シンプルな会議室の中に、肥満体型の中年男性がラップトップを見ながら愉快そうに笑っていた。片手には出勤の途中に買ってきた特大のハンバーガーがあった。
NCS欧州課長のブラック課長だ。本人はブックマンというあだ名を気に入っているらしい。その大きく膨らんだ腹が笑い声と共に揺れた。ハンバーガーをデスクに起き、手についた脂をハンカチで拭いてから端末を取り、電話をかけた。
「もしもし、スケアクロウ君?」
「何すかブラック課長」
いつも通り、不機嫌そうな声で返答がきた。
「例の全衛星の強奪、航空機の機能停止、やっぱりあの"おもちゃ工場"が噛んでるようだね」
いつも通り、ブックマンは相手の機嫌などお構いなしに話を続けた。
「それが何すか。つか、俺あんたの部下じゃないって何回言えばわかるんすか。こっちは空封鎖の件で大混乱なんすよ」
スケアクロウはいつにも増してイラついている様子だった。ヨルムンガンドの情報統制により、おもちゃ工場についての有力な情報が全く掴めないからだ。
「ハッハッハ。大混乱なのはお互い様さ、何かわかった事はあるかい?」
「それが何も掴めないんすよ、あの量子コンピューターの仕業です。こっちから直接向かうしかもう方法は無いっすよ。つか、こっち忙しいんでもう切っていいっすか?」
ブックマンは一息ついてから言った。
「あぁ、何かわかればまた連絡してちょうだい」
通話を終了すると、ブックマンは息を吐きながら椅子にもたれかかった。
「やはりスケアクロウ君も上層部と同じ考えか…」
今回の件に対し上層部は、実質的な攻撃は無いが、テロとして扱う方針だった。ただ、公にはせず、極秘裏に扱われる。だが、今やココ・へクマティアルは情報世界の神だ。
情報戦ではまず勝算は見込めない。となるならば、残るは実力行使しかない。という決断に至ったのだ。何とも強情な話だが、そこまで追い込まれている証拠であった。作戦指揮は恐らく海軍中佐、トリー・プレイムが執る事になるだろう。彼は以前、キューバ・グアンタナモでココに煮え湯を飲まされている。同じ相手となれば、彼の性格上、更に力を注ぐだろう。作戦司令も量子コンピューターの影響を加味して、作戦内容のやりとりは全て書類上に限定された。「おしゃべりラビット・フット」ことレイラ・イブラヒム・ファーイザ博士やエレナ・バブーリンが誘拐された時点で、本部では誘拐犯が何を目的に彼女達をさらったのか予想できたが、量子コンピューターの実現は不可能だと誰もが思った。が、事実ココ・へクマティアルは量子コンピューター「ヨルムンガンド」を完成させ、今に至る。この作戦が失敗すれば、今後 手出しができなくなると言っても過言ではない。ブックマンはデスクの上に置かれた作戦司令書に書かれた作戦名を指でなぞった。
作戦名は、「オペレーション・ラグナロク」
この名前は、魔物ヨルムンガンドが最終戦争ラグナロクで雷神トールと相打ちになったという神話が元であり、ラグナロクは北欧神話における"終末の日"を意味する。
彼らはまさに、ココの生み出した新世界を、終わらせるつもりなのだ………
〜to be continued
いかがでしたか?
徐々に忍びよるアメリカの影……
ヨルムンガンドを巡る戦いはさらに熱くなります!