深い、アヤベの瞳。

 そまった頬が右側だけ赤く見えた。

 その理由は背中に残る、柔らかな感覚によって明確だった。

 

「……嬉しい、こと、なんだ。それに……俺……俺だって、アヤベに、貰ってばっかりだ」

「……そう」

 

 アヤベは呟く。

 彼女の言葉は、素っ気ない。

 でも、するりと、太股にすりよってくる尻尾が語る。

 彼女の心は、温かく、温度を上げている。

 

「あなたは私にもらってばっかり、私はあなたに、もらってばっかり」

「……お互い、知らないうちに、あげ合って、もらい合ってる」

「……変な話ね。でも、あなたとの話は、いつだってそう」

 

 温度を上げると、ものは発火し、赤く、いずれ青く燃えさかる。

 青い一等星、アドマイヤベガはターフの上で、いつでも、心から燃えたけっている。

 

「……ねぇ」

「ん?」

「……本当は、もう一つ、お願い事を、したの」

「うん」

「聞いてくれる?」

「うん、聞くよ。君が、話したいことは、話したくなくても、全部聞く」

「……だったらもっと、耳を貸して」

「……こんなに近くにいるのに?」

「……そうよ」

 

 ふわりと、燃えた彼女の香りが、鼻孔をくすぐる。

 微笑みの熱に、溶けてしまいそうになる。

 

「だって、今から話すことは」

 

 淡い彼女の声の響きが、耳たぶを震わせる度、心に言葉が焼き付いていく。

 テントの中、寝袋をともにして、目と鼻の先。

 冬の山間に、周囲は虫の音すら聞こえない、二人きりだというのに君はいう。

 

「……星にだって、聞かれては恥ずかしいことだから」

 

 絡んだ指に、絡み返す指がある。

 輝く一等星の熱は、一つになって、夜を染め上げていく。

 

 ――初うまぴょいまであと零分

 

 

 ****

 

 ――拝啓 あなたへ

 

 いつも通り、これは手紙なのか、それとも日記なのか。

 考えてしまうとよくわからないけれど、どちらでもいいことにして、いつかあなたと語らうために、書き残しておくことにしています。

 この前書いたとおり、気がついてしまった、ふわふわとした気持ちに進展がありました。

 相談したカレンさんは楽しげに、オペラオーは騒がしく、ドトウはわたわたとして、トップロードさんは、また語彙力を失っていた、あの話です。

 わかってはいます……こんな気持ちになることは、本当は、いけないこと。

 でも、あの日、あなたの自慢になるためには、こうした気持ちにも、向き合っていかないとってずっと、思ってきました。

 ……ただ……あまりにも大きく進みすぎて、どう書いて良いのか、実はわかっていません。

 なにせすごく嬉しいことと、とても……恥ずかしいことがあったから。

 本当は書くこと自体を迷っていて、こうして書いている間にもすごく顔は熱くなるし、口の中が掻痒としています。

 単純に嬉しい、よりもふわふわとしていて、熱くて自分の身体が騒がしいぐらい。

 なのに、心地が良いというこの感覚は、きっと悪いことではない、と思う。

 おおっぴらに言うことはできない。イケないことだと思います。

 けれど、いつかあなたと語り合うことができたら、これはあなたに対して自慢できること、だとは思っています。

 この世界には幸せで、涙が溢れること。

 もらっても、返せない。

 けれど返しても、返しきれない幸せがあることを、知ることができたから。

 とても恥ずかしくて、あなたには聞いて欲しいけれど、聞いて欲しくない気持ちでいます。

 でも嬉しくて、話さなければたまらない出来事だったのです。

 ここまで書いておいて、なんではあるけれど、もしもやっぱり書けなくなったら、そのときは……いつか、語り合うときまでお互いに楽しみにしましょう。

 この出来事を、雄弁に語るには、私にはまだ時間がきっと足りていないかも知れません。

 だから、それまで、しっかり、生きていくことを、強く思えた。

 そんな、お話ができるように、書けるところまで、書こうと思います。

 

 

 ――君の知らない物語(了)

 

 




これがオデブ セルライト メタボ
君は指さす腹の大三段
どついて、腹を見る
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