―――今でもあの日のことを思い出す。
遠く響く歓声。何処までも沸き上がる人々、誰しもが夢見たその大舞台。
その大舞台は奇跡となり、伝説となり、そしてまた一つの絶望を刻んだ。
次第に人々の心から傷は取り除かれ、その出来事は歴史の一つとして人々の心からは風化していく。誰もが覚えていても誰もが思い出すものにはならずに、やがて歴史の隙間に葬られていく。
そうやって消えていった歴史は誰かが書き留めておく。
少女は人々に希望を与え、そして魅了した。誰しもが彼女の走りに勇気を貰い、不可能を可能にする想いの強さを見せつけた。
少女は答えを見つけた。そしてその答えを手に入れるために命の限りに抗った。
その答えを手に入れる姿にアタシは張り合った。張り合えたかははた疑問だが、彼女は答えを手に入れた。
一方のアタシはまだ霧の中だ。答えを手に入れた彼女と答えを見つけられないアタシ。
―――あれから二年が経った。
―――
トゥインクルシリーズを引退したウマ娘はレースから去るか、それとも新たなレースに挑むかを選択する。アタシが選んだのは後者だった。
ドリームトロフィーリーグ。名を馳せたウマ娘が、実力で世界を唸らせたウマ娘だけが来るのを許されるハイレベルなレース。
必然か偶然か、アタシにもその資格があった。善戦マンだか、ブロンズコレクターだが、色々言われていたが有マでの入着は決して安くない。アタシもいつの間にか実力派って呼ばれるウマ娘になってたわけ。
それからトレセン学園は様変わりした。アタシは高等部に上がった。勿論、カノープスの皆も。チームカノープスもあの有マでの伝説以降強豪チームに数えられるようになり、今じゃ後輩も沢山だ。南坂トレーナーも日々忙しそうに、楽しそうに過ごしてる。
「はー、さむ…こりゃこの冬も冷え込むわ…」
朝と夕方は本当に冷え込むようになったこの時期。正直アタシは冬が好きじゃない。色々肌荒れにも悩む季節だ。
「ネイー!少し手伝ってー!」
「あー、はいはい。分かりましたよー、待っててー。」
親愛なる我が母君からの指名とあっちゃアタシに断る権利はない。渋々と表に顔を出す。
「お、ネイちゃん、久しぶりだねぇ。」
「あらまあ、ネイちゃん帰ってたのねぇ。」
「そうそう。もう帰省の時期だよ。おっちゃんにおばちゃんも久しぶり。」
適当にひらひらとかわすだけでこの人らの相手は大丈夫だ。
「ネイ、ちょっと倉庫からお酒持ってきて!」
「どれー?」
「芋!」
「りょーかい。」
スナックのミユキママに敵う者はこの商店街にはいない。無論それは娘たるアタシにも当てはまるわけで。
「はー、ホント無駄に寒いんだから。」
店隣の倉庫をガサゴソと漁るのももう手慣れてるわけで。
「今さらだけど飲むつもりなんかもさらさらもないけど一応未成年であるアタシにお酒類使わすってどうなん?コンプライアンス的に。」
何て愚痴の一つでも漏れる。
「ま、良いけど別に。」
おかんが訴えられたとしてもそこは我関せずである。
「もー、違うよ、そこはもっとこうド派手に!!」
「そうやって理事長から没案を食らったのが過去に何度在ったのか貴方はもう忘れたのですか?兎に角それは没です。やるならば彩りを重視したスイーツのような…」
「それはそれでキミがやりたいだけじゃん!」
――お、この仲良く喧嘩してる声は。
「お二人とも相変わらず仲良いねぇ」
「あっ、ネイチャ!」
「…あら、お見苦しい所を。」
「あー、別にそう畏まって貰う必要はないっしょ。ていうか生徒会長と副会長に畏まって貰ったらアタシは立つ瀬がないというか何と言いますか…」
「む、ボクたち今はプライベートだよ!」
テイオーは相変わらず元気だ。威厳ある姿になるのは一体何時になるやら。
「…ですが私たちに相応の責任がついてるのは当然ですからそれに相応しい振る舞いをと…」
「もー、マックイーンは相変わらず責務とか責任とかにうるさいなー。」
「いやいや、生徒会長がちゃらんぽらんじゃダメでしょ。」
「むむ、ネイチャ、ボクに逆らうのか~?」
「わー、暴君。」
それはもう棒読みですよはい。
「ま、仲良きコトは美しきかなって訳だけど、いっつも言い争ってるのも疲れるんじゃないの?」
「…そうですわね、疲れることは否定しませんわ。」
ありゃりゃ。
「何さー!?そこは否定してくれるのがライバルってもんじゃないの!?」
「知りませんわ。」
うんうん、相変わらず仲の良いコンビだこと。
「じゃ、アタシは店の手伝いあるから。ここで失礼。」
「あ、うん。それじゃね。―――ネイチャ!明日のレース、負けないからね!」
「勿論、わたくしも負けませんとも。」
「はぁ…誰も彼も簡単に言ってくれるわ…」
やれやれ、皆しょうがない子だ。
―――
「久しぶりねぇ、来るのが少し遅れちゃったわ。あの子があまりにもドタバタしてるから目を離せなくってねぇ。」
一人の女性がとある墓石へ語りかけていた。
「あの子も今日は張り切ってたわ。…そうね、何処から話そうかしら。」
ウィンタードリームトロフィー。それは歳末における有マに並ぶ祭典。有マがまだ新しいウマ娘たちが伝説を創る場とするならばドリームトロフィーは既に伝説を産み出したウマ娘たちが激突する伝説の交差点だ。
「…フム、今日のコンディションは最高ですね。やはり1日休息を挟んだのは正解でしたね。」
「…うぅ、でも緊張するよぉ。今までもこんな大舞台は初めてかも…。」
「いや、まぁ…言うても今までも大舞台なんてあったからアタシは別に。」
チームカノープスは東京レース場の袖に控えていた。皆がそれぞれ覚悟の宿った表情をしている。
「ああ、緊張はしてますがやはりそれでも楽しみですね。」
「そうだね、ドキドキするけどワクワクするよ!」
「まあ、ここは誰が勝ってもお互い恨みっこなしってことでね?」
何時も通りに冷静さを保つイクノディクタス、震えながらも闘志を震わせるマチカネタンホイザ、リラックスした面持ちのナイスネイチャ。
「おっ、そろそろ入場か。それじゃぼちぼち行きますかね。」
ネイチャがうーんと背伸びをしてチームに告げる。
「それでは私から。」
「次は私だね!」
お先に失礼とイクノが、出ていきそして少し後にタンホイザも出て行った。
「んじゃ、そろそろ行きますかね。――ほら。」
「あの子ったら今日はすっかり張り切ってたわ。お友達と走れるのがそんなに嬉しかったのかしらねぇ…。でも、その気持ちもお母さん分かるわ。」
墓石をなでながら。
「私はもう走れなくなっちゃったけど私も昔は走るのが大好きだったからね。あの子の気持ちも分かるからお母さんとしてしっかり応援しなくちゃいけないのよね。ほら、貴方も一緒に見ましょう。」
初老の女性は小型テレビの中継を繋げた。
「貴方も彼女のことをちゃんと見ていてね。」
『ウィンタードリームトロフィー!年に四度の祭典がまたやって参りました!18人の出走ウマ娘を紹介しましょう!』
東京レース場。そこでは過去に類を見せないほど賑わいを見せていた。
『未完の大器、マチカネタンホイザ!新しい帽子を携えての出走です!一枠です!』
手を振りながら入場するマチカネタンホイザ。
『鉄の女、イクノディクタスは13枠です。』
続いて入場するイクノディクタス。
『帝王、トウカイテイオー。名優 メジロマックイーン、同時に入場です。8枠、6枠です。』
同時に並び立つ二人のウマ娘。
『サイボーグ、ミホノブルボン。祝福の星、ライスシャワーが同じく入場です!9枠、3枠です。』
頷き合う二人。
『日本総大将、スペシャルウィーク。異次元の逃亡者、サイレンススズカ!今ターフに姿を現しました。10枠と12枠です。』
握手を交わしながら入場する二人のウマ娘。
『皇帝シンボリルドルフ、女帝エアグルーヴ、世紀末覇王テイエムオペラオー、光速の粒子アグネスタキオン、勇者アグネスデジタル、怪鳥エルコンドルパサー、シャドーロールの怪物ナリタブライアン、理論者ビワハヤヒデ…そうそうたる面々がターフに現れました!』
続々と現れる伝説を残すウマ娘。その完成度は段違いだ。
『そして、今現れましたのは名脇役ナイスネイチャです!』
ひらひらと手を振りながら現れた赤いウマ娘。その姿に他のウマ娘に負けない歓声が湧き上がる。
「やっぱり先輩たち カッコいいなぁ!」
キラキラとした瞳のウマ娘が会場の最前列で観戦をしていた。まだ始まってないので観戦とは言いきれないかもしれないが。
「大丈夫ですよ、イズミさんも焦らずとも彼処へ行けますとも。」
「それ、お世辞じゃありませんよね、トレーナーさん!」
」
「はい、お世辞じゃありません。」
「私だっていつか必ず!」
『さあ、やはりこのウマ娘は外せません。二年前のあの日、我々はとても勇敢なウマ娘を喪いました。その傷は癒えるものではありません。しかし、その傷みを背負い、彼女はターフにたちます。』
最後のウマ娘がターフにへと姿を現した。
「見ているかしら。」
『現れたのは―――『生存者』!」
『ツインターボだっ!!!』
「―――サウスちゃん。」
『さあ!各ウマ娘、ゲートに入りました!』
そのウマ娘は心臓に手を当てる。
「―――一緒に行こっか、お姉ちゃん。」
『各ウマ娘、一斉にスタートしました!!』
ここまでお付き合い頂いた全ての読者方に圧倒的感謝!!
※一応捕捉
前話ラストでサウスベイは何かしらの事故に遭い―――後は明言は避けましょう。
【予告】
SEASONS 2……?